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第二百八十二話 激情

評価ありがとうございます!!

 

ようやくヨルさんも、自分が大事に思われていたと理解できたようだ。

だが、それをすんなり受け入れてしまえば、自分がシグを殺してしまったことが取り返しがつかないことだと認めなくてはならなくなる。


それこそまさにシグが避けたいと思っていた事態なのだろう。


 「あっ、そ、そうか、そうですよねぇぇぇぇっ!?

 ヨルが死んだら、おとうさんにシグが怒られちゃいますものねぇぇぇっ!!

 そっ、そうですよぉ!

 し、仕方がない話だったんですよぉぉぉっ!!」


ヨルさんの言葉に力がない。

町長ゴアにヨルさんを守るよう命令されたのは事実だろうし、今のヨルさんの理解もその通りだ。

話は半分あっている。

「半分」にしか過ぎないとヨルさんも分かっているから、言葉に力がない。


私はヨルさんに近づく。

 「カ、カラドックは分かってくれますですよねぇぇぇっっ!!

 ヨルは間違ってなんか・・・い、いないって・・・!

 ヨルはみんなを守るために・・・」


 「ああ、間違ってないよ。」

私は断言する。


そして彼女の槍を持っていないほうの左手を握りしめた。

 「君は間違っていない。

 ・・・だから、後は彼を弔ってあげるといい・・・。」


ヨルさんは私に手を握りしめられて、目を見開いて慌て始めてたが、

すぐに自分がすべきことを理解したのか、執事シグの体に視線を戻した。


・・・もう、死んでいる。


 「・・・そうですねぇぇぇ、

 カラドックゥゥ、前に言いましたよねぇぇ。

 魔族はお互いの主張がぶつかったときは戦いでケリをつけるってぇぇ・・・。」


そういえばそうだったな。

 「ああ、そう聞いたね。」

 「たまぁに、いつまでも根に持つ魔族もいますけどぉ、

 基本的にはそれでお互い恨みっこなしになるですよぉぉ。

 もちろん、全力で戦った場合にはどちらかが死ぬケースもありますですよぉ。」


基本的に身体能力や魔力が高い生物だ。

それは当然そうなるだろう。


 「だから、別にシグと戦いになることは、ヨルにとってそんなに不自然じゃなかったですぅぅ。

 むしろ、シグはヨルにとって格上の相手ですからねぇぇ、

 正直、シグを出し抜く形で勝てたことの方が嬉しいですよぉぉぉ。」


おめでとう、と言ってあげようかとも思ったけど、

ここは彼女の言葉の続きを待とう。


 「・・・でも、ヨルを自分の娘のようにって・・・のが・・・ヨルには・・・

 理解できないですよぉぉ・・・、

 魔族は血縁者にだって、情を示すのは珍しいですよぉぉ。

 ヨルのおとうさんは本当に例外中の例外なのですぅぅぅ・・・。」


ああ、さすがにあんな人がたくさんいたら大変だろう。

もしそうなら魔族の名前をオヤジ族に変更して欲しい。


 「彼・・・シグも・・・あのゴア殿の影響を受けていたのかもしれないね。

 もちろん、ヨルさんも・・・。」


そこで彼女は信じられないようなものでも見るように私に視線を向けた。

あれだけ反発してれば認めたくはないだろうけども。


 「・・・そうなんですかねぇぇぇ・・・。」


それでも彼女は思い当たる節を見つけたのだろうか。

静かに首を再びシグの遺体に戻して呟いた。

 「まぁ、シグ・・・

 おとうさんにはヨルを守ろうとして悪魔に殺されたって言ってあげるですよぉぉぉ。」




・・・恐らくだけど、

きっとヨルさんがシグの死に、いろいろ思うことになるのはこれからだろう。

そう、すぐには自分の心を整理できはすまい。

恐らくこれで良かったのかとも思う。

ヨルさんが、シグの死を残念に思うか、それとも結局はこの後、忘れ去ってしまうのかは、

それこそ、私たちが気にする話ではない。


おせっかいもここまでだ。

それよりかなりの時間を取ってしまった。

これより次のステージに向かおうとしたところで、


まだ一人、納得していない人間がここにいるのに気付いてしまった。



 「ケイジ?」


ケイジは信じられないようなものを見る目で私たちを見ていた。


 「・・・そ、それでいいのかよっ!?」


 「ケ、ケイジ?

 それとは?」


 「カラドック!

 おまえこそ何を言ってるんだ!?

 シグは彼女を娘のように思っていたってんだろ?

 ヨルもヨルだ!

 なんでそんな他人事のような反応なんだよっ!?

 もっと、こう・・・こいつのために・・・その・・・」


 「・・・ヨルにどうすればいいっていうんですかぁぁぁ・・・。」


また、あのさめた目だ。

まずいな。

ヨルさんはある程度、話を理解してくれたっぽいけど、ケイジが蒸し返し始めた。


 「ど、どうって・・・!?

 ヨルは子供の頃からその男は身近にいたんだろ!?

 別に粗末に扱われた訳でも、険悪な関係でもなかった!

 こないだみたいに、時にはアドバイスをくれたり、

 ・・・アイツの話が本当だとすれば、ヨルに親愛の目を向けていた筈だ!!

 それについて報いようとか・・・いや!

 それこそオレみたいな他人に言われるまでもなく、自分から何か思うことはないのかよっ!!」


 「・・・・・・。」

それについては、それこそ他人に言われるまでもない話だ。

無言で反応するヨルさんの代わりに私が口を開く。


 「ケイジ、よせ。

 ・・・ここから先は他人の私たちがヨルさんの心に土足で踏み入る行為だ。」


 「オレは納得できない!!

 いや、誤解しないでくれ!!

 ヨルが、心を持たない冷酷なヤツだったらオレもこんな事は言わない!!

 そうじゃないだろ!?

 ヨルは優しい女だ!

 命の大事さも知っている!!

 カラドックだってリィナだってみんな知ってるだろ!?

 今までの彼女の反応が演技だってわけじゃないだろ!?

 なのに、なんで身近なヤツの死にだけ、こんな冷淡なんだよっ!!

 オレはそれを言っている!!」


・・・そうか、

ケイジにしてみればそういう解釈か。

なるほど、一理あるな。

けれど、それこそ人の価値観なんて千差万別なんだ。

ましてやケイジとヨルさんは全く接点のない世界で暮らしてきたんだ。

価値観が根本から違っても仕方ない話なんだ。


 「・・・ヨルのことを優しいって言ってくれるのは嬉しいですけどぉぉ、

 ヨルにはケイジさんのことこそわかりませんですよぉぉ。

 シグはヨルにとって身内かもしれませんけど、

 ケイジさんにはそれこそ関係ない相手ですよねぇぇ?

 なんでケイジさんが興奮するのかわかりませんですよぉぉぉ。」


・・・これはダメだ。

話が嚙み合う気がしない。

長い間、同じ時を過ごせば互いの価値観を理解しあうこともできるだろう。

だが、今この場では無理だ。

ましてやこの先に、目的の魔人が控えているのだ。

この場は強制終了させてでも・・・


ケイジは心底残念そうに唇を噛む。

 「ちくしょう、

 しょせん・・・しょせん、ヨルも魔族か。

 やっぱりオレたちとは・・・違うのか・・・。」








カラダが勝手に動いた。


次の瞬間、

私の右手は、ケイジの顔面を捉えていた。



 「ゲボアッ!?」


完全に意識外からの攻撃だったのだろう。

ケイジは避けることも防御も出来ずに、

宙を二回くらい回ってから地面に激突した。


何が起きたかわからないって?

周りのみんなも私の行動を予測できなかったろう。


私だって、数秒前まで自分の行動を予測できなかったさ。


 「え? え?

 カラドックゥゥゥ!?」


ついさっきまで当事者だったヨルさんでさえ驚いている。

もしかしたらケイジを殴ったのがヨルさんだったら、周りのみんなも驚かなかったかもしれない。

だけどダメだ、ケイジ。

君だけはあんなセリフを吐いちゃいけないんだ。


ようやく、自分が誰に殴られたか理解したか、

ケイジがヨロヨロと半身を起こす。

 「カ・・・カラドック、

 い、いったい、ど、どうして・・・?」


わからないのか。

 「ケイジ、・・・ヨルさんに謝れ。」


 「・・・え? あ?」

 「謝れと言っているんだ、

 自分が何を言ったか理解できているのかっ!!」


ケイジはおろか、当のヨルさんも何が何だか分からないかのような反応だ。

まぁ、それは仕方ない。

だけれども、ケイジが「あんな」発言をしたことだけは看過してはならないのだ。


ケイジがまだきょとんとしている。

自分の発言を全く理解していない。

ならば・・・私は倒れているケイジの元まで近づいて胸倉を掴んだ。


 「ケイジ!

 君が、他人の命を尊重して、極力人を死なせないように生きてきたのは知っている!!

 それはとても素晴しい行為だし、尊敬できる信念だ!!」


自分の母親の死がそのきっかけになっていることも容易く想像できる。

だからこそ私はその想いを踏みにじりたくはない。


 「今の君のアイデンティティを形作っているのは!

 幸せなこともあったろう、不幸なこともあったろう、

 それら全てが血肉となって今の君になっている筈だ!!

 そんな君の信念を、別の生き方をしてきたからと言って、赤の他人に踏みにじられて君は平気でいられるのか!?」


 「え・・・あ?」


まだ理解できないだろう、

今の説明はただのジャブだ。


 「何よりも!!」

ここからだ。


 「ケイジ!

 君は亜人ということで言われない差別を受けてきたと言ったよな!?

 そんな社会をくだらないとも!!

 なら・・・魔族であるヨルさんに対して!!

 自分たちと種族が違うなら仕方ないなどと、その差別を肯定するような発言を!

 何よりも君自身が発していいわけがないだろう!!」


 「・・・あっ。」





ケイジの顔が固まる。

ようやく自分の発言の意味を理解したようだ。


別に私も普段から差別を肯定するような奴が同じようなことを言ったとしても、スルーしていたかもしれない。

けれどケイジは違う。

誰よりも、その差別を何とかしようとしていた者が、絶対にしてはならない発言だ。

考えなしに反射で殴ってしまったが、

・・・たぶん、私の行動は間違ってない・・・


よね?


・・・あ。

辺りを見回すと、みんなドン引きしていた・・・。

やっちゃった・・・。



 

リィナ

「あの2人、ケイジの方が感情的かと思うけど、実はカラドックもああなるんだよね。」


イゾルテ

「私達との初対面の席でも、泣いたり怒ったりしてましたわ。」


麻衣

「ケイジさんも結構、普段は策略家みたいに冷静なんですけどね。

・・・あの少年の息子たちだとは思え・・・

あ、でも、カラドックさんはマーゴさんの息子でもあるのだから、そう考えれば。」

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