第二百六十五話 アスラ王の悲劇
ぶっくま、ありがとうございます!
「!?」
「クィーンがメイドの技能を直接教えたって!?」
「はい・・・?
左様ですが・・・そんなに意外なことでしょうか?」
メナというメイド魔族が、ガチに不思議そうな顔をする。
いや・・・確かにそんな驚くことじゃないのか?
「魔族のイメージじゃないんだよね・・・
偏見と言われればそれまでなんだけど。
もしかしてクィーンは前世でも、貴族か王族だったのかな?」
カラドックの質問はオレも聞いておきたいものではある。
あまり戦闘に役立つ知識ではないだろうが、
彼女の前世がオレやカラドックに関わるものなら、最初に知っておきたい話だ。
「・・・え、と、
どうでしたでしょうか・・・、
ただ、前世では高貴な暮らしをしていたとも、メイドとして働いてたとも仰ってたような・・・?」
「まぁ、それでは私のように貴族でありながら、メイドでもあったという事でしょうか?」
ニムエさんが反応する。
なるほど、それなら違和感は生じないな。
「申し訳ありませんが、私にはそれ以上は・・・。」
まあ、それは仕方ないよな。
続けてカラドックも質問をする。
「ああ、すまなかったね。
では質問ついでに答える事が出来たらでいいんだけど、
メナさんから見てクィーンという方はどんな人かな?」
一瞬、呆れたような表情をするメナ。
「私はクィーン様に仕える身ですよ?
当たり障りのない話しかできませんが・・・?」
「もちろん、それで結構だ。
私たちにとってはあくまで参考までだよ。」
「・・・人を操ることに関しては天才的な方ですね・・・。
もちろん、いい意味でですよ・・・。」
いまの、本当に当たり障りのない話か?
それにしても貴族か、
もしくはそれに関係ある立場だったというのか、クィーンは。
「どうだ、カラドック、
今の話を聞いて、心当たりはあるか?」
「・・・ううむ、
私の国のウィグルにはメイドっていないんだよねぇ・・・。
王族や高官には従者って身分の者が就いているんだけど・・・。」
それはオレも知っている。
「可能性があるとしたら私が生まれたアヴァロンの方か・・・
あ、麻衣さんの方はどうかな?」
「・・・日本に貴族なんていませんよ・・・。
メイドは・・・コスプレしてるような偽物の人たちならいますけど・・・。」
それはオレも知らない。
その時、意外にもリィナがメイドのメナさんに話しかけていた。
「な、なぁ、魔人クィーンて転生者らしいけど、
ホントに、ま、前の世界の記憶って持っているのか?」
「・・・?
記憶はお持ちだそうですよ?
ですが、先程申したように私もそんな詳しく聞いたことは・・・。」
記憶は完全にあるのか。
それよりカラドックは、リィナがそんな質問をしたことが気になるようだ。
いま、丁度同じ話をしていたばかりだものな。
「リィナちゃん、どうしたんだ?」
「い、いや、もし、クィーンがカラドックの世界の人間ならさ、
ま、またあたしの顔を見て、李那とか言われたらどうしようかなって・・・。」
・・・ああ、
でもリィナもそんなこと気にするのか?
クィーンが李那の知り合いだとしても、今の状況でそんな気にするほどだろうか?
まぁ、確かに気にならないってことはないんだろうけど、
リィナに李那の記憶がないんなら、ほっとけばいいと思うんだが・・・。
あ、いや、もしかしてオレのことか?
クィーンとオレが知り合いだったとしたら・・・か?
それを直接、カラドックの前で聞けないから、リィナは自分の名前を出したってことだろうか?
「はぁ・・・。」
おや?
麻衣さんが溜息をついた・・・?
な、なんか一瞬、オレを残念なものでも見るような目つきだったような・・・
き、気のせいだよな?
話を戻そう・・・。
実際、カラドックがクィーンと知り合いだったとしたら、オレも彼女を知っている可能性はかなり高くなる。
とはいえ、今のおれは狼フェイスになっているおかげで、前世の顔とオレの今の顔は似ても似つかない。
いきなり、オレが恵介だとバレることはないだろう。
だがリィナはどうだ?
鼻と耳は兎さんになってはいるが、それ以外のパーツは李那にそっくりだ。
カラドックがリィナの顔を見てすぐに李那を思い出したように、
もしクィーンがオレらの知り合いだったなら・・・。
「そういえば、カラドックよ、
そなたの世界では・・・そのリナとケイスケは、恋人同士だったというたな?」
女王!?
「あー、そうですねぇ・・・
恋人同士というか、幼馴染というか・・・赤ん坊のころから一緒に育ったんですよ。」
ちょ、カラドック!?
「そ、それは血の繋がらない兄妹のように育てられたってことなんですの!?」
イゾルテ?
なんでフンフン、鼻息を荒げているんだ!?
ここで麻衣さんも参戦。
「そもそも恵介さん、でしたっけ?
恵介さんは天使の息子で・・・
李那さんて人は・・・アスラ王の血縁者・・・なんですよね?
カラドックさんの世界では、大陸を真っ二つにして争ってた王たちのそれぞれの家族が、
日本で一つの家で暮らしてたってのが凄い状況ですよね?」
麻衣さん・・・お願いだから口を滑らせないでくれよ・・・。
「確かにそう考えると凄いよね・・・。」
カラドックが遠くを見るように視線をあげる。
そりゃ・・・な。
オレもそう思うさ。
そしてマルゴット女王である。
「リィナ殿はカラドックの世界では魔王の血縁者・・・か。
とはいえ、リィナ殿が異世界よりの転移者か転生者かもはっきりせんという話じゃったか・・・。」
女王も何か気になるのだろうか。
とりあえず会話の進行は、このままカラドックに任せるしかない。
「私としては、リィナちゃんについては、
私の母、マーガレットとマルゴット女王の関係性に近いのではないかと思っているんですけどね・・・。」
「ふむ? それは・・・?」
「根拠は何もないんですけどね、
それこそ、別世界におけるもう一人の自分・・・というべきなのか・・・。」
「それは・・・世界を越えてわたって来たわけではなく・・・。」
「ええ、最初から別々に存在していた・・・のかもしれないと・・・。」
「・・・。」
リィナは黙ってしまった。
それは・・・可能性としてはあり得る話だけど・・・
オレが転生してきてんのに、それはあんまりな話ではないだろうか?
オレとしては、まだリィナに、前世の記憶が戻らないだけ、という展開を期待したい。
これ以上、リィナについては話が進展しそうもないこともあったのかもしれない、
女王は先程の魔王・・・アスラ王についても聞きたかったようだ。
「ふぅむ、カラドックよ、
そなたらの父・・・天使については話を聞いたが・・・
そのもう一人の魔王・・・アスラというたか?
それについては話が半ばだったような気もするのう。
魔王とは言え、そんな悪しき存在という印象は受けなかったが、そもそもどんな男じゃったのか?」
カラドックが苦笑いを浮かべる。
「ああ、すみません、
あの時は説明しやすく言うために魔王と言いましたが、
一度、それは忘れてください。
ただ、ここで待っている時間を使ってそれを話してもいいのですが、少し話は長くなりますよ?
まず、そもそもですが私はアスラ王に会った事は有りません。」
「ほう、それは意外じゃな?」
「アスラ王には李那ちゃんが二度、そして弟の恵介が一度会ったきり・・・。
後は父からの話ですね。
私の話は彼らから聞いた印象でしか語れませんが・・・。」
ああ、思い出したよ・・・。
あの時も・・・・バカだったよな、オレは。
剣だけの勝負ならアスラ王にも勝てるとオレは思い上がっていた。
よく、あれでオレは生き延びたもんだ。
・・・いや、あいつはオレを殺す気なんかなかったんだろうな・・・。
李那と一緒にいたオレを・・・。
カラドックが再び話を始める。
「もともとアスラ王という存在・・・、
私たちにはその正体も出自も最初から不明でした。
わかっていたのは、彼が地上最強とも言える超絶サイキックであること、
・・・こちらの感覚で言うと史上最強の魔法使いとでもいうべきか、
そして同時に向かうところ敵なしの武人でもあったというところでしょうか?」
「なんじゃなんじゃ?
魔法使いにして戦士だということか?
そしてどちらも世界最高峰と!?」
「そうです。
にもかかわらず、誰もその存在を知らなかったと・・・
いえ、恐らく若い頃に歴史の表舞台から一度消えたのでしょうね、
その後はずっと裏の世界で世捨て人のような生活を送っていたそうです。」
「それだけの力を持ちながらか。」
「はい、従って、李那ちゃんやその兄弟との関係は誰も知らなかったのです。
そしてアスラ王がその出自を隠していた理由、
これは・・・父上から聞いた話です。
アスラ王はその強大な力を持つ故、
子供の頃から、大勢の人間に狙われ続けて・・・
本人の自覚がないうちから・・・その父母、
姉・・・友人、そして伴侶を殺され続けていたということでした。」
「なんと・・・。」
オレが聞いても酷い話だと思う。
成人してからならともかく、
子供のうちからそんな目に遭っていたとはな。
「彼の伴侶は私の父と同じ土地出身の女性だったそうです。
駆け落ち同然に当時の村から連れ出し・・・
異国の地で二人の子供を産んだそうですが、
後にアスラ王と名乗るその男が不在の時に、暮らしていた村を襲われて・・・、
その妻は二人の子供を守るように事切れていたと・・・。」
「むごいの・・・。」
こういう場合、女王は我が事のように他人の悲劇を受け入れる。
それが彼女の魅力であり、それでオレも救われた。
いや、今はアスラ王の話を聞く時だな。
・・・そう、オレはアスラ王の過去を聞くたびに彼への印象が変わっていった。
何も知らなければ、ヤツがスーサの国民や部下を恐怖で支配する大王だと、ずっと思い込み続けたままだったろう。
だが、事実は全く異なった。
「そこで彼は二人の子供を知り合いに預けることにしたそうです。
自分という呪われた存在の子供であることを一切伏せ、
二人の子供がそれに巻き込まれないようにと・・・。
それでも時々は二人の前に姿を現し、
全く他人の振りをして武術などを教えていたそうです。」
その話も、もちろんオレは聞いている。
同じく父親に放っておかれた身としては、オレも感情移入している部分はあるが、
アスラ王の行動には、親としての愛情が十分含まれていることはよぉくわかる。
オレの事情とは全く違う。
それでも悲劇が起きた。
ついに、
天使シリス編のネタバレが本格的に。
といっても、
予定では、
アスラ王の悲劇はフラア・ネフティス 編で明らかにする筈ですので、
今回はざっくりとしたお話にさせていただきます。
◯ィナ
「あー、あたし、ここで死んでたんだ・・・。」