第二百七十話 悪魔召喚
オレらのお出迎えは、予想通り魔族執事シグだった。
「前回は世話になったな・・・。」
「おお、これはケイジ様、
正直、驚きましたよ、
あなた様とリィナ様があの状況で助かるとは・・・。
なるほど、メンバーが大幅に増えておりますな、
あの後、ナイスなタイミングで助けが来られたのでしょうか?
いずれにしても私も詰めが甘かったようです。
これは反省せねばなりません。」
「結局は、お前を倒さないとクィーンには会えないらしいな?」
あちらもオレたちが話し合いに来たなどと、呑気な想定はしてなかったわけだな。
まぁ、オレらが逆の立場でもそう考えるだろう。
「・・・ふっ、やはり議論にもなりませんか。
あの方に忠誠を誓えば、不老不死に近づけるというのに?」
「他の人間の魂を、犠牲にしてまで生き永らえようなんてヤツはここにはいねーよ、
オレらが戦わないという選択をするのは、魔人クィーンがその行為をやめる保証を得た時だけだ。
それができないなら・・・覚悟を決めてもらうしかない!」
「仕方ありませんな、
しかし人数は増えたようですが、武器を持っているのはそこの新顔の騎士殿だけのようですな?
皆様、術士の方々ですかな?
多勢とは言え、高速で戦闘できる私と戦うには相性が悪いのでは?」
「心配無用だ。
武器ならある。」
オレの言葉の後に、護衛騎士のブレモアが前に出る。
ブレモアを戦わせるわけじゃない。
一瞬、魔族シグの前に壁を作りたかっただけだ。
そしてブレモアの背中の陰で、ニコっと笑う麻衣さん。
・・・ホントに細かいところで役に立つよな、この子。
オレは愛用の剣、リィナは天叢雲剣、ヨルは長槍・・・
それぞれ得意の武器を麻衣さんの巾着型アイテムボックスから引き抜いた!
「・・・今のは・・・ほぉ?
アイテムボックス持ちがいらっしゃったのですね?
これは一本取られました。
・・・では仕方ありませんね・・・。
また戦う事になるとは・・・。」
「それどうする?
ここはお前のホームグラウンドだろ?
またあの悪魔とやらを召喚するつもりか?
この宮殿を破壊するつもりならやってみるんだな?」
大仰にやれやれポーズを取る魔族シグ。
ラプラスと競演させてみたいところではあるが、
それは叶わぬ願いとなりそうだな。
こいつとは、ここでケリをつけてやるんだからな。
「ハッハッハ、無茶を言わないでください、
さすがにそんなマネは出来ませんよ、
なに? 適材適所というではないですか?
別の悪魔を呼べばいいだけです。」
おいおい!
他にも契約してる悪魔がいるのかよ!?
シグと再戦するケースの予想はあったが、
別の悪魔も呼べるとは思わなかった。
だが、どんな強力な悪魔を呼び出そうとも、
この宮殿を壊したくないなら、ど派手な攻撃力を持った悪魔は使えない筈。
ならば・・・オレたちのごり押しで・・・。
「悪魔・・・召喚っ!」
うおっ!?
今回、シグは初っ端から悪魔を呼び出すのかっ!?
前回同様、両手を翳したシグの足元に巨大な魔方陣が浮かび上がる!!
その煌めきは妖しいまでに彩りが移り変わる虹色の光!!
「地獄侯爵ベリアルッ!!」
また大層な呼び名だなっ!
オレは振り返って、カラドックの知識を頼る。
「カラドック!
お前の知っている悪魔かっ!?」
「いや! 私自身そんなに詳しいってわけじゃないんだ!!
だが、確かベリアルってのは悪魔の中でもかなりの高位の筈!!」
仕方ない。
オレは首を戻し、眼前の新たな敵の姿を注視する。
魔族シグの前方の空間に歪みが発生!!
そこに人型の大きな影が揺らめく!!
いや・・・あの形は何だ!?
まるで翼を広げた巨人のような・・・
そのうち悪魔は完全に姿を現した!!
確かベリアルと呼んでいたな、
金色の鎧・・・いや、あれは皮膚なのか?
カラダにぴっちりと張り付いた鱗のような金属片が光を反射する・・・。
背中からの二枚の翼が拡げられ、頭には二本の角が伸びている・・・。
なんというか・・・西洋絵画の天使とオーガと、騎士の姿を3で割ったような・・・。
前回の鰐と老人のキメラであるアガレスと同様、
呼び出されたばかりの悪魔は辺りを見回し、まずは魔族シグを振り返った。
「・・・我を呼んだは貴様か・・・。」
「我が主、クィーンから、ベリアル殿を使役する権利を借り受けました。
願いはそこの者達の殲滅です・・・。
おっと、一人口ひげを生やしている男はクィーンが興味を持たれています。
その人間の命だけは殺さぬように・・・。」
「フン・・・、いいように我を使いおって・・・。
まぁ、良い、その望み叶えよう・・・。」
む?
カラドックのことか?
どうやらカラドックが異世界出身との情報が行ったようだな。
なら、カラドックに強力な攻撃が向かう事はないだろう。
そこへオレの後ろで二人の美しいエルフがポーズを決める。
「前回の屈辱を晴らす時・・・プロテクションシールド!!」
「今回の先手はこちらの番・・・ホーリーレイ!!」
おいおい、まだ戦闘開始の号令はかけちゃいねーぞって、
確かに手を拱いてる状況じゃないな、
悪魔を呼び出した時点で戦闘は不可避!
そして前回、魔法を封じられていたエルフの二人が機先を制す!!
悪魔の能力がわからないが、ホーリーレイなら避けることも出来・・・な!?
アガサから発せられた光の束が悪魔ベリアルの黄金の皮膚に直撃する!!
生物には多大な麻痺効果をも与える術だが・・・
なんだ?
き・・・効いてない!?
「・・・光系呪文か・・・、
確かに我ら悪魔に効果はあるが・・・
残念だな、
我らは魔法そのものに耐性を持っている・・・。
その程度ではどうにもならんな・・・。」
「ば・・・バカな!?
私のホーリーレィが!?」
なんだと!?
魔法に耐性を持っているだと!?
アガサはウチの攻撃をメインで担当するダークエルフだ。
彼女の攻撃が通らないなら・・・
つまり・・・オレとリィナでしか戦えないということか!?
いきなり戦術の幅がかなり絞られてしまう!!
だが・・・
本当の絶望はこの先にあったのだ・・・。
麻衣さんが天井を見上げて叫び声をあげた!!
「な、なに、この魔力!?
あっ、み、皆さん、伏せてください!!」
何事かと思う間もなく、
突然、凄まじい衝撃と大音響が響き渡った!!
全員、体を固め身を守るも、エントランスの天井部分が一瞬で崩れ去り、
何か大きな塊が、ズドンズドンと突き破って来たのだ!!
そこから外部の光が降り注ぐ・・・。
そしてその光の真下には・・・
ダメだ、見えない。
大量の瓦礫と共に、建材の一部であろう粉塵のせいで視界が遮られる。
天井の崩壊そのものでオレたちにケガはない。
タバサのプロテクションシールドのおかげだろう。
だが、前方に何かいる。
麻衣さんのような透視や察知術など必要ない。
新手だ・・・
しかも、さっき呼び出された悪魔ベリアルに比べても遜色のない、圧倒的な存在感・・・
もちろん、時間と共に、ゆっくりと視界が腫れていく。
「向こう」も「対象」であるオレたちの姿を視認する必要があったのだろう、
奴らはのんびりとした動きで、オレたちの姿を見つけたようだ。
足を踏み出すごとに、この宮殿全体が揺れる。
おいおい、マジか・・・よ。
異形の怪物が、更に三体も・・・
ちょっと待ってくれよ・・・
こ、こいつらの相手をしろって?
先程呼ばれたベリアルを含め、合計四体の悪魔!
それに悪魔を呼び出したからには魔力は減少しているだろうが、
未だその身体能力は健在なはずの魔族シグも控えている。
どんだけ無理ゲーだっての!
・・・ていうか、
結局、宮殿壊してるじゃねーかよ!!
次回、戦闘開始!