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第二百七十七話 ぼっち妖魔は世界を壊す

麻衣

「あたしが壊したんじゃないっ!!」


あたしはそのままのポーズで固まってる。

他の人たちも何が起きるか理解できなくて身動き一つしない。

・・・悪魔たちもだ。



彼らはあたしの虚術や言動に、一時の興味を持ったろう、

そしてあたしの挑発的な言動に激怒したかもしれない。

だから、次の瞬間に彼らはあたしをめがけて攻撃を行う筈だ。


あとは・・・どちらが早いか。


悪魔の攻撃が先か・・・




この世界に・・・何かがやってくるのかが先か・・・!





 「小娘ー、

 何をーしようとしたー?」

ずしん、ずしんと牡牛悪魔がまた近づいてくる。

あたしに抵抗する手段は何もない。


え?

虚術のゼロ・グラビティなら?

・・・うん、あれなら回避できると思うよ。

でもね、さっきのうち出の小槌でMP使い切っちゃったの・・・。

発動自体はできると思うけど、

すぐに無重力状態は解除されるだろう。



悪魔の爛々とした瞳はあたしをしっかりと見下ろしている・・・。


ケイジさんはまだあたしの前にいてくれるけど、

もはやケイジさんも立っているので精一杯だ。

次の攻撃は耐えられないだろう。


 「あ・・・あ・・・」


牡牛悪魔は鳥のような片脚を持ち上げた・・・。

ケイジさんごとあたしを踏みつぶすつもりか、

それともその巨大な脚であたし達を蹴り飛ばすのか。

どちらにしても、その攻撃にあたし達が耐えられるとは思えない。

もはやプロテクションシールドなどとうに解けている。


あたしの視界が牡牛悪魔の脚でいっぱいになる。

踏みつぶされるのか。

もはやあたしの足も動かない。


ここまで、か



その時、



 ズズン


震えた。

地面?

地震?

いや、ちょっと違う。

揺れたのは地面というより・・・


牡牛悪魔がいきなり脚を引っ込めた。

彼にもわかったのだろう、

今の異常な揺れに。


そう、あたしは牡牛悪魔の脚を見上げていたのだけど、

その脚が視界から消えた先・・・破壊された天井のさらに上に視線を送った。


肉眼では何も見えない。

でも今の異常な揺れの起点はそこだ。

他の悪魔どもも、今の異常な揺れの原因が上空にあると理解している。



 ビキッ!


え!?

お空に・・・ヒビが入った!?

なに、その現象!?


ズズン、ズズン・・・!

ビキキキッ!!


揺れている・・・!

地震じゃない!!

この世界そのものが揺れている!!

上空のヒビは・・・というか亀裂は更に激しく上下左右に走っていく!


ま、まさかあそこから!?

てっきりいつもの召喚術のように、足元に魔方陣が描かれるのかと思ったのだけど全く違う!!


こ、これはどんな例えをしたらいいんだ?

空が割れるなんて、常識では絶対に理解できない現象!!

まるで真っ白な画用紙がいきなり真ん中から破れていくような?


 ドン! ド、ドドン!!


あ、あれ? ち、違う!

今の何!?

さっきまでの世界が歪むかのような音とはまた違う!!

何か巨大な生き物の足踏みのような・・・!

でも、それは不規則で・・・まともに歩行すらできないような何か!?


 ウォォォォォォォォン・・・!



今度はなに?

狼の遠吠え・・・!?


何か恐ろしい獣が近づいているのか・・・

けど、違う!?

次にあたしが聞いたのは、

もっと正体不明の甲高い鳴き声だ・・・!


 ケィィエエエエェェエエエアァアアッ!!


なんなのっ!?

まるで聞いたこともないような奇妙な高い波長の音波のような!?


あたしは何をやらかしてしまったんだ!?

異世界から禁忌の生物を呼び出す!?

異世界って?

あたし達の元の世界の事じゃない!?


そ、そりゃ、そうだよね?

落ち着いて考えれば当たり前なのだ。

あたしの元の世界に、今、あたし達の目の前にいる化物に立ち向かえる生き物なんか存在しない。

もしかしたら、ヒグマやホッキョクグマなら相手になるかもしれないけど・・・。

でも彼らには魔法も知能もない時点で、彼らの牙や爪も悪魔には届かないだろう。


では・・・今この世界に、無理やり這い出てこようとしているものは・・・何!?



 「な!?

 なんじゃ!?

 何が起ころうとしているのじゃ!?」


マルゴット女王でさえも理解できない。

ていうか、この状況で言葉を発せられるだけ凄いと思う。

カラドックさんもケイジさんも、ようやく回復し終わったリィナさんさえも、上空で起きようとしている異常な現象に、口を開けて見守ることしかできないのだ。


女王の首元の妖精だけは後ろを向いて震えているだけだけど。



パリィン・・・!


お空が割れた。

まるでガラスが割れたかのように。


うわ・・・

なんだ、あれ?

な・・・何か毛むくじゃらの、

気味の悪い腕のようなものがその穴から飛び出ている・・・!


あれは・・・次元の裂け目なのだろうか。

あたしの遠隔透視をもってしても、あの向こうの世界がどんなになっているのか、視透す事が出来ない。


・・・これは笛の音だろうか?

何処からともなく、何かの旋律のようなものが聞こえてきた・・・。

・・・遠い昔・・・遥かな過去に聞いたことがあるようなメロディ?

後は・・・琵琶のような・・・弦楽器の音も?


 『・・・ケ  ・・・テ・・・ケ・・・』


そのメロディに混じって、何か女性のような不気味な声も聞こえる!?

いや、そもそも声なのだろうか?

これも何かの鳴き声のようなものが人の声に聞こえるだけ・・・とか?


 「く、黒髪の少女よ!

 いったい、き、君は何を召喚したのだっ!?」


執事姿の魔族の人があたしに向かって叫ぶ。

でもごめんなさい、

あたしだってわからないのだ。


あたしがその質問をスルーして上空を見上げていると、

ついに


 パキィイイン!


という破滅的な音と共にお空は砕け散り・・・





そこから赤黒い何かが降って来たのだ!!


宮殿全体が揺れる・・・!

それは目の前の悪魔たちに劣らない、3メートルはあるかという・・・


あまりにもおどろおどろしい化け物だった!


毛むくじゃらの肉の塊!!

最初はクマかと思った!

それだけの体格だった!!

でも違う。

それは有り得ないほど巨大な体格を持った・・・猿!!


え・・・さ、猿!?


ちょっと待って!!

さ、猿と言っていいのかな・・・

そ、それ以前に、カラダのあちこちが腐り落ちている!!

脇腹はろっ骨が露出し、

顔面は筋繊維も剥き出しで、片目はその眼窩から眼球が零れ落ちそうになっている!!

でもカラダのどこからも出血はしていない?


まさかゾンビ!?

そこには、不死の怪物があたしたちの目の前に降り立っていたのである!!


・・・あっと・・・驚くべきところはそこではなかったのだけど・・・



 ズダダンッ!!


あたし達の驚きなどどうでもいいのだろう、

なんと、その巨大なゾンビ猿の前に、

さらに「お前には任せておけぬ」とでもいうかのように、

一匹の、・・・やはり巨大な白い狼が降りたっ・・・


え?

狼!?

じゃない・・・!


最初は「まさか神獣フェンリル!?」

と叫びたかった。

それほどの巨体と神々しいまでの白い体毛・・・!

でも・・・頭部のそれは狼の顔じゃなかった・・・。


和犬・・・。


北海道犬だか、柴犬だかわからないけど、完全な和風の犬がそこにいた!!


で・・・でも、驚くべきとこはそこでもなくて・・・


 ブワサササッ!!


って、あっ、

ゾンビ猿が右腕を掲げると、

その腕に、更に炎で包まれたような金色の鳥が降りてきたっ!!

尾羽が凄く長く豪華だ・・・


ま、まさか火の鳥・・・いや、フェニックスだろうか!?

その鳥はゾンビ猿の右腕にとまると、翼を拡げて「クェェエエエエエエエエエエッ!!」

っと一鳴きしたのだ・・・。


あれ、でも、・・・

あの姿・・・フェニックスっていうより・・・

やっぱり日本の・・・国鳥・・・雉さん!?


い、いや、だから驚くポイントはそこじゃないんだってば!!


一番、おかしいのは・・・

最初に降り立ったゾンビ猿の左肩に・・・左肩に・・・

あ、あ、あ、有り得ない!

有り得ない!!

有り得なさすぎる!!


前髪ぱっつんで揃えた姫カットの・・・ど派手なヘチマ柄の着物を着た二十歳くらいの女の子が・・・

な、何故か眩しい太ももを露出させて、

ニタニタ笑顔を浮かべていたのである!!

そんな丈の短い着物なんて有り得ないでしょ!?

足元はぽっくり草履っていうんだっけ?

でもあれ・・・足袋じゃなくてニータイツで合わせてる?



 「やっと・・・」


しゃ・・・

喋った!?

しかも日本語!?



 「やっと出番が来たでぇぇぇっ!!

 おんどれらぁ!

 うりぃ・めりー!!

 出陣やぁああああああああっ!!」



世界「観」が壊れた。


 

テーマソング


栗コーダーカルテット

「帝国のテーマ」



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