第二百三十話 異なる世界
ぶっくま×2!!
ありがとうございます!!
確定だ・・・。
伊藤麻衣さんという女の子は、
21世紀の日本からやってきた・・・。
だがこのカラドックは違う。
いまやどこの国だろうと西暦なんて使っていない。
大破局が起きた以降、その年を起点として新暦ACを使用している。
奇しくもその年は亡くなった李那ちゃんが生まれた年でもある。
回避する手段などある訳がない。
無事に麻衣さんがこの世界から日本に帰れたとして、
あと数年のうちに全世界に大破局が訪れる。
異常気象、火山の噴火、大地震、大津波・・・
正確に実証できたわけではないが・・・それらの原因は地球の磁極の逆転現象という説が有力だ。
その結果、大破局発生時から5年のうちに、全人類の人口は5分の1にまで減少したともいわれている。
もちろん、高度に発達した文明の遺産のおかげで、直接的に災害で命を落とした者達はそう多くない。
むしろ、それ以降の、飢饉や疫病・・・そして私自身も手を染めることになる戦争によって、
人類は衰退していったと白状せざるを得ない。
私達ウィグルとスーサの最終決戦では・・・
スーサの首都全てが一瞬にして灰と化した・・・。
父とスーサの王アスラとの最後の決戦・・・。
本来、天使たるものが人間の世界に干渉してはならないという不文律があるのは当然だろう。
あんな戦いという範疇に入れていいかどうか、議論にするのも躊躇われる天使同士の激突に、人間世界を巻き込んでいいわけがない。
だから父は全てをこのカラドックに譲り、人間世界から姿を消した。
破壊の王アスラも生きているかどうかすらわからない。
・・・ただ、これで地上から大きな争いが消えたのも事実だ・・・。
まだ火種は残ってはいるが、旧世界の文明と繁栄は回復させて見せる。
このカラドックの治世だけで追いつけるとは思ってもいないが、
息子やその後の世代に繋いでみせよう。
・・・いや、今は麻衣さんの話だね。
今この場で、私のやってきた時代が、麻衣さんの時代と異なる・・・未来の世界から来たんだと説明するのは容易い。
だが、当然その後、聞かれるだろう。
あまりにも変わり果てた未来の話を。
もし、自分の未来に不幸な事件が起きることを事前に知ったならば、
元の世界に戻って、その未来を回避しようとする事を咎めるものはいまい。
・・・だが、地磁気の逆転や異常気象、天変地異を止められる手段など在りはしない。
伝えて良いのだろうか?
伝えるべきなのか?
私にはその権利があるのか?
それともその義務があるだろうか・・・。
「あ、あの、カラドックさん、ま、まさか・・・。」
麻衣さんも気づいたのだろうか。
私と自分の暮らしていた時代が異なるという事を・・・。
ならば・・・
「これ、カラドックよ。」
私と麻衣さんの会話にマルゴット女王が割り込んできた。
相変わらず緑銀の髪の幼女が女王の首にしがみついている。
重くないのかな?
私はどう返していいかわからず、無言で女王に向かって振り返る。
「・・・横で話を聞かせてもらったが、話の方向性は掴めてきたぞ?
何やらカラドックの出自とそこの娘子・・・麻衣殿だったかの?
彼女の出自に微妙な齟齬があるらしいの?」
さすがだ・・・
もうそんな事に気付いてしまったというのか。
「はい・・・そんなところです。
それで・・・これ以上の話を進めてよいかとも・・・。」
「それはカラドックの知る未来を麻衣殿に伝える事であろうか?」
ドンピシャだ。
相変わらず恐ろしいまでの洞察力・・・。
「そうです・・・
私の知る未来は、平和な日本で暮らしている麻衣さんにとって、余りにも過酷です。」
もはや、私は麻衣さんの顔を直視するのも躊躇われる。
彼女の精神は、私の口から漏れる未来の出来事に耐えられらるのだろうか?
だが、マルゴット女王の指摘する懸念はさらに事態を重くする。
「それと・・・
迂闊にその事が知れたら麻衣殿の未来に大きな変化が生じるかもしれぬな?
それこそ、カラドック、そなたの世界が変わってしまうほどの。」
「え・・・あっ。」
そうとも・・・!
心配するのは麻衣さんのことだけでないのだ!
事によったら私たちのいる世界に大きな影響が出ることも考えられる!
「ああ、そんな大層な目で見なくてもよい、
妾はカンニングしたようなものじゃ、
話を戻そう。」
ん?
カンニング?
何を言っているのだろうか、女王は。
「カラドックよ、結論を急ぐでない。
まずは前提そのものを疑ってみるのじゃ。」
「はい? 前提・・・ですか?」
「うむ、麻衣殿よ、
そなたはそなたの世界にいる妾と会った事があるそうじゃが・・・
妾の瞳の色は何色じゃった?」
ここでその話に戻るのか?
ああ、前提から疑えと言っていたものな、
しかしいったい?
「あ、はい、えーと、そちらのカラドックさんと同じ青い瞳でした・・・。」
マルゴット女王は何を確かめたいのだろうか?
そう、確かに私の母は親子なので瞳の色は一緒である。
あまり私は父親の方からの体質的遺伝は受け継いでないようだったから。
ただ隔世遺伝なのか、息子のウェールズは、私の父親同様、ダークグレーの髪と瞳を持っているんだよね。
顔は私似だと思う。
おっと、話の続きを聞かないと。
「ふむ、瞳の色はカラドックの母と一緒なのか、
では麻衣殿の知る異世界の妾は・・・
妾やカラドックの持つ精霊術を使えるのか?」
「えっ!?」
ん?
麻衣さんが意外なことを聞かれたように反応がおかしい。
「せ、精霊術って・・・前にカラドックさんが風を巻き起こしたような・・・超能力ですか!?
そ、そんなのマーゴさん使えませんよ?
『ウェールズの魔女』とは呼ばれていたみたいですけど、
それは男の人を誑かしたり、薬物の扱いに詳しいとか、そういった方面のお話かと・・・。」
どこでもやらかしているな、あの人は・・・。
ていうか、今、麻衣さんはなんと?
「ま、麻衣さん、君の知る母は・・・能力をもっていない・・・って!?
いや、母は若い頃から精霊術・・・ドルイド魔術を使えていた筈だが!?」
薬物に詳しいってのは間違いない話だ。
何しろ母が父を誘惑できたのは、薬物方面の魔術で頑張ったからだ。
天使の力を発現させつつあった父に、いわゆるサイキックに依る所の精霊術は一切効き目がない。
「そ、そんなファンタジー能力持っていたら、
10才当時のあたしでも感知できますよ?
その・・・魂の色というか匂いは、マーゴさんとこちらの女王様?
マルゴットさんとほとんど一緒だと思いますけど、
マーゴさんに魔力とかそういった力はなかった筈です!」
どういうことだっていうんだ・・・。
だけれども、すでにマルゴット女王は解答を導き出していた。
「確定じゃの。」
先の私の確信を同じ言葉で否定されたかのようだ。
一体マルゴット女王の辿り着いた真実とは・・・。
「世界が異なる。」
「「え?」」
私と麻衣さんが同時に口を開いた。
「マルゴット女王・・・
世界が異なる・・・とは・・・?」
「カラドックよ、
そなたと麻衣殿とは異なる時間軸からやってきたというだけではない。
まさしく、そなたと麻衣殿は別々の世界の人間・・・というわけじゃな。」
もちろんマルゴット女王は麻衣ちゃんのステータスが全て見えてます。
・・・この後の台風の目は誰になるのか・・・。
マルゴット女王か、麻衣ちゃんか、魔族ヨルか、首元の幼女か・・・。
ケイジ
「勇者と魔人の話はどこ行ったんだよ!!」