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第二百六十六話 アスラ王の悲劇 その2

ぶっくま、ありがとうございます。


カラドックとマルゴット女王の話は続く。


カラドックも喋りづらそうだな。

しかしオレは、自分の正体が惠介だとバレてはならない為に、カラドックをフォローすることも出来ない。


 「アスラ王が再び行動を起こしたのは、

 私たちの世界に大破局が起きる予兆を掴んでからです。

 人類・世界全体に危機が及ぶその時こそ、自分の力や、天使である父の力が必要になると考えたようです。」


 「なるほど、さもありなん、

 それだけの力を得て、世界の危機を迎えるのなら、世界のために立ち上がるのは当然の話よな。」


誰でもそこまでの話を聞けば道理に沿った話だと思えるよな。


けれど、人の解釈は様々だ。

人類の危機を利用して、アスラ王は世界の支配を企んでいたとか、

まさしく、悪の権化のように話を広めることは幾らでもできる。

事実、オレはそう教えられていた。



 「・・・そうなんでしょうけどね、

 あいにく、父の目的は人類社会の復興ではなかった・・・。

 以前も申しましたが、父は地上の魔を監視するために天使として舞い降りた・・・。

 ですから、父は頑なにアスラ王の差し伸べた手を握ろうとはしなかったのです。」


 「・・・それは・・・。」

 「理不尽だとお思いですか?

 無理もありません。

 ですが・・・ずっと敵として認識していた相手から協力を求めたいと言われて、

 その手を素直に握り返せるものではないでしょう。

 少なくとも天使である父はそう考えたのです。

 ・・・そして私たちの国やその同盟国では、アスラ王は世界を恐怖で支配しようとする、倒すべき独裁者と見做されていたのですよ。」


 「なるほど・・・。」


 「ここで不幸な事件が起きます。」

カラドックはあの話をするつもりか。


 「なに?」


 「アスラ王には先ほど述べたように二人の子供がいました。

 朱武と梨香という兄妹です。

 もともとアスラ王には魔に連なる・・・あ、いえ、悪い意味ではありません、

 その血統に類稀な英雄の力というのか、それが流れていて、その息子、朱武にもその血が流れていました。

 朱武は人間だったころの私の父と仲間になり、数々の偉業を打ち建てていましたが・・・。

 父の人間としての死をきっかけに・・・

 その後、復活した父とは疎遠となりました・・・。

 まさしく父は人が変わってしまったのだから無理もない・・・。

 そして不幸というのは・・・

 アスラ王と朱武の関係を・・・誰も知らなかったことから事件は始まるのです。」


オレもあの話をすべて聞いた時には、何も言えなかった。

オレがアスラ王の立場だったなら、いったいどんな行動を取るのが正解だったのか。

陽向さんや梨香おばさんの悲しそうな、・・・辛そうな表情を前に、オレは口を閉じていることしか出来なかったのだ。



 「アスラ王は大破局の前から、大勢の家臣を作り上げていました。

 後に強大な軍事国家スーサを支えた有能な者達です。

 彼らの一部は、

 アスラ王の目的を果たすために、父を勧誘したり、

 もう一人の英雄、朱武をも甘い言葉で自分たちの仲間に加わるように計画を練っていたのです。

 それに対して・・・アスラ王は、その行為を止めさせる理由を部下に示せなかった・・・。

 結果、アスラ王の部下は卑劣な方法をもって、朱武を自分たちの配下に加えようとしてしまったのです。」


 「なにを仕出かしたのじゃ?」


 「朱武の子供たちを誘拐しました。

 しかも自分たちは手を汚さず・・・よりにもよって朱武を武術家として慕う彼の弟子にその役をやらせたのです。」


 「何だってそのようなマネを!?」


 「巧みにその弟子の心を操ったようですね・・・。

 もともと朱武が育った家は孤児や親に捨てられた者達をあつめていたそうです。

 その弟子は朱武に憧れ・・・自分に兄がいたらこんな人だったんだろうなと思い入れがあったそうで・・・

 武人としても、いつか朱武に追いつき追い越してみせると周りにも豪語していたとか。

 ですがすでに多くの戦いや殺し合いに身を投じていた朱武には、

 もはや道場レベルの弟子など相手するにも無駄なことと考えていて・・・

 さらにその弟子には、一人の見目麗しい女性を近づけて巧みに彼の心を煽ったんだそうです。

 そう、朱武と戦うためには手段を選ぶなと・・・。

 そして大破局の後に英雄と呼ばれるのは貴方になるだろうと。」


ああ、そんな女がいたな。

確かミュラの母親なんだよな。

オレは名前しか知らないが、

李那が一度、会っている筈だ、その女に。


 「ここで重要なのは、

 その弟子は、父・斐山優一や朱武の偉業にはなんの関りもなく、

 悪く言えば、生きようが死んでしまおうが、アスラ王側には何の痛痒も感じない存在だったということです。」


 「ふむ、それが?」


 「アスラ王の側近は最初からその弟子を悪者にして、口封じに殺すつもりだったということですよ。

 自作自演と言えば分かりますか?

 つまり子供たちを誘拐され、激怒した朱武に救いの手を差し出すアスラ王、

 誘拐犯を殺してでも子供達を救い出せれば、朱武に恩を売れるし、彼を取り込めると画策したんでしょうね。」


 「・・・聞いていて気持ちのいい話ではないの。

 アスラ王はそれを認めたのか?」


 「・・・さすがに詳細は私にも・・・。

 ただ、ここで誤算が二つあったようです。

 一つは、朱武がアスラ王の息子である事・・・そしてもう一つ。」


 「もう一つとは?」


 「その裏切り者とされた弟子のことです。」


何度聞いても嫌な話だ。

どうしてもオレの身の上と重なってしまう。

話の中身はオレの時と全く違うというのに。


 「さっきも述べましたが、その朱武が育った家は孤児が集まるような家だった。

 その弟子も例外ではない。

 ではその弟子は何処から来たのかというと、

 その国の山奥で母一人の手で育てられたという事でしたが、

 流行り病にかかって、その母親も失ってしまう。」


ほらな。

正直、胸が痛む・・・。

オレは目を瞑って聞いていたのをカラドックも気づいてしまったようだ。


 「あ、ケ、ケイジ・・・わ、悪い、無神経だったかな。」

 「・・・いや、大丈夫だ。

 続けてくれ。」


 「ゴホン、

 母親は病に臥せりながら、子供に言ったそうです。

 あなたにはお兄さんがどこかにいるから、いつか会える日を楽しみにしてと・・・。」


マルゴット女王の血相が変わる。

 「ちょっと待つのじゃ!

 それはどこかで聞いた話になりはしまいか!?」

 

苦笑いを浮かべるカラドック。

 「・・・かもしれません、

 が、結論を言うと、これは母親の嘘だったと言われています。

 子供を天涯孤独にしたくなかったのでしょう。

 ただ、全くのデタラメかというとそうでもない。」


 「ほう、というのは・・・?」


 「その昔、この母親が子供を産むずっと前・・・

 その地にある冒険者が流れてきた・・・。

 戦いに破れ、仲間を失い・・・武器すら失って瀕死の状態で見つかったそうです。

 その母親が必死の看護を行って・・・無事にその冒険者は体を回復させて旅立っていったのですが・・・。」


 

 「それなら・・・その冒険者が・・・?」


 「真実は誰にもわかりません。

 ただ、後にその冒険者が語ったところによると、

 その時、命を助けてもらった恩は忘れない・・・

 必ず何らかの形で彼女に恩返しをしたいと・・・。」


 「・・・その話の流れは・・・まさか。」


 「アスラ王は計画が始動した後に、哀れな捨て駒になる弟子の出自を調べたそうです。

 そうしたら・・・その弟子の生まれは・・・

 自分がかつて命を助けられた、さる女性が住んでいた森の中の・・・」


 「ま・・・待つのじゃ待つのじゃっ!!

 なんじゃ、その展開はっ!!」


 「アスラ王は、それだけの話を聞いてすぐに現場へ飛びました。

 側近たちの計画では、朱武と弟子が決闘する前にアスラ王が介入する筈でしたが、

 ここでも何らかの手違いがあったのか、

 アスラ王が到着する前に、二人は殺し合いを始めてしまいました。

 アスラは側近をも置き去りにして、単身にて現場に辿り着きます。

 自分の息子が、かつての恩人の子供を殺す事にならないように・・・。


 そして・・・そちらの目的は無事に・・・果たしました。

 すんでのところで弟子の命は助かったのです。

 ・・・ですがその代償に、

 自分の息子に・・・自らの正体を知られてしまったのです・・・。」



 

次回、語られない物語


天使シリスこと斐山優一が主人公となる世界のお話です。


・・・バラしていいのか、良かったのか・・・。

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