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第二百八十話 違和感

<視点 カラドック>


何が起きた!?

まったく次から次へと理解不能の事態が起こる。

四体もの悪魔召喚にも驚いたが、麻衣さんが謎アイテムで、異世界の魔物を呼び出し悪魔を退けた。


とりあえず、ここで一つの場面が終わったのは確かだ。

まだ魔族シグが残っているとはいえ、

彼も残りの魔力は少なくなっている筈、

何か奥の手を残しているかもしれないけれど、

ケガの功名というべきか、

こちらも早い段階で魔術や精霊術を封じられていたおかげで、魔力は丸ごと残っている。

麻衣さんがMPを失ってしまったようだが、それだけだ。

シグが何か仕出かそうとも対処は出来る。


そう、思っていた。


ところが今度の事態は、

そのシグが攻撃を受けて戦闘不能になりかけている。

もちろん、それは我々にとって望ましいことではあるのだが・・・。


そう、

シグに攻撃をかけたのは・・・

他の誰でもない、

同じ魔族のヨルさんだった!!


 「やった!

 やりましたですよぉぉぉっ!!

 シグを倒したですぅぅぅっ!!」


宮殿のエントランスの階段を上がった先で、

ヨルさんの槍は、魔族シグの背後から胸の中央を貫いている。

カラダが頑強な魔族とは言え、どう見ても致命傷だろう。


これで・・・この場の敵は全て倒した。

誰も犠牲になることもなく・・・。

そう、最良の結果だ。


だが、なんだ、この違和感は。


少なくともすぐに疑問に思えることは、

何故、魔族シグは、ヨルさんをあそこまで接近させてしまったのか?

確かに悪魔たちが倒された事や、あの異世界から召喚したという和風の女の子たちの一団は驚異だろう。

それに気を取られてしまったのは仕方ない。


だが、前回、あれだけの用意周到さを見せた男が、そんな易々と背後を取らせるか?


とは言え、

それについては当のシグが、すぐに種明かしをしてくれた。

 「お・・・お見事です、ヨル様、

 今度は完璧に気配を殺しましたな・・・。」


あっ、ヨルさん得意の隠蔽結界か。

しかも今度はエアスクリーンを併用しているようだ。

そういえば彼女は行きの空飛ぶ馬車の中で、ワイバーン相手に風術を使っていたし、

ラプラスさんの特大エアスクリーンを間近で見ていた。


なるほど、今度の戦いで途轍もない成長を遂げたのは彼女ということになる。

思えば、生まれ育った魔族の街周辺で、特定の魔物ばかり相手にしていただけの戦いでは、成長にも限度があるのだろう、

それが今回の戦いで彼女の才能にも花が開いたというわけか。


・・・そこまで聞けば喜ばしい話だと思う。


だが、

もう一つの違和感。

・・・それは私よりケイジの方が敏感に感じ取っていたようだ。

私の心の中のもやもやを、ケイジははっきりと言葉に出して説明してくれた。


 「ヨ、ヨル・・・お、お前・・・

 そ、そいつは・・・お前の同族で・・・

 それどころか父親の執事だろ・・・?

 そ、それを・・・そんなあっさり・・・。」


そうだ。

彼女は何の迷いもなくシグの背中を貫いた。

攻撃されてやむを得ずとか、何らかの事故やはずみで槍を突いたわけじゃない。

完全にシグを殺すつもりで攻撃したのだ。


今までの彼女の言動や、シグへの態度からでは理解できない。

彼女は他人の命を尊重できる女性だったはずだ。

それが、何の躊躇いも見せずに、身内とさえいえる筈のシグをあんなにもあっさりと・・・。


ヨルさんは静かに槍を抜く。


 「・・・ぐっ・・・」


もはや立っていることもできないのだろう、

その場でシグは力なく、床に崩れ落ちた・・・。


一方、当のヨルさんはきょとんとしている。

 「え? え?

 シグをヨルが仕留めたんですよぉっ?

 み、みんななんでそんな顔をしてるですかぁぁぁ?

 ヨ、ヨルのことを褒めてくれないんですかぁぁっ!?」


戸惑っているというより、ヨルさんはあからさまに不満そうな表情を見せている。

彼女にしてみれば、我々の反応のほうが不実な態度に見えるのかもしれない。


 「い、いや!

 そうじゃない!

 ヨルさん、君に身内を攻撃させてしまって申し訳ないと思うくらいだ。

 本来なら君の手を汚させずに、ケイジたちでケリをつけるつもりだったから・・・。」


ちょっと苦しい言い訳だったろうか。

だが、多少は今の説明で効果があったのか、

ヨルさんの顔はパァッと輝いた。

ちょろ・・・いや、やめておこう、

今はそんな空気ではない。


 「心配ご無用ですよぅ!

 カラドックは優しいですねえぇぇぇっ!

 ですけど、いけませんですよぉぉぉっ!!

 シグはお父さんやヨルを騙した裏切り者ですぅぅぅっ!!

 そんなヤツに手心を加えようとか、知り合いだから殺すのはやめようなんて、

 そんな甘い油断が、こないだみたいなことになるんですよぉぉぉっ!!

 ケイジさんやリィナさんはあの時、死ぬところだったですよぉぉぉっ!!

 まさか麻衣ちゃんが助けてくれたからって、

 あの時の失敗も忘れちゃったですかぁぁぁぁっ!?

 裏切り者には死の制裁ですよぉぉぉぉぉっ!!」


 「うっ・・・裏切、り・・・くっ・・・」

ケイジが言葉に詰まる。

確かにヨルさんの主張は正しい。

生き死にの戦いをしているのに、そんな生ぬるい気遣いなどしている余裕はないはずだ。

彼女は何も間違っていない。


・・・そう、

私には違和感を覚える・・・程度で納得は出来る。

すぐに次の行動に移ってもいいくらいには。


だが、ケイジの様子が変だ。

ヨルさんの主張に納得できないとでもいうように目を見開いて固まっている。

 「ケイジ・・・?」


彼は私の問いかけにも答える事が出来ず、

今やケイジの瞳にはヨルさんしか映っていない。


 「ヨ、ヨル、

 お・・・おかしいぞ?

 お前、以前、あれだけ命は大事だと言ってたじゃないか!!

 いや、シグを倒したのは凄いとオレも思うぞ!?

 よくやったって言いたいくらいだ!

 だ、だけど、冷たすぎるだろう!?

 あいつは・・・、

 あいつは、お前だけは殺さないように、ヨルに目をかけていたのに!!」


ああ、そうだったね・・・。

確かにシグはヨルさんに気を遣っていた。

町長ゴアへの忠誠心からなのか、義理と言っていたような気もするし・・・

どちらにしろ、その事自体は人間臭い感情で私も好感が持てていた。

・・・それに、

ケイジはやたらと人の命にこだわる・・・。


そう言えば、冒険者としても、

他国の戦争や小競り合いの被害を最小限に食い止めるよう、ケイジはこれまで活動してきた。

だからこそ、ケイジは今、過剰に反応してしまっているのだろう。



・・・ケイジ、お前は



いや、またにしよう、

むしろヨルさんにしてみれば、その主張自体受け入れられないというか、信じられない話だろう。


 「別にヨルは、新しく生まれてくる命が大事だと言っただけで、

 敵や裏切り者のことなんかどうだっていいですよぉぉ?

 ケイジさんは敵でも助けるっていうんですかぁ?

 なら、どうして魔物の命は狩れるんですかぁぁ?

 今までケイジさんは何十、何百と魔物を狩ってきたんですよねぇぇぇ?」


 「う、いや、ま、魔物は違うだろ、それは・・・。」


ダメだ、ケイジ、

いろんな意味で、ヨルさんが正しい。

これ以上、お前が反論したら、この後の戦いで士気や連携に不和が生まれるぞ。

だから私はケイジの前に出る。


 「み、みんな、怪我はもうないか?

 まだ、敵の追撃があるかもしれない。

 周りの警戒を怠らないように・・・。

 ゆっくり奥へ進もう・・・。

 ヨルさん、私たちがそこに追いつくまで待っててくれ・・・!」


 「あはぁん、カラドックゥゥ、

 待ってくれだなんてぇ、あなたのヨルはいつまでも待つですよぉぉ?」

 

なんとか元の調子に戻って来たな。

それにしても変なところで意見の相違が生まれてしまったな・・・。

確かにこのパーティーは、その場の流れみたいに出来上がってしまった急増パーティーだ。

これくらいの事態は起きて然るべきなのかもしれない。


・・・倒れたシグの体は私たちの通り道にある・・・。


む、まだ息があるようだ。

その気になれば、タバサの回復術で一命を取り留めることが出来るか・・・

私とタバサ、そしてケイジの視線が合った。


考えることは同じようだ。


・・・そしてヨルさんも。


 「魔石ごと砕いたんで、ヒールは効きませんですよぉぉ?

 せいぜい外傷が消えるだけですぅぅぅ。」


魔石を砕かれればいかなる魔物も死ぬというからな。

なら、やはりシグはここで死ぬのだろう。

そう言えば、

シグは闇の僧侶呪文が使えたはずだ。

通常の僧侶呪文との違いがよく分からないが、自分で回復呪文を使わなかったことからしても、誰よりも本人が自らの死を理解していたというわけか。



麻衣さんが静かに佇んでいる。

その視線は横たわっている執事シグに向いているが、

麻衣さんならこういう時はどう考えるのだろう。

彼女は平和な日本で暮らしているのなら、ケイジ寄りの意見となるのだろうか?


 「いえ、別にあたしはどうも・・・。」


私の顔に言いたいことが出ていたのかもしれない。

私の心を読んだかの如く、ポツリと答えを返してくれた。


麻衣さんは静かだ。

動揺しているふうでも、

心を痛めている様子もない。

確かに麻衣さんはシグと出会うのは初めてだ。

だからか・・・いや、

そういう話でもなさそうだ。

麻衣さんには麻衣さんなりの価値基準があるような気がする。

そのせいなのかどうか、わからないけども、

麻衣さんは麻衣さんならではの意見を私たちに示してくれた。


 「・・・でも、この人、まだヨルさんに何か言いたい事があるのでは?」


それを聞いて死に際のシグの顔が強張った・・・。

ヨルさんもそれを見て何か思ったのだろう。


 「なんですかぁ、シグ、遺言ならきいてあげるですぅぅ・・・。」



 

麻衣

「・・・いや、どうしたって、こないだの吸血鬼エドガーの最期とかぶるでしょ・・・!

え?

ヤギ声の男?

さすがにアレと比べるのは勘弁してください・・・。」


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