第二百六十一話 シグと申します
おお!
ぶっくま&評価ありがとうございます!
<視点 執事シグ>
やぁ、やぁ、みなさま、
ご機嫌いかがでしょうか?
おや? 私ですか?
これは失礼いたしました。
私めの名前はシグと申します。
ふふふ、皆さま、どうして魔族の私が語り手になっているのか、意味が分からないとでも仰りたい様なお顔ですね。
そんな不思議なことでもないのではありませんか?
聞くところによると、過去の物語でも主人公サイドとは逆の立場の人間も語り手役をこなしていたというではありませんか。
は?
それはフラグにならないのかと?
すみません、仰る意味がわかりませんが・・・。
おっと?
私の持ち時間も限りがございまして、
あまり皆様との問答を楽しんでばかりもいられないのです。
今は簡単に私の状況を語らせていただくとしましょう。
ご存知だとは思いますが、私の職業は、魔族の街マドランドのトップであるゴア様の執事でございます。
執事と申しましても、ヒューマンの社会常識とは異なっているのでしょうね、
別に毎日休みなくゴア様の傍に控えているという訳でもございません。
これは魔族社会ならではと申しますか、
かなり自由に過ごさせてもらっています。
もちろん、一年のうちでも繁忙期というものもありますが、
今現在は比較的、忙しい仕事もなく、ゴア様の補佐は私以外の従者でも事足りる状況となっております。
今回、ゴア様から、一人娘のヨル様の護衛という面倒な・・・いえ、やりがいのある仕事をいただきましたが、
そんなものは本来、私の仕事ではございません。
適当な言い訳をしてお断りさせていただいても良かったのですが、
私のもう一つの仕事・・・すなわち魔人クィーン様のスカウト役と絡むようでしたので、うまく利用させていただきました。
そうそう、
誤解があるといけませんね。
別に私はスパイという訳でも、別々の主に二重に仕えているという訳でもありません。
メインの職業が執事、
そして副業で魔人クィーン様のもとで様々な雑事をこなしているとお考えいただければよろしいのではないでしょうか?
難しいですか?
そうですね、・・・それでは以前クィーン様にお聞きした異世界の概念ならご理解いただけますでしょうか?
なんでも異世界のある国では、
ほとんどの人間は会社、というものに勤めているそうなのですが、
その仕事が終わったり、休日などを利用して、大量の洗剤などを、知り合いに卸して、またその知り合いが、別の知り合いに販売していく、という特殊な商売があるのだとか。
そこで才覚を認められれば、組織の幹部に出世して、いろいろなパーティーに参加したり、外国への旅行などの特典として与えらるそうです。
私もそれと同様に、副業を勤めているだけなのですよ。
ああ、そうそう、
言っておりませんでしたかな?
クィーン様は異世界人なのだそうですが、前世で非業の死を遂げられ、この世界に生まれ変わったそうなのです。
クィーン様はその突出したステータス、魔力、その他の能力とはまた別に、
その異世界の知識をもって、様々な活動をなさっておいでです。
あの方は、基本的に他者と関わらず保守的な魔族のなかで、
あまりにも特異な存在でした。
日頃、下着同然の格好でうろついているとか、
一対の角を隠そうともしないとか、
種族関係なく見目麗しい男女を集めているとか、
それらは全て事実ではありますが、まさしくそれらは魔族社会の中で革命的存在であるといえるでしょう。
そして有益な活動を行った者にはクィーン様は惜しげもなく報酬を授けてくれます。
既に私のようなものにも、闇系僧侶呪文や召喚術・・・しかも見た事も聞いたこともない悪魔召喚なる凄まじいスキルを与えていただきました。
クィーン様のユニークスキル・・・スキルコピーは、与えるものにそのスキルの適性がない場合、その対象者のレベルアップによる新たなスキル獲得は不可能ですが、
悪魔召喚だけでも一国の軍隊すら壊滅させる事が出来るでしょう。
・・・まぁ、それは大袈裟な表現でしたかな?
当然ながら召喚に要求されるMPコストもバカになりません。
戦闘に使える時間はわずかですから、あまりこのスキルに頼るわけにもいきませんがね、
要は使いどころです。
今回、あの獣人勇者を退けたのは、我ながら良い仕事だったと思います。
あの状況で、あの二人の獣人が助かるとは思えません。
惜しむらくは、あのヒューマンの精霊術士と二人のエルフをこの黄金宮殿に招いたならば、
クィーン様はお喜びになられたでしょうが、さすがに勇者などというものをクィーン様に近づけるのは危険と言わざるを得ません。
・・・もしかしたら、仲間を殺されたことによる復讐心で、この黄金宮殿までやってくるかもしれませんが、この場所を探し出し、辿り着くまでにかなりの時間を要するでしょう。
それまでに迎撃態勢を整える必要もあるかもしれません。
・・・もっとも、クィーン様の種族はサキュバス。
その気になれば「魅了」にて男性・女性問わずに虜にすることも可能と言えば可能なのですが、今回は私が関わった案件ですからね。
基本的には私が最後まで面倒をみるべきものでしょう。
おっと?
誤解があるといけません。
これも話しておきましょう。
クィーン様には種族スキルとして「魅了」をお持ちですが、
ご本人はそのスキルにあまりこだわりを持っておられないようです。
何でもかんでも手当たり次第に魅了で仲間を増やしていることもなく、
かといって、敵意や害意を以て迫るものには、時には「魅了」で事態を解決することもございます。
ただし、それらも一時的なもの。
なんといいますか、相手を束縛するのは主義ではないとのことで、
極力、争いにならない形でお帰りいただいております。
この黄金宮殿の建設や、日々の華やかな宴の開催を維持するうえで、必要最低限には能力を駆使してこられましたが、この宮殿に足を運んだ者で、帰りたいと言うものに対し、無理に引き留めたり、軟禁したりということもありません。
またいつでも来てくださいね、とばかり、とことん和平を愛する方でございます。
そんな方だからこそ、
私もクィーン様に身を捧げているのです。
どうでしょう?
皆様も、あのヒューマンたちの言葉と比べて、
まだクィーン様を討伐すべき存在と思われますか?
ええ・・・、
死んでいく者達の魂を邪龍に食わせる件・・・
それ自体は事実です。
認めましょう。
ですが当たり前のこととして、ヒューマン・亜人を滅亡させるわけではありません。
単に「間引き」レベルです。
彼らとて、住居周辺の森や平原で魔物を間引きしているでしょう?
それと同じことですよ。
ふむ、
・・・どうやら賛同は得られないようですか・・・。
それも仕方ありません。
皆さまとは立場が違うのかもしれませんしね・・・
おや?
私が身を休めているこの部屋に誰か来たようですね・・・。
「シグ様はおられますか?」
「は・・・私はこちらに・・・。」
薄いヴェールをまとった官女がやってきました。
クィーン様の身の回りをお世話する女性の一人です。
確かこの方はハイエルフでしたかな?
もちろん、クィーン様は種族による差別をなさらない方です。
あくまでその人物の性格や能力を重んじるお方です。
だからこそ、私のようなものもお傍に仕える事が出来るわけですが・・・。
その薄いヴェールの下はほとんど裸体ですよ。
魔族たる私はそこまで性欲求は強くないのですが、
健康なヒューマンあたりが彼女を見たら、目を離す事など出来なくなるのでしょうね。
「クィーンがお呼びです。」
次回!
ついにクィーンが?