第二百六十四話 門番とメイド
<視点 ケイジ>
「なんだって?
普通に正面から訪問するっ!?」
カラドックがとんでもないことを言い始めた。
いくら侵入手段が見つからないからと言って、
敵に万全の体勢で迎えられたらどうするのか?
確かにこっちの戦力も増大しているが、だからと言って魔人側の戦力を無視できるはずがない。
「ああ、大丈夫、
いざとなったらこの宮殿、氷漬けにするから。」
・・・無視できそうだった。
とんでもないな、カラドック。
元の世界でもそんな大技使ってなかったろ。
いや、オレがあの国を離れた後か、
それか、こっちの世界に来てレベルも上がっているのだろうけども。
・・・そういや、マルゴット女王もいるんだしな。
精霊術士が二人いればどうとでもなるか。
あ、ていうか、精霊術って術者を守るだけだろ?
周りのオレらは!?
「だからいざという時さ。」
カラドックがニヤリと悪魔の笑みを浮かべる。
敵に回さなくて本当に良かった。
「では、使者は私が参りましょうか?」
身分的には護衛騎士のブレモアが適任なんだろうけどな。
「いや、あくまでこの集団の要は『蒼い狼』だからね、
そのパーティーメンバーである私が行くよ。」
カラドックも無茶を言うな。
確かにそれが正論なんだろうけど、お前だって元の世界じゃ大陸最大国家の国王なんだから自重しろよ。
何かあったらどうする!?
・・・あ、いや、それこそ今更だな。
それでもやはり、オレにはカラドックに全てを負わせることに抵抗がある。
「待て待て、カラドック、
それならパーティーリーダーのオレが行くべきだろう。」
だがカラドックにしてみれば明確な作戦を既に描いていたのだ。
「いや、悪いがケイジ、
君は魔族のシグに、この宮殿にふさわしくないと言われてしまったろう。
だから、門番への交渉は、私とアガサ、それにタバサで向かう。
あ・・・麻衣さん、一応、後ろでフォローしてもらえるかな?」
ダメだ・・・もうオレに反論する術はない。
出来る事と言えば、敵がカラドックに攻撃をかけようとしたら、この身を盾にすることくらいか。
オレとリィナは、麻衣さんの少し後ろを歩く。
その更に後ろに女王チーム。
殿はブレモアがつき、背後の警戒に当たらせる。
オレは中ほどから正面門を守る二人の門兵に視線を・・・
あ・・・なんだ、あいつら!?
最初は鎧に身を固めたオーガ?
そしてもう一人はリザードマンかと思った。
だが、その見た目も、溢れる闘気も尋常じゃなかった!!
オレの背後でマルゴット女王の魔眼が全てを見抜く。
「あれは・・・妾も初めて見る・・・。
鬼人・・・に竜人じゃの・・・!」
魔人クィーン!
何て奴らを従えている!?
オーガやドラゴンから特殊進化を果たせば、人間並みの知能と技量を得られるという伝説級の種族じゃねーか。
人間並みの技量というが、もちろん、その根底には鬼族や竜族の身体能力があるので、
戦闘でその技術を使ったら、そんじょそこらの冒険者など歯が立たない。
たとえオレでも、ソロで真正面から戦ったら・・・。
だが、カラドックは臆さない。
すでにその門兵らはオレらの存在に気付いたようだ。
二人とも槍を掲げ、威嚇行動を取る。
「止まるぇ、
貴様らは何者どぁ?
来客があることは知らされていなうぃ。」
緑の肌をした竜人が口を開いた。
ギリギリ見えたが口の中の歯は全て牙のようだ。
「私は冒険者パーティー『蒼い狼』のメンバー、カラドックと申します。
魔人クィーンにお目通りを願いたい。」
「会いたいと言ってっ簡単に会える筈もないっ、
立ち去るがよいっ。」
鬼人は元々がオーガ種とは思えないほど冷静な言葉だ。
もっとも、赤茶けた張り裂けんばかりの筋肉でカラダが覆われ、
外見的にはオーガの特徴が残っている。
「ああ、先日、魔族のシグという方に、
私や後ろのエルフたちは十分、この黄金宮殿を訪れる資格があると言われたばかりなんだけど、彼の言葉にはそこまでの信用はなかったのかな?」
なるほど、カラドックはあの魔族を利用しようと言うのか。
あいつには煮え湯を飲まされたからな、
その意趣返しも兼ねているのか。
「ほう?
シグ殿がそんな事うぉ・・・。
確かにそなたらにはそれだけの力があるようどぁ。」
「だがシグ殿はっ、あくまでもナビゲーターッ、
この黄金宮殿に迎え入れるか否かはっ、クィーン様がご判断為されることっ。」
「ふむ、ということは、
私たちが訪れたことを、クィーンに報告してもらえるということでいいのかな?」
おお、さすがカラドック、誘導がうまいうまい!
「・・・よかるぉ。
この門から、宮殿正面までの道の間に客人を迎え入れる部屋があるぅ。
そこでしばし待たれるがようぃ。」
「だがっ、クィーン様に報告する前にっ、そなたらの目的を聞かせてもらおうっ。」
「では有難く待たせてもらおう。
それで・・・私達の目的かい?
異世界からやって来た者同士、親交を温めるってのはどうかな?
魔人クィーンのこの世界での活動について、交渉事もあるのだけど、
まずはその話からでもと思ってね。」
「なんとぅぉ!
異世界の出身でござったくぁ。
確かカラドック殿と申したくぁ?」
「ああ、そう伝えて欲しい。
精霊術士だともね。」
「承ったっ。
では我らが迎賓室まで案内しようっ。
茶やフルーツドリンクッ、数多くの酒も置いているっ。
クィーン様のお許しが出るまでっ、くつろがれるがよいっ。」
こうしてオレたちは正面門を通された。
もっとも、その先の針山のふもとまではまで30メートル程の距離がある。
ドラゴンでも暴れられそうなこの道の両脇には、
いくつかの通路や石で出来た建物があり、
その内の一つが、迎賓室となっているようだ。
宮殿本体と同様、迎賓室は無骨な石の館だが・・・
中は凄いな!
ふかふかの絨毯に、黒檀のテーブル、
総革張りの椅子やら、グラスも凄いぞ!
それこそ、グリフィス公国の外国の貴族を迎える部屋と比べても遜色がない!
カラドックやマルゴット女王も感嘆の声を漏らしている。
・・・麻衣さんが「ふわああ」と口を開けて部屋の空気に飲まれているのが癒される・・・。
あと、ヨルもか。
「凄いですよぉぉぉぉ!
このグラス一個、かっぱらってもバレませんですよねぇぇぇぇぇっ!?」
物騒なこと言うのやめろ。
だからお前はこのパーティーで癒し担当になれないんだ。
扉が開いて、一人のメイドが現れた。
逃げるな、ヨル。
かえって怪しまれるだろが。
年齢不詳のメイドは頭にターバンのようなものを巻いている。
中身は角か、
魔族のメイドのようだな。
「皆様、いらっしゃいませ、
この部屋にお客様方が逗留する間、
お世話をさせていただきます。」
一瞬、ヨルが反応したが、
知り合いでもなんでもないらしい。
恐らくマドランドとは別の街の人間・・・いや魔族だろうとのことだった。
戦闘になる可能性が高いこの状況で、アルコールを頼む事は勿論あり得ないが、
オレたちはそれぞれドリンクを振る舞ってもらう。
ここは毒を盛られるか警戒すべきだってか?
もちろん、その考えくらいは頭に浮かぶ。
リィナも視線をオレに送って警戒を促した。
ただまぁ、ここには鑑定持ちが数人いるし、何より女王の魔眼は絶対だ。
さらに言うなら、もう大体、魔人クィーンの性格もわかってきたろう。
かなり楽天家のようだ。
いや、それなりに策略は巡らすのかもしれないが、ターゲット以外には興味を示さない。
そこを付け入れるのであれば・・・。
「あたしはマドランドのヨルと言いますですよぉぉ?
あなたはどの街の出身ですかぁぁぁ?」
相変わらず、ヨルはコミュ力だけは高い。
相手が同族だというのもあるのだろうが。
「・・・マドランド・・・、
ではシグ様の・・・。
私はビュッテバウアの街のメナと申します。」
「ビュッテバウア・・・
ああ、マドランドより更に北にある街でしたかねぇぇぇ?」
そういえばメイドのニムエさんは同業の魔族メイドの動きに興味津々のようだ。
オレの視線に気づくと恥ずかしそうに微笑んだ。
「申し訳ありません。
魔族の方々の文化にメイドの概念があるのが意外で・・・。」
なるほど、確かにな。
いろいろな種族を集めるくらいなら、
ヒューマンの文化も取り入れているのだろうか。
ところがこの魔族メイドは、オレたちの世話をしながらとんでもないことを言いやがった。
「メイドという職業と技能については、クィーン様直々に教わりました。」