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第二十四話 街に戻るところなの

<視点 メリー>


その時、風が動いた。

アルデヒトが止める間もない。

女性パーティー、「苛烈なる戦乙女」のメンバーが、テラシアの合図とともに全員で生き残りゴブリン全てを殺して見せたのである。

老婆も赤ん坊のゴブリン全てを。


リーダー・テラシアはバスタードソードを鞘に納めると、堂々と私の前に立ちふさがった。

これで文句はあるのかとでもいうように。


「銀の閃光」ストライドは、最悪の事態を想定して脂汗を垂らしている。



私は死神の鎌を握りしめた。

周りの緊張度が一気に膨らむのがわかる。

けれども・・・。


 「正解よ・・・。」

私は鎌を軽く振って、テラシアの首元で止める。

 「彼女たちは・・・まだ生きているけど報復を願う権利がある。

 それは殺されゆくゴブリンも理解したでしょう。

 だから、私の鎌は発動しない。

 むしろ女性たちの怨嗟の叫びに反応しそうだったわ・・・。」


そして私は鎌を大地に落としたのである。


そこでようやくテラシアの顔に笑みが浮かんだ。

たぶん、私から「一本取ったぜ」とかそういう意味合いの笑みだろう。


私は鎌から右手を放し、テラシアの前に拡げて見せた。

この世界にそういう習慣があるかどうかは知らない。

けれど、テラシアはそのままフッと笑ってハイタッチしてくれたのだ。



すぐにテラシアは体を反転、アルデヒトに大声を放つ。

 「女性たちの保護を!」


そこでアルデヒトも我に返ったようだ。

残りのメンバーに次々に指示を振り分ける。

もっとも、奥の女性たちを直接扱えるのは同性である「苛烈なる戦乙女」たちだけだ。



それにしても・・・

むごすぎる・・・。


女性たちが閉じ込められていた場所は、凄惨・・・それ以外の言葉が見つからないほどの最低な光景だった。

衛生面と栄養面にはゴブリンなりに気を遣っていたようだが、合計七人の女性たちは、身も心も全てが壊れていた・・・。


 「もう大丈夫だ」「助かったぞ」、

そんな言葉がなんと空々しいことか。


まだ、妊娠の兆候が見えない者もいるが、手遅れでない保証はどこにもないし、すでに二回目か三回目の途中であるのかもしれない。


いずれにしろ、冒険者たちに助けられ、安堵の表情を浮かべた者は誰一人としていないだろう。

無理もない。

地獄は終わってないのだ。

「それ」は自分の腹の中にいる。

家族や仲間を殺され、その魔物どもに孕まされるなど、気が触れたとしても何ら不思議もない。


この後、自ら命を絶つことも十分あり得る。


まともに口を聞けたのは、最初に私たちの所まで這ってきた女性含め三人だけだった。

もっとも、あれを「まとも」と言っていいのか判断は分かれるかもしれない。


ハーケルンの街の者はいなかった。

彼女たちは、遠方から商売のためにハーケルンを目指した商人或いは護衛で、全員が元から知り合いというわけでもないそうだ。

それぞれ別の団体の生き残りということらしい。

その為、被害に遭ったことも誰にも知られることなく、この状況になってしまったという。

せめて帰る場所が残っていればいいのだが。




夜が明けると「銀の閃光」たちが馬車を呼びにいく。

全員は乗せることができない。

まずは被害女性たちと、三人の「苛烈なる戦乙女」が一台に乗り込む。

男どもとテラシアはもう一台。

あぶれた連中は徒歩で馬車の周りを護衛。

後は休憩ごとにローテーションで徒歩の護衛を交代することになる。


戦果としては最高の結果だろう。

想定より遥かに多いゴブリンを討伐、

その中には進化を果たしたゴブリンメイジとホブゴブリンも含む。

そして冒険者たちに犠牲はなく、重傷者すらいない。

囚われていた女性たちも救出となれば、冒険者ギルドにとっても、ハーケルンの街にとっても快挙と言えるだろう。


もっとも今この場でそれを喜べるものなどいない。


それでも彼らは顔をあげなければならない。

「伝説の担い手」リーダー、イブリンは表情を変えずにその場にいる全員に声をかけた。


 「被害はこれ以上拡がらない。

 我らは冒険者として最高の任務を果たしたのだ、

 全員、胸を張るとよい。」


頷く者は誰もいなかったが、それでも顔を上げるものなど、空気が幾分軽くなったのは間違いない。

アルデヒトもイブリンも、それで十分だと思ったろう。



しばらくして、私は「苛烈なる戦乙女」のテラシアの隣に座った。

 「いいかしら?」

 「ああ、なんだい、メリー?」

 「一つ聞きたいことがあって。」


おどけたジェスチャーで彼女は「どうぞ」と示す。

なら遠慮は不要よね。


 「あの時、私に殺されるかもとは思わなかったの?」


テラシアは一度宙を見上げて「あー」とだけ声を発した。

自分でも深く考えての行動ではなかったのかもしれない。

人間ならそんなことはままあるだろう。

ただ、大体は恐怖に足を怯ませることが多いはずだ。


テラシアは何秒か考えていたが、諦めたように彼女は私の作り物の瞳を見つめる。

 「あそこで動かなかったら女じゃねーよ。」


本当?

そこは幾分同意できるような、できないような。


そうじゃない人も多いでしょうにと否定しそうにもなったけど、きっとそれがテラシアの理想の女性像なのだろうと私は納得することにした。

それ以上私は追及しない。


その代わり・・・。


 「テラシア。」

 「ん?」

 「人形に言われても困るだろうけど。」

 「な、なんだ?」

 「私はあなたみたいな人を好きだと思うわ。」


テラシアの動きが止まる。

なに、そのモチでも喉に詰まらせたみたいな表情は?

 「ゴ、ゴホッ、メ、メリー、アンタそっちの気は・・・。」


ああ。

そういう風に取られたか。


 「どうだったかしらね、

 人間だった時は大昔だったし。

 でも大好きだった女の子はいたわ。

 何でもかんでも首突っ込んで、いつの間にか騒ぎの中心になるような・・・。」


それを聞いてテラシアは笑ったようだ。

 「ああ、そりゃ考えるより先に動くタイプか。

 あたしもそうかもしれないなぁ、そこまでじゃないとは思うけど。

 一応、光栄だねといっておくよ。

 ・・・て言うと、アンタは逆のタイプか。」


 「ええ、考えすぎて失敗するタイプ。

 ちなみに私の夫も。」


ちょっと、なんで噴き出すのよ。




こうして、異世界最初の冒険が終わった。

私にとってもいろいろ刺激になったし、学ぶところも多かったと言える。

だがこの時、その為か私は忘れ切っていたのだ。

この異世界に送られた者が、私の他にもいる可能性を。



いったい、ここに私を送り込んだ者は、私に何をさせたいのだろうか?


いまだそれはわからない。

今はこの一時の休息に身を委ねよう・・・。


あ、そうそう、

冒険者ギルドに戻ったら、私のランクが二階級特進でDランクになってしまったわ。




次回、

麻衣ちゃんも冒険者ギルドに。

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