第二百五十四話 ぼっち妖魔は目撃する
ぶっくま、ありがとうございます!
今回長めです・・・。
・・・て、馬車の先頭は凄いことになっていた!!
乱戦!!
ワイバーンが3匹!
それをヨルさんがギリギリで槍で跳ねのけているんだけど、
ヨルさんもアガサさんも傷だらけだ!!
二人とも何度かヤバい攻撃を受けている。
なんとかタバサさんの治癒呪文で一進一退を繰り返している状況だ!!
「皆さん!!」
「麻衣!?
あなたにこの場は危険!!」
「麻衣!!
あなたは後ろで待機!!」
エルフのお二人が心配してくれてるけど、
あたしに気を向けてる暇はないはずです!
ほら! 隙を見せた二人にワイバーンが襲い掛かろうと・・・
させませんよ!!
「『この子に七つのお祝いを』!!」
状態異常!!
・・・恐怖!
・・・絶望!
・・・トリップ!
・・・しもやけ!
・・・生理不順!
・・・金縛り!
・・・腐乱!
・・・また恐ろしいものと、わけわからないものと・・・。
はい、次ぃ!!
「この子に七つのお祝い」を連発!!
ヨルさんやアガサさんにも目の前のワイバーンが無力化していくのは理解できたろう。
「い、今のは麻衣・・・あなたが!?」
「すっ、すごいですよぅうぅっ!!
麻衣ちゃん! あなたは闇の女王ですかぁぁぁああああっ!?」
いや、だから、ヨルさん、フラグになりそうだから、変な呼称付けないでね?
こないだの吸血鬼エドガーにはいくつかレジストされちゃったけど、
ワイバーンクラスにはほぼすべての状態異常が通るようだ。
あたしがこのパーティーに合流する直前に戦ったという、魔族の人や、
召喚された悪魔とやらにも通じるのだろうか?
同じ魔族ならヨルさんに実験を・・・さすがにそれは無理か!
どんな効果が出るか分からないから危険すぎる!
そしてこの段階で交戦していたワイバーンは一掃!
まだ、馬車の周りを十数匹のワイバーンが囲んでいるのと、
例のレッドワイバーンとやらがこちらを狙っているのが分かる。
「この子に七つのお祝いを」は必中スキルだけど、
当然のごとく射程距離というものもある。
どのくらいの距離かと言われると実は検証もしていないのだけど、
恐らく半径10メートルちょっとといったところだろうか?
だからしばらくはこちらも出来る事はない。
それにしても既にかなりの数のワイバーンを撃退しているのに、
まだあたし達を食べようと狙っているのだろうか?
それとも縄張り荒らしと見なされているのかな?
「・・・あ、あの、皆さん・・・。」
今の声、・・・ラプラスさん?
「どうしたのじゃ、ラプラス殿?」
比較的余裕のあったマルゴット女王が対応するみたい。
「じ、実は・・・そろそろ・・・。」
「そろそろ?」
「はい、ちょっとMPが心許ないかなーという次第でして、はい。」
「・・・ちょっと待つのじゃ、
それは・・・飛行スキルの継続が限界・・・ということか?」
「は、はい、正確にはエアスクリーンの方なんですけどね。」
「つまりは着陸する場所を見つけて下に降りたいという事か?」
「さすがはマルゴット女王、その通りにございます!!」
え、それって・・・、
この状況下だとどういうこと!?
「飛行状態を解除し、地面に降りたら、それこそワイバーンの恰好の餌食よな。
・・・じゃが、逆に言うと、
妾たちの精霊術も、リィナの雷撃術も思うままに使えることになるの!
総員、着陸の準備をせよ!!
ケイジは着陸ポイントの探査・選定を!」
マルゴット女王の指示にすぐさまみんなが動きだす。
・・・みんな凄いってか、あたしはまたやることがなくなった。
もちろん、こちらを狙ってくるようなワイバーンへの警戒は続けるけども。
どうやらケイジさんが着陸しやすい場所を見つけたようだ。
「2時の方向に拓けた草原がある!
ラプラス、問題ないか!?」
「は・・・っはい!
私にも見えました・・・ではあの場へ着陸します!!
徐々に速度を落としますので・・・!!」
速度と共に高度も下がってゆく。
最初ワイバーン達も警戒していたようだが、
こちらがゆっくりとなったのを契機と捉えたのか、
一気に集まって来た。
とはいえ、彼らの巣をかなり離れたせいだろう、
もはやこれ以上集まることはない。
あたし達の周辺にいるものだけで最後だろう。
つまりここを一網打尽にできるなら戦いはお終い。
そしていよいよ馬車がその草原の上へとふんわり着地する。
草原と言っても、砂利混じりの土の中から雑草が無造作に生えまくっているだけ。
外に降りて歩くのも苦にはならない感じだ。
ただし、このワイバーン達をどうにかするまでは外には出られない。
あたし達の頭上を取り囲む奴らをどうやって・・・
「まるごっと」
ん?
今の声は・・・
あ、あのロリ妖精!?
「ラウネよ、どうした?」
「あのトカゲどもを傷だらけにして欲しい。」
「何かアイデアでもあるのか?」
「それと一瞬でも動きと止めてくれると・・・。」
「ふむ・・・。」
妖精ラウネと言ったっけ。
彼女はマルゴット女王の首にしがみつきながら、
何かこの場を打開する手段でも思い付いたのだろうか?
あたしは思わず上空の一点を見つめる。
・・・でかい。
赤い巨体のレッドワイバーン・・・。
攻撃力、耐久性、スピード・・・全てが通常のワイバーン種を上回るという。
一匹だけならそれほど苦にもならない相手なのだろうけど、
周りのワイバーンですら、こちらに致命的な攻撃を加えて来るのだから厄介だ。
「カラドックよ、
風の精霊たちに斬撃と冷気を付加しようぞ!」
「かまいたち程度の攻撃力しかありませんが・・・それで良いのですか?」
どうやら方向性は決まったようだ。
女王とカラドックさんの視線がロリ妖精に向かう。
・・・
うっ、うわあああああ、なんだ、あの邪悪な笑みは。
あれ・・・味方のままでいいの?
あたし自身も人のことは言えないかもしれないんだけど、
あたしは少なくとも完全に人類の範疇だけど、
あの子はどう見ても魔物の部類だよ?
と、ともかく女王とカラドックさんは頷きあって、
精霊術に変化を加える。
今までもずっと起動しっぱなしだったけど、その風の乱気流に斬撃属性が加わるようだ。
なるほど、かまいたちというか、小規模の真空状態を創り出し、
上空全てのワイバーンの皮膚が切り裂かれてゆく。
ダメージとしては大したことはないのだろうけど、
痛みはあるのか、今まで以上にワイバーンの声が騒がしい。
肝心のレッドワイバーンの皮膚すら切り裂いているようだが、
むしろ、レッドワイバーンの怒りボルテージはマックスだ。
ついにタバサさんのプロテクションシールドを破って、馬車の天井を鋭い鈎爪で掴みかかった!
大きな揺れがあたし達を襲う!
「冷気を呼ぶぞ!!」
女王とカラドックさんの魔力の属性に変化が!!
あたし達周辺の空気が一気に変わる。
イメージで言うと突然、冷蔵庫のドアを開けたみたいな。
これ、この場のあたし達周辺だからその程度に感じるだけなんだけど、
馬車の頭上はかなりの低温に変化したはずだ。
ワイバーンの悲鳴に困惑と混乱の状態が上乗せされる。
それでもレッドワイバーンは怯まない!
その巨大な嘴で天井に鋭い突きを入れる!
「うわああああああああっ!?」
ラプラスさん、うるさい。
見上げると大きな穴が開いてしまった。
だが、別に喰い破られたわけでもない。
まだ、あたし達に攻撃を加えられる程の隙間はない。
時間の問題と言えばそれまでだが、
マルゴット女王とカラドックさんに任せておけばいいという不思議な安心感がある。
二人の決定的な術の起動の方が早い!
「「『凍りつく茨棘の狂想曲!!』」」
うわあああああああああ、なんだ、それっ!?
周辺に満ちた冷気の間を茨のような魔力の蔦が無限に拡がっていく!?
これ、同じ精霊術士の二人の魔力が完全に同調しているせいか、
本来の術よりめっちゃくちゃ威力上がっているんじゃない!?
術の効果はというと、敵本体にダメージはほとんどないけど、
行動がほぼ阻害されて徐々にHPが削れていくという鬼仕様!!
ワイバーン達は身動きできないわけじゃないけど、まさしく網に囚われたかのようにもがくことしかできない!
「ラウネよ、そなたの望みはこれでいいのか?」
ああああ、これは獲物を狙う魔物の表情だ。
ロリ妖精ラウネは、女王の首元から騎士の人に抱きかかえられると、
馬車の先頭まで自分を運ばせた。
そこまでで、その騎士の人の腕を振りほどき、
四つん這いで笑い声をあげる。
あ、その体勢、パンツ見えるよ!!
「うわはははははっ!
今なら・・・出来る気がするのじゃ!」
ロリ妖精ラウネの目の前には、傷だらけで動けないワイバーンが数匹いる。
パッと見、すぐにでもワイバーンの嘴でロリ妖精は一飲みされそうな位置だけど、
ワイバーンは悔しそうな目で「ギャッギャッ!!」と騒ぐのみだ。
あの妖精何するの?
「おお、都合よく仲良く並んでいるのじゃあ、
ほれ、もっとくっつくのじゃ、そうそう。」
するとロリ妖精はちっちゃな手を翳してワイバーンに触れようとする。
あたしの感知では危険は・・・
うぇぇ、・・・確かにロリ妖精には危険はないな。
ロリ妖精には。
「「アッギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」
これ・・・危険ではない・・・と言っていいのだろうか。
そう、ロリ妖精ラウネはとんでもないことをした。
彼女がなにをしたのかはすぐにわかった。
けれどあたしの肉眼の目の方が、彼女が何をしたのかすぐに理解しようとはしてくれなかった。
現にあたしの周りの皆さんも、何がどうなったのか未だによくわかってないのだろう。
くっついてる。
二匹のワイバーンが、一匹の翼部分ともう一匹の首の部分で、変な風にくっついているのだ。
多分、ケイジさんの目ならすぐにわかるだろう。
おそらく肉と肉が溶け合ったかのように融合している。
そしてそれはどうやら正解のようだ。
「やったのじゃ!
ラウネのユニークスキル【融合】が成功したのじゃ!!」
「「「「ゆ・・・・融合ぉぉぉおおおおおおっ!?」」」」
「全部このトカゲどもを集めて欲しいのじゃあ!
まとめてくっつけてみせるのじゃあ!!」
みんなが事態を理解するのに時間がかかったのは仕方ないと思う。
比較的早く我に返ったケイジさんが、
騎士の人とヨルさんを一喝して、槍や剣でワイバーンたちを一か所にまとめてゆく。
時々反撃を試みようとするワイバーンもいたけど、
あたしも反撃の意志を見せた個体に「この子に七つのお祝いを」プレゼント。
はい、皆さん数珠つなぎのように・・・
いや、肉の塊と言った方がいいのか・・・
ワイバーンの身体でちょっとした肉の山が出来上がっている。
ええ、その真ん中にレッドワイバーンさんもいらっしゃいます。
これ、何が恐ろしいかって、
ワイバーンの肉体はもとより、
それぞれ頭の方が体のどこにどんな動きをすればいいか、命令する事すら出来ないだろう。
・・・なんて悍ましい能力なんだ・・・。
もう、みんな危機は去ったのを理解したのか、
馬車から出てきてこの現実離れした光景を、ぼーっと突っ立って見ているしかできない。
ロリ妖精ラウネは得意そうな顔で、再び女王の首元にしがみついていた。
「えっと、これ・・・。」
リィナさんが光の失った瞳で、その小山を見上げていた・・・。
「これ、あたしが止め刺した方がいいの・・・?」
誰もすぐに答えられない・・・。
「みんなくっついてしまったからの、
どれか一体の心臓や頭を破壊しても死にはせんのじゃあ。
けど、ほっとけば時間が経って、勝手に死んでしまうのじゃ!」
すでに精霊術の氷の茨は解除されてるけど、
うん、これはワイバーン、どこにも行けないよね。
頭部分や翼はそれぞれ勝手に動かせるけど、
意志の統一がないのなら、カラダの各部位がてんでんばらばらに動こうとするだけで、
移動すらまともに出来ないだろう。
「・・・もう無害なんだろうけど、
こいつの息の根止めないとオレらの経験値にならないからな、
きっちり止め刺すしかないだろう・・・。」
ケイジさんの声がなんか投げやり・・・。
「わ、わかったよ・・・。」
その後、リィナさんが天叢雲剣でケリをつけてくれた。
天叢雲剣の雷撃は、あたしも目で見たのは初めてなので、凄く感動した・・・。
感動したけど・・・
ロリ妖精の能力の方がエグすぎた・・・。
できれば別の機会に見せて欲しかった・・・。
次回、
ケイジの告白シーンです。
それで・・・今度こそ本当に魔人のほうに・・・?