第二百八十四話 振り返るケイジ
<視点ケイジ>
どうやらついに魔人クィーンとご対面となるようだ。
スケスケエルフに案内され、
まずは見るも無残なエントランスを後にして、
広い廊下を次の場所へと向かう。
気持ちを切り替えねば。
さっきは取り乱してみっともない醜態を晒してしまったが、反省するのは後回しだ。
オレの感覚や感情としては、正直なところ何も訂正すべき点もないのだが、
ヨルの生まれや育ちに対し、オレが否定的な言葉を投げる資格などもちろんないし、
出来る事はと言えば、麻衣さんやカラドックが行ったように、ちょっとしたおせっかいまでに留めるべきだったのだ。
自分本位っていうのかな、
ああ、・・・改めて思い返せば、オレの人生って前世も含めてそんなものばっかりだった。
何にも変わってねーじゃねーか・・・。
一人で突っ走って・・・一応、他人にも気を遣っているつもりはあるのだが・・・
こないだもリィナに怒られたばかりで・・・
やめよう、
幸い、他のみんなの空気が最低なものにならなかっただけ、良しとしよう。
マルゴット女王には兄弟げんかとまで言われてしまった。
ケンカと言うには、オレは一切、手を出してないんだけどな、
まぁ、カラドックの主張は正論だった。
ヒューマン至上主義の今の世の中に文句を言っているオレが行っていい発言じゃなかった。反撃どころか、ぐうの音も出ない。
わかるか?
熟考して正しい判断や発言をできる奴はそこらじゅうにいるだろうが、
カラドックは反射神経で正論ぶつけてくるんだぞ。
そんな奴が「恵介」の死をいつまでもひきずって、
その罪滅ぼしとでも言わんばかりにオレたちを見捨てないと言ってくれてるんだ。
パーティーリーダーとして虚勢は張らせてもらってるが、
カラドックに対して、オレの頭が上がるわけないだろうがよ。
カラドックはカラドックで恥ずかしそうに反省してるしな。
これも麻衣さんの言うギャップ萌えになるのだろうか?
周りの女子どもの視線がおかしい。
ちょうどこのおかしな空気を吹き飛ばすように、
麻衣さんが悪魔ベリアルのドロップアイテムを見つけてくれた。
かなり大きさと重量の両手剣だ。
普通の剣士ではまともに持つことも出来ないだろう。
獣人の身体能力と高レベルにまで力のパラメーターが伸びたオレなら持つ事が出来る。
微妙なソリが入っているおかげで扱うには、相応の技量も要求されるかもしれない。
・・・いや、ひょっとしたら、これ・・・刀のように使うことも出来るんじゃないか?
・・・懐かしいな。
オレは剣術については、「完全なる騎士」とまで呼ばれたガラハッドに教わったが、
刀については父親と因縁があったという白鳥さんに、しばらくの間、稽古をつけてもらった。
おかげでオレの愛用の武器だった蒼狼刀を使いこなせるようにもなったわけだが、
このベリアルの剣なら、騎士剣術、刀術どちらもいけそうだ。
・・・アスラ王の蛇眼剣には手も足も出なかったがな。
ていうか、あれ、剣じゃないだろ。
矛だろ。
あんなものを片手で振り回せる時点で、オレとは次元が違う。
あれじゃあ、いかに蛇眼剣を封じる剣術を知っていた白鳥さんでもどうにもなるまい。
地力に差がありすぎる。
事実、その剣術を付け焼き刃程度に習ったオレではどうにもならなかった。
ていうか、そのお粗末さにアスラ王にガチでキレられた。
いきなり戦闘を中断したかと思ったら、
先のカラドックではないが、オレはいきなり殴り飛ばされたのだ。
あの時は、なんであのタイミングでアスラ王が激怒したかわからなかった。
後になって判明したんだけどな。
言ってくれよ、白鳥さん・・・。
白鳥さんにあの剣術を伝授したのアスラ王だって。
そりゃ怒るだろ、
アスラ王が、ある程度信頼して白鳥さんに門外不出の剣術を託したら、
どこの馬の骨ともわからない若造のオレが、得意げになって自分の技をみせびらかしてたんだからさ・・・。
・・・若気の至り・・・か。
いや、ああいうの黒歴史っていうんだろうな。
今も・・・たいして変わってないのか、オレは。
「カラドック、・・・少しいいか?」
「ん・・・あ、ああ、なんだい、ケイジ?」
カラドックも先ほどの落ち込みからは持ち直しているようだが、覇気がない。
オレを殴ったことを気にしてるのだろうか?
まぁ先に聞きたいのはこっちだ。
「答えられたらでいいんだが・・・
カラドックも昔の自分を殴りつけてやりたくなるようなことって・・・あるのか?」
カラドックはそれを聞いて目をぱちくりさせた。
オレが何の話を始めたか、すぐに理解できなかったんだろう。
それでもさすがはカラドックか、
オレの心の中で考えていたことにも思いが至ったかに見える。
ゆっくりとカラドックは頷いた・・・。
「今も同じさ・・・
なかなか成長できないよ・・・賢王と呼ばれるようになってもね・・・。」
・・・本当にお前は凄いやつだよ、カラドック。
嬉しいよ、
この世界でリィナに・・・そしてお前に再び会えたことが。
「尻尾。」
「揺れてます!」
「やっぱりあの二人!」
後ろで不穏な会話が聞こえる。
ここに来て、変な属性をオレに付け加えないでもらえないだろうか?
それとも、
それがオレへの罰なのだろうか?
勘弁してください。
ちなみ今更だとは思われるかもしれないが、
オレたちの前を、あの透けるような衣装を纏ったエルフが先導している。
下着のラインももちろんだが、
尻の形にしたって、「イーグルアイ」のオレの視力に頼らずとも、
誰の目にもくっきりと映っているだろう。
その二つの山が歩く度に左右に揺れる。
・・・こう書くと、オレが鼻の下を伸ばしているかと思われるだろう。
だが、オレについては先のやり取りのおかげで、そちらに気が向く余裕がない。
それらしき反応を示しているのは、
護衛騎士のブレモアだけ・・・なのだが・・・
この中で一番、まともな反応というのは、誰のどういう反応なのだろうか。
いや、ブレモアにしても、この場において適切な反応というより・・・何か本人の中ではリハビリ的なというか、何かを確かめているような・・・そんな・・・
いや、だから今のおれはそんな事に気を回してる場合じゃないよな・・・!!
そのスケスケエルフのお尻・・・いや、歩みが止まった。
目の前には黄金の装飾を施された両開きの大きな扉がある。
扉の両脇には衛兵・・・いや、
小奇麗な服を着ているが、「兵」というより冒険者のようなヒューマンが二名?
それも爽やか系というか、イケメンのお兄さんが・・・。
そして彼女はゆっくりと振り返る・・・。
「・・・クィーンの玉座はこちらになります・・・。」
それぞれイケメンのヒューマンがにっこり笑って扉を開いた。
ついに・・・いよいよクィーンのお出ましか・・・!!
どんどん視界が拡がっていく・・・。
匂いもだ。
これは何だろう、
白檀系に近いお香の匂いか・・・。
宮廷ってのは明るいイメージだが・・・
ここは暗いな・・・。
窓はないのか、日の光は入らず、夜のパーティー会場とでも言うべきか、
燭台の炎だけが光源か。
ここからでも見える。
奥には1メートル程の壇があり、薄いカーテンがその先の景色を遮っている・・・。
けれど見える・・・!
わかるぞ、その向こうに人影があるのを・・・!!
どうやら・・・ヤツが魔人クィーンのようだな!!
次回、クィーン登場!!
皆さまお待たせしました!!
クィーン
「待ったのは私のほうですわぁ!!」