第二十六話 ぼっち妖魔は異世界の夜を過ごす
ぶっくま、評価ありがとうございます!
<視点 麻衣>
パーティーか、
あたしを入れてくれるような人たちいるかな?
「じゃあ、登録をお願いできますか?
あと職業も決めておきたいんですが。」
「わかった、職業は何にするんだ?」
あー、えっと、どうしようかな。
「あ、職業って一回固定しちゃったら変えられないんですか?」
「ん? いや、そんな事はない。
ギルドでの職業登録・転職には普通の手数料がかかるだけだな。
転職自体は斡旋士の職業に就いている者、マスター系の職業に就いている者がいればいつでも可能だ。
ただし、冒険者ギルド発行の登録カードを書き直すには最寄りのギルドまで足を運ばなければならない。」
そうか、なら・・・。
巫女になって極悪スキル伸ばすのも良さそうなんだけど、低レベルの内はあまり効果なさそうだからなぁ。
先に召喚士になって呼べるものを増やした方がいいような気がする。
ラミィさんも早く呼んでみたいし。
「あ、じゃ、じゃあ召喚士でお願いできますか・・・。」
「わかった。
では同時に冒険者登録もしてしまおう。」
エステハンさんはあたしに向かって手を差し出した。
「職業設定はこの俺にどこか体の一部分を触れていればいい。
自分のステータスウィンドウ出せるか?」
「あ、はいっ、出せます。
ステータスウィンドウ・・・。」
あたしの眼前にいつかの文字が並ぶ。
そしてあたしはエステハンさんの大きな掌に自分の指をのっけてみた。
どんだけサイズが違うのよ・・・。
「よし、『職業選定』・・・!」
あっ、職業欄のカーソルが点滅した。
「これ文字に触ればいいんです?」
「いくつか方法はあるがそれでいい。
適性職業に召喚士があるなら、その文字に触れてみるんだな。」
おそるおそる「召喚士」の文字に触れると、職業欄に「召喚士」がコピペされた。
ホントに検索フォームみたい。
「それでよければ『登録』と宣言するんだ。」
「は、はい『登録』!」
一瞬だけ光に包まれた。
ステータスウィンドウを見ると職業欄が召喚士になっている。
おお!
これでレベルを上げるとラミィさんも呼べるようになるはずだ。
「よし、ではこのまま冒険者登録を行う。
ギルドカードを発行するからそのままでいてくれ。」
どっかの会員カードみたいなのが出てきた。
これに手を乗せてくれと言われる。
さっきの鑑定と似たようなことやるのかな?
エステハンさんは「鑑定転写!」と唱えると、
そのままあたしの情報がカードに登録されたらしい。
えーっと、
名前:伊藤麻衣
性別:女性
種族:ヒューマン
レベル:12
職業:召喚士
称号:女子校生、転移者
冒険者ランク:F
発行ギルド名:カタンダ村冒険者ギルド
よしよし、ヤバいものは載ってないな。
年齢は記載されないんだね。
「そういえば、エステハンさんはギルドマスター代行なんですよね?
ギルドマスターさんは他にいらっしゃるんですか?」
自分では他意のない質問だったんだけど、エステハンさんは苦笑いを浮かべた。
「この村に、ギルドマスターはいない。
ギルドマスターになるには、このギルド自体が一定の功績をあげることと、代表者がAランクに昇格していないと認められないんだ。
人口もそう多くないから依頼もあまりないしな、
俺もランクはBで止まっているんで代行にしかなれないんだ。
ただまぁ、マスターも代行もやることは変わらないんで、そんな気にしないでくれると 助かるんだがな。」
持ち込んだホーンラビットと、はぐれウルフ及びスライムの魔石は大したお金にならなかった。
自分で肉を捌けるようになると買取料金が割り増しになるらしい。
手に入れた金額は、冒険者登録、職業設定の手数料を賄えたくらいと、この後の夕飯代、宿代払ったらちょうどトントンというところ。
ギルドにも簡易休憩スペースは用意されているけれど、女の子一人で夜を過ごすのは不用心この上ない。
それはそうだろう。
というわけで、宿屋を紹介してもらう。
と言ってもこの村には宿屋は二つしかない。
家族で経営しているランプ亭、
そして商隊なんかがよく使うリッチリッチホテル、
はい、ランプ亭一択で。
話を聞くと小さい女の子も働いてるとかで、あたしが泊まっても気を遣ってくれるだろうとのこと。
お世話になります。
「ごめんくださーい!」
うん、個人の家というには大きいところだ。
何階か建ての石造りの館かなと思ったら、やっぱり土壁。
平屋。
よくアメリカ映画に出てくるような、モーテルみたいに長屋というか横に広い館。
きっと土地は安いんだろう。
通りに面してる入り口から中に入るとそこは無人。
大きな声で挨拶したら、しばらくしてパタパタ急ぐ足音が近づいてきた。
「はいはーい、
あら、いらっしゃいませ、お客様ですか?」
ホントにあたしより年下っぽい女の子がでてきた。
くるぶしまである長いワンピースに体の前面を全てカバーするような白いエプロン姿が可愛らしい。
「あ、えーと、冒険者ギルドの紹介で泊まりに来ました。
もしかしたら連泊するかもしれないけど、お金ないんでとりあえず一泊扱いでお願いします。」
「あっ、はい、大丈夫ですよ。
いま観光客シーズンでもないし、他所から来た冒険者が二組しか泊まってないので、連泊も可能です。
一泊分は先払いになりますが、いいですか?
一泊素泊まり五千ペソルピー、
夕食付きで千ペソルピー追加、
朝食付きで五百ペソルピー追加だよ。」
1円=1ペソルピーなら凄く分かりやすいんだけど、その単位だとメチャクチャ物価低そうに感じるのは気のせいかな?
「あ、じゃあ食事は両方有り有りで。」
これで本日の稼ぎは全て吐き出しました。
こんな見ず知らずの土地で食事を抜くなんて考えられません。
ダイエット?
まだそんなもの気にする年齢じゃないからね。
15才の新陳代謝なめんな。
フロントの女の子から鍵をもらった。
ヤケに大きくてゴツい。
こんなものなのかな?
中庭を通って部屋を案内される。
他の宿泊客の部屋からは離してもらった。
トイレは外で男女別。
なんとお部屋にはシャワー設備があるとのこと。
外に水瓶があって、一つの部屋につき1日ごとに水を補充してるんだって。
これは嬉しい。
勿論温水機能はない。
え? 冷たくて死んじゃう?
ああ、ここはそこまで寒くない。
そりゃ冷水、夜にじかに浴びたらきついけど、タオル濡らしてカラダ拭くだけでもかなり違う。
ちなみに魔法使いの人がいるとセルフで温められるとか。
・・・さすがにそれでラミィさん呼んだら怒られそうかな・・・。
こういうところは虫が入ってこないように、地面から段差をつけて部屋があるんだね。
高床式っていうんだっけ?
二、三段のステップを上がって部屋の前につく。
入り口も部屋に入るまで空間があって、段差を上がった後は網戸が設置されている。
この空間で洗濯物を干すこともできるわけだ。
替えがないけど。
そうそう、明日の予定ね。
明日はもう一度冒険者ギルドに寄って、ギルド公認パーティーにお試しで入れてくれる事になった。
これはギルド職員と、ほぼこの村のギルド専属の冒険者とやらで女性も加入しているそうだ。
依頼を出しても、色々な理由で他の冒険者に見向きもされないクエストを処理したり、一般の冒険者に依頼しにくいクエストを解決する為に時々組まれる事があるという。
今回、あたしなんかの為にそんな手間を?と思って遠慮しようとしたのだけれど、向こうにしてみれば、難しくもない初級のダンジョンなのでお互い危険は少ないとのこと。
まあ、稼ぎは微妙らしいけど。
あたしのスキルに興味あるらしい。
召喚士も巫女も、この辺じゃあやっぱり珍しいそうだ。
まぁあたし自身、どこまで役に立つのかまったく自信はない。
夕飯は食堂で食べなければならないけど、自分で部屋に持ち帰る分はOK。
後で食堂に食器を返しに行かないといけない。
別に他のお客さんと一緒の空間で食事してもいいけど余計なトラブル起こしたくないからね。
え?
どうせクラスでもぼっちだろうって?
余計なお世話です。
案の定、食堂では一食分のトレイをもらう間に他の冒険者たちに冷やかしを受けた。
食堂の配膳をしていた女将さんにかばわれたけど、とりあえず愛想笑いを浮かべて足早に部屋まで戻った。
ご飯だー!
この一日、調味料のない焼いた肉しか食べてない。
あたしは煮物と生野菜に感動を覚えながら食事をむさぼった。
静かだ・・・。
・・・一人なんだよね。
部屋の中はあたしの食事の音しかしない。
テレビもスマホもなーんもない。
そういや、一人で食事するのなんて久しぶりだ。
数年前、鉄格子の入った病室でカメラ監視されながら食べなきゃいけない時期はあったけど・・・
家で食事するときは必ず誰かが一緒にいた。
この時間、元の世界ではパパとエミリーちゃん、マリーちゃんだけで食事してるのか。
いや、元の世界じゃ時間が止まっているんだっけ。
ならあたしの事は心配されてはいないわけだ。
ほっとしたような、少しさみしいような。
外に出た。
いつの間にか夜空は晴れている。
都会と違って星が綺麗。
てゆーか、星ってこんなにたくさんあるんだ。
なんていうか、豆球しかついてない部屋から、いきなりLED照明の部屋に移ったと感じるくらい、元の世界の星空とここの星空の光の量は異なる。
・・・まぁそれは世界が違うからじゃなく、単に近現代の都市部と中世時代の田舎の違いなんだろうけど。
げっ?
月が二つ出てる。
森の陰に隠れてて最初は見えなかった。
どっちも見たことない表面の月だ。
ウサギはどこ行った。
ああ、ホーンラビットはいらない。
そういや、ここまではあいつら来ないのかな?
まぁ、村全体を壁で覆っていれば、門から入りこまれない限り大丈夫なんだろう。
そういや、見ようによってはあの小さい方の月の模様は、お馬さんの頭に見えないこともないかな?
ホゥ ホゥ
森の奥の方から動物の鳴き声が聞こえてくる。
フクロウさんかな?
あたしが部屋の外から出てきたのを見て挨拶でもしてくれたかみたい。
せっかくなんで「やっほう」と呼びかけてみる。
他の宿泊客に聞かれてないよね?
さすがにそれは小っ恥ずかしい。
すると先程の方角から、またしても「ホッホウ」と返ってきた。
ちょっと嬉しい。
・・・さすがに夜は冷えてくる。
部屋に戻ってとっとと寝よう。
明日もここに泊まれるようだったら食堂で食事を取るか。
あたしは森の中に向かって小さく「おやすみなさい」と呟いてから部屋に戻った。
ホゥ♪
麻衣
「なんで称号に『女子校生』と?」
後出しで伏線入れておきました。