第二百七十三話 万事休す
オレとリィナ、ヨルの三人による連携攻撃だ!
「ヨルッ!
まずはあのフクロウの悪魔からだ!!」
急ごしらえの連携なんかじゃない。
ここに辿り着くまでに、オレたちはいくつかの連携手段、戦術を話し合ってきた。
空いた時間を見つけては何度も練習している。
奴らにはこの三人連携攻撃を味わってもらおう!!
まずはヨルの槍が敵の防御を「払う!!」
隙が生まれた直後にリィナの天叢雲剣が「斬り裂く!!」
その僅かな傷めがけて、オレの剣で深々と「突き刺す!!」
最後におまけでイゾルテの光の矢を打ち込めば大ダメージになる筈だ!
オレたちの足を止められないならそのまま二体目に飛び掛かる算段だ。
これなら悪魔と言えども・・・
「ふっくっくっ・・・来るがよい、
人間どもの攻撃など・・・うわぁ!
やられたーっ!?」
む!
やったか!?
あっけなく攻撃できたぞっ!
水でずぶ濡れのフクロウ悪魔ストラスは、その胸から大量の血を噴き出した!
ならば次だ!
牡牛の姿をした悪魔にヨルの槍が・・・
ガチィン!!
「はぁぁぁっ!?」
なんだ、今の金属音は!?
続いてリィナの天叢雲剣も・・・ガチン!!
「えええええっ!?」
・・・え?
そしてオレ・・・いや、リィナの天叢雲剣で傷一つない!?
オレの渾身の突きも同様・・・
何かの金属・・・いや、鎧にでもブチ当てたような手応え・・・。
二体目の悪魔には何のダメージもない。
せいぜいオレの突きで多少、のけぞってはいたみたいだが、ただそれだけで・・・
いかん!
なら敵の反撃が・・・
「戻れ!!」
案の定、牡牛の悪魔ザガンとやらの巨大な鈎爪がオレらを薙ぎ払おうと振るわれた!
なんとか紙一重で回避は成功!
ちなみにこいつの手足は牡牛のそれではなく、鷲か何か猛禽類の形に近い。
背中から生えている翼とあわせているのだろうか?
それにしてもどういうことだ?
できれば豹の姿をしたオセとやらまで攻撃したかったが、
取りあえず、最初のフクロウ悪魔だけでも攻撃できただけ良しとするか・・・。
ん?
フクロウ悪魔の・・・ダメージは・・・
「ふっくっくっく、
考えるものよの・・・。
されど、わしには何の効き目もなかったようじゃの・・・。
無駄骨、無駄骨・・・。」
なんだと・・・。
牡牛悪魔のザガンはともかく、フクロウ悪魔のストラスまでノーダメージだって言うのか・・・。
だが、確かにあの手ごたえは・・・?
「ケイジ!
あのフクロウ、回復術の使い手!!」
タバサが見極めてくれたようだ。
だが、しかし、悪魔も回復術を使えるのか!?
さらにマルゴット女王が追加の情報を与えてくれる。
「そしてケイジよ、
・・・あの牡牛はカラダにかぶった水を金属のように変換しておったぞ?
あれは・・・よもや錬金術か!?」
錬金術だって!?
クソッ、
やつらにも特殊能力があるって言うのかっ!
ところが驚く事態はそれだけに留まらない。
「イゾルテ様っ!?」
なんだ?
今のはニムエさんの叫び声か、
だがイゾルテがどうした!?
そういえばイゾルテの矢がいつまでも届かないと思っていたが・・・
そこでオレは一瞬だけ振り返って、異様な光景を目撃する・・・。
イゾルテがその場で座り込んでしまい、ガタガタと震えているではないか・・・。
いや、彼女だけじゃない、
ベディベールも護衛騎士ブレモアも辛うじて立ってはいるが、
膝に力が入らないようで震えている・・・。
いったい・・・!?
「タバサさん!
浄化呪文を!! 精神攻撃です!!」
麻衣さんが大声をあげた。
なんだと!?
「・・・く、そんな小技まで・・・ディスペル!!」
すぐにタバサが状態異常回復呪文を唱えるも、カラダはすぐに回復しないのか足元をふらつかせている。
「ふっくっくっくっく、
我らは意識せずとも、常時デモノフォビアを発し続けておる。
戦闘経験の多いものや、精神耐性があるものはともかく、
この程度で動けなくなるとはの?
家に帰るべきだったのではないのかの?」
フクロウが得意げな顔してご高説を垂れる。
デモノフォビア?
なんだ、それは?
周囲に恐怖を与えるスキルなのだろうか?
くそっ、
まだまだ奥の手でもありそうだな・・・。
「・・・そして・・・。」
豹の悪魔がオレの視界から消えt・・・グハッ!!
「「「ケイジッ!!」」」
オレは宮殿の壁に叩きつけられたっ!
辛うじて悪魔の爪を剣で受け止めることは成功、
だが、
・・・く、い、息がっ!
オ、オレだけじゃない、
今ので・・・リィナも、ヨルも、吹き飛ばされている。
あっちは蹴りをくらったようだ。
腹を押さえて立ち上がれる様子ではない。
タバサのシールドごと吹き飛ばされている。
あの、オセとかいう豹の姿の悪魔一人に攻撃されたのか・・・。
「弱すぎる・・・。
しょせん、ここまでか・・・。」
よ、弱すぎる・・・だと?
ここまで、差があるのかよ・・・悪魔とやらに。
そしてオレの目は、身体が動かせないにも関わらず、
奴らの・・・その背後にいるベリアルとかいう悪魔が何かするのを目撃した・・・。
「「「「うわああああああっ!?」」」」
まただ!
あいつが剣を振るう仕草で衝撃波がオレたちの所に飛んでくる!!
それまで無事だった女王やタバサにアガサも吹き飛ばされていた!!
ニムエさんや麻衣さんも・・・。
無事なのはカラドックただ一人・・・。
「カ、カラドック・・・!」
カラドックはオレに一度視線を合わせた・・・。
「ケイジ、大丈夫だ・・・まだ誰も死んでない!」
そ、それはそうだが・・・どうする?
オレだってまだ戦える、
立ち上がれる。
だが、現状でどんどん手札を失いつつある。
いや、カラドック、まだお前は・・・
「ああ! ケイジ!
まだ精霊術は健在だ!!
先ほどのアガサのメイルシュトロームの本当の目的は!!」
カラドックはムーンストーンのはまった聖なる杖を眼前に掲げた。
あ・・・ああ、そうか、
辺り一面、水浸しなら・・・あいつの精霊術が・・・
悪魔ベリアルが辺りを見回す・・・。
「む?
大気の精霊どもが囁きおる・・・。
・・・これは氷の精霊術か・・・。」
やっちまえ、カラドック・・・!
オレたちにはまだエアスクリーンの保護がある。
お前の精霊術で悪魔どもを凍らしてしまえ!!
周りの空気が急激に気温低下!!
視界の中にもキラキラと氷の分子が舞っているのだろう・・・!
「風雪の聖檻!!」
問題があるとすれば、悪魔が行動不能になるまでにどれだけの時間を要するか・・・。
たとえ一体でも凍りつかせる事が出来ればそれを突破口に・・・
「くだらん。」
なにぃっ!?
カラドックの目が驚愕で見開かれる。
「あ・・・ば、バカな・・・
精霊たちが・・・吹き飛ばされた・・・!?」
オレの鷹の目ですら視えるものではない。
だが、明らかに悪魔どもは周りの何かを弾き飛ばした。
カラドックには視えたのだろうか、
自分の術が消滅させられたのを・・・。
フクロウ悪魔、ストラスが得意げに翼を広げる・・・。
「ふっくっく、
これで・・・お前らの手札は全て・・・消え失せたのかの?」
次回、麻衣ちゃんに視点変更。