第二百七十四話 ぼっち妖魔は実況役じゃない
<視点 麻衣>
みなさん、こんにちわ・・・って挨拶する余裕なんかありませんっ!
ヤバいです!
危険です!
大ピンチです!!
あたしの危険察知スキルなんて意味ありません。
いきなり悪魔がこの世界に呼び出されるわけなので、それを認識するのはあたしを含めてみんなと同時。
そうなると、あたしはただの足手纏いと化してしまう。
そして、肝心の悪魔であるが、
最初に呼び出されたのは、金ぴかの皮膚でいわゆる西洋絵画の天使みたいな翼を広げた剣士。
ベリアルって言ったっけ。
名前くらいはどこかで聞いたことあるけど、
ホントに悪魔!?
確かにとんでもない化物だ。
あたしの鑑定も弾かれている。
その存在感も強さも・・・あの吸血鬼エドガーを上回るに違いない!!
・・・それでも・・・
本当に「悪魔」なのだろうか?
いやいや、そもそも「悪魔」の定義って何!?
あたしが前から認識している「悪魔」と、
いま、あたし達の目の前にいる「悪魔」とは同一の存在なのだろうか?
その事は無視できないくらいムチャクチャ気になる話なんだけど、
一触即発のこの状況・・・
そんな事を考えている余裕もないのも事実・・・
って・・・なんかまた奥の方でとんでもない魔力がああああああっ!!
こっちに来るうううううううううっ!!
「なっ、なに、この魔力っ!?
あ、み、皆さん、伏せてくださいっ!!」
そしてそいつらは天井を突き破って降りてきた。
また悪魔だよ・・・。
しかも三体も増えているよ・・・。
豹に・・・翼の生えた牡牛顔に・・・
あれま!
ふくろう!?
ふくちゃんの同族じゃないよね!?
あ・・・しっかり悪魔だと自己紹介されてしまった・・・。
残念ながら敵のようだ・・・。
かなりヤバい。
敵が悪魔一体だけだったら・・・
今のメンバーでなんとか勝てたかもしれない。
あたしのこれまでの対魔物戦歴をご存知の皆様なら・・・
だいたい、敵は一体だけだったのもご存知だろう。
すねちゃんやふくちゃんの召喚術だって、格下相手ならともかく、
複数の強力な魔物に対して効果的な戦力とも言いづらい。
じゃあ虚術なら?
たしかに虚術ならそのエリア一帯にしかけられるし、
魔法耐性のある悪魔にも有効だろう。
でも、虚術はエリア一帯対象の術だけに、味方のみんなにも影響が出てしまう。
いや、うまく使いこなせばどうにかなるだろうか?
パッとアイデアが思い浮かばない。
前にご披露したように、敵を無重力にしておいて、お空に打ち上げる戦法は有りかもしれないけど、
ここにいいる悪魔の皆さんはそれぞれ素早そうだ。
動きが鈍重のバジリスクとは訳が違う。
近付くだけでも命の危険があるのだ。
ていうか、悪魔のうち三体は翼持ちだから、そもそもが無理な話か。
うん、ここは賢王と呼ばれるカラドックさんに全ての采配を任そう!
任せてしまいましょう!!
まずはアガサさんの・・・うわあああああああああっ!?
多属性連続無詠唱魔法連発ぅぅぅっ!!
す、凄いって・・・言いたいけどダメだ。
ほとんど効いていない・・・!
一応、マルゴット女王が言う通り、少しはダメージになっている。
でもあれじゃあ焼け石に水。
なにかこう・・・悪魔の体表を覆っている何かが魔法そのものを分解しているかのようだ。
なら・・・悪魔の体内にまで魔法を通せば効果を与えられるのではないだろうか?
なら・・・
あ、リィナさんとケイジさんが、まさしくそのお話を・・・
「いえ、ケイジさん!!
リィナさんの天叢雲剣は有効です!!
でも、リィナさん、遠距離攻撃はダメです!!
悪魔の体内に雷撃を直接ぶち込んでください!!
それならダメージを与えられます!!」
ちょうどリィナさんが動こうとして、ケイジさんがそれを押しとどめた所だ。
でも使い方を間違えてはいけない。
たぶん、遠距離からの雷撃はガードされるだろう。
それではダメだ。
まずは悪魔の防御を突き破らねばならない。
あ、もともとリィナさんは天叢雲剣の使い方をまだ完全に把握してなかったっけ?
まあ、いいや。
それで、リィナさんの為の攻撃手段を考えようと思っていたら、
カラドックさんとケイジさんとで話がサクサク進んでいく。
おおお、やっぱり賢王の称号は伊達じゃない、
ここは思いっきり頼りまくろう。
と・・・言ってる間にカラドックさんのファイアーウォール!!
そう、あの人、精霊術士のイメージ強すぎるけど、高位の魔術士でもあるんだよね?
続いて、魔力を身体能力に変換できるヨルさんと、
天叢雲剣を発動させたリィナさんが特攻!!
うん、ファイアーウォール越しだろうとあたしの遠隔透視で視えるよ!!
攻撃は通じる!!
豹の悪魔や牡牛の悪魔に、リィナさん達の攻撃はなんとか届く!
でも・・・まだ悪魔たちには戦意は視えないんだよね。
あたし達を舐めているのか、未だ余裕がある。
・・・あ!
奥にいるベリアルが剣を構えた!?
何かするつもり!?
あたしが大声を出す前に、ベリアルはその剣を振り払った!
間に立っている他の三体の悪魔には目もくれず、
その衝撃波でカラドックさんのファイヤーウォールは吹き飛ばされた!
あたしたちにも衝撃の余波が来たけど、アガサさんのエアスクリーンが防いでくれたようだ。
こっちの戦法が破られたかのように見えるけど、カラドックさんは更なる策があるみたい。
わっ!?
今度はアガサさんのメイルシュトローム!?
水属性最大魔法なんて初めて見た!!
一見、水属性って攻撃力皆無に見えるんだけど、
高い魔力を持ってる人が使うと、抵抗不能、問答無用の凶悪呪文となるらしい。
狭い室内でそれを使えば、受け身も取れずに壁に叩きつけられるわ、
そのまま魔法を維持し続けられるなら、敵を窒息死にすら追い込める事が出来るという。
えぐい。
・・・相手が普通の敵ならばだけど。
やっぱり悪魔には効かない。
せいぜい、その場から押し流されないよう、脚を踏み固めて・・・
いや、この戦術はあたしも知ってる筈だ!
カタンダ村のオックスダンジョンで、
魔法剣士のベルナさんが風術のトルネードで・・・
うわぁ!
ここでヨルさん、リィナさん、ケイジさんの三連続攻撃!!
ジェットストリームアt・・・いやむしろ3人無双三段かしらっ!?
まずはフクロウさんっ!!
・・・なんかふくちゃんが攻撃されたみたいであたしとしては複雑なんだけど、
あれは高ダメージだ!
そして、次は牡牛さんの・・・あれ?
メイルシュトロームでびしょ濡れだったはずの身体に何か金属の皮膚のような!?
あれっ!?
ヨルさん達の攻撃が弾かれたっ!?
え?
錬金術!?
何それ!?
と思ったら、フクロウ悪魔の傷が全快してるよっ!!
こっちは回復術だっ!
これはヤバい、
・・・悪魔にはみんな特殊能力があるようだ・・・。
そればかりか・・・
う・・・
なんだ、この感じ・・・。
あたしの心が何かどす黒い嫌なもので包み込まれようとしている・・・。
それがどうしたあっ!
断固拒否!!
妖魔リーリトにこんな精神攻撃なんか・・・
あ!?
他のみんなは!?
いけない!
戦闘経験の浅いイゾルテさんやベディベールさんはもろに影響を受けてしまっている!!
鑑定したらステータスに「恐怖」が浮かんでいるよ!
えっと確かステータス異常を回復できるのは・・・
「タバサさん!
浄化呪文を!! 精神攻撃です!!」
すぐにタバサさんがディスペルをかけてくれた。
危ないところだった。
状態異常の「恐怖」は一定の確率で行動が阻害されてしまうという。
連携が取れないだけならまだしも、敵の攻撃を無防備で受けてしまう危険もあるのだ。
回復役の人がいるとホント安心だね。
ううむ、
どうやら今のは悪魔のパッシブスキルのようだ。
意図的な攻撃ではないだけに、強力な攻撃には見えないけど、そういった搦め手もあるのか、
これはかなり分が悪い気がしてきた。
フクロウ悪魔以外の三体は、間違いなく武闘派だろうし、それならそれなりの隙もありそうだけど、
それだけじゃないのなら・・・
あたしが思考するのを待ってくれるはずもない、
次の瞬間、豹の悪魔が動いた。
動いたと言ってもあたしにその動きすら見えなかった。
「来る」と思った時には、ケイジさん達が吹っ飛ばされていた。
速すぎる。
声をかける暇さえなかった。
そればかりか・・・
また一番奥にいる悪魔が
ああああああああああああっ!?
また衝撃だけが飛んできた!!
直前に動きはわかったけど避ける暇さえない。
ていうか、衝撃波ってどうやって避ければいいのか?
痛みそのものはそんなでもないけど、
ショックで思うように体が動かない。
精神攻撃なら少しは耐えられるけど、肉体への物理的攻撃にはあたしは無力だ。
「カ、カラドックさん?」
なんとか見上げると、
一人カラドックさんだけが立ち尽くしていた。
さっきの衝撃波に耐えたのか、それとも悪魔がカラドックさんだけを見逃したのかはわからない。
そう言えば、カラドックさんは生かして連れてくるように言われてたっけ。
・・・ん?
それってカラドックさんが転移者・・・
つまりクィーンと同じ世界の人間だから興味を持たれたってわけで・・・
あれ?
だったら、あたしももしかしたら見逃してもらえるとか?
あ、でもあたしはまだ魔族の人に、異世界転移者だと、知られてないものね・・・。
あ、いえ、今は・・・そんなことより
この空間の魔力が湧き立つ・・・。
カラドックさんの精霊術!!
これは・・・カラドックさん得意の氷の術で悪魔たちを一気に氷漬けにする気だ!!
さっきのメイルシュトロームの狙いはこれか!!
これなら・・・
あ、だ・・・ダメだ!!
これすら悪魔たちには届かない!!
周りのみんなもそろそろ状況を理解できただろう・・・。
あたしたちは多分、この世界でも屈指の魔力持ちを揃えてこの戦闘に臨んだ。
ところが、今、敵に召喚されている悪魔たちにはほとんど魔法は効かない。
それが精霊術であっても。
物理攻撃ならどうにかダメージを与えられるけども、
敵の戦闘力はそれすらを上回る・・・。
では・・・あたしの奥の手はどうか・・・!?
立ち上がることは出来なくても・・・この距離なら届く!!
「この子に七つのお祝いを!!」
狙いは牡牛の悪魔だ!!
視点が麻衣ちゃんになったからと言って、
彼女が活躍するとは限りません。
さて・・・間もなくです。
今回はそんなに引っ張りませんので。