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第二百八十一話 感傷

ぶっくま、ありがとうございます!


話数がずれてたですよぅぅぅ・・・、

こっそり修正しておくですうぅぅぅ。

 

恐らく、これがこのエントランスでの最後のシーンとなるだろう。

魔族の街マドランド町長の娘、ヨルさんと、

その町長の執事、シグとの最後の会話。


この場にいる全員が彼女達の言動に注目している。

それを意識しているかしていないのか、

執事シグは自らの右手を胸元に当てた・・・

回復呪文か・・・。

だが・・・。


 「ふ、ではお言葉に甘えさせていただきましょうか。

 お嬢様の仰る通り、魔石を砕かれたら治療する術は有りません。

 今は、外傷を治すことによって命をいくばくか伸ばす事が出来るのみです。

 使える術も、・・・これが最後でしょうね・・・。」


魔族・・・体内に魔石を有する魔物共通の弱点か。

もっとも、人間だって脳や心臓を破壊されたら回復呪文を使う間もなく即死する。

付け入る隙というほどのものでもないだろう。


それにしても・・・

今はこのシグの話を聞き逃すべきではないのだろうが、

やはり私は麻衣さんの態度も気になる。


麻衣さんとシグは初対面・・・、

彼に対して何の思い入れもないはず。

単純に、彼女自身の価値観からの行動なのかもしれないが、

どうしてもケイジの反応と比較せざるを得ない。


ケイジはこれまで多くの戦闘をこなしてきたはずだ。

人の命が亡くなるところも何度も見てきている。

冒険者であるならば、自らの命の危険だって覚悟している筈。

そうでなければ冒険者に就く資格などない。


それでもあんな甘いセリフがでてくるのだ。


別にケイジが人の命を尊重することに不満はない。

立派な信念だと思う。


ただそれは・・・普通なら人の命が何よりも重い、平和な世界の人間の価値観だとも思う。

むしろその世界の住人であるはずの麻衣さんが真逆の態度にしか見えないのだ。

いや、麻衣さんが冷たいという意味ではない。

麻衣さんは人の命の重さを十分に分かっている。

分かっているからこそ、あの態度なのだろう。

まるでこれまで、多くの人たちの死別を見てきたかのように。


狼狽えず、慌てもせず、死にゆく人間に対し、最大限の敬意を払う・・・。

それが自分の役目だと言わんばかりに・・・。

彼女は自分を、普通のどこにでもいる女子校生だと言った。

・・・あいにくだけど、そんな謙遜はもう信じちゃあいないよ。


類稀な感知能力や、驚異のユニークスキルだけの話じゃない。


「闇の巫女」・・・麻衣さんが手に入れた新たな称号。


それが何を意味するのかわからない。

この私カラドックの、「天使の息子」、

或いは「歴史を紡ぐ者」とどう関わってくるのかもわからない。

もともと別世界の人間だというのならば、このまま何も関係なく終わるのかもしれない。


この旅の先に、いつかその答えを見出す事が出来るのだろうか・・・。




そこで再びシグの口が開いた。

 「言いたい事・・・というほどのものでもありませんが・・・、

 お嬢様の成長が見れて・・・嬉しい、というのが本音です・・・。」


ここにきてもシグの言動はぶれない。

この男もしかして・・・。


 「戦いの技術は、子供の頃からシグにも教えてもらいましたからねぇぇぇ。」


ヨルさんからは何の感情も見えない。

今まであれだけ喜怒哀楽の激しかった子だけに、敢えて自分を抑えているのかとも思いたくなる。



子供の頃からか・・・であるならば。


 「シグさん、

 君にとって、ヨルさんはどういう存在なんだい?」

思わず口に出して聞いてみた。

彼女達の会話に口を挟むのは、無粋の極みのように思えたが・・・

このままだと、中途半端な話で終りそうな気がしたので、少しだけ干渉させてもらった。

恐らく、麻衣さんもそう思ってくれているだろう。


シグは一瞬、私を睨みつけたが、

少ししてから諦めたように口を開いた。


 「・・・私の口から言わせたいのですか?」

 「ヨルさんに聞かせてあげたいだけですよ。」


ヨルさんをと見れば首をかしげ、きょとんとしている。


 「・・・お嬢様に余計な気苦労をかけたくはないのですが・・・。」

 「そんな潔さは、美徳とは思えないね、少なくとも私には。」


敢えて彼の言葉を否定した。

一度私は麻衣さんに視線を送る。

彼女は私の言いたいことを理解してくれたようだ。


 「・・・あたしもそう思います。」


良かった。

どうやら私の見立ては間違っていなかったようだ。

そこでシグは目を瞑る。


 「どうもこうも・・・私には子供はいなかった。

 だから幼いお嬢様が成長していく様が、私には眩しかった・・・。

 ただ、それだけ、ですよ・・・。」



・・・シグ。

やはり、君は立派な男だった・・・。

そして、子供が生まれにくいという魔族の生態を哀れにも思う。


一方、そこで戸惑い始めたのがヨルさんだ。

 「え? ・・・え?

 どういうことですかぁ・・・?」


ヨルさんを鈍感というつもりはない。

むしろ彼女にしてみれば、それだけ近い関係であったシグが、

自分や父親に二心を持っていたことが許せなかったんだろう。

本来であるならば、シグが魔人クィーンにも仕えていたとして、

ヨルさんの敵に回る可能性は殆どなかった。


たまたま私たちが魔人クィーンの敵として、

彼女達に出会ってしまったことが今回の戦いに繋がったのだ。

巡り合わせが悪すぎた・・・。


だから誰のせいでもない。

ヨルさんが、私たちについてきてくれたことが悪いはずなんてあるわけがない。

町長ゴアが、ヨルさんの護衛をシグに命じたことが悪いはずがない。

シグがクィーンからスキルを与えられ、不老不死も与えると言われ、

私たちの前に立ち塞がったことも仕方のない話だろう。

彼は義理に従ったまでだ。

シグはそれに逆らうほどの恩知らずでもないのだ。


恐らく今回も悪魔を召喚しておいて、ヨルさんを殺すつもりもなかったのかもしれない。

或いは戦いの流れによってはそこまで覚悟していたのかもしれないが、

何らかの回避策を用意していた可能性も考えられる。


 「ヨル様・・・どうもこうもありませんよ、

 ・・・後でゴア殿の元へ帰られた時、

 ご自分の腕がシグを上回ったとご自慢なされるとよいでしょう・・・。」


 「え? あ? そ、それはもちろん、・・・え!?」

 「カラドック・・・様でしたかな?」


 「ああ、なんでしょう?」


 「ヨルお嬢様を、この先、お願いしても・・・。」


う・・・。

そ、それはどんな意味で・・・いや、

言質を取られないように・・・。

 「このパーティーにいる間は引き受けるよ・・・。」


 「えっ!?

 カラドックゥゥ!?

 い、今のはプロポーズって・・・シグぅ!?

 シグは何を言っちゃってるですかぁァ!?」

ダメだったか。


 「ヨルお嬢様、

 大きくなられましたね・・・。

 魔族というのは私にとってつまらない種族ではありましたが・・・

 ゴア様とヨルお嬢様は見ていて飽きませんでしたよ・・・。

 どうか、この後も・・・お元気で・・・。」


なるほど・・・そういう事か。

確かにあの町長は・・・魔族の中でも型破りなのだろう。

ヨルさんにしても、変わり者の部類に入るんだろうな。


 「シ・・・シグ?」


シグの瞳から光が消えうせようとしていた・・・。

もはや呼吸で胸元が上下に動くこともない・・・。


 「シ、シグ、待つですよぉぉっ!!

 いったいなにを言ってるですかぁぁぁっ!!」


どうやらシグはもう問答する力もあるまい。

意識が残っているかどうかも怪しいだろう。

だから代わりに言おう。

 「彼は・・・シグはヨルさんを自分の娘のように思っていたのかもしれない・・・。」


 「はぁぁぁあっ!?」


ヨルさんにしてみれば、ありがた迷惑な話だったろうか。

シグの一方的な思い込みとしても。

それでも伝えてあげようと思った。

理由なんかいるかい?


 「な、なにバカなこと言ってるですかぁぁぁっ!?

 シ、シグが・・・ヨルのことを・・・そんな・・・そんな風にぃぃぃ!?」


 「心当たりはないのかい・・・?

 もし、ヨルさんがそう思うなら、話はここまでだ。

 私たちも彼の最期に付き合う義理などない。

 すぐに魔人の元に向かおう・・・。」


そう、これ以上は余計なお世話だ。

何をどう感じ、なにをどう決めるかはヨルさんの問題。

私も、シグへの感傷をヨルさんに押し付けるつもりなんて更々ない。


 「バッ・・・バカですよぉぉ!!

 だったらなんでシグは・・・ヨル達の敵に回ったですかぁぁ!!

 そっ、そりゃあ、前回はヨルが死なないよう、あの時は・・・

 あの時は・・・。」



敢えて感動的なシーンには持っていかないつもりです。


話の主軸はケイジにするつもりですので。

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