第二百五十八話 ぼっち妖魔は折れそうになる
ぶっくま、ありがとうございます!
話を聞くにも結構時間が経ってしまっていた。
他の人たちに不審に思われるまではいかなくとも、何か聞かれるくらいは覚悟した方がいいだろう。
「ケイジさん、どうします?
カラドックさん達に何か聞かれたら、ここで何の話をしていたか・・・。」
これについては、ケイジさんも既に対策を考えていたようだ。
「ああ、そうだ、
実際に聞きたかったんだが、麻衣さん、
リィナの天叢雲剣について調べてもらえないか?
他の奴らに何の話をしていたか聞かれたら、この剣について調べていたと言ってくれればいい。」
何でも嘘の隙間に真実を混ぜると誤魔化しやすいそうだ。
大人って汚いな、と思う一面を感じる。
「あ、あの、あたし達の世界の神剣のことですね?」
リィナさんがいまだ不安そうなんだよね。
ケイジさんからは衝撃的な話ばかり聞かされたけど、リィナさんの様子も気になってしまう。
それにしても天叢雲剣かー。
「あれ? でもあたし以外にも今まで鑑定はした人はいたんですよね?」
鑑定スキルは、その人のレベルに応じて、開示される情報が詳細になっていくだけで、
人によって異なる情報が明らかになるわけではない。
だから、あたしが見た所で何か新しい情報が・・・て、あ・・・
「鑑定ではなく、あたしのサイコメトリーでですか?」
「そう、麻衣さんの特殊な術なら、鑑定とは違う情報も分かるかなって・・・。」
確かにサイコメトリーと鑑定スキルは似て非なる術だ。
ただねー、
サイコメトリーは鑑定以上に扱いが難しんだよねー。
ところがケイジさんは、あたしに更に無茶な要求をしてくるのだ。
「今までリィナが奴隷として扱われていた時も、誰もその剣を奪うことができなかった、いわくつきのアイテムだ。
何か意味がある筈だと思いたいんだよな・・・。」
えっと?
それって・・・。
「ちょ、ちょっと待ってください?
それってある意味、呪いのアイテムになるんですかね?」
「え? あ?」
呪いアイテムだとすると、サイコメトリーはかなり危険。
あたしの精神に悪影響を及ぼす恐れがある。
「あ、それって麻衣さんが調べるときにヤバいことになるのか!?」
「・・・もしかすると、ですけど。」
前回のティラミス夫人のナイフの時は大丈夫だったけど、
天叢雲剣は鑑定でのランクは伝説級アイテム。
こちらの精神が無事で済む保証はない。
「ま、麻衣ちゃん、無理しなくでいいよ!?
別にこのままでもあたし、困らないからさ?」
ん、やっぱりリィナさん、怯えてる感じだね・・・。
でもね、これをこのままにしておくのも・・・。
「わかりました・・・
でもあまり期待しないでください。
下手すると何も読み取れないかもしれませんが・・・。」
一応、称号欄に「闇の巫女」とやらをいただいてしまった手前、
あたしを頼って提出された課題はクリアしたい。
ホントにあたしに出来るかどうかは別にしても・・・。
「す、すまない。
麻衣さん・・・頼む。」
ケイジさんには、リィナさんの不安は伝わってないみたい。
目の前の剣だけに囚われているようだ。
うん、もちろん、リィナさんの事を大事に思っているのは間違いないんだろう。
だから、その出自にまつわるこの剣のことを調べたいと。
でも・・・
・・・うーん、
この辺りだな、きっと。
あたしがさっきから感じる引っ掛かり・・・。
隠されている重大な真実とか、そんな大それた話でなく、
もっと根本的な部分だと思う。
まあ、それこそ、あたしが干渉すべきものじゃないとも思うんだよね。
一応、聞いておくか。
「でも・・・どうしてそんなに・・・?」
「理由を聞くとまた驚く話をすることになるけど・・・。」
まだ何かあるんですか。
「あ、い、一応是非・・・。」
「麻衣さんにオレたちが命を助けられた時のことだ。」
「え? あの時?」
「そう、あの時、
オレには麻衣さんみたいな感知スキルは何もないはずなんだが、
あの時・・・地面が崩れてオレたちが落下する瞬間、
周りの時間が止まったかのように、オレは不思議な光景を目撃した。」
は?
「え・・・。」
「その時、まるで異世界の出来事を覗いたみたいな・・・
そこには古い日本の民家・・・
オレたちの現実の状況のように、何か家の中が吹き飛んでいる情景だった。」
なにそれ!?
「に、日本の!?」
「ああ、そこで二十歳くらいの二人の男女・・・
顔つきが似てたから兄妹か姉弟だと思う。
その女性が男をかばって大怪我を負っていた・・・。
その女性が・・・瀕死の状態から、リィナの持っている天叢雲剣を手にして、
家の瓦礫を全て吹き飛ばしてしまったんだ・・・。
その後、男の方は、
その女性の死を受け入れることが出来ずに・・・子供みたいに泣き叫んでいたよ。」
なんだって・・・。
・・・ううう。
また話が遥か彼方に飛んでいった。
でも、なるほど、
ケイジさんがリィナさんの心情に気づかないのも仕方ないのかもしれない。
全く次から次と・・・。
「それは・・・ケイジさんのお知り合いとかではないんですね・・・?」
「最初は見覚えない二人だと思っていた。
だが、黒髪のフリーター風の男には心当たりがあった。
恐らくだが、オレやカラドックが戦っていた敵国の王、
スーサの王、アスラ・・・奴の若い時の姿だと思う。」
はいいい!?
「え? そ、それってつまり?」
「もし、その若い男がアスラ王なら・・・
天叢雲剣が今現在、リィナに渡っていることに話の整合性がつくかと思うんだ。
何しろ、リィナの前世が李那だとしたら・・・
李那はアスラ王の孫娘でもあるんだからな・・・。」
くっ、
驚かない・・・もう驚かないぞ。
もうどんな信じがたい話でも持ってこいってんだ。
サイコメトリーで、どんな情報が明らかになるかわからないけど、
やってやろうじゃありませんか!
不安そうな表情をしたリィナさんから天叢雲剣を受け取る。
なんでも、資格のない人が使おうとすると電撃が走って大怪我をするそうだけど、
単純に鞘ごと触るだけなら大丈夫とのこと。
それでも怖いな・・・。
剥き出しの電線に触ったらどうしようか、という気分。
「す、少しずつやってみますね・・・。」
「あ、ああ、頼む。」
精神耐性をあげると、今度はサイコメトリーの精度が落ちる。
精神耐性を下げて、サイコメトリーの感度をあげると、あたしの精神に衝撃を受ける恐れが出て来る。
難しい兼ね合いだ・・・。
触る部分は柄のところでいいだろう。
不思議な渦巻き文様が彫られた薄赤い見た事もない金属・・・。
う・・・
いけるか・・・
これなら・・・
がっ
「うわあああああああああああああああっ!?」
「麻衣さん!?」
「麻衣ちゃん!?」
あたしは思わず剣を手放してしまう!
とんでもない情報量だ!!
まさしく感電したかのように突然たくさんの情報があたしの精神に流し込まれたのだ!!
でも・・・
見えた・・・!
あの人だ。
2年前あたし達を助けてくれた人・・・。
間違いない、そしてそれはすなわち、あたし達の主となられる人・・・。
「だ、だいじょうぶです、
はぁ、はぁ、・・・いきなりなんでびっくりしただけで、
あたしの精神は無事・・・です。
でも、これ以上は・・・。」
「じゅ、十分だ、すまなかった・・・ありがとう!
そ、それで・・・。」
「見えましたよ・・・
あたしの知ってる人が映ってました・・・
格好は古代ギリシア人風のおかしなコスプレみたいなのしてましたけど・・・。」
それだけじゃない。
「そ、そいつは!?」
「二十歳ぐらいの・・・黒いボサボサ髪の2メートルほどの身長の男性・・・、
間違いありません、二年前あたしを殺人鬼から助けてくれたお兄さんです・・・。」
あたしが視たのは・・・
「・・・若い姿のアスラ王・・・か。」
「天叢雲剣を使って、何度も何度も戦っていましたよ、
ある時は怒りの感情に身を任せて・・・
時には辛そうに、泣きそうになりながら、
その剣に雷を纏い・・・傷だらけになって・・・
ただ・・・最後の方で、剣は砕け散った映像も見えました・・・。」
「砕け散った!?」
これ以上は言う必要ない。
ついつい、あの壮絶な戦闘の数々について口走っちゃったけど、
後はケイジさんの興味を剣の方に誘導せねば。
・・・でもあたしが見たのがどの世界の話かは分からない。
もし、もしこの剣に刻まれた出来事が、ケイジさん達の世界の話なら、
あの人はアスラと名を変えて、
後に少年・・・天使とカラドックさんたちに討伐されるということなのか。
それはどんなことをしても食い止めたい、
とは思うけども、既にカラドックさんやケイジさんの世界では、終わった話なんだよね・・・。
それは、もう、どうにもできない・・・。
「はい、あたしの見た映像はそれで最後です・・・。
じゃあどうして今、元の姿でここにあるかは分かりませんけど・・・。」
その後、あたしの大声を聞きつけてカラドックさん達がやってきてしまった。
一応、事前の打ち合わせ通り、天叢雲剣について調べていたらこんな事になったと説明自体は出来たけど・・・
ケイジさんがカラドックさんにお説教を喰らって、尻尾がしゅんとうなだれていたのが可愛かった。