第二百八十三話 悪魔の落とし物
「悪かった・・・ケイジ、
やり過ぎた・・・。」
「いや、・・・カラドック、
お前が正しい・・・間違っていたのはオレだ・・・。
ヨルも・・・すまなかった・・・。
あまりに無神経過ぎた・・・。」
「いっ、いえぇぇぇぇえ!?
ヨっ、ヨルは気にしてませんですよぉぉ!?
む、むしろ、カラドックと指と指を絡め合う事が出来て脳みそがフットーしそうになっちゃったですしぃぃぃぃっ!?」
いや、ちょっと待って欲しい。
指は絡めていない。
ヤバいぞ、
いよいよヨルさんに虚言癖がでてきたのか、
それとも幻を見始めたのか。
まさか、父上がひっそりその辺にいて、ヨルさんに都合のいい幻覚を見せていたりはしないだろうか?
私とケイジは二人仲良くうなだれていた。
それに対し反比例するかの如くヨルさんがはしゃいでいた。
なにがどうしてこうなった。
「ベディベール、それにイゾルテよ。」
「は、はい・・・!」
「はい、母上様っ!」
「これが男同士の兄弟げんかというものじゃ・・・!」
・・・なんか話が凄く矮小化されてしまった気がするけど、そう言われてしまうとそんな気もする。
そう言えば、まだ日本にいたころ、父上のことで恵介と大げんかしたような気もする。
さすがに殴ったことはなかったが。
ていうか、喧嘩なんだろうか?
一方的に私が殴って説教しただけのような気もするけども。
・・・ちょっと、そこ、
親子三人でキラキラした目でこっちを見ないでいてくれるかな?
そりゃベディベール君はコンラッド君という兄がいるけど、
あの宮廷ではケンカなんてできないだろう。
「・・・穴があったら入りたい・・・。」
ケイジ・・・同感だ。
一緒にあっちで仲良く穴掘りしないか?
フッと見たら後ろに麻衣さんがいた。
「ま、麻衣さん?」
私の癒し、麻衣さんなら救いの言葉を与えてくれるだろうか?
「眼福です・・・!」
何が!?
麻衣さんの鼻息が不自然に荒い。
ダメだ・・・周りを見回しても女子の比率が高すぎる。
エルフコンビも「いいものを見せてもらった」感があからさまだし、
メイドのニムエさんも暖かい眼差しをこちらに向けている。
あ、そ、そうだ、同じ男性のブレモアなら・・・!
「え? あ、は、はぁ、まぁ、
男兄弟というか、騎士団内でも殴り合いはしょっちゅうですので・・・。」
お、おおう、
そっちのほうが殺伐だよね・・・。
でもブレモアには理解できたようで、少しは気が軽くなった。
一応、当初の目的は達成されたし、
パーティー内の険悪なムードも晴れたわけだし、
これで良かったとすべきなのだろう。
おかげで大切な何かを失ってしまったような気もするけど・・・。
後ろで麻衣さんが
「あたしに才能があれば薄い本ができるのに・・・。」
とか訳のわからない言葉を発していた。
すぐにリィナちゃんとイゾルテが「薄い本てなに?」「なんですの?」と集まってくる。
「薄い本て言うのはですね・・・。」
そこから先の声は聞こえなかったけど、
なにか身の毛もよだつような話の気がして聞く気になれなかった。
「それにしても」
「さすがは」
恒例のダブルエルフ達か。
「「賢王」」
今回はセリフがハモった。
もう何とでも言ってくれ。
「いえ、もしかすると」
「ああ、もしかして?」
「「むしろ拳王!?」」
なに、その世紀末!?
途中、妖精ラウネにせがまれたのか、
マルゴット女王が私の元に近づいてきた。
女王の意志というより、妖精が何か言いたげに私のことを直視してきたので、
何事かと、その紫色の両目を見ていたら、
いきなり彼女は首を左右に振り回した。
当然のごとく、その勢いで、妖精の緑銀の長い髪が私の両頬をビタビタとはたく形になる。
え? なんなの?
すぐに満足そうなドヤ顔を浮かべた妖精は、
もういいといわんばかりに女王の肩を叩いて落ち着いたようだ・・・。
「あ、あの?」
「う、うむ、よくわからんが、この妖精なりの感情表現の一つらしいな・・・。
たぶんじゃが、カラドックは気に入られたらしいの・・・。」
え、そ、それ、私の言動の何にそんな要素が・・・。
思わず、私はその場にしゃがみこんでしまったが、誰も咎めないで欲しい。
しばらく時間を所望する。
すると一人の女性が近づいてきた。
麻衣さんだ。
薄い本談義は終わったのだろうか?
「カラドックさん、大丈夫です?」
「・・・まぁ、ちょっと落ち込んでるだけさ。
すぐに立ち上がるよ。」
「それにしても・・・やっぱりカラドックさんは凄い人ですね、
王様としてもお兄さんとしても・・・。」
「何言ってるんだい、
なにも凄くないさ・・・、
まだ誰も救えてないんだしさ・・・。」
ていうか、もうみんなの目にはケイジは私の弟ポジションなのか、
・・・まぁ、いいけども。
横からそのケイジが口を挟んでくる。
「いや、カラドック・・・。」
「うん?」
「お前がいるだけでオレは救われている・・・。
この後も・・・もしオレが間違っていたら、遠慮しないでくれ・・・。」
またみんながキラキラした目で見てくる。
もうやめてください、
賢王のLPはゼロです。
「あ?」
麻衣さんが何かに気付いたようにエントランスの階下部分に目を向けた。
何か見つけたのだろうか?
「どうしたんだい?
なにか気になるものでも?」
「あ、あれ・・・単に倒した悪魔の装備品と思ってたんですけど、
彼らは衣服もなにもかも分解したように消えちゃったんで・・・
あれ・・・もしかしたらドロップアイテムなのかと。」
え?
麻衣さんの視線を負うと、確かに一振りの剣が瓦礫の間に落ちている。
アレは確か・・・悪魔ベリアルが持っていた剣と同じデザインだが・・・
一回り小ぶりになっているような・・・。
「ドロップアイテム?
もしかして私達にも装備可能なのか?」
「あ。鑑定しますね・・・。
うわ!
攻撃力と耐久力凄いですよ・・・呪いとかはかかってないです。
なんか説明文に『喋る機能はない』ってあることだけ違和感ありますけどそれ以外は・・・。」
「悪魔ベリアルの剣・・・か。
ここへきて、凄いアイテムが手に入ったね・・・。
このメンバーなら・・・ケイジが持つといいんじゃないか?」
「い、いいのか!?
なんか・・・市販されてない武器を持つの、初めてなんだが・・・。」
ケイジの声が弾んでいる。
冒険者ならレアアイテムを装備できるのは凄い興奮する出来事だろう。
気持ちは分かる。
とはいえ、小ぶりになっているとはいえ、かなりの大きさだ。
ケイジの手で持つにしても両手剣スタイルにならざるを得ない。
いや、でも、見るからに戦士スタイルのケイジが持つとかなり強そうに見えるな。
形としてはクレイモアに近いようだが、微妙にソリが入っている。
片刃の剣だ。
両手剣で片刃というのは珍しい。
「あの・・・」
あれ?
知らない声だ。
すぐ近くから女性の声がした。
見ると、最初に私たちを案内していた薄着のエルフだった。
この場に戻ってきていたようだ。
「皆さま、
戦闘が終わったのに・・・なんでずっとここにいるんですか?
先に進むか帰るのかはっきりさせていただかないと、こちらも対応に困るのですけれど・・・。」
凄く無表情に喋っているけど、明確に迷惑だからさっさと決めろという本音がダダ漏れになっていた。
確かにあれだけ大規模に暴れておいて、ここまでずっとこの場で時間を消費していれば、
迎えるもの側からすれば何やってんだよ、という話になるだろう。
「あ、え、と、じゃ、じゃあ、この先に進んでも・・・。」
「そのつもりでこちらにいらっしゃったのでは?
クィーンがお会いになるそうです。
武器はそのままお持ちいただいても結構ですよ。
そんなものでクィーンに立ち向かえると思うのならですけれど・・・。」
・・・いよいよか。
ベリアル 剣
で検索かけたら、出るわ出るわ、ウルトラマン。
皆さん、関係ありませんから。
喋らせませんから。