第二百三十七話 無茶振り
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え・・・と、何故私がこんなことを・・・
あの、えっと、
皆さま、私を覚えておられるだろうか・・・。
ニムエ、
そう、私の名前はニムエ、
マルゴット女王に仕えるクール系出来る子メイドだ。
最初から話そう。
もともと私は、旅先で女王の身の回りを世話するように言いつけられてここにいるだけ。
もちろん、その目的地で政治的な駆け引きに携わることもあり得ないし、
魔物や外敵などと戦う義務もない。
会談の席では、ただただ壁際に控えているだけだ。
その会談の場で、交渉相手が激高していようが、会議が紛糾しようが私の知ったことではない。
そもそも女王がこの会談に介入した段階で、もうその場に嵐が吹き荒れるのは火を見るより明らかな話。
もし、こんな結果に陥ることを避けようとするのならば、最初から女王を締めだすしかなかったのだ。
・・・もっとも、それすらも女王は昨晩のうちに封じていた・・・。
あの領主に女王の参加を断る術などある筈もなかったのだ・・・。
「ベルゴ殿よ、
お子の事は残念じゃったの・・・。
なんでも奥方殿が自室で塞ぎ込んでおるそうじゃな、
よければ妾に見舞いさせてはもらえぬか?
腹に子供を授かり、日に日にその命が大きくなっていくという感動は殿方にはわかるまい。
・・・それが一気に消えてしまうというのは、そう易々と受け入れられる筈もないだろう・・・。」
・・・これは私見だが・・・、
女王の本当の恐ろしさとは、
精霊術だとか、洞察力だとか、計算高さとか、そんなものではない。
あの方は、相手が老若男女、獣人、亜人関係なく、身分が高かろうと低かろうと、
相手と同じ目線で自分のペースに引きずり込んでしまう。
今も、女王は領主の手をやさしく握りしめて、真剣な表情で語りかけている。
別に色仕掛けを使ってるわけではない。
その気になれば、女王は魔物の魅了スキル並みの色目を使う事が出来るだろう。
それを敢えてしない。
その上で、まるで聖女のような慈愛を惜しげもなく振りまいてみせるのだ。
・・・そう、ただの色仕掛けなら、
それにあっさりとハマる男もいるだろうが、めっちゃ身の固い真面目男なら拒絶することも出来るだろう。
こんな真摯な態度で迫られて、それを拒絶する事など出来るものか?
真面目な男なら真面目な男ほど、女王の手を振りほどくことは出来ないのだ。
そして・・・この領主が愛妻家なら絶対に。
結果・・・
領主は落ちた。
いや、正確には領主の奥方こそが最後の関門だったわけだが、
こちらも女王の手並みは鮮やかだった。
当然、私は奥方のお部屋の扉の横で、女王たちの会話を置物のように聞いているだけだったわけだが、どこからどこまでが女王の本気の同情心なのか、今後の計画の為の会話誘導だったのか、毎日のように女王に仕えている私ですら判別できない。
・・・あの自己中な女王が、自分の簡単な紹介をしただけで、
殆どそれ以外は自分のことを語らなかった。
完全に聞き役に徹していた。
もともとあの領主の奥方は、そこまで気が強い方でもなかったのだろう、
あまり自分の意見などを口に出すタイプではないようだ。
そのため、長い間、子供が出来なかった事にも起因するが、領主や家のことに対しストレスなどを抱え込み、それが今回のことで一気に精神的な負荷が掛かってしまったようだった。
そして女王は彼女の不満や辛い目に遭った話を根気よく聞いていた・・・。
時には、先に領主にしたように両手を掴み、
時には奥方の話に涙を流し、
時には彼女の震える肩を抱きしめても見せていた・・・。
その上で、女王はあの領主がいかに奥方を愛しているのか、
奥方本人でさえ気づいていなかった領主の小さな言動を、
はっきりと彼女に自覚させたのだ。
・・・結果は多くを語ることもないだろう。
翌日、久しぶりに奥方と長い時間語り合ったという領主の顔は、
まるで憑き物が落ちたようだった。
何のことはない、
女王は、奥方一人と話し合っただけで、
領主もろともに陥落させてしまったのである。
「・・・朝まで付き合わせてすまんかったの、ニムエよ。」
「いえ、私は、この程度・・・スーパーメイd・・・いえ、なんでもございません、
それより、さすがですね、陛下・・・、
あれ、先程の・・・全て演技なのですか?」
さすがにこの質問は無礼・・・いえ、空気を読めない質問だったかもしれない。
事実、女王にジト目で睨まれた。
「・・・愚か者、
演技なぞで相手の心に届くものか、
もし、同様に妾がコンラッドを産む事が出来なかったらと思うてみよ?
想像しただけで気が狂いそうになるわ・・・。」
やはり女王は私ごときで測れる人ではなかったようだ。
・・・それはいいのだけど、
あの・・・
女王の首元の・・・あの緑色の髪を垂らした幼女・・・いえ、妖精だったっけ、
なんであなたまで私を蔑むような目で見るの?
・・・この妖精・・・女王はラウネと名付けたようだ。
あの、いつかの人形さんが仕留めたという妖精種・・・、
その妖精種を産んだ本体のマンドラゴラと魔石を使って、
何でも有りの女王が継続的に魔力を注いでみたら、
同様の妖精が生まれたらしい。
そのせいか、この妖精ラウネは女王にしか懐かない。
・・・ただ、既に人間・・・幼女形態になってしまった今では、
女王から魔力を供給する手段はない。
・・・結果、代わりに・・・見るも語るも悍ましい手段で・・・
いえ、見れるわけがない。
例え女王から命令されたとしても絶対に見ない。
あの護衛騎士・・・ブレモアには何の個人的感情も持ってはいないが、
さすがに一般的な感想として彼には同情する。
一応、名目的には騎士ブレモアは女王の護衛のためにここにいるわけだが、
本当の目的はあの妖精種の食糧として同行させている。
一応、彼の名誉のために言うが、
騎士ブレモアはノーマルな人間だった。
だが、今ここにあって・・・この後もノーマルで居続けられるかどうかは誰にもわからない。
少なくとも現在、彼は何とかギリギリで精神状態を正常に保たせているが、
ブレモア本人も自らの性癖がこの後、アブノーマルなものに変化してしまうのではないかと怯え続けている。
・・・いえ、私には関係ない話だったね、
閑話休題。
いいの、
妖精のことは今一つ納得できないものはあるとはいえ、ここまではいいの。
その後、一眠りだけさせてもらって、
カラドック様や、あのケイジ様のパーティーを交えた会議に、
やはり、私は壁に控えるだけの存在だったはずなのに、
女王はとんでもないことを言い出したのだ。
きっかけはあの、
窓ガラスが全て砕け散って、
「怪盗バブル三世」とやらが登場した後。
ラプラス商会とバブル三世の話は、こないだのお人形さんと女王の対談の時に聞いていたから、
ああ、これがラプラス商会の元会長さんなんだなと、びっくりはしたけども、どうにか急展開の話にも付いていけた。
ところが私が仕えるべきマルゴット女王は、
たかがメイドに過ぎない私にとんでもない無茶振りを課したのだ。
「これ、ニムエよ、
そなた記憶力は良かったよな?
これから奴との会話・・・交渉・・・
第三者視線で構わぬ。
全てそなたが書き留めるがよい・・・。」
なんでぇ!?