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第二百三十五話 領主の事情

ぶっくまありがとうございます!


なんかもう、いろいろと・・・。

いや、非公式の席とは言え、この場でマルゴット女王の発言した内容の意味は大きい。

当初、私たちの目的としては、まずこのアークレイの街が属するベードウーア王国に、対魔人への協力を取り付ける事ができれば御の字、というところだった。


しかしながら女王の発言により、話はそんなレベルでは済まなくなった。

説明などもはや要るまい。

これで、私達「蒼い狼」が、グリフィス公国を後ろ盾としたと国際的にアピールしたも同然となったのだ。

もちろん、後ろ盾という意味では、エルフ5大都市の承認を得ていることも加わる。


つまり、対魔人及び邪龍について、グリフィス公国は国家としてその最先鋒を担う事になったのだ。

それだけではない。


マルゴット女王が獣人であるケイジを自らの血族と認めたことは、

国際社会の中で獣人の立ち位置に一石を投じたことになる。

その影響は計り知れない。

これは良いだけの意味ではない。

保守的な貴族や民衆全てを敵に回す恐れがあるのだ。

だからこそ、今までケイジの存在を表に出すことは出来なかった。


それがわからぬ女王でもあるまい。

故に・・・いや、このタイミングしかなかったのだろう。

勇者の称号を得たリィナちゃん、

そしてヒューマン・亜人全てに害を為す、魔人たちに立ち向かうという大義名分を得て。



私も一国の王だ、

その代償がどれほどの困難を伴うのかよぉく理解できる。

いくら国の最高権力者とは言え、出来る事と出来ないことがあるのだ。

民衆から支持されることを望めば望む程、その足枷は重く強固に絡まっていく。

むしろ独裁型の恐怖政治を敷いた方が国の運営としては楽なのだ。

もちろんその場合には民衆の反乱やテロ・重臣の裏切りも起こりやすくなるのだが。




・・・冷静に分析はしてみるものの、

どうしても私には元の世界の自分の母、マーガレットとその姿を重ねざるを得ない・・・。

確かに私の母も、目的のためには手段を選ばない。

敵と見做したらその相手は徹底的に潰す。

その計算も計略も見事なものだ。


ただ一つ違うのは・・・母は何の政治的実権も握ってはいないので、

そのすべての行動は無責任なのだ。

やりたい放題である。

全ての結果を他人に尻拭いさせていると言っても過言ではない。


一方、マルゴット女王は・・・まぁ臣下に丸投げしている部分はあるだろうけども、

最終的には全ての責任を自分が被らねばならない身分。

私には想像もつかない。

私の母の似姿だからこそ、

その心中でいかなる重圧と戦いながら今回の決断をしたことを。


その小さい肩でどれだけの重みに耐えているのかを・・・。




 私がついてますよ・・・


その一言をどれだけ口にしたいと願った事だろうか。

この場で出せるセリフではない。

せめてもの意思表示に・・・

テーブルの下で誰にも分らないように・・・

マルゴット女王の左手の甲に・・・私の右手をそっと重ねる・・・。

少しでも女王の負担を減らせる事が出来るのなら・・・。



うん?

女王の身体がビクリと揺れた。


・・・そっと横目で女王の顔を窺うと・・・

視線は前を向いたまま・・・

あれ? なんかどんどんその顔が紅潮してって・・・


 「カラドックさん、カラドックさん。」

おっ、私の癒し・麻衣さんからのお告げが?


 「カラドックさん、マーゴおね、いえ・・・マルゴット女王凄く照れてます・・・

 もう・・・10代の女の子張りに・・・。」


えっ


い、今さら?

さんざん人を息子認定しておいて?

でもそれなら仕方ないか。

すぐに手を引っ込めよう、

余計な真似をしてしまったかな・・・。


 「カラドックさん、カラドックさん。」

今度は何かな、聖女・麻衣さんよ。


 「女王、すんごいしょぼーんしてます・・・。」


・・・私にどうしろと・・・




 「ベルゴ殿!!」

おっ、会議の流れに変化が。

領主を咎めるような今の発言は、執政官のドワイトだ。


 「は、はい!?」

 「先程、王太子も発言されたが、

 この場に異国の方々を参列させるのがそもそも間違いではないのか!?

 新たな領土の話を進めるのに、不適当と言わざるを得ん!!

 なるほど、マルゴット女王の言われた勇者の認定、

 魔人への国際的な対処の話も重要ではあろう?

 だがそれはこの席でなくともよい!!

 それはそれ! これはこれと別の舞台を用意すべきであろう!!」


なるほどね、向こうの立場としては当然の主張だな。

私が逆の立場なら、こんな席に外国の人間など呼ばない。


 「は、いえ、お、仰る通りなのですが・・・。」


そういえば、領主ベルゴの立場的にはどうなのか?

冒険者ギルドのギルドマスターならともかく、

このアークレイの領主だと言うなら、中立どころか完全にベードウーア王国寄りでも不思議はない。

どちらかというと、むしろ私たち寄りに見えるくらいだ。


 「・・・ドワイト殿と仰ったな・・・。」

ん?

ここでまたも女王の口が開く。

さすがにここで女王が横やりを入れるのはどうだろうか?

今は完全にあちら側の内輪もめだ。

余計な口を挟むメリットなどないと思うが・・・。


 「・・・何でございましょう、マルゴット女王?」

 「そうベルゴ殿を責めるな・・・

 何分、ベルゴ殿は今回の事件の被害者となられたのだ・・・

 この場にいる誰よりも今回の魔人の件に真剣にならざるを得んのじゃ・・・。」


えっ!?

なんだ、その話!?

私らも何も聞いてないぞ?


それはもちろん、ベードウーア王国側の人間も初耳だったようだ。

 「ベルゴ!?

 い、今の話はどういう事だ!?」



 「はっ、・・・は、いえ、じ、実は・・・身内の事なので・・・。」

身内?


 「それだけでは何のことだかわからん!!

 我らにもよくわかるように話せ!!」


 「いや、本人の口から話させるのは酷じゃ・・・。

 確かに道理としては異国の他人である妾が口を挟むべきではないのじゃろうが、

 道義的に一個人として妾が話そう・・・。

 ベルゴ殿の奥方のことじゃ。」


 「「奥方・・・?」」


 「ふむ、そちらには情報はいっておらんのか?

 先日、ベルゴ殿の奥方は一子を身籠られておったのじゃが・・・

 生まれてきた子は産声をあげることはなかった・・・。」


なんだって!?


 「な・・・なんと?

 ベルゴ、それは真か・・・いや、だがそれがっ!?」


 「はい、そ、その通りです、

 待望の第一子だったのですが・・・

 かなりの難産で・・・妻も危ういところでしたが、

 妻本人は術後の治癒魔法でなんとか一命を取り留めましたが・・・

 それ以来、ずっと自室で塞ぎ込んでしまい・・・。

 マルゴット女王には昨晩、妻の話相手をしていただいたようで・・・、

 今朝は久しぶりに妻の表情もやわらかく・・・。」


 「おお、それは何より・・・。

 奥方殿によろしく伝えておくれ、

 今度、グリフィス公国の茶葉を送る約束したのでな、

 お二人でゆるりと愉しむとよい。」

 「・・・ありがとうございます・・・。」


・・・陰でそんなことがあったのか・・・。

なるほど、それで領主のあの態度か・・・。


 「い、いや、だからそれが何の話だと言っておる!

 確かにベルゴには気の毒な話であるが・・・」

 「まだわからぬのか!?

 ベルゴ殿の赤子の話だけでない!!

 王宮に戻って調べてみよ!!

 国内の新しい子供の数がどんどん減っておるのを!!」


 「なんですとっ!?」

 「妾たち、グリフィス公国でも、この魔人の話をカラドックから知らされて調べておった!!

 調べれば調べるほど・・・

 年々新たに生まれてくる子供たちの数が減っておる!!

 人間・亜人関係なくな!!

 これは一国の領土問題どころの騒ぎではない!!

 全人類存亡の危機なのじゃぞ!!」


 「ば・・・ばかな!?

 そ、そんなことが・・・な、なにかの偶然では・・・」


 「なればこそ、調べてみるがよい、と言うておるのじゃ!!

 ・・・いや、そうじゃな、

 タッカーナ王太子よ、

 そなたも手ぶらでは帰れまい・・・。

 土産を一つ渡しておこうかの?」


うん?

女王は何を?


 「み、土産だと!?」


 「ふむ、確かベードウーア王国のそなたの兄君・・・

 スッキーズ王太子の王太子妃、モトマーヤ殿もご懐妊されたと聞いたぞ?」

 「そ、そんな話まで存じ上げているとは・・・だが、それが・・・あ、ま、まさか!?」


 「さすがにおわかりであろう、

 このままでいけば、ベルゴ殿の奥方と同じ結果になる可能性が高いのじゃ・・・。

 もちろん、新しく生まれてくる子が全員、死産のわけでもない、

 無事に生まれることも出来るかもしれない・・・。

 じゃが・・・すでにタッカーナ王太子は此度の話を理解されたよな?

 それを王宮に戻って・・・

 今度の件を危機として報告する、しないでそなたの立ち位置に大きな影響を及ぼすであろう?

 後は・・・妾に最後まで言わせる必要もないな・・・?」


 「・・・う、・・・あ。」


女王はそんな情報まで仕入れていたのか。

・・・なるほど、これは強力な土産だな。

仮に、タッカーナ王太子がこの件を知っていて報告しなかった場合、

お世継ぎ候補である王太子の子供を生まれさせないつもりだったと、二心の疑いを掛けられるのは必定。

しかし、今回の魔人の危機を事前に知らせて、

無事に、お世継ぎ候補が生まれるまでに魔人の脅威を打ち破れば、

タッカーナ王太子は国の功労者となり得る。


それを女王は選べと言っているのだ、タッカーナ王太子に。


こんなこと、本気で自らが王位でも狙っていないと、答えなんて一つしかない。


・・・ここまでが女王の描いた絵図だったという事か。


確かに相手を屈服させることが外交の本筋ではない。

互いにメリットを持たせて次に繋げるのが外交だ。

ここはさすがの女王の手腕と言えよう。



一方、私の隣で麻衣さんが、

「たっなーか、すっずーき、やまもーと・・・」と呟いていた・・・。

王国の人たちの名前?

ちょっと違うよ?

あれ? 反対側でケイジが噴き出したぞ?



 「・・・あれ?」

 「む?」

 「これは!?」


・・・その時、

なんの前触れもなく、


窓の外にいきなり巨大な魔力が現れた!

 

マルゴット女王

「・・・まさかあそこでカラドックがあんな大胆な真似をするとはの・・・。

年がいもなくときめいてしまったぞ?」


ケイジ

「ニヤニヤ。」

カラドック

「えっ、だ、だって・・・。」

王女イゾルテ

「ニヤニヤ。」

カラドック

「ちょ、イゾルテ殿まで・・・」

麻衣

「ニヤニヤ。」

カラドック

「麻衣さーんっ!!」



次回、ついにあの人がやってくる!

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