第二百六十話 いよいよ・・・
<視点カラドック>
朝になった。
いよいよ、魔人クィーンの元に私たちは向かう。
全く怒涛の展開だったな、
まずは魔族執事のシグに襲われ悪魔を呼び出され、
ケイジとリィナちゃんが、あわやというところで、異世界からの転移者、麻衣さん登場。
そして一度Uターンしたアークレイの街では、あろうことかマルゴット女王とその一団が合流、
そこには妖精ラウネというとんでもない魔物もおまけまでついてて・・・。
そしてこの国のタッカーナ王太子とやり合ったと思ったら、
バブル三世という盗賊の一人、ラプラスさんが現れ、いきなり魔人のもとへ連れていけるという・・・。
改めて思いなおすと滅茶苦茶だな。
それで今や、魔人クィーンの住む黄金宮殿手前まで辿り着いているのだ。
この後、案外早々と決着がついてしまうのであろうか。
それともさらに予想外の展開が待ち受けているのか。
朝になったと言っても、まだ太陽は昇っていない。
すでに空は白み始めて、明かりなどなくても視界は良好だ。
空気は冷たく、厚着してなおかつ火の傍にいないと、カラダは耐えられない。
いまや、みんなで火を囲んで軽い朝食をとっている。
・・・麻衣さんの顔色が優れないな・・・。
昨夜、ケイジが無茶させたせいか、
あいつにはきつく言っておいたけど・・・。
ケイジは人の能力を見抜いて、その人物の適した使い方ができる奴なんだけど、
その人の限界や不満までには気を回せないようなきらいがある。
・・・いけない、
それはケイジではなく、恵介のことだろう。
まだ私は二人の姿を重ねているらしい。
もしかしたら、私の母マーガレットと、この世界のマルゴット女王のように、
何らかの関係があるのは間違いないのかもしれないけど、
全く別の人格だと言うなら、異世界の自分についての話など、本人には全く関知する事のできない話だ。
その考えは忘れよう。
「麻衣さん、大丈夫かい?
昨日は眠れた?」
「あっ、はい、大丈夫ですよ・・・、
頑張ります。」
彼女はにっこり笑ってるけど、ちょっと無理してる感じがするな。
ラプラスさんにも声をかけとくか。
「ラプラスさん、調子はどう?」
「はい、私の方はおかげさまで体調は万全です!
黄金宮殿まで何の問題もありません!!」
「それは良かった、
・・・ただ麻衣さんが調子悪そうだから、
少しゆっくり飛んでもらえないかな?」
「おお、それはいけませんな、
私の方は構いませんよ、
少し速度を落として飛ぶとしましょう。」
女王たちやエルフ勢も体調に問題はなさそうだ。
護衛騎士のブレモアなんかは、妖精ラウネに精気を抜かれていないので具合も良いらしい。
・・・主に精神的な意味で。
強いて言えばリィナちゃんが大人しそうにしてたけど、緊張しているとのことだった。
確かに魔人なんてものは未知の相手だ。
そんな反応も仕方ないだろう。
私だってこの先、どんな展開になるのか、全く読めないのだから、考え込んでもどうしようもないよね。
「どんな敵が来ても私の矢で撃ち抜いてみせますわ!」
「・・・イゾルテ殿、
あくまで戦闘は私たちに任せる事。
君は自分の身を如何に守るかだけ気にするんだ。
王族は自分の体を自分だけのものだと考えてはならない。」
「は、はい、わかりましたわ・・・。」
逸る気持ちはわかるんだけどね、
調子良く魔物を討伐できるくらいのタイミングが一番油断しやすいもの。
いくら護衛騎士やニムエさんが控えているといっても、女王やベディベール君も守らねばならないのだ。
王族自ら危険に身を投じては守り切るのも困難だろう。
「すまぬの、カラドック、
要らぬ気遣いをさせてしまい・・・。」
いえ、本来、女王のあなたがここにいるのがあり得ないんですからね?
そしてヨルさんが何気なく、爆弾投下する。
「どっちがパーティーリーダーかわからないですぅぅぅ。」
あっ
反射的にケイジの姿を探すと、
彼は私に視線を合わそうとせずに馬車の隅っこで体育座りをしてしまった・・・。
い、いや、そりゃ昨日は叱ったけど、もうそれは済んだこととして、気持ちを切り替えてもらわないと・・・
ここでヨルさんの悪意無きダメ押しのツッコミは・・・。
考えろ、カラドック!
お前は賢王だろ!!
ここでケイジを奮起させるには!!
ピッコーン!
私はアガサとタバサの二人に視線を送る。
彼女たちも類稀な能力を・・・
しかも空気を読む事に関しては天才的だ。
・・・たまにその空気を読んだ上で破壊しようとするから油断できないけども・・・。
二人は私に向かって相槌を打つと、
すぐさまうずくまっているケイジの両脇を固める。
ここで彼女達はまた色仕掛けでもするかと思ったろうか?
違う!
なんと二人はケイジを両脇から押さえつけてくすぐり地獄を敢行!
「ぎゃあ!!
おまえらあはっ!!
やめっ、コラ、グハハハッ!
ちょ!!」
「らしくないケイジ!
このパーティーの中心はあなた!」
「カラドックはあくまでも軍師!
このパーティーを率いるのはあなた!」
「わかった!
わかったから! もうヤメ・・・
放せ、放して・・・ギャハハハハッ!!」
泣けてくるくらい、素敵な仲間だよ。
惠介・・・
元の世界で私たちが一緒に旅した時、
そして今、この仲間たちのと旅、
果たしてどちらが、楽しかったろうね?
この後、戦闘が避けられないにしても、誰も欠ける事なく、目的を果たしてみせよう。
「そういえば、リィナちゃん、あれはリィナちゃん的には有りなんですかぁぁぁ?」
これ以上、かき回さないでね、ヨルさん、
お願いだから。
ケイジが弄ばれている様を、ヨルさんとリィナちゃんが呑気に見物していた。
な、なるほど、見ようによってはケイジが二人の美女を相手にいちゃついてるようにも見えるしね・・・。
リィナちゃんの心情的には面白くない筈・・・。
「あー、別に今に始まったことじゃないし、毎度毎度のことだしね、
あのエルフ達も一線は越えないように弁えてるみたいだからさ。」
おお、リィナちゃん、余裕だなぁ。
「へぇぇぇ、信頼してるんですねぇぇぇえ?
でも、ケイジさんのほうはぁぁぁ?」
「だ・・・大丈夫、い、いざとなったらケイジのタマを潰してでも・・・。」
それはやめてあげて!!
そんなこんなで、全員準備万端!!
そして、馬車に全員乗り込み、
昇ってきた朝日を浴びながら大型馬車は空中へと浮かび上がる。
「さあ、
皆様! いよいよ黄金宮殿までひとっ飛びですよ!
いきなり襲われる事はないとは思いますが、油断なきようお願いいたします!」
馬車を飛行させるにあたって、
ラプラスさんは当然のようにエアスクリーンを展開。
ただ、それはあくまでも、空気抵抗をなくしたり、大気中のゴミや塵などから身を守る為のもの。
悪意ある敵からの攻撃から身を守るには物足りない。
そこでここからはタバサも常時プロテクションシールドを設置。
魔法攻撃には弱いが、
魔法なら射程距離は短いものがほとんどなので、
そちらを警戒する必要は薄いだろう。
麻衣さんも危険察知のほうは、問題なく使用できるとのこと。
昨日、ワイバーンの群れに襲われたおかげで、進路は目的地からずれているようだけど、
ラプラスさんは慎重に進行方向を確認しながら馬車を飛行させる。
「恐れ入ります、麻衣様、
この位置から強大な魔力の存在を感知できますか!?」
ラプラスさんも方角については、まず間違いなく自分の見込みで合っていると判断しているようだけど、麻衣さんの感知能力の精度を全面的に信頼しているようだ。
もちろん、私も同じ見解を持っている。
「え・・・と、
この先・・・ですよね・・・
う、・・・うあああ。」
「麻衣さん!?」
「ま、間違いありません・・・この方角の先ですね・・・。
います。
強い魔力を持った人たちが・・・何人も・・・。
向こうにも感知されそうなので、これ以上探ることは出来ませんけど・・・。」
やはり敵が魔人クィーン一人だけなんてことはあり得ない。
先日の執事魔族シグ以外にも警戒すべき手練れはいるとみるべきか。
さすがにこれだけの距離を飛べば、景色の変化も一目瞭然・・・。
大渓谷や岩場がメインだったアークレイの北側ともまた違う。
こっちは奇岩・・・と言えばいいのか、
天然の尖塔のような岩山が無数に林立している・・・。
上空からだと、眼下に立ち込める雲海のおかげで、地上の様子は一切わからない。
ただ・・・魔人クィーンの本拠地は、地上にあると考える必要はなかったようだ。
「皆様、間もなく、魔人クィーンの黄金宮殿の域内に入ります。
宮殿本体はその中央にありますが、
大勢の人間や知性ある魔物が住んでいる以上、
その衣食住を支える都市機能も必要ですからな。
それなりの規模のものだとお考え下さい。」
「え?
ラプラスさん、こんな地形にそれだけの都市の建設をどうやって・・・?」
「間もなく見えますよ・・・。」
そう言われると視界に変化が現れた。
眼下の地形は一切変わっていないのだが・・・
色が付き始めたというか・・・不自然な光が現れたのだ。
するとこの先が・・・。
それとともに、飛行馬車のスピードが極端に落ちていく。
どうやら目的地に到達したらしい。
あの奇妙な建築物が魔人クィーンの黄金宮殿だと言うのか・・・。
「ご覧ください、
それぞれの岩山をアリの巣のようにくりぬいたり、繋げたりして、
街を築いているのですよ。
見えますか?
岩山の一部が光輝いて見えるでしょう。
あれなどは岩山をくりぬいた後に、黄金を資材として建設しているのですよ。
魔人クィーンは派手好きらしいというのは、そういうセンスからも窺えるわけです。」
なるほどね・・・。
さて、いよいよか。
次回の文章の文字数次第で
魔人登場するかどうかというところです。