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第二十七話 ぼっち妖魔はダンジョンにトライする

<視点 麻衣>


 「よく眠れたかい?」


食堂で宿屋のおばさんが声をかけてくれた。

・・・とても貫禄ある人だ、

おもに体積的な意味で。


 「あ、はい、ぐっすりでした。

 ありがとうございます。」

 「オックスダンジョンに行くんだって?

 あそこは低階層はたいした魔物はいないけど、油断するとグサっとやられるからね。

 無理すんじゃないよ?」

 「はい、気を付けます。

 ありがとうございます!」


初心者用のダンジョン・・・

ゲームの話だったらどんなものか想像つくけど、一応、異世界。

どんな設定なのかは全くわからない。

とりあえず目標は五体満足で戻ること、

そして今日一日分の生活費を稼ぐことだ。

宿泊代、飲食費、そして服を買う。

特に下着ですよ、下着。

それとローブみたいなアウターも欲しい。

制服姿は目立つことこの上ない。

朝食をとったら早めに出かけよう。


この時間の食堂では、他の冒険者はほとんど見かけなかった。

みんな時間にルーズらしい。


メニューはハムエッグにパン、サラダ、デザートに葡萄がでた。

紅茶はセルフサービス。

うん、美味しい。


クラスメイトから聞いた話だと、異世界ものの食事は中身が悲惨らしく、主人公が元の世界の知識を駆使して美味しい食材を広めて成り上がるパターンもあるそうだ。

しかし残念ながらあたしにそんな知識はない。

つまり美味しい食事が用意されてて良かったという話である。


 「一応、チェックアウト扱いいたしますけど、お部屋はキープしておきますからね、

 怪我しないで帰ってきてくださいね!」


看板娘のローラちゃんが嬉しい声をかけてくれた。

やっぱりこの宿にして正解だった。

金銭的なことは抜きにして、高そうなホテルは至れり尽くせり(比較的)なんだろうけど、あたしの目線とあわないだろうからなぁ。

ローラちゃんにはお礼を言って手を振りながらあたしは宿をでた。


さぁ、いくぞ、ダンジョン!!



村の外れまで来ました。

門があるけど、ここを抜けると村の外に出るというわけではない。

この門の先にあるのは地下へ続くダンジョンの入り口。

中に入れるのは冒険者登録した者のみ。

ここにも三交代制の門番がいる。

門番はギルドの職員さんがするのかと思ったら、必ずしもそうではないらしい。

門番さんは、無資格者が中に入らないかの監視と、もちろん、中の魔物が地上に這い上がってこないかどうかも注意せねばならない。

それと入り口では松明をくれるようだ。

入り口に常時、かがり火が焚かれており、そこで松明に点火することも可能。

ただし、ダンジョン内では火の管理は各自で行うように。


この場所の名はオックスダンジョン。

このダンジョンを発見した人の名がオックスさんだとか。

地下五階までは、レベルの低い猛獣や魔物が生息しているらしい。


マップも全て公開されており、隠し扉、階段の場所、罠の位置なども既に明らかになっている。

冒険者ギルドやダンジョン入り口でマップを買うことも出来るけど、今回は常連メンバーが案内してくれるので不要とのこと。

何から何までお世話になります。


冒険者ギルドで防寒用の上着、登山用みたいな巨大なリュック、初心者探検セット(日帰り用)をレンタルできた。

もちろん有料。

今回潜ったダンジョンからの戦利品の報奨金から差し引かれます。

それでもありがたい。


メンバーはエステファンさん直々に引率。

ヒマなのかな。

後で聞いたけど、この辺りだとそんなに大きい事件はないらしい。

そんな大きな村じゃないしね。


そしてギルドで裏方・雑用を行っているというケーニッヒさん。

目が細い。

ナイフ使いだそうですが、魔物の解体、罠解除などもできるそうです。 


それと女性の冒険者ベルナさん。

胸元に綺麗な宝石の付いたアクセサリーを垂らしている。

もしかしてエメラルド?

この村の生まれで普段はフリーで活動しているそうです。

なんと魔法剣士!!

一人で何でもできる分、器用貧乏だそうで、冒険者ランクはDランクがやっとだとのこと。

仲間次第ではあるだろうが、パーティーを組めばCランクにも手が届くはずだとエステハンさんは評価している。

ベルナさん本人はランクには興味ないそうだけど。



それでは突入するようだ。

ダンジョン入り口でエステハンさんが振り返る。


 「よし、では今回の行程の確認だ。

 目的はお嬢ちゃんの召喚士・巫女としてのスキルの確認、

 彼女は攻撃スキルがないため、戦闘は俺たちで引き受ける。

 エリアは地下五階を限度とする。

 地下五階にはフロアボスがいるが、今回は無視してフロアボス遭遇手前で引き返す。

 お嬢ちゃんは松明を持ってフロアを照らしてくれ。

 護身用にナイフぐらい持ってた方がいいと思うんだが・・・。」


 「あ、今回はホーンラビットの角を使います・・・。」


刃をむき出しにしておくのも怖いし、鞘にしまっておくのも、いざ戦闘で引っ張り出すのもぎこちない動きになりそうで心配なんだよね。


 「それはいいんだけどさ・・・。」

さっきっからベルナさんが何か言いたげだったんだけど、ようやくその心中を明らかにする。


 「麻衣ちゃんて名前だったよね?

 まーちゃんて呼んでいい・・・?

 最初っから違和感あったんで今のうちに聞いておきたいんだけどさ、

 あー、なんかすっごい落ち着いてない?

 戦闘に慣れてるんであれば、まだわかるんだけど、ダンジョン初めてなんだよね?

 脅えも緊張もしてるように見えないのよね。

 かといって危険を軽視してるようでもないし、

 うーん、なんて言ったらいいかぁ・・・。」


すっごくフレンドリーな呼び方をしてくれるベルナさんの装備は独特だ。

魔法使いが着るようなローブ姿なのだけど、肩から下の袖がない。

剣を振り回しやすいようにアレンジしているようだ。

それと通常、魔法使いは杖に魔力増強効果を持たせるのだけど、剣士でもあるので、杖の代わりに胸元の宝石で魔力を底上げしているという。

細身で切れ長の目元が特徴の美人さんだ。

あっと、今はその話でなく。


 「えーっと、それは多分あたしのスキルのせいかと・・・。

 今現在、それほどの危険を感知してないんですよ。

 もちろん、一人で入るんなら大変なことになるのは承知してますが、このメンバー揃って入るんなら問題ないかと。

 ・・・生意気そうに聞こえたらごめんなさい。」


そりゃそうだよね、

初心者のあたしが余裕綽々でダンジョン潜るって言いだしたら、熟練の人たちは気分悪くするに違いない。

でも今回は、あたしのスキルを調べるために付き合ってくれるという話なんだから、むやみに脅えたり不安を見せる必要はどこにもない。


そしてエステハンさんの疑問も当然次に出て来るであろう。

 「ダンジョンに入る前からわかるのか?」


 「もちろん、ダンジョンの中に入ってからの方が精度が増します。

 でも、ここからでもある程度は。

 それと当然、油断するつもりはありません。

 怖いのはダンジョン内にあたしでも見通せない隠匿結界があった場合ですかね?」


といっても初心者ダンジョンの初心者エリアだってとこに、そんなものがあるとは思えないけどね。


ケーニッヒさんは見た感じ、どこにでもいるようなおじさん。

うん、やっぱり目が細い。

冒険者としては引退して裏方に回ってる。

体力的にはピークを過ぎているとは言え、冒険者としての経験値は高いそうだ。

 「・・・初心者には見えん落ち着きじゃの?

 本当に一昨日魔物と戦ったのが初めてなのかの?」


老人みたいな喋り方だけどギリ三十代だそうです。

腰もしっかりしてます。


 「すいません、本当に直接戦うのは無理です・・・。」


直接、戦うのはね。

まぁでも、確かに腕力ゼロのあたしが積極的にダンジョンに繰り出すってのはおかしいよね。

自分でもそう思う。

女の子としては守ってくれる人を探すのがセオリーなんだろうけど、これでも妖魔リーリト。

誰かに保護されて生き延びるなんて生態は存在しないのですよ。

戦ってスキルポイントが増えて、スキル入手して生存確率が上昇するならやりますよ。


エステハンさんは凶悪な笑みを浮かべる。

あああ、この人の笑顔が一番怖い。


 「よし、では早速入ろう。

 ベルナは後衛についてくれ。

 まずは地上一階層からだ。」


なんだろうね、

遺跡・・・古墳に入るような感じ・・・。

天井は三メートル以上あるかないか、壁はここでも土壁、

といっても人工のものでなく天然なんだろうけど。

爪でガリガリやると削れそうだ。


・・・しないよ?


一階層はかなり人の手が入ってるらしく、要所要所にたいまつが用意されている。

自分たちで火をつけてもいいし、暗闇を進むのも自由というわけだ。


・・・といってもここには殆ど何もない。

広いは広い。

奥まってる部分には独立した部屋のようなものもあるし、水が湧いてるエリアもある。

・・・まぁこんな入り口に近い場所に水があったところで利用する価値も低いだろうに。



通常の肉眼で見通せない部分はかなりあるけども・・・。


あたしの遠隔透視の前には無意味だ。

広範囲に能力を使用するせいで、あたしの瞳は妖魔のそれに変化しているかもしれない。

能力を多用したり、精度を高めようとするとどうしてもカラダが妖魔側に引き摺られる。

まぁ、この暗がりなら、瞳の色の変化は他の人にわからないでしょう。


 「このフロアに魔物はいないみたいですよ?

 ネズミかコウモリぐらいだと思います。」


三人とも驚いたようだ。

 「お嬢ちゃん、それは感知スキルで把握できるのか!?」

 「一瞬で全部わかるわけじゃありませんけどね。」


今まで出会ってきたホーンラビット、はぐれウルフ、スライム・・・

それらと動物には明確な違いがある。

口では表現しづらいけど、魔物独特の雰囲気というかオーラというか、

魔石由来のものなのかな?


最初の道を歩いていると大きな広間のようなスペースに出た。

この先幾つか枝分かれしている道がある。


 「さて、この先の道だが・・・。」

エステハンさんが後ろのあたしを振り返った。

このフロアの説明をしてくれるようだけど、あたしの言葉はエステハンさんの説明を遮るものだった。


 「下に降りる階段の場所を見つけました。

 どうします?

 寄り道せずに下に向かいますか?」


あたしはすでに遠隔透視で階段とそこに向かう道筋を見つけていた。


全員、信じられないというようにあたしを凝視してきた。

なんか恥ずかしくなってきたよ。

 

 「マジか・・・。

 それが本当ならダンジョン攻略があっという間に簡略化できるぞ!?

 ちなみに罠や宝箱なんかも発見できるか?」


うっ、それは・・・。


 「ごめんなさい、それは無理っぽいです。

 罠は危険察知スキルで発見できると思いますけどあくまで直前でしょうね。

 遠隔透視では区別できないと思います。

 宝箱は・・・部屋の中にポンと置いてあるんなら時間かければ或いは?」


 「それだけでも凄いな、

 よし、今回は最短で下のフロアに行こう。」


というわけで、地上一階層侵入後、十分足らずで地下階層への下り階段の位置までやってきた。

道順はあたしが指示した。

遠隔透視スキルが本物であることを示すためだ。


 「あ」

そこであたしの気配察知に引っかかるものが。


 「どうした、お嬢ちゃん?」

 「ネズミが近づいてきます。戦いますか?」

あたしはネズミがやってくる方角に松明を掲げる。


 「・・・いや、攻撃する必要ないが・・・

 そのまま松明を照らしてくれ。」


しばらくすると、ネズミっぽい何かがあたし達を避けるように部屋の隅を抜けていった。


・・・え、でかくない?

50センチくらいあったよ?

さすがにホーンラビットよりは小さいけどあれに襲い掛かられても怖い気がする。

 

エステハンさんが解説してくれました。

 「魔物と違って動物は勝ち目がなければ人間を襲わないしな、

 戦うっていうか攻撃してもいいんだが、経験値も大して取得できないし、死体も食料になるでもないし、あまり旨みがないんだ。」


ふむふむ。

 「野犬とか猪とかは危なくないですか?」

 「そうだな、通常の動物でも危険なものもいるから、一応探知できたら教えてくると助かる。」

 「わかりました。」


結局、このフロアには危険がないとして、地下一階に降りて行く。

下に降りる階段は急な角度で、しかも重装備の大人一人がやっとで通り抜けられるスペースしかない。

もちろん取っ手なんかないから、壁や天井部分を手で支えるように下っていった。


次回、パーティーでの初バトル!

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