第二百二十四話 ケイジの罪
ぶっくま、ありがとうございます!
・・・あれ? 評価ポイントも上がったかな?
誰か押してくれたかな?
点数変わったかどうかわからなくなっちゃった・・・。
それ?
それってどれの話だ?
「え・・・いったい、それって。」
「あたしを信用してない・・・。
ケイジはずっと隠している・・・。」
あ、・・・それは
隠しているつもりはなかった。
元々が荒唐無稽な話、
なおかつ今を生きているリィナには全く関係ない話だ、
なのに、なんでわざわざ、オレの恥ずべき罪を日の元に晒さなければならないのか、
だが、その事をリィナに隠し事と捉えられてしまったという事だろう。
けれど・・・それだけは。
「か、隠しているって・・・いったい。」
「・・・っても、もうバレバレだろ、転生者・・・
名前は・・・恵介、だったっけ?」
「・・い、いや、そ、それは・・・。」
「そんで・・・あたしはリナでいいのかよ?」
「う、あ・・・。」
「カラドックの話からすると、
お前は前世で、部下の裏切りにあって自分とあたしを死なせてしまった・・・。
そしてこの世界でお前は記憶を取り戻した。
そんでたまたま奴隷商でリナにそっくりなあたしを見つけて、
ずっと傍に置いておくって決めたってことでいいんだよな?」
「ま、待ってくれ・・・それは・・・」
何の話だと誤魔化すことは可能だったろうか?
・・・無理だ。
ここまで動揺したオレの心音は誤魔化せない。
彼女の耳は下手な嘘など全て看破する。
「そりゃさ、
確かに初対面でいきなりそんなこと言われたって、あたしも理解できるはずないしさ、
その時に黙っておくのは当たり前だろうけどさ、
カラドックがこの話をしたときから、
あたしに全部話すチャンスはいくらでもあったろ?
なんで、ずっと隠してたんだよ・・・?」
「それは・・・。」
リィナの口調は元に戻っていたが、
これ以上の隠し事は絶対に見逃してくれようもないらしい。
今晩、今、この時に全てを明らかにしろというわけか。
「もうあたしも勘づいてんだから言っちゃえばいいだろ?
あたしがリナかどうかはともかく、別にケイジが転生者だからって困ることないじゃん?」
やめてくれ、違う!
「ダメだ・・・ダメなんだ・・・それだけは。」
「なんでだよ!?」
何も知らないリィナにしてみれば納得なんかできないだろうな・・・でも。
「リィナにオレが転生者だと知られるのはいい・・・、
だけどカラドックにだけはダメなんだ!!」
「どうして!?
腹違いとは言え兄弟なんだろ!?
仲良かったんだろ!?
感動の再会をすればいいじゃねーか!!」
「お願いだ・・・
それだけは・・・。」
オレは地面に崩れる・・・。
リィナの足元に這いつくばった・・・。
立ってられなくなったんじゃない、
リィナに許しを乞うためだ・・・。
「ちょ、ケイジ!?」
「お、オレには・・・隠された称号が二つある・・・。」
「ケイジ? 何の話を?」
「結界師である、おふくろが最初に気付いて・・・オレにステータス隠蔽をかけた・・・、
一つは『転生者』・・・。」
「え、あ? ああ。」
「おふくろは、その称号がオレにとって悪い影響を与えると思ったんだろう、
誰にもこのことは言うなと言っていた。
・・・だが本当に隠すべきはもう一つの称号・・・それだけは・・・
カラドックにも・・・そしてお前にも言いたくはない・・・!」
「どうして!?」
「それを聞いたら、お前は本当にオレを軽蔑するだろう、
もう二度とお前はオレに笑いかけてくれることもなくなってしまうかもしれない、
・・・さっきのようにな!!
あんな・・・あんな思いはもうたくさんだ!!」
「それじゃなんにもわかんないよ!!
言ってごらんよ!?
なんの称号なのよ!?」
「・・・恥ずべき・・・不名誉な・・・本当に最低の称号だ・・・。
そしてオレは前世で確かにそれだけのことをやった・・・!」
オレの頭の上から覗き込むようなリィナの声。
「言ってみたら、くっだらない、どうでもいいようなものかもしれないよ?」
だったらどんなにいいだろうな・・・、
けどな。
「・・・そんなことはない、
少なくともグリフィス公国なら死刑に相当する。」
「えっ。」
「オレに『勇者』の称号が付かない理由が分かっただろう、
オレは・・・最低最悪の犯罪者なんだ。
だから・・・それを兄・・・いや、
カラドックにだけは知られたくないんだ!!」
兄弟か・・・オレとあいつは・・・
いや、だからこそ知られてはならない。
カラドックとの繋がりまで失ってしまったら・・・オレは・・・!
「ケイジ・・・お前何を・・・。」
何をやらかしたんだと聞きたいんだろうな。
絶対に言えねーよ、そんな事。
カラドックには、邪龍を相手にする前に一人の犠牲者も惜しいと大見え切ったオレがどの口で・・・。
「話すと長くなる。
カラドックから聞いたろうが、オレの母さんは父親に酷い目にあわされた・・・。」
「あ・・・。」
「だからオレはあの男を父親として認めてなかった、
ずっとな。
でもそれはカラドックには関係ない、
あいつに罪はない。
だからオレはカラドックが父親に言われるがままに戦争をするのも、
国を継ぐのも反対はしないし、邪魔するつもりもなかった。
・・・けれど、
リィナを・・・リナを失ってオレには何も残ってないことに気付いちまったんだ!!
カラドックは国と強大な権力を手に入れ、
美しい妻を手に入れて、
贅沢な暮らしをしているのに!!
どうして俺の手には何も残ってないんだって!!
そうしたら・・・そう思ったら・・・
オレは・・オレは・・・今までなんのために・・・
誰のために生きているのかもわからなくなっちまって・・・」
「ケイジ・・・。」
オレは力なく首を上げリィナに懇願する。
「このことは・・・カラドックに言わないでくれるか・・・。」
「あ、も、もちろん!」
「オレは転生者だ。
オレは自分がどうやって死んだのかは覚えていない。」
「・・・。」
「だけど、オレの父親が・・・オレに引導を渡しに来たのだけは覚えている。」
「え? ちょっと待って?
ケイジはリナって子と一緒に殺されたんじゃないの!?」
「・・・生き延びたんだ・・・
あそこで一緒に死ねば良かったんだけどな・・・、
落ちていくリナの手を・・・
オレは掴む事が出来なかった・・・。
その時のショックと後悔は、今も昨日のように思い出せる・・・。
そして彼女を失って・・・
そこから20年の地獄が始まった・・・。」
「あ、それであの時・・・。」
「その20年間に罪を犯し続けた・・・。
そしてカラドックはそれに気づくんだ、
オレが生きてることを。」
「え、ちょっと待って?
それ何時の話!?」
「さぁてな、カラドックがいつ気づいたのかは知らない。
だが、今現在のカラドックは気づいてないらしい。
だから今のあいつに知られたくはない。
あいつが元の世界に戻って、いつか気づくことになるんだろうが・・・。」
「え、じゃ待って!?
もし今の段階でカラドックに教えてあげれば、その前に!?」
「もう遅い!!」
「ケイジ・・・。」
「今教えた所で、国は大混乱になる。
オレは前の世界では秘密裏に殺された筈だ・・・。
最後まであの国の奴らはオレの正体に気付いていなかった・・・。」
「え、じゃ、それって・・・。」
「知っていたのは父親とカラドックだけだ・・・。
恐らくだが・・・。」
「ちょ、ちょっと待って!?
じゃあ前の世界でケイジを殺したのはっ!?」
「・・・父親は言ってたよ、
オレのことはカラドックに頼まれたって・・・。
父親自身はオレのことをほっとくつもりだったらしいが、カラドックに説教されたそうだ。
オレのことは父親であるあなたの責任だって・・・。」
「・・・。」
「父親もカラドックには20年ぶりに会ったと言っていた。
カラドックはまだ50才そこそこだってのに、髪が全て白髪になっちまったってよ・・・。
オレのことをたった一人で悩んでたんだそうだ・・・。」
「カラドックも・・・。」
あいつの苦しむ顔が想像できる。
あいつは一人で、妻のラヴィニヤにも話す事が出来ずに苦しんでいたんだろう、オレのことで。
・・・そうだな、リィナ、いま「カラドックも」と言ったか?
そうだな、・・・あいつにとっても地獄だったのかもしれないな・・・。
そんなことぐらい・・・オレだってわかってた筈なのに。
「だからケイジは・・・カラドックに・・・
あいつなら信用できるって・・・絶対裏切らないって・・・。」
カラドックはオレの名誉を守るために・・・誰にも真実を告げずに、
信頼する部下の誰にも明かさなかったんだ。
全て一人で抱え込んでしまったのだ。
・・・馬鹿野郎だよ、
そうまでしてオレを守る価値なんかあったのか?
「そうだ・・・それがオレがあいつを信用する理由だ。」
あと・・・このことも言っておくか。
「ああ、あとオレを殺した奴が父親かどうかはわからない。
確かにあの場にはオレと父親しかいなかったが・・・
オレはその直前にその父親を短剣で刺している。
人間なら間違いなく致命傷だ。」
「・・・ケイジ。」
「まぁ、仮にも相手は天使と名乗る程の男だ、
あれで死ぬような生き物じゃあないとは思うんだがな・・・。」
オレの手に、あの時の嫌な感触が残っている。
確かに肉をえぐった手応えだった・・・。
そしてあいつは力なく、あの草原に崩れ落ちたんだ・・・。
それが・・・オレがかつての人生で最後に見た光景。
もう、・・・後は蛇足のような話だ。
リィナにとってはどうでもいいだろう。
彼女もオレが粗方話し終えた事が理解できたのか、
オレをなじるような言動はなくなっていた・・・。
それどころか・・・
「ケイジ・・・。」
しゃがみこんでいたままのオレの頭を、リィナの柔らかい腕が包む・・・。
「ごめんよ、ケイジ・・・。」
「え?」
「辛い話をさせちゃったんだな・・・。」
「い、いや、それはオレが悪かったから・・・。」
「あたし、ケイジのグリフィス公国での話は聞いていたけど・・・
まさか、そんな過去もあったなんて・・・。」
「・・・さっきも言ったけど、どうしてオレに前世の記憶なんてものがあるのか分からない・・・。
だが、それがある以上、そしてオレの傍にリィナがいる以上、
もう一度、別の道を見つけたい・・・。
別に冒険者じゃなくたっていい。
お前と一緒にいる事さえできるなら・・・。」
「わかったよ・・・
じゃあ、あたしの意志を聞いてくれるか?」
そこでようやくオレは立ち上がる。
うずくまったまま聞ける話じゃない。
もう一度・・・同じ立ち位置で・・・真正面からリィナの言葉を・・・。
「言ってくれ。」
リィナが優しく微笑む。
そうだ、オレが見たかったのはこの笑顔だ・・・。
「あたしはこれからもケイジと一緒だ。
どこまでもついていく。
魔王の前だろうと地獄の底だろうと・・・いいな!?」
「・・・リィナ・・・。」
獣人の黒い両腕の中に彼女を優しく包む・・・。
昼間の時みたいに力づくで抑えたりなんかしない。
その晩・・・その時・・・
初めて・・オレはリィナと唇を重ねた・・・。
お気づきかとは思いますが、
これまで、
ケイジのセリフで「おふくろ」と言った時は、狼獣人のカトレヤさんです。
「母さん」と言った時は恵子ちゃんのことです。
本人の中ではちゃんと区別をつけてます。