第二百六十三話 ただいま正面門前
ぶっくま、ありがとうございます!
カラドック達はこっそり侵入するつもりでしたが無理でしたというお話です。
<視点 カラドック>
「ラプラスさんはこの場所に残るって言うのかい?
たった一人で?」
私たちは黄金宮殿の手前で空飛ぶ馬車から降りた。
ここから先は徒歩で乗り込むことになる。
上空から、肉眼でも見えるバルコニーのような場所に突入する案もあったのだけど、
宮殿の造りが脆かった場合、タバサのプロテクションシールドごと岩山に潰される危険性があった為に見送られた。
また、魔人クィーンが完全に敵となるか確定もしないうちに強硬策を取ることは、やはり好戦的過ぎると言っていいだろう。
かといって、ドラゴン、魔族、或いは能力の高い人族を集めていると言うならば、
正面切って戦いに及ぶのも下策と言える。
ここは、かつて恵介や父たちと、敵国スーサに対してそうしたように、
警備陣の隙を突いて侵入する方向で行こう。
・・・その気になればね、
ここにはマルゴット女王もいる。
私の精霊術と二人掛かりで宮殿全てを氷の世界に閉じ込めることも可能だったかもしれない。
しかし敵の能力は未知数のまま・・・。
加えて一つの懸念があった。
それは魔人クィーンが転生者であるということ。
私と同時にこの世界に飛ばされた麻衣さんのことを思い出して欲しい。
魔人クィーンが私や・・・或いは麻衣さんと何らかの因縁がある可能性を考えると、
どうしても問答無用で攻撃を行う事に躊躇いが生じていたのである。
そんな話を含め、突入前の最後の打ち合わせを行っているうちに、
ラプラスさんの立ち位置についても最後の確認を行っていた。
「申し訳ありません、
私は戦闘には一切、干渉するつもりはありません。
その代わり、皆様が戦いに勝つにしろ、撤退を選ぶにしろ、
ここに戻られましたなら、アークレイの街までは間違いなく、お連れ致しますよ。」
「それまで一人でここに残ると?
危険ではないのかい?」
「・・・少なくとも黄金宮殿の周りには野生の魔物は残っておりますまい。
後は警戒すべきは・・・宮殿の警備兵なのでしょうが・・・、
もともと、この地は前人未到の荒れ地に過ぎません。
ただの偶然で外部の者が辿り着く事など不可能な死の地なのです。
従って、宮殿からかなりの距離を置いたこの辺りならば、
わざわざ、宮殿を離れて警戒に来る者などいないでしょう。」
そういうことなら・・・
まぁ、いざとなればラプラスさんは飛行スキルでどこにでも逃げられるしね・・・。
ここでケイジが疑問を口にする。
「だが、カラドック、
一口に潜入といってもどうするんだ?
見た感じ、あの宮殿は天険の地形を利用して、
それこそロッククライミングでもできる奴じゃないと内部に入るのは難しそうだぞ?
入り口はいくつかあるようだが、
当然のように門兵がいる。」
なるほど、
針山のように尖った岩山の麓には、
石造りの見事な構えの巨大な門がある。
もっとも・・・確かにケイジの言うように門兵そのものはいるのだが・・・
その兵の数がやけに少ないのが気になるな。
まぁ、話に聞く限り・・・またイメージだけでも大勢の兵や人口がいるわけでもなさそうだ。
けれど・・・
ケイジの質問に答える前に、麻衣さんが驚愕の追加情報をくれた。
「・・・奥にドラゴンさん、いますよ・・・。」
「麻衣さん!? 遠隔透視を!?
透視スキルを使ったら相手に感知されるかもって・・・危険はないのかい!?」
確か彼女は以前、そう言ってた。
不用意にそのスキルを使うと、相手から精神的な反撃を受けた場合、自分の精神を守る術がないのだとか。
「あ・・・それは大丈夫です。
今のは周辺を探っただけですので・・・。
危険なのは特定の個人に意識を向けた場合の話です。
それでも怖いので、長時間このスキルを使いたくはないですけど・・・。」
それでも助かるな・・・。
それにしてもやはりドラゴンもいるのか。
ただ通常種なら、このメンバーでどうにでもなるだろう、
ドラゴンだけならば。
今やここは魔人の本拠地なのだ。
それ以外にも恐るべき能力を持ったものが大勢いると思うべきなのだ。
それでも私は何とかなると思っていた。
このメンバーなら。
「ケイジ、いまの質問だが、
私は麻衣さんの虚術を当てにしている。
地上から侵入するのはさすがに無理筋だろうが・・・
無重力状態で空中から宮殿に入るのを誰が止められるだろうかね?」
「なるほど、さすがカラドックだな、
麻衣さんに頼ってばっかりだが、今の作戦で問題なさそうかい?
麻衣さんのMPとかも含めて。」
麻衣さんが答える前に、私もこの作戦の詳細を伝えておく。
「といっても、無重力が体を動かすのに不安定な状態だとは私も理解している。
まずは体幹に優れたケイジかリィナちゃんに先陣を切ってもらって、
ロープで後続のみんなをガイドさせる方向で考えているのだけど・・・。」
私の話を聞き終わった麻衣さんは、侵入経路でも探るべく岩山を見上げる。
「・・・ああ、無重力ならあの辺まで登るのに時間はかからなそうですね・・・、
たぶん、あたしのMPなら問題ないと思いますよ?」
ふむ、なら後はロープの準備と・・・念のために登山に使うようなピッケルを用意すべきだろうか。
そう考えていた時・・・麻衣さんが大声をあげた。
「あっ、ま、待ってください!
こ、これは・・・結界!?」
「結界だって?」
この宮殿を守る防御結界だろうか?
一瞬、そんな想像が頭に浮かんだが、
私はこの世界の理をまだ何も知らなかった・・・。
それは麻衣さんも一緒だったのだろう、
なにしろ私も麻衣さんも、この世界に来てからの経験が少なすぎるのだ。
それでも、やはり私たちにとって麻衣さんの能力は、
何にもまして代えがたい代物だっと言える。
「な・・・こ、こんな結界もあるんだ・・・!?
あたしの知ってる隠匿結界なんかじゃない・・・!
何かから中の物を守るものでも、フィールドに特殊効果をかけるものでもない・・・!
ただ単純に・・・結界の境をくぐった者を感知するだけのスキル・・・
でも、それを・・・こんな巨大なものを・・・!」
「麻衣さん、それは!?
数々の察知スキルを持ってる麻衣さんをして驚くようなものなのかい!?」
「あ、当たり前ですよ!
あたしのスキルなんて、自分の周辺・・・
それに基本的には自分に悪意や害意を持つ者に反応するもので・・・
極端な話、あたしの背後で雀が飛んでってもあたしは気づかない・・・
てかスキルの原理自体が違うと思います!
あたしにはそもそも、自分の外部に察知系の結界を作るスキルなんて持っていませんし!」
「・・・ていう事は何か?
この宮殿に張られてる結界ってのは、
一定のエリアを越えると術者に感知されちまうって結界なのか!?」
ケイジの疑問はこのスキルの核心に近いものだったのだろう。
麻衣さんはゆっくりと首を縦に振る・・・。
「恐らくは・・・
そして何らかの術で結界そのものを消すことは可能かもしれませんが・・・
結界を消失させたことは当然、術者にも知れ渡ることでしょう。
・・・つまりあたしたちが誰にも知られずに内部に侵入することは不可能です・・・!」
「今回に限って言えば、確かにオレたちにとって不利な結界のようだが・・・
麻衣さんがそんなに驚くような結界なのか、これは?」
そこでマルゴット女王も私たちの論議に参加する。
「・・・そうか、ケイジの母君は結界師だったの・・・。
確かかなりの高位な術を使いこなしていたと聞いておったが・・・。」
「いや、オレも子供だったし、おふくろのスキルがどんなものだったか、殆ど覚えちゃいないんだが・・・そんな珍しいスキルなのかなと思って・・・。」
「す、すいません、あたしもそんなに詳しいってわけじゃないんですけど、
現実的に考えて、たとえそんなスキルを持っていたとしても、普通は使いこなせないんですよ、そんなスキル!」
「どうしてだ?」
「考えてもみてください、
例えば自分の住んでる家の360度周辺10メートルに同じ結界を張れたとします。
その結界内部には公道も含みます!
そんなところを・・・
近所の人間が通り過ぎた、
ハトやカラスが飛んでった、
ネズミが夜中駆けていった、
その度に、ベルが鳴らされているようなもんなんですよ?
感知レベルを落とせば小動物を除外できるかもしれませんが・・・、
四六時中、そんなもの鳴らされたら日常生活はおろか、
術者の精神がダウンしますよ!!」
「あ、・・・そ、そういうことか・・・。」
「ただ・・・だからこそ、この土地で可能なスキルなのかもしれません・・・。
滅多に外部の者も訪れない・・・、
一定の体格以上の生物・魔物は近付くこともできないこの土地なら・・・。」
なんてことだ・・・!
これは作戦を相当、見直す必要が出てきたな・・・。
主役たちがクィーンと出会う前に、
元の世界のエピソードを載せようと考えてます。
クィーンの背景とかも描きたいし。
とはいえ
元の世界でもあんまり、彼女に対してスポットライトを当てるシーンて少ないんですよね。
結局、その他のキャラクターの詳細が明らかになるだけかも。
たとえばアスラ王とか。