第二百四十話 ラプラスの目的2
評価ありがとうございます!!
・・・今回・・・字数が多く、二話に分けようか・・・。
いいや、いっちゃえ!
ちょっと長めです。
今回で「バブル三世」側が持っている情報はほぼ出したかな?
ケイジ様が語気を荒げる。
「なんだと!?」
これは私もびっくりした。
答えられない理由が何かあるのであればまだしも、
今の答え方は「何も知らない」とでも言わんばかりの言い回しなんだもの、
誰だって呆れるか、怒りだすかのような反応になるのは仕方ない。
それはすぐにラプラスも説明が必要なんだと判断したようだ。
「コホン、
ご不快になられたようでしたらお許しを・・・。
では、もう少し詳しく言いますね?
えー、
私たち自身が何者か、というの説明と若干被るところもあるのですが、
そもそも、私たちはあなた方より先にこの世界に生を受けただけの存在、
我らがマスターには特別なスキルがあるとはいえ、カラドック様、伊藤様より先に情報を入手しているだけ。
私たちはあなた方が向かおうとしている目的に対してのラスボスでもないし、
筋書きを立てている仕掛け人という存在でもありません。
・・・その意味では、我らがマスターはあなた方、異世界からの転移者と同じ立場なわけです。」
「お前たちのマスターも転移者・・・なのか。」
「正確には転生者・・・ですがね。
マスターはあなた方の世界で一度、死に・・・
この世界で目を覚まされた・・・。」
ここでカラドック様が口を挟まれた。
「ラプラスさん、
君のマスターの名は・・・?
私と同じ転移者の麻衣さんと私に、直接の面識はなかったが共通の知人がいた・・・。
君は私の称号も知っていたようだったが、転生者である君のマスターが私たちの関係者なのか知りたい・・・。」
「・・・ああ、それは・・・
いえ、あなた方と直接の面識がないのは間違いないと思います。
マスターの名前に関しては私の口からは言えません。
深い意味は有りませんがね。
単にそれはマスターの許可なく言えるはずがないというだけです。
我々自身、マスターの名を呼ぶこと自体ないのですしね。
そのせいか、私と同じ立場であるもう一人の眷属、オデムでさえマスターの名は知らないのです。
・・・まぁ、彼女の場合はマスターの名前になど興味がないだけだと思いますが。
もしマスターの名前を知りたければ、直接マスターに聞いてみてください。」
「では私の称号を・・・いや、
君のマスターが私たちの情報をどうやって入手した?」
「それは単純にスキルですな、
そちらのマルゴット女王は『魔眼』というスキルでその目に視た者の情報を得るのでしょう?
我がマスターの『運命の三女神』は、遠方でもそれが出来るというだけの話です。」
カラドック様どころか女王までも絶句していた。
女王の魔眼自体、他人からは脅威のスキルなんだけど、それをあっさりと上回るスキルを持っているなんて?
「じゃあ、あたしからいいですか?」
麻衣様が口を開いた。
大人しそうな印象の子・・・妖魔なんだけど、はっきりと自分の意志を持っているみたい。
「はい、麻衣様、なんなりと。」
「あなたのマスターが愛した人・・・
というのは、あたしの知っている人・・・でいいんですか?」
え?
てことは滅茶苦茶関係者じゃない!?
「・・・それは私にもわかりません。
布袋さんに与えられた『異世界の記憶』にもレベルのようなものがありましてね、
そのベースとなった人間の記憶も、その一部しか布袋さんは認知できないようなのです。
布袋さんの話によれば、その記憶の中で麻衣様は、凄くキラキラした目でその人物を見上げていたという話だそうですが、麻衣様の記憶はその時限りと・・・。
・・・夜の体育館・・・での出来事でしたかな?」
「あ、・・・う、
わかりました・・・多分その人の記憶は・・・
あたしにとって・・・あたし達にとって、とても大事な人です。
恋人とか・・・恋愛対象的な話じゃありません、
あたしたちの恩人・・・仕えるべき人・・・
あたし自身、言葉にするのは難しいんですけど・・・。」
カラドック様が振り返る。
「麻衣さん、その人は私や母とは関わりなさそうな人なのかい?」
麻衣様が言葉に詰まっているように見える・・・。
「それは・・・、
わ、わかりません・・・。」
ようやく、答えられたみたいだけど、
今のは本当に分からない上での反応だろうか?
それとも知っているけど言えないという反応だろうか?
出来る子メイドの私にも判別はつかない・・・。
そこでカラドック様がラプラスに向き直る。
カラドック様は麻衣様の答えをそのまま受け入れたのだろうか?
いえ、今はこの場の行方を見守ろう。
「・・・なら、今はそれ以上の追及は出来ないか・・・、
では魔人の方は?
魔人クィーンも転生者だという話があるが・・・。」
「ああ、それはまだ伝えてませんでしたかな?
そうですね、魔人クィーンは転生者です。
ただ、それ以上の詳細はわかりませんよ?
ステータス画面に称号があるのが見えたとて、
誰が誰の知り合いなんてマスターのスキルでもわかりませんからね?
ああ、スキルコピーと召喚スキルを持っているのはご存知でしたかな?」
「・・・ああ、つい先日ね。」
「ではこの情報はいかがでしょう?
魔人クィーンの種族はサキュバス、
私に明らかに出来るのはここまでですかね?
男性は彼女の元に向かう時に、魅了されないよう気を付けた方がいいでしょうな。」
サキュバス!?
それってヴァンパイアと並ぶ高位の魔物では!?
「サキュバスか・・・
それはありがたく参考にさせてもらうよ・・・。
それにしても召喚スキルを持っているサキュバスか・・・、
しかも他人のスキルをコピーして・・・うん?」
カラドック様が何かに気付かれたようです。
「おや、カラドック様、何か?」
「ラプラスさん・・・一つ聞きたい。
魔人クィーンは人間の魂を集めていると聞いたが・・・その手段・・・、
もしかして召喚スキルを使っているのか!?」
「「「ええええ!?」」」
びっくりした。
みんなびっくりした。
特に召喚士でもあるという麻衣様の反応がただ事でない。
「そそそそ、そんなことが召喚スキルで出来るんですか!?」
麻衣様が驚くのも当然だ。
どうやら、これが今回一番驚いた話だろう。
「ああ~、どうやらそのようですねぇ。
まぁ私も召喚についてそれほど詳しくは有りませんので・・・
ただ、まぁ、魔人クィーンの魔力はここにいらっしゃるどの皆様よりも強大です。
なので、立ち向かうのならば、万全の体制を整えてください。
まぁ、今ここに集まった皆様方が力を合わせれば・・・
どうでしょうかね?
戦い方によっては勝ち目もあるのかというところでしょうか?」
ここでまたケイジ様の出番です。
「・・・それで、
お前たちはどうするんだ?
オレたちを魔人の黄金宮殿とやらに連れて行くと言ったが、
オレたちと手を組むという事でいいのか?」
「申し訳ありません、
私たちの使命はマスターをお守りする事、
あなた方と共に戦うことは出来ません。」
「ならマスターが直接・・・
いや、そもそもならなんでオレたちに有利な情報を与えにわざわざここへ来た?」
「マスターはこの世界に転生した時点で、ある場所に封じられたままです。
その場所から一歩も外に出ることは出来ません。
それと・・・別に私たちも魔人と敵対するつもりは一切ありませんので。」
「あ? 敵対するつもりがない・・・?」
「先程も申しましたが、私たちがあなた方に望むのは、
麻衣様を一度、マスターの元へ連れていきたいだけです。
・・・あと、すいません、深淵の黒珠はその時まで、もう少し貸してください・・・。」
ダークエルフのアガサ様が「グルル」と唸り声をあげている。
ちょっと可愛い仕草だ。
お持ち帰りしたいというのは失礼だろうか?
「じゃあ、魔人の所まで案内するというのは・・・。」
「はい、あなた方の味方をするのではなく、ただの麻衣様をお借りする対価です。」
「ちょっと待て、
魔人や邪龍の存在は、お前たちにとっても危険な存在じゃあないのか!?」
「いえいえ、
既に申したでしょう、
我らはマスターに仕え、ただマスターをお守りするだけの存在。
もともと私が商会を立ち上げたのも、一定の財力を持つことによって、
マスターを守る手段を増やす為のもの。
マスターに不利益がないなら、魔人だろうが邪龍だろうが、私たちにとってはどうでもいいことです。
その意味では魔族の皆様と私たちは似たようなスタンスですかねぇ?」
「あなたのマスターさんは女性なんですよねぇぇぇ?
自分の子供が生まれなくなっても良いのですぅぅぅ?」
魔族のヨル様が不思議そうな顔して尋ねられた。
うん、魔族とは言え女性なら当然の疑問だと思う。
「ああ、それは・・・
ううむ、これは男の私の口からは言いづらいですねぇ・・・
そうですな、
そもそもマスターが愛する男性は、異世界におられるままの筈です。
ヨル様でしたか?
あなたは愛する男性以外の子供を産みたいと思いますか?」
ああ、そう言う事か。
その人と会えないなら、初めから子供の事など考える必要などないわけか。
ヨル様もそこは納得できたらしい。
「ううう、わかりましたですぅぅぅ、
でも一途な方なんですねぇぇぇ、あなたのマスターさんはぁぁぁ・・・。」
うーん、恋愛譚としては憧れるけど、
実際に自分の身では想像したくもないな・・・。
愛する人と世界を渡って離れ離れになるなんて・・・。
「つまり何か?
極論だが、人類が滅んでも、お前たちのマスターにとってはどうでもいいということか?」
あ、話を聞き逃すところだった。
ケイジ様、ありがとう。
「・・・はい、まぁ・・・いえ、確かに極論ですな。
ただ実際は、邪龍が人類の魂を喰らう行為を、マスターの目には不愉快に映ってはいるようです・・・。
その意味ではあなた方が邪龍を敵と見做す限り、我らは協力的ではあると言えますな。」
「あの・・・あと一つだけ聞かせてください。」
「ええ、麻衣様、どうぞ。」
「あなたのマスターさんは、あたしの力を借りたいと言いますけど、
それは今じゃダメなんですか?」
・・・あっ、そうか。
別に魔人の所へケイジ様たちを連れて言う話に対しての対価とか言ってたけど、
話の順番が変わっても問題ないはず。
むしろ、強大な敵と戦って麻衣様に何かあってからでは、マスターの望みとやらは叶わなくなる可能性もある。
ならリスクを減らすには先に麻衣様を連れて行った方が?
「なるほど。
それはもっともな話です。
実を言うと、私がここに来るまでの間にも、我ら三人でその話は出ました。
先に麻衣様だけお迎えして、あとの皆様の事は放っておこうかとも。」
あ、ダメダメ!
ちょっと、それ、ケイジ様達の立場からしたら問題多すぎる!!
こっちにメリットが完全になくなってしまう。
「え、じゃあ、何か理由が?」
「いえ、それ程大した理由じゃありません。
麻衣様の巫女レベルが上がっている方が、マスターの望みは叶えられ易いのではないかという判断です。
恐らく魔人側は強力な魔物を召喚するでしょう。
それを打ち破る事が出来れば麻衣様のレベルは確実に上がるでしょうからね。
これは布袋さんの『異世界の記憶』を根拠としています。
布袋さんが戦闘で魔物を倒し、レベルが上がることによって、
マスターの想い人の記憶がどんどん蘇っているのですから。
同様に、麻衣様のレベルが上がっていれば、上がっていくほど、その方の多くの姿が深淵の黒珠に映るのではないかと思うのですよ。
・・・あっと、これは余談ですがね、
布袋さんがその記憶を話す事によって、マスターが喜んでいただけるのは確かなんですが・・・
布袋さんの語り口が独特のテンポでねぇ・・・
あの人は講談師にはつくづく向いてませんね。
あの人に吟遊詩人の適職があれば良かったのにと切に思います。」
ラプラスが宙に浮かびながら遠くを見ていた。
布袋ってどんな人なんだろ?
さっきから話に出てるオデムって人は、
こないだお人形のメリーさんが言ってたスライムだか、なんだか分からない謎の魔物のことね?
そっちはあんまり見たくないなぁ。
あ、そうそう、
この場にいるのに、さっきっから全く反応のない人たち?
あの人たちは大騒ぎしてるよ?
いえ、正確に言うと大騒ぎしているように「見える」よ?
ベードウーア王国の王太子たち、
手足をバタバタさせて、口もパクパク開いて何か叫ぼうとしているみたいなんだけど、
何も聞こえてこない。
不思議に思って周りを見回した時、麻衣様に視線があった。
あれ?
何もなかったかのように目を逸らされた!?
麻衣
「あの人たち、うるさそうだからサイレンスかましました!」