第二百六十二話 狼狽えないシグ
ぶっくま、ありがとうございます!
・・・彼女は微笑む、
とても妖しく・・・。
おっと、既に獣人勇者を始末した件は報告させていただきましたが、その件でしょうか?
それとも今宵の宴へお声がかかったというわけでしょうかね?
恐らく前者でしょう。
私は下半身のボディラインがしっかりと見える官女の後ろについて、クィーン様の元に参じます。
分厚い絨毯が敷かれ、
壁や天井には、金や魔物の力技によって集められた豪勢な金銀財宝の装飾。
腕のいいドワーフに造らせたシャンデリアなどに灯した蝋燭が、広間一帯に光を落としております。
魔族の街で、こんな豪勢な広間を見る事は決してないでしょう。
私の視線の先・・・広間の10メートルほど向こうの壇上には、薄いカーテンの奥に、
数人の人影がございます。
・・・まだ宴の時間ではないと申しましたがね、
既にクィーン様は何人かの美形の青年を周りにはべらし、ワインを片手に優雅な一時を愉しんでおられるようでございます。
「クィーン、
シグ様をお連れしてまいりました・・・。」
官女の言葉の後に、私は首を垂らします。
べつにクィーン様は礼儀などにうるさい方ではありませんが、
これは執事たる私の性分のようなものです。
この宮殿内では珍しい方でしょうね。
「はぁい、ご苦労様ですわ・・・。」
クィーン様も、この宮殿ではトップの権力者ではございますが、
一風変わった・・・丁寧な口調をなさいます。
どことなく湿った・・・官能的とでもいうような喋り方とも言えますがね。
「シグ様、
お顔を上げてくださいませんかぁ?」
「は・・・魔族シグ・・・参内いたしました。」
「くすくすくす、
そんな硬くならなくてよろしいですのよ?
それで・・・実はあなたが始末したという勇者一行の件なのですけども・・・。」
「やはりその件でございましたか、
・・・もしや残党がこちらに向かっているのでしょうか?」
あの精霊術使いのヒューマンとエルフをこの黄金宮殿に招き入れるか、
それとも勇者同様に討ち果たすか、その判断はクィーン様にお任せしていましたが、
その結論が出たという事でしょう。
「そうなのですわぁ?
けれど、シグ様の報告と異なる事実が明らかになりまして・・・あっ」
なんと?
いったいどういうことでしょうか?
・・・ちなみに最後にクィーン様の口から喘ぎ声が漏れたような気がするのは・・・
まわりに控える男どもがクィーン様のお体に手を伸ばしたせいのようですね。
「・・・クィーン様、それはいったい・・・。」
「も、もう、そんな所触ったら・・・うっ、
あ、ご、ごめんなさいね、シグ様?
どうも・・・その獣人勇者? ですか?
その女性・・・生きているようですわよ?」
「は!?
あ、あの状況でどうやって!?」
「それは私にもわかりませんわぁ?
・・・あふっ・・・!
それどころか、な、仲間を増やしてこの黄金宮殿にまで、たどり着いたようですわ?」
なんという事!
それはこのシグの大失態!!
いけません!
クィーン様は部下の失態を許さないような方ではありませんが、
この私の矜持がそれを許しません!
・・・しかし・・・仲間を増やして・・・ですと?
「恐れながら・・・クィーン様。」
「う、うくっ! シ、シグ様、なんでしょうかっ!?」
「彼ら一行はかなりの手練れです。
前回と同じ手は通じないでしょう、
さらには仲間を増やしてとなると、さすがにこの私も手を焼くかと・・・。」
「あらぁ?
それはいけませんわぁ・・・
いけ・・・いけませんっ!
そ、そんなとこ、ダメッ!
も、もっと優しく・・・
あ、え、と、シグ様の悪魔召喚でも難しそう、なの、で、ですかぁ?」
クィーン様はかなり激しい行いをなさっているご様子。
通常の会話にも難がお有りのようですね。
「私では悪魔一体呼ぶのが精一杯ですので・・・、
しかもこの黄金宮殿付近では大規模な術も使えませんでしょう。」
魔族の私には、あまり黄金や宝石というものの価値はわかりませんが、
これだけ華美な建築物に被害を及ぼしたらどうなるかくらい想像できます。
・・・私の生涯の給金全て回しても払いきれない損害となるでしょう。
「あ、あら、そうですの?
でもお待ちになっていただけます?
ん・・・くっ、
彼らと、た、戦いになるとは限りませんわぁ?」
「それは・・・どういうことでしょうか?」
確かに私もいきなり戦闘を行うのは本意ではありません。
しかし前回、確実に命のやり取りをしていまいましたからな、
あれで、次に戦いにならないかと思うほど私も楽天家ではございません。
「その一団は、宮殿の正面門で、私に謁見したいと仰ってるのですっ・・・て
あっ、うっ、うんっ!
シグ様、あなたは一度彼らとお戦いになって・・・らっしゃるというのに、
いっ、いいっ!?
そ、そこまで呑気な態度を取るという真意を見極めて欲しいのですわぁ?
はふっ、んん! うっ、ダ、ダメですわっ!
・・・も、もちろん、私たちに有害なら・・・その場で処分いただいて・・・構いませんですの。」
「なるほど、
それは仰せのままに・・・それで話を戻すようですが・・・。」
「ああ、せ、戦力の件ですね?
ううう!
なら、こ、交渉が決裂した段階で、悪魔を呼び出してもらえません?
その、タイミングで、わ、私も新たに三体の悪魔を投入いたします。
あなたの呼ぶ悪魔と合わせて・・・四体ほど揃えておけば、
勇者といえども十分ではございません?」
なんと!
悪魔は総じて魔術に対し高い耐性を備えています。
またその異形の肉体にはさらに想像を絶する戦闘力と防御能力がございます。
それでは、いかにあの優れたパーティーでも一溜りもないでしょう。
・・・なんとかヨルお嬢様だけは、生きていただきたいところですが・・・、
おや? 不思議ですか?
一応、私にも義理というものがございましてね。
それにしても・・・恐るべきはクィーン様の魔力でしょうか・・・。
私でさえ戦闘の間だけ、一体の悪魔を呼ぶのがやっとだというのに・・・。
「あっ、あっ、くっ、くっ、
い、いけません、口から・・・溢れ・・・
あっ、いやですわっ?
そんなっ、激しくされたらっ!?」
そんな悪魔を三体も呼び出し、
ここに接近しつつある勇者のパーティーが到着するまで、この地に留め置く事が出来るというのですから・・・。
「も、もうやめて?
い、いえ、これ以上されたらどうにかなってしまいますわ?
お、お願い! そ、それは次回に・・・
・・・ふぅ、あ、ああ、シグ様、
では、よろしくお願いしますね?
・・・あ、そうそう、
シグ様、お一つお聞きしておきたかったのですが・・・。」
「はい、なんでございましょう?」
「はぁ、はぁ、な、なんでも勇者の一行の中に、異世界からの転移者がいらっしゃると聞いたのですのっ。」
異世界からの転移者?
そんな情報はさすがの私でも・・・
「申し訳ありません、
それは・・・私もお聞きしておりませんでしたが・・・。」
「ヒューマンの冒険者の間では、噂になってるとのことでしたわ?
なんでも、ダンディなお髭を生やした精霊術士とかですわぁ?」
「あ・・・それなら確かカラドック様と名乗られたと記憶してございます・・・!」
クィーン様は頭を傾けて考え込んでいらっしゃるようです。
心当たりでもあるのでしょうか?
「カラドック・・・様、
うーん、どこかでお聞きしたようなお名前ですわぁ?」
「・・・もしや・・・クィーン様の転生前のお知り合いか何か・・・?」
「ああん、
ちょっと思い出せませんですの?
実際、お会いしたことあるのなら思い出せると思うのですけれど・・・。」
「では・・・可能であれば命を奪わない方向で・・・?」
「そうしてくださると嬉しいですわぁ?
でも、ご無理はなさらないでくださいね、シグ様ぁ?」
どうやらクィーン様のマッサージは終ったようですね。
なんでも凄腕のイケメン整体師を雇ったとか。
この魔族の私のカラダにも効果があるのでしょうか?
いつか機会があったら、私の身体も揉んでもらいたいものです。
え?
単にマッサージしてただけですよ?
「よくも騙したなあっ!!」
とは言わないで下さいね?
さて、
魔人クィーン、その正体、
皆様お分かりになられたでしょうか?
前作メリーさんに
二度ほど登場してますよ。