第二百七十九話 ぼっち妖魔は展開についていけない
ぶっくま、ありがとうございます!
みんな、呆然としている・・・。
やっとそれぞれが我に返ったのは、
召喚された悪魔たちが粒子のように分解されて消えてなくなってから・・・。
あっ、てことは・・・うりぃちゃんたちは?
通常の召喚だと、術者であるあたしの意志かMP切れで還っていくんだけど、
今回は初っ端にあたしのMPを消費しただけで、
その後の戦闘中にMPを吸い取られ続けるということはなかった。
いつまでこの場に居続けられるのだろうか?
そう思っていたら、彼女の方から話しかけてきてくれた。
「麻衣はん、これでお役目しゅーりょーってことでええんか?」
ゾンビなお猿さんの肩の上、
二パッと笑ううりぃちゃん。
さっきまでの殺伐とした雰囲気はまるでない。
「あ、は、はい、ありがとうございました・・・!
そ、それでいくつか聞きたいことがあるんですけど・・・。」
その途端、うりぃちゃんの顔が曇る。
聞かれると困ることがあるってお顔だね。
「あ、あー、うちらもあんまり時間のこってないんや・・・。
戦闘終わればすぐに帰らんといけのーてな・・・。」
なら粘りましょう。
「あ、じゃ、じゃあ、前にどこであたしと会ったかだけでも・・・。」
「そのことかー、
覚えとらんなら仕方ないなー、
ヤギ声の男事件の後の打ち上げん時や、
一緒に、マリーはんもエミリーはんもおったで?
たぶん、みんな記憶なくしとるやろ。
そーでもせんといろいろ不都合おきるさかいにな?」
ええっ!
てことはあたしの世界で二年前ってことじゃないの!?
ん?
それで前に会った時は10才相当の肉体年齢?
いま、どう見ても二十歳前後でしょ?
あ、そ、そうか、この人も普通の人間じゃないのか・・・。
「そ、そもそも、うりぃちゃんて・・・何者なの?
に・・・にんげん?」
口に出してから、しまったと思った。
ちょっと失礼過ぎたかもしれない。
「あー、うちもよーわからん、
それより、そろそろ、世界が元に戻ろうとしとるな、
この辺でさいならさせてもらうわぁ?」
良かった、どうやらそれは気にしてないらしい。
「そ、そうなんだ、
なんにせよ、どうもありがとう・・・!」
「かまへん、かまへん、
それよりお知らせや、
麻衣はんには、ラスボス倒してエンディングまでいったら、
ボーナスあるらしいからな、楽しみにしとってや!」
「ボ、ボーナス!?
って・・・じゃあ、やっぱりあたしたちをこの世界に送ったのって・・・」
途端に慌てふためき始めるうりぃちゃん。
「あああ、話はここまでや!
なんでも麻衣はんのは選択式になるってことや!
元の世界に戻っても役に立つ『大きなつづら』か、
元の世界に戻っても何の役にも立たない『小さなつづら』か、
どっちか選べっちゅうこっちゃ、
ちなみに何が入っとるか、うちは知らんでぇ!!
そしたらな! さいなーらぁ~♪」
「あ! ちょ、待っ・・・!」
「ほれ、いぬぅ、
行くで・・・お? あれ?」
帰ろうとする筈の、うりぃちゃんたちも様子がおかしい?
そう思った瞬間、
うりぃちゃんたちのカラダが歪んだ。
まるで飴細工のように、ぐにゃあって・・・。
「お? おおおおっ?」
えっ!?
だいじょぶ?
なにかとんでもないことが?
口から声を出そうとする間もなく、
うりぃちゃんたちのカラダが浮き上がっていく・・・。
「お、おい、ちょ、こ、これ、まさか・・・。」
あ、あ、あ、そのまま、うりぃちゃんたちが出てきたお空の割れ目に向かって、
吸い込まれるように・・・
「ちょっ、こ、これ、帰りはオートで・・・
い、いや、それはええけどな!?
こ、このパターンって・・・いきなりスピードが・・・あっ!」
バッヒューーーーーーンッ!!
「ま、待ち・・・て、
・・・どぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
次の瞬間、
弾けるように、彼女達は虚空の彼方へと消えていった。
ゆっくり浮いていったと思ったら、あっという間に一気にスピード全開で・・・。
そう、きっとあれは富士急ハイランドのドドンパなみの急加速だ。
二度と乗りたくない。
うーん、助けてもらった身で言うと、
最後のあの扱いはかわいそうだな、とは思う。
ただきっと、この転移やら、あのうち出の小槌やらを用意した人は、彼女達を甘やかすつもりが全くないんだろう。
ご愁傷さまです。
あたしは小さく手を合わせる。
「安らかに眠ってください・・・。」
(殺すなぁ!!)
それにしても・・・
(スルーかい!!)
最後は舌切り雀のエピソードか。
なんかいろんな民話が混じってよくわからない。
なにかそういったテーマを選んでいるのだろうか。
さっきのうりぃちゃんにしても、
その正体が、瓜子姫なのか、かぐや姫なのか、
それか桃太郎なのかもよくわからない。
(姐さん、もうあの女の子には聞こえてませんよ?)
(うう・・・、もう、出番終わりなんか・・・。)
(あれ? うりぃちゃん、そんな出たかったんですか?)
(あ? 誰や思うたらナレーションはんか・・・。
い、いや、そういうことでなくな?
単に読者に忘れ去られてしまうのがさみしいちゅうかな?)
(気持ちはわかりますが、あんまりしつこいと月に還ってお仕置きされますよ?)
(あーあー! うちが悪かったけぇ、お仕置きは堪忍やっ!!)
(本気でそろそろこの辺にしといたほうがいいですよ?
この後、急展開するかもしれませんから。)
(ううう、そしたらまたな・・・?)
・・・なんだろう?
頭の隅っこで誰か騒いでるような気がしたけど気のせいだろう。
気にしないことにする。
おっと、
・・・何事もなかったかのように、いつの間にかお空が修復されていた。
うん、何の変哲もないただの上空。
強いてあげれば、宮殿の天井と床や壁がボロボロになっているだけ。
ここで大規模な戦闘があったことは誰の目にも一目瞭然だけど、
死者も怪我人も・・・まぁ、怪我人はタバサさんが全快させたわけで・・・。
マルゴット女王の首にしがみついていた妖精も、ようやく恐怖から解放されたみたいだ。
自分より強い相手は本能で分かるのかもしれない。
まぁ、悪魔にしてもあの3匹の使い魔にしても規格外だったからね。
無理ないだろう。
・・・けど、
今・・・たった今・・・
今の冗談みたいな戦闘すら、誰もが忘れてしまうほど衝撃的な出来事が次に起きた。
たった今だ。
「グハァッ!!」
えっ!?
誰もがその悲鳴が上がることを予想できなかっただろう。
警戒はしていたと思う。
先の戦闘で、生き残った敵がまだ一人健在だったから。
でも・・・でもどうして「彼」が断末魔の声をあげたのか!?
誰もがこの展開を理解できなかった。
悪魔たちを召喚した執事魔族シグ・・・
彼の胸から鋼鉄の槍が飛び出していたのである・・・。
「・・・ヨル・・・おじょう、様ぁ・・・。」