第二十二話 大事なことを忘れていたの
評価いただきました!!
ありがとうございます!!
残虐シーンがございますのでご注意を。
<視点 メリー>
私は抑えられたはずの鎌を、ホブゴブリンの両手斧ごと跳ね上げる。
・・・とても信じられないという顔ね。
でも続けさせてもらうわよ?
二つの腕も跳ね上げられ、ホブゴブリンのカラダは隙だらけ。
私は自由な足で彼の鳩尾を穿ち、その体を背後の岩壁に縫い付ける。
はしたなかったかしら?
苦痛の形相で歪む彼は、呼吸ごと体の動きを封じられ、次の私の動きから身を守ることができない。
力なく両腕が垂れ下がった瞬間、その左の腕を鎌が切り裂く。
耳を塞ぎたくなる悲鳴。
あら?
両断まではいかなかったかしらね?
もっとも、肘のところの腱が切れちゃってるから、もう肘から先は何の役にも立たずにぶら下がっているだけ。
ようやく残った右腕に最後の力を込めてホブゴブリンは反撃を試みる。
やっぱり知能が低いのね。
「振りかぶる」という動作が致命的なのに。
私は自然な動作で両手斧の間合いの中に入り込む。
彼の右手首を掴むことすら容易い。
まさに赤子の手をひねるように。
私は彼の右手首を粉々に破壊した。
五本の指に少し力を込めただけなのに。
ここで絶望の叫び声。
まだ早いわよ?
両足が残っているじゃない。
もちろん、容赦しないけど。
もう説明要らないわね?
膝から下もいつの間にかなくなっちゃたわ。
芋虫さんよりちょっとはマシな動きはできる?
さて、後はどういたぶりましょう。
もはや力もスピードも不要。
私はゆっくり、まるで子猫のようにホブゴブリンの足元に四つん這いになる。
役に立たなくなった手足をばたつかせてもどうにもならない。
そしてそのまま、やさしく彼の上にのしかかった。
まるで娼婦のように。
緑色の分厚い胸板に白い指を悪戯っぽく這わせていると・・・
あら?
なに、その微妙な表情?
まぁ凄い。
手足の痛みも激しいだろうに、私の股間に硬いモノがせりあがってきた。
ホブゴブリンは少しでも快感を得たいのか、小刻みに腰を揺らす。
こんな人形のカラダに反応するなんて・・・。
入れるとこなんてないわよ?
さすがにそこまで再現されてはいない。
もしそこまで作り込まれていたら、この人形の製作者は間違いなく変態だと思う。
でもこんなカラダでもいいというのなら、残り時間は僅かだけど愉しんでみる?
わたしはそのまま彼に抱きつくように体を密着させた。
左右の指は優しく彼の太い「首元」に・・・。
ふふふ、「ギョッ」としたわね。
どんなに激しく身をよじろうと、ガッチリ食い込んだ指を外すことなんてもうできやしない。
あなたは人間を殺しただけじゃない。
何人もの女性にのしかかって生き地獄を見せてきたわよね。
だからあなたにも見せてあげる。
頸動脈を優しく押さえて・・・。
激しく緑色の体が暴れ始める。
可笑しいわね、
体は緑色なのに、顔は紫色に染まっていくわ。
もうホブゴブリンの声は出ない。
背後にいる大勢の人間たちも同様ね。
彼らも事の成り行きを見つめるだけで誰も口を開けない。
そろそろ私も彼の下腹部に跨るのをやめて、胸元近くにまで這い上がる。
そのうち、下半身からいろんなものを垂れ流すでしょうから。
もはやホブゴブリンは自らの意志もなく、単に肉体の反応でビクビクと痙攣を始めた。
眼球も私を見ているんだか、見ていないんだか。
口の端からは泡があふれている。
でもまだ生きてはいる。
このまま絞め殺してもいいけれど、ラストには華がないとね。
私は彼の喉元から一度指を放し、上体を起こす。
視線は彼の胸元に・・・。
私は右手の指を一本ずつ動かした。
他の人間たちには、それが昆虫の肢の動きのように見えるかもしれない。
そして私はその指をホブゴブリンの胸に深々と突き立てた。
胸骨?
それならボキボキ音を立ててへし折れてゆくわね?
新鮮な血液がその穴から大量にあふれ出てくる。
激しく脈打つ臓器がそこにある。
まだまだ元気いっぱい。
私はその物体の感触を確かめるように五本の指で掴む。
ビチブチビリィ!
後ろの何人かが耳を塞いでいるみたい。
私は右手に掴んだそれを、容赦なくひぎちぎって頭上に掲げた。
それは本来の役目を今でも果たそうと、必死にバクバク蠕動しているけども、もう赤い液体がその臓器に送られてくることはないし、何も送り出すことも出来ない。
ただ、私の白い石膏の腕に鮮やかな色の液体を垂れさせるだけだ。
・・・ならもう要らないわね。
ほら、返すわよ。
動かなくなったホブゴブリンの死体に心臓を放り投げる。
これで私の役目は終わり。
死神の鎌を拾い上げてアルデヒトの姿を捉えると・・・
あら? なに、そのハトが豆鉄砲食らったみたいな表情は?
「終わったわよ・・・。」
そこでようやく彼は我に返ったようだ。
「あ、おお! よくやってくれた!!
それにしても凄まじいな・・・!」
「この程度ならね、
それで、私はここまででいいかしら?
これ以上、私はあなた達の役に立てそうもない。」
「もちろんだ、十分すぎる働きだ!
・・・いや、ちょっと待ってくれ、
その言い方だと・・・まだ何かあるのか?」
さすが冒険者ギルドのサブマスター、
私の言い回しに気が付いたようね。
「危機・・・という意味ならもうこれ以上ないわ。
残っているのは私の殺戮対象になり得ないゴブリン・・・。
道案内くらいはできるわよ?
そこの狭い入り口の洞穴があるでしょう?
少し先に行くと、『外側から』閂をはめられた柵がある。
その奥に彼らはいるわ。」
アルデヒトは私が指さした方角を一度見据えた。
「・・・よし、ストライド、君たちで行ってくれるか?
何かあったら声を出してくれ、
残りのみんなはゴブリンの遺体を回収、
洞窟の外へ運び出そう。
夜が明けたら魔石を取り出して、死体を処理する。」
アルデヒトは、私が何故これ以上役に立たないのかを、言葉のままにしか解釈しなっかった。
普通に「今まで人間を殺したことのないゴブリン」としか認識しなかったのだろう。
まぁ、別にどうってこともない。
後は実行するのは若い「銀の閃光」の彼らだ。
すぐに私の言葉の意味を理解するだろう。
エクスキューショナーモードももう必要・・・
「ヒャッハー!
ストライド! こいつら婆ぁじゃねーか!
逃げ回る以外、何も出来ねーぜぇ!!」
「今度は俺たちの番だ!
皆殺しだぁぁ!!」
しまった・・・。
戦闘が終わったとエクスキューショナーモードをオフにしたが、この展開は読めなかった。
弾丸のように飛び出した私は、アルデヒトをさらに困惑させたことだろう。
幸いなことに、「銀の閃光」は、生き残りのゴブリンを洞窟の端に追い詰め、恐怖におののく彼ら・・・いや、彼女たちか、
年老いたゴブリンをその手にかける一歩手前であった。
「ストライド! やめてっ!!」
「・・・え、ええ!?」
私の声に踏みとどまる「銀の閃光」。
間に合って良かった。
背中からアルデヒトの声が飛んでくる。
「どうしたんだ、メリー、何かあるのか!?」
やはり理解してないか、無理もないけれど。
私でさえ気づくのがこんなにも遅れてしまったのだから。
後ろから私の異常行動に気づいて、ようやくアルデヒト達も追いついてきた。
それを待ってから一度、年老いたゴブリンたちを見つめる。
もう彼らには戦意は残っていない。
そしてこの「先」もどうだろうか?
「アルデヒト、私が悪かったわ。
今になって気が付いた。
これ以上はまずい。」
これは素直に謝罪するしかない。
「何がまずいんだ?」
「アルデヒト、あなたたちの作戦も目的も理解している。
その事に異議を挟むつもりもない。」
「ではなんだというのだ?」
「私に問題がある。」
「メリー、君に?」
「このまま、人間を殺したこともない・・・無抵抗の者をあなた達が虐殺したら・・・
この人形のカラダは貴方たちを処刑対象に認識するという事よ。」
間違いなく全員の顔が青ざめた。
先程の私とゴブリン達の闘いを見ていれば理解できるだろう。
この私が自分たちに襲い掛かる・・・すなわちどんな殺され方をするかも想像できたに違いない。
ストライドが抗議の声をあげる。
「ちょ、ちょっと待ってよ、メリー!
こいつら、人間じゃないんだよ!?
魔物だよ! ゴブリンだ!!
いくら人間を殺したことないからって、
こいつらの種族自体が人間の天敵・・・いや害獣なんだ!
森で熊や狼を駆除するのと変わりがない!!」
人間側の理屈はそうでしょうね。
「ストライド、
別に私は駆除が目的で鎌を振るっているんじゃないわよ?」
「・・・え!?」
「私が行っているのはあくまでも処刑。
殺された者達の憎しみを糧にして、死んでいった者たちの代わりに復讐する。
それは思想じゃなく、この人形の行動原理なの。
それに元々、私は魔物なんて存在しない世界からやってきた。
あくまでその処刑対象は人間。
あなたたちが無遠慮に虐殺を始めたら、私は問答無用にこの鎌を振り下ろす。」
静かな時間が過ぎる・・・。
ストライドも、どうやって私に反論しようか必死に考えているのだろう。
恐らく、後ろのアルデヒト達も。
年老いたゴブリン達に私たちの言葉は理解できまい。
何もできずに壁の隅でブルブル震えているだけ。
そして私は話をここで止めてはならない。
「みんなどうしたらいいのか、答えは早々出ないかもしれない。
なら答えを出す前に、もう一つ、
この先を見に行ってもらえる?」
「・・・何があるんだ、メリー。?」
「最後の生き残りよ、
それを見てから答えを出して。」
勿体ぶるつもりもない。
百聞は一見に如かずというだけだ。
別にそれほど意外なものやショッキングな事態が待ち構えているというわけでもない。
少し考えればわかるだろう。
・・・そこは洞窟の中でも、藁や干した雑草などが敷かれ、比較的清潔で過ごしやすい環境にしていたと思われる。
やはり老人のゴブリンが申し訳程度の槍を持って待ち構えていたが、既に戦闘能力などないからここにいるのだ。
まぁ向かってきたら遠慮なく、首でも刎ねてあげるが、この位置からでも奥は見渡せる。
その老ゴブリンはこの先にあるものを守っていたのだ。
生まれたばかりの足腰もたたない子供たちを。
その数、六体。
そこまで作り込まれていたら、この人形の製作者は間違いなく変態だと思う。
ある片目のお爺さん
「・・・。」