第二百十九話 ぼっち妖魔は自覚がない
ぶっくま、ありがとうございます!
「Cランクになったばっかりですけど、冒険者の伊藤麻衣と言います。
キリオブールという町で吸血鬼を倒した時、
その吸血鬼が魔人という存在について話してくれたんです。」
会話については相変わらずカラドックさんが応対してくれている。
狼獣人の人がこのパーティーのリーダーだそうだけど、まだ目を回していたダメージが完全に抜けきらないのだろう。
「へぇ!?
吸血鬼からそんな話を!?
というか、凄いな・・・、
君は吸血鬼をも倒せる実力があるのか・・・。」
「ああ! いえいえ、あたしはホントに敵を倒す能力はホントにないんです。
協力してくれる人がいないと・・・。
それで、その協力者の人が教会の有力者だったんで、
いろんな伝手で調べてもらったら、
なんでも、異世界からの転移者と勇者を擁する『蒼い狼』ってパーティーが、そこのアークレイを拠点にして、魔人を調査していると聞いて・・・。」
あたしはすぐさま否定しておく。
それにあたしの話はどうでもいいのだ、
少なくとも今のところは。
「ああ、それでここまでやってきたってことか。
・・・それでも凄い行動力だ、
おかげで私たちはとても助かったのだけど・・・。」
そこでようやく兎の女の人が復活して、あたしに声をかけてくれた。
「いや、あたしも助けられといて何なんだけど、
術士なのに、よくここまで来れたね~?
・・・見た目も冒険者には見えないし・・・、
あっ、気を悪くしたらゴメンね・・・っ!」
「ああ、お気になさらず、
自分の実力はわかってますので・・・。
このリザードマンさんたちに守ってもらってようやくってところなんですよ。」
そこで兎の女の人は納得してくれたっぽかったんだけど、
リザードマンのエルザードさんが台無しにしてくれた。
「獣人の少女よ、そのまま話を鵜呑みにしてはならぬ。
伊藤殿は見た目こそ貧弱そうだが、
魔物とのたたキャいにおいては、伊藤殿一人いるだけで味キャたの生存率はキャく段に跳ね上がる。
・・・これまでの苦労は何だったのキャと呆れるくらいにな。」
そんな大袈裟な!!
「み、みなさん、話半分に聞いてくださいね!?
エルザードさん、話を盛るのが得意なんですよ!!」
さっきの件で、どうもあたしは過大評価されてしまったようなので、
どうにか話をごまかす手段はないかと考え始めた時、
あたしの感知機能に反応があった。
「あ。」
あたしが声を出したことでみんなの視線を浴びてしまう。
「おお、どうやら伊藤殿が魔物を探知したようキャな?」
リザードマンの皆さんが、くりくりした目をキラリと光らせる。
反射的にあたしは危険が近づいてくる方角を見据えた。
肉眼ではまだ見えない。
それはお空の向こうだ。
「え? 魔物!?
いったいどこに?」
カラドックさんたちにもまだ見えないだろう。
でもむこうはあたし達をエサと認識しているよ!!
そして奴の接近を認識できたのは・・・
「あれか!!」
狼獣人のケイジさんだ!!
「あ、見えましたか!?」
「い、いや、見えたけど、オレの『イーグルアイ』でも見つけるのは困難だぞ、この距離じゃ!?」
イーグルアイ!?
なんかカッコ良さそう!
視力強化のスキルだろうか?
まあ、あたしも、相手がこっちを認識してくれなきゃ感知自体できませんけどね、
えーと、あれは・・・
「わいばーん!?」
この世界で、空から襲ってくる魔物の中では最もポピュラー且つ脅威度の高い魔物!
もちろん、滅茶苦茶強いという訳ではないそうだけど、
行動範囲が広いため、どこにでも現れる可能性が高いという。
「ワイバーンか!
ここはアガサの魔法より、射程の長い弓が適役か!
ケイジ!!」
「おう! もうバッチリだ!
弓の射程内に迫ってきたら一発で撃ち落してやる!!」
ケイジさんも回復したみたいだね。
でも空から迫ってくる魔物を一発で仕留められるって、どんだけ凄い能力なんだ・・・。
ところがまたここでエルザードさんが・・・。
「もし?
たキャが、ワイバーンごとき、Aランクパーティーのキャたがたがお相手するまでもないのでは?
それに先程より時折、突風が吹く様子、
タイミングが悪ければ弓も影響を受けようと言うもの。
ここは麻衣殿におまキャせしては?」
ちょ、エ、エルザードさん、なんてことを!?
「は!?
この距離じゃ、いくら術士でも魔法を届かせるのは困難だろう?
大丈夫なのか!?」
ケイジさんが素で驚いてる。
当然だよね。
ちょっと前のあたしだったら、即逃げなきゃあっという間に食べられてしまう。
「麻衣殿も自己紹キャいになるであろう?」
「え、うう、ああ、そう言う事ですか・・・。」
ああ、蒼い狼のパーティーの皆さんが興味深々であたしの方を凝視している・・・。
リザードマンの皆さんは、迫りくるワイバーンを涎を垂らして・・・
いえ、獲物を狙う目でロックオン!
・・・仕方ない。
「じゃ、じゃあ、さすがに射程距離外なので近づいてきたら・・・。」
「大丈夫か!?
相手も魔法を撃たれたら、避けまくるぞ?
ワイバーンの飛行速度ならこの距離でもすぐに詰められて・・・!」
ですよねー。
でもあたしはもともと遠距離攻撃のスキル自体持っていませんので・・・。
「来たよ!!」
兎獣人の人が声をあげる!
そうですね、そろそろ射的距離内です!
「じゃあ、行きます!!
エルザードさん、いつも通りにお願いします!!」
「心得た!!」
相手がお空を飛んでいるのなら、
皆さんもあたしの戦術はご存知でしょう。
それ!
虚術第三の術!!
「空気を奪え!! バキューム(詠唱略)!!」
あたしと迫るワイバーンの軌道上に真空結界を展開!!
当然どうなるか。
ワイバーン、糸が切れた操り人形のように急落下!!
どんなに翼をはためかせても、空気がそれに応えてくれることは二度とない。
「「「はああああああああっ!?」」」
後ろでカラドックさん達が「なんだそりゃあ!?」的なツッコミに近い声をあげる。
すいません、一応戦闘中なので無視させてもらいます!
地面に墜落したワイバーンにリザードマンの皆さんが大集合!!
おお、まるで蟻が半死半生の昆虫にたかるかのように・・・。
あたしはみんなが油断しないように大声で注意する。
「ワイバーンの脚力は健在なので気を付けてください!!」
「了キャいした!!」
リザードマンさんのパーティーは、
槍を主体とした、中近距離戦闘特化のパーティーだ。
スピアとかハルバードとか、あたしには武器の区別はわからないけど、
要は遠い間合いから獲物を仕留めるのを得意とする。
今回も地面に落下した衝撃で行動不能に陥ったワイバーンの足から攻撃!!
「まずは足の腱!!」
槍を持った二人が容赦なく足首を切り裂く!
「ギョエエエエエエエエ!?」
そこでようやくワイバーンがあたしたちに戦意をむき出しにするけどもう遅い。
「母なる大地よ! ストーンランス!!」
続いて術士のリザードマンさんがストーンランスでばたつかせる翼を地面に縫い留める!!
凄いね、
今まであたしが見てきた術士の人は、ゴッドアリアさんもそうだけど、
術を水平方向に撃ちだしていたけど、
このパーティーの術士の人は頭上に作り出したストーンランスを、
まさしく通常の槍のように自在に方向性を操って、
ワイバーンの翼を地面ごと貫いてしまったのだ。
あ、もう一本いった!
これで左右の翼が使えない。
もう、ワイバーンが自在に動かせる部位は首だけ。
唯一の攻撃手段である嘴で、必死にリザードマンさん達を威嚇しようとするけども、
槍の穂先を何本も顔の前にあてがわれ、反撃の芽は完全に摘まれている。
まるで流れ作業だ。
ゆっくりとリーダーのエルザードさんが近づいていく。
エルザードさんの槍は穂先が特注品とやらで、
片側に鎌の様にもう一つの刃、
反対側には小ぶりの槌のようなものもついていて、
幅広い用途に使えるらしい。
めっちゃ重そうだけどね・・・
あたしじゃ持ち上げることもできないんだろうな・・・。
もはや「死」を目前にしたワイバーンの目が怯えの色を浮かべる。
「ギャっ、ギャッ!!」
エルザードさんはゆっくりその槌型槍を振り上げる・・・。
「我らに目をつけたのがそなたの運の尽き・・・
お命頂戴!!」
ズゴン・・・!!
勝負ありである。
ワイバーンの脳天が砕かれた。
一方的に終ってしまった・・・。
すぐさま、リザードマンさんたちは素材剥ぎにあたる。
「素材も我らのものにして問題なキャろう?
『蒼いおおキャみ』の皆さまよ?」
あ! それが狙いだったんだね!
抜け目ないな、エルザードさん!!
まぁ、でも確かにあたしはまだリザードマンさんたちと行動を共にしている段階だから、
実質「蒼い狼」の人たちは何もしていない。
問題はないと思うけど・・・。
「・・・それについては全く異論はないけども・・・。」
良かった、
余計なトラブルにはなりそうにない・・・けど、
あれ?
カラドックさん達がさっきから一歩も動いてない?
ていうか、同じポーズのまま?
だるまさんが転んだ状態?
エルザードさんが楽しそうに目を細める。
リザードマンさん達の表情って分かりにくいって言われているそうだけど、
これ笑っているんだよね。
「言うたであろう?
これまでのたたキャいがなんだったのキャ、わキャらなくなると。
なに?
われらも最初に麻衣殿のちキャらを見た時は、
そなたらと似たような反応じゃったキャら、よくわキャるぞ、
そなたらの気持ち。」
そしてようやく時は動き出す・・・。
「「「今の術はなぁぁぁぁにぃぃぃぃぃっ!?」」」
あたしはカラドックさんとエルフさん達にもみくちゃにされてしまった。
いつになったらカラドックさんの話を聞けるのだろう?