第二百四十五話 ただいまギルド前出発間際
今回もケイジ視点です。
翌日・・・
ギルドから使いがやって来た。
指定依頼が発生したそうだ。
冒険者もAランクになると、断ることも出来ない強制依頼もあるのだけど、
今回は拒否することは可能。
だが内容を見て驚いた。
【指定依頼】 Sランク
条件:なし
依頼元:怪盗バブル三世
依頼の種類:討伐
詳細:面談にて
内容:魔人クィーンによる魂召喚の永久的停止
あの野郎!
次の会合で話を決めるとか言ってたくせに、一手差し込んできやがった!!
「だが、ケイジよ、
これはそなたらにとってはメリットの多い話ぞ?」
それは・・・女王の言う通りではあるか。
「・・・それはわかっている。
依頼元が怪しい名前になっているが、
ギルドが仲介することによって、この事件は大々的に拡がる。
ベードウーア王国が情報を隠匿することも出来なくなるし、
オレら『蒼い狼』の名もさらに知れ渡ることになるだろうな。」
冒険者の詳細については情報公開厳禁だが、依頼やクエストそのものには制限がない。
むしろSランククエストなんて滅多に発生しないのだから、
その情報はあっという間に他国に知れ渡るだろう。
すなわち、「魔人とは何ぞや!?」「魂の召喚とは何事ぞ!?」というわけだ。
そうなると、マルゴット女王が昨日、ベードウーア王国のタッカーナ王太子に釘を刺したことも深い意味を帯びてくることになるな。
「デメリットと言えば、
戦闘への準備期間が足りなくなることだな。」
カラドックの言う通り、余計な寄り道をしなくて済む分、
着実にレベルアップするという選択肢はもはやない。
今の戦力で魔人に立ち向かわなくてはならない。
そして何より不安が募るのは、
マルゴット女王の政治的能力を無にされることだ。
いや、これはオレたちの方の問題だろうな。
別にマルゴット女王は「蒼い狼」のパーティーメンバーではない。
最初の予定通りのメンバーで魔人の元に向かい、女王にはグリフィス公国に戻ってもらい、他の諸国にいろいろ手を回してもらうだけで話は終わる。
でも一緒に来るってんだろ?
「もちろんじゃ!!」
前世の記憶のあるオレにしてみれば、
国の重鎮やら、最高権力者は王宮などに守られ、
絶対不可侵というイメージがあるのだが、
この世界の貴族や王族は、ある程度身軽に戦場や魔物の討伐に向かう事があるようだ。
もちろんそれらは、頻繁にあることでもないし、それなりの政治的都合で繰り出す場合もあるらしい。
オレのこの世界での父親も、武勇を上げるために魔物討伐を何度も行っていたという。
・・・ただなぁ、マルゴット女王の場合、
「サキュバスとやらを見てみたい」
・・・だそうだ。
「そもそもじゃ、
国を抜け出すこと自体、滅多に出来ないのじゃぞ?
妾にとっては、このアークレイも、
魔族の地とやらも、ドキドキワクワク感が半端ないのじゃ!!」
はぁ・・・。
「日頃、冒険しまくっておるケイジに妾のことは責められまい?
・・・王宮を抜けたのに、大なり小なり似たような理由もあるじゃろう?」
う・・・。
それを言われると・・・。
確かに当時は閉じ込められてる感は半端なかったからな。
自由を奪われている、という意味では女王も同じなんだろうけど・・・。
同じなんだろうけど・・・何か納得がいかない。
「そうですわよ、ケイジお兄様、
お兄様ばっかりいろんな場所に旅が出来て羨ましいですわ?」
うん、だからね、イゾルテ、
命の危険があるんだってば。
カラドックが遠い目をする。
「・・・あの時もこんな感じだったかな。」
・・・ああ、
カラドックの言いたいことが分かっちまった・・・。
前世で、父親たちと敵国スーサに潜入する旅をしたときか。
商人一家のフリして、李那や、陽向おばさん、ガラハッドたちと、
その旅の途中で、後にカラドックの嫁になったラヴィニヤと出会ったんだよな、
あの天然お嬢様と。
今でもあの天然振りは健在だろうか。
気が付くとオレの口からは笑みがこぼれていたようだ。
・・・結局、全員でギルドに向かう。
いま、総勢何人だよ!?
パーティーメンバーが7名、
マルゴット女王一行が・・・妖精入れて6名・・・計13名!?
一気に大所帯だな・・・って、これラプラスでもどうにかできるのか!?
「お任せください、
その仕事、引き受けましょう!」
いや、引き受けるって、魔人クィーン討伐依頼したのお前だろ!?
ギルドについたら、待合スペースで優雅に紅茶を飲んでいやがった、ラプラス。
オレたちが来たことでギルドの受付嬢がギルドマスターを呼び・・・オルセンって言ったか?
ギルドマスターの部屋で最後の確認作業を行った。
重ねて確認したのは一点、
魔人クィーンの生死については不問とのこと。
「蒼い狼」の判断で殺すべきと判断したならそれでいいという。
要は、人の魂を召喚して邪龍に捧げる行為をストップできるのなら何でもいいそうだ。
ハイエルフのタバサにも確認したが、
それで全てが元通りになるとのこと。
もっとも、邪龍その存在そのものが今後の危険として残ってはいるが、
少なくとも最初の目的は達成できる。
その後に、麻衣さんに一働きしてもらえば、「深淵の黒珠」も返還するというから、ダークエルフのアガサも満足してくれた。
・・・後は、肝心の移動手段だが・・・
「それについては、ギルドの裏手広場をお借りしております、
オルセン様、よろしいでしょうか?」
げんなりした顔でギルドマスターは頷く。
なんか、また無茶を引き受けていたような顔だな。
その理由はすぐにわかった。
無茶っていうか・・・常識はずれなものを見させられて、
どう対応していいか、わからなかったんだろうな。
オレたちが裏手への扉を開いた時、
そこには見覚えがあるようで、絶対にありえないものを見てしまったからだ。
馬車・・・
いや、馬はそれを牽いていないな、
そこに馬は存在しない。
つまり馬車の箱だけ・・・。
箱馬車、いや、箱・・・車。
それもいい。
問題は、その箱部分が異様に長い。
箱馬車の箱が、マイクロバス化したと言えばいいのだろうか?
確かに20人近くは入りそうだ。
「「「おおおおおっ!?」」」
ああ、驚嘆の声が出るのもよくわかるよ。
これに乗って、魔人クィーンのところまで行くってんだろう?
でもこれを牽くのは?
「それは私めに!!」
ラプラスだ!!
見れば御者台らしきスペースにラプラスが颯爽と乗り込む。
あ、うん、そこまではいいが馬の役目をするのが・・・あ、そのまさかか!?
「さぁ、皆さまどうぞお乗り下さい!
ラプラス商会で儲けたお金はこういうところで還元されているのですよ、
では皆さま、快適な空の旅を!!」
そう言われて誰がって・・・
女王や麻衣さんが真っ先に乗り込む。
続いて、タバサにアガサ・・・
リィナやヨルはまだ尻込みしてるが・・・こういうのにも性格が出るんだろうなぁ。
女王が乗り込む以上、騎士ブレモアやニムエさんも・・・
いや、本来ならお前らが先に乗り込むべきなんだろうが、
オレが言えた筋合いじゃないな、
続いてベディベールが、そしてイゾルテの手を引っ張って乗り込む。
いいお兄ちゃんしてるじゃねーか。
仕方ない、オレも乗り込むか。
「先に乗るぞ、カラドック。」
「あ、ああ、わかった、私も行こう。」
学校の修学旅行ってこんな感じか?
オレの時代には、もうそんなもん残ってなかったからな。
母さんたちから聞いた知識だけの話だ。
最後にリィナとヨルが乗り込む。
「こ、こ、こここれ、ラプラスが先頭にいるってことは・・・
あ、あれだよね?
空飛ぶんだよね?
このまま? これ浮き上がるの!?」
「うううう嘘ですぅぅぅぅ、
こんなもの飛ばす魔法なんて存在しないですよぉぉぉぉっ・・・?」
状況を正確に理解できて何よりだ。
オレも半信半疑なんだがな、
実際ラプラスが空飛んでくのを見たの、昨日で二回目だ。
そのせいなのか、なんとなくこの状況もすんなりと受け入れてしまっている自分に驚いた。
オデム
「マスター?
どーして、人間の魂が大事?」
泡の女神
「うーん、正直、どうでもいいかなとも思うのですが、
一応、私の肩書きは女神なのでね、
女神というのは、人間に信仰されてこその存在。
その人間を一方的に消滅させられるのは収まりが悪いと思うのですよ。」
オデム
「へー、そんなものなんだ?」
泡の女神
「さらに言うとですね、
多分私の体と一体化している世界樹に、
影響出ているような気がするんですよね。」
オデム
「えっ!?
そーなの!?」
布袋どん
「あ、し、死んだ人たちの魂が世界樹に、
は、運ばれてこなくなる?」
泡の女神
「私自身の未来は見えないのですが、
多分、世界樹的にはよろしくない事態なのかなと。」
オデム
「マスターを傷つけるならオデムが行く!」
泡の女神
「いえ、どうやら魔人クィーンとやらは、
私の以前の世界からの転生者、
ならば、同じ異世界から来た彼らに決着をつけていただきましょう。」