第二百四十三話 ケイジの考察
ぶっくまありがとうございます!
<視点 ケイジ>
疲れた・・・。
だが、気分はどちらかというと晴れやかだ。
目の前には更なる困難が待ち受けているのだが、
長年の柵が消えていっているからか、オレは比較的自分の肩が軽くなっているのを感じる・・・。
リィナを救う事が出来た。
マルゴット女王を受け入れる事が出来た。
ベディベールやイゾルテの笑顔も見れた。
・・・まだ解決できないのは、カラドックの・・・いや、この問題を解決する手段など在りはしない。
カラドックがオレを許したとしても、オレのために大勢の人間が命を失ったのだから。
というよりも、カラドックがその大勢の人間たちを治める国王である以上、カラドックはオレを許してはならないのだ。
もっとも、こう考えることも出来る。
オレは前の世界で罪を犯した。
・・・その報いを・・・という言葉を使うには抵抗が有るものの、
オレはあの世界で殺されることとなった。
そしてその時のカラドックも、オレが父親に殺されることを覚悟していたようだ。
では・・・前の世界の罪はそこで清算されたと考えてはならないのだろうか?
オレのために死んだ者やその家族は納得などしないだろう。
だが、異世界に転生まで果たしたオレは、いつまでその罪をかぶっているべきなのか。
・・・正直に言おう。
オレは自分のことを善人とは思っていない。
むしろ悪役だとすら思っている。
冒険者家業をやっているのも、獣人差別をどうにかしたいと思っているのも、別に正義感からではない。
「歪」なものがそこにあるから正そうというだけの話だ。
靴下を片っ方、裏返しにして履いているのに気付いたら直すだろう?
それだけの話だ。
そう思うと、オレがカラドックに罰を受けるべきと考えるのも、
結局は自分の中にある「歪」なものを、あいつに何とかしてもらいたいという思考の延長にすぎないのかもしれない。
自分の心の中のごちゃごちゃした部分が解けると気分はすっきりする。
それが良い事だろうと悪いことだろうとも。
ある程度、自分が納得できる理屈が通れば、それへの対処もなんとかなるかと錯覚できるからだ。
過去のことはその辺でいいだろう。
とりあえず今の目的だ。
ラプラスの提案を受け入れて、魔人クィーンの元へ向かう。
その女も転生者のようだが・・・。
転生者・・・つまりそれは、カラドックや麻衣さんのような、
元の世界で生き続ける人間ではなく、
オレと同じく、向こうで死んでこちらの世界に生まれ変わった者。
オレがヒューマンではなく、獣人ハーフとして生まれたのと同様、
その女もヒューマンではなく、よりによって魔族・・・サキュバスとなったという訳か。
サキュバスってのは、前の世界でもその概念はあったが、
こちらでは妖魔ではなく、魔族扱いなのか?
ヨルの話だと、魔人てのは魔族の中でも特殊個体だというから、そんな厳密に区別する必要はないのかもな。
領主の館から、オレたちはギルドで用意してもらった宿泊所に帰って来た。
ラプラスはオレたちの結論が出るころにもう一度やってくるという。
そうそう、
どうでもいいが、ラプラスは壊したガラスの弁償代だとかいって、
結構な額の金銭を領主に払っていた。
・・・変なところで律儀なんだよな。
だから憎めないというかなんというか・・・。
オレとカラドック、そしてマルゴット女王を中心に、今後の協議を行い、
全員一致で魔人の元に向かう事になった。
・・・女王も一緒に行くとか言い出した時は大騒ぎになったけども。
さすがにそれは、口を出す資格がないはずの、メイドのニムエさんも騎士ブレモアも反対した。
ところが女王は何を考えたのか、ベディベールとイゾルテを見て「修行じゃ」と笑ったのだ。
・・・いや、そりゃ、彼らも実戦を経験させておきたい気持ちはわかるが、よりにもよって・・・。
一応、女王は「戦いを避ける事が出来るならそれに越したことはない」と交渉を前提としているようではあったのだが、もう既にドンパチ始めちまってるからなぁ。
一方、タバサやアガサはテンションが高く、ノリノリで今後の旅に向けて気合をいれていた。
もともとエルフの街で起きた事件が発端だしな、
それが今回、一気に解決できるかもしれないんだ。
はやる気持ちも分からないではない。
魔族娘のヨルは、これまでカラドックべったり一辺倒だったが、
執事のシグにいいようにあしらわれた事にリベンジかましたいらしい。
急激に実力の差は埋められないとは思うが、
どうにかして、シグの鼻を明かしたいようだ。
逆に大人しくなってしまったのが麻衣さんだ。
「闇の巫女」などというなんとも・・・ゲフン、いや、立派な二つ名を与えられたことが原因だったと思ったが・・・。
だが「闇の巫女」とはどういう意味なのだろうか?
彼女は高レベルの巫女職にあるので、「巫女」の方はいい。
気になるのは「闇」の方だ。
彼女は巫女職以外にも、召喚士、鑑定士、そしてユニークジョブの虚術士という職業を持っている。
召喚士はレアとはいえ、時折冒険者にも見かける職だ。
鑑定士は商人など、一般人でも見かけるジョブだ。
となると、「虚術士」って奴だが・・・ただこれに関しても、麻衣さんの話だと「無属性」らしいので、「闇」とは関わりそうもない。
そう、あくまで「巫女」に関わる属性という事なんだろう。
本人に聞いてみても、よくわからないとのことだったが。
「何か心配事が有ったら、オレたちの誰でもいい、
気軽に相談してくれ。」
とだけは言っておいた。
無責任なようだが、少しでも麻衣さんの心理的負担は減らしてあげたいとは思う。
彼女は元の世界じゃ、ただの普通の女子高生なのだし。
それがオレ達みたいな、命の危険が伴う世界のトラブルに巻き込まれて・・・。
本当に申し訳なく思う。
そこで麻衣さんはにっこり笑ってくれた。
「ありがとうございます、
ケイジさんは優しいですね・・・。」
・・・っ?
なんだ・・・なんだ、これ?
思わず、心臓を鷲掴みにされたみたいな・・・。
あ、あ、これ、いや、ときめき・・・
いや! 違う!
オレにはリィナがいる!!
いや、そうじゃなくてっ
なんで、こんなっ?
・・・あ、そうか、わかった!
こんな風に普通に笑顔を返されたのが、今までなかったからだ!!
「あれ? ケイジさん、どうかしました?」
う、うわ、ヤバい、見抜かれるな、
オレが動揺してることを見抜かれてはならない!
「い、いや、すまない、
今更だが、若い子・・・特に女性はオレの顔見て引く奴が多かったものでな、
あまりに麻衣さんがナチュラルな笑顔を浮かべてくれたもんだから、多少戸惑って・・・。」
よし、なんとか誤魔化せたぞ。
真実の中に嘘を混ぜる!
これが賢い嘘のつき方だ!!
「あはは、それこそ今更ですけど、
あたしは他人の感情が分かりますからね、
ケイジさんが純粋にあたしを心配してくれたのはわかってますよ。」
・・・いい。
いや、か、勘違いするな!?
別に彼女を女性として意識してるわけじゃないからな?
カラドックが時折、麻衣さんを尊いものでも見るような目をしていたが、
今なら奴の気持ちもわかる。
考えてみれば、オレの周りにはガサツなリィナと、
何かと自分たちの身体を使う事に躊躇いを見せない二人のエルフとか、
こういう女の子らしい女の子がいなかったんだ!
ん?
まてよ?
・・・他人の感情が分かる・・・?
てことは、今、オレが舞い上がっている状態も・・・分かってしまうってことに?
・・・そっと麻衣さんの顔を見る。
ニコニコしている・・・。
こ、これはどっちなんだ・・・。
見抜かれているのか・・・。
どうする?
麻衣さんに確かめた方がいいのか?
いや、このタイミングで?
でも、今後のこともあるだろうし、またいつ・・・
「あ?」
ん?
「麻衣さん、どうした?」
「い、いえ、リィナさんが近づいて・・・。」
え!?
オレは危機を察知して後ろを振り返る。
・・・どうやら麻衣さんの危機感知能力が上回ったようだ、
二、三秒してから能面のような表情をしたリィナが現れた・・・。
「・・・ケイジ?」
「お、おう、どうしたリィナ?」
「ここで・・・麻衣ちゃんと何を?」
だからリィナさん、怖い・・・。
「い、いや、彼女が元気なかったみたいだから、声をかけただけだぞ!?」
「・・・ふーん、
まぁ、いいや、ちょっと来てくれる?」
「ん? 何かあったのか?」
「いや、何かってほどでもないけどな、
あの、女王の首元の・・・妖精?
あの子が動き始めたから、お前も見といたほうがいいのかなって。」
おっ?
妖精ラウネだったか?
それは興味あるな、ちょっと見てくるか。
「あ、あたしも見に行きます!!」
麻衣さんも見物に来るという。
まぁ、妖精種なんて滅多にお目にかからないからな。
見れる時に見た方がいいだろう。
この後、オレの後ろで麻衣さんとリィナが何か話していた。
ちょっと気になったが、リィナが明るい笑みを浮かべていたから心配するようなことはなかったのかもしれない。
お待たせです!
次回、妖精のアルラ改めラウネの出番です!