第二百九十七話 ミイラ取り
ぶっくまありがとうございます!
マルゴット女王の、オブラートを全て捨て去った分かり易い表現で、
この場の誰もが、クィーンことベアトリチェが何をやらかしたのか理解してしまった。
ただの享楽的な女性、派手で遊び好きの女性、慎みというものが全くない女性、
せいぜいその程度と思っていただろう。
だが、一枚その皮を剥いでみたら、とんでもないぶっ壊れた化物だ。
・・・話し合い?
やめておいた方がいい。
こいつに話は通じない。
無理に説得しようとしたら、こちら側の誰かが必ず犠牲になる。
だからオレはカラドックに話し合いなどもう不要だと言い切った。
後はオレが責任を持ってこの場の行方の舵を切ればいい。
「・・・カラドック、
どうやら余計な話が長すぎたようだ。
ストレートにこちらの主張を通せ。
・・・いや、オレが言うべきだな・・・。
クィーン・・・ベアトリチェと呼ばせてもらおうか?
オレたちの要求はシンプルだ。
邪龍に魂を捧げる行為をやめてもらおう。
簡単だろ?
そうすれば、オレたちもアンタに手荒なマネはするつもりもない。
考えてみてくれないか?」
またあの妖しい笑顔だ。
ベアトリチェも、オレたちがどういう結論を下すか余裕で把握しているのだろう。
「うふふふふ、
狼獣人・・・ケイジ様と仰るのですね?
確かに、簡単な要求ですわね、
私にとって損は有りません。」
一瞬、スムーズに話が通じたと思ったか?
いやいや、オレはそんな楽天家じゃない。
この女の態度は分かり切っている。
だが、一応理由があるなら聞いてみたかっただけだ。
「それで、オレたちの言う通りにしてくれるのか?」
「うっふっふっふっふ、それこそ面白いお話ですわぁ?
私に損はなくても、逆に何のメリットがございますの?
邪龍からは不老不死という報酬を提示されているのですよ?
それに見合う対価もなく、どうして私があなたがたの要求を呑む必要があるのでしょう?」
まあ、そうなるよな。
「何故そこまで不老不死に拘る?
魔族なら寿命もヒューマンより長いのだろう?
他の人間の魂を犠牲にしてまで何の価値がある!?」
「うふふ、
ケイジ様には理解できるとは思いませんが、どうしてもお聞きになりたいんですか?」
「ああ・・・是非、聞かせてもらいたいもんだな。」
「ふふっ、
簡単なことですわぁ、
私が幸せになる為ですよぉ?
人は誰しも幸せになることを夢見ているものです、
獣人のあなたはどうなのか存じ上げませんが、
魔族と言えど、女性の身では美しくいられる時間には限りがあるのです。
せっかく手を伸ばせば、その素晴しき果実に届くのですよ?
その力に手が届く私が不老不死を得ようとするのに、何の不思議があるのでしょう?」
「あ」
ん?
一瞬、後ろで誰かの声がした。
麻衣さんか?
いや、今は気にすることはあるまい。
オレは目の前のベアトリチェに集中するだけだ。
この話の流れを切るべきではない。
続けよう。
「その為に大勢の人間の魂が犠牲になると言ってもか!?」
「大勢の人たちの魂?
それが私に何の関係がございますの?
そんなものより、素敵な男性と幸せな時間を共に過ごすことの方が、何よりも魅力あるお話だと思いますわ。」
やっぱりこいつには話は通じない。
ベアトリチェは今のオレの糾弾に対して、
本当に不思議そうに首を曲げていた。
「・・・自分の幸せのためなら、関係ない他人の事はどうでもいいってことか・・・!?」
もう、問答はこれで十分だろう。
オレは戦闘になる覚悟を決める。
だが・・・
「あのう?
逆にお尋ねしますけど、先程から観察させていただいた限りでは、
ケイジ様とリナ様・・・あ、えーとリィナ様ですか?
お二人は親密な関係という事でよろしいですの?」
はっ!?
「な、いきなり何言ってる!?」
思わず視線をリィナに向けるも、当然のことながら彼女もあたふたしている。
「ああ、その微妙な距離感、たまりませんわあ?
ですがお考えになっていただけませんか?
いくら、相思相愛といえども時間は残酷です。
健康な生活を送っていても、
どんな高度な治癒魔法でも老いは止められません。
いつかあなた方は片方を置き去りにして、永遠の別れを告げなければいけなくなる。
・・・残された者には残酷な時間が残るだけですわ。」
「うっ・・・。」
それは・・・。
ベアトリチェは当たり前の話をしている。
人間なら誰でも味わう当然の話をしているだけ・・・。
だが、一度その残酷な時間を過ごしているオレには、思わず反論に詰まるような指摘だった。
「ええ、それが全ての生き物に公平に存在する、抗いようもないルールですものね?
ですが、この世界では私のスキルと邪龍のスキルの組み合わせることによって、
老いの進行を止めるという、画期的な道が開けますのよ?
ケイジ様?
あなたにとってリィナ様は大切な方ではありませんの?
その方のために、尽くしてあげたいと思う事はないのですか?
私の目的が達せられれば、お二人とも今の姿のまま、半永久的に、いつまでも幸せでいられるのですよ?」
リィナと
・・・いつまでも・・・?
それ は
バチン!
「あ痛っ!?」
突然顔をはたかれた!
緑銀の長い髪・・・あっ、またロリ妖精かよっ・・・て、
いや、妖精ラウネはオレに視線をあわせようともしない。
むしろオレを睨みつけたのはマルゴット女王!?
「ケイジ! バカ者が!!」
「えっ、あ・・・っ?」
「何を呆けておる!
そなた、いま、あのベアトリチェとやらに、まんまと言いくるめられるところであったぞ?
これは何らかのスキル・・・か!?」
えっ? い、今のが・・・!?
あれ、そう言えばオレはもう戦うことを決めていた筈なのに!?
「ウッフッフフフ、嫌ですわ?
私は何のスキルも使っておりませんわよ?
まさかただの話術をスキルとでも仰るつもりでしょうか?
私はただの真実を告げたまでですわ。」
え・・・ええっ!?
「なるほど、恐ろしいの・・・
異世界の妾の父親は、その甘言で惑わされたと言うわけじゃな。
しかも『魅了』スキルを持っていながら、それに頼りすらしないと言うのか・・・。
確かに複数の人間でこの場にいるから、第三者的な視線で気づくこともできるが、
一対一になってしまえばそれも難しいというわけか。」
改めてゾッとする・・・。
戦闘でも魔法でも状態異常攻撃でもない。
ただの口先だけで、場の流れを支配しようとしていたのか、あの女は。
「あのう、誤解なさらないで欲しいんですけど、私は本当に争いごとは嫌いですのよ?
むしろ皆様には幸せになって欲しいくらい・・・。
例えば後ろのエルフの方々はどうです?
ここには基本的に才能を突出させたものを集めています。
そこにいるハイエルフのオスカのように。
あなた方の才能を伸ばす環境もここでは得られるのですけども。」
「むぅぅ、それは魅力的な提案。」
「ここへ来てまさかの勧誘。」
まぁ、もう種は割れている。
ベアトリチェもエルフ達も話の流れに付き合っているだけだろう。
全員、本気ではあるまい。
・・・大丈夫・・・だよな?
そこへ一人の小柄な女の子がオレの前に出る。
麻衣さん!?
ようやく次回でこの話し合いが終わります!