第二百十七話 ぼっち妖魔は助ける
ぶっくま、ありがとうございます!!
なんなの?
いったい何が起きてるの?
あたしはとんでもない魔力の塊を感知していた。
正直言って、この異世界の中でもあたしの魔力は規格外だった。
レベルアップしていくその成長過程すらも。
あたしより魔力の大きい存在と言えば、
これまで会った中では吸血鬼エドガーくらいのもんだ。
それが・・・今あたしが向かう先に、それと同等かそれ以上の魔力の持ち主がわんさかいる。
普通に考えるならあたしが近づいていいレベルじゃない。
厄介ごとに巻き込まれるに決まっている。
まぁ、でもね、
あたしが探している人は間違いなくそこにいるんだろうからね、
慎重に近づくにはしても、これを避けるわけにもいかないんだよね。
いい感じに、最も高い魔力だったものは力を使い果たしたのか、その場から反応が消えようとしていた。
もう一つの高い魔力も遠ざかっていく。
まだ、それなりに高いエネルギーの波動が残っているけども、
少なくとも戦闘行為ではなさそうだ。
と、たかをくくっていたら危険察知スキルが働いた。
あたし自身に対してではない。
あの場にいる誰かの命が危機だ。
え?
遠隔透視すればいいじゃないかって?
お待ちくださいな、
あれをやりながら駆け足で坂道下るなんて自殺行為ですよ。
意識を全部、対象にもってかれちゃうんだから、その間に魔物にでも襲われたら一たまりもないしね。
というわけで、
後は護衛の皆さんと一緒に坂道を下るだけなんだけども・・・、
あー、肉眼で見えてきた、
露出の激しい女の人が一人うずくまって、
他に二人の女性が魔法を使おうとしている。
男の人が使っている魔法・・・なんだ、あれ!?
今まであたしが見てきた魔法とは違う原理!?
あ、もしかしてあれが精霊術って奴なのかな?
そして次の瞬間、あたしが見たものは・・・
ちょうど彼らの目が向いている先・・・
なんか、下り坂の終着点のような円形の岩場が、まさに崩れ落ちようとしている時だった。
なんか一瞬、鰐みたいな化物がいたような気がしたけど、虹色の光の中に消えちゃったんで気にしないことにしよう。
それより!
岩場のど真ん中には二人の獣人の人が取り残されていた。
男の人が女の人を庇うように覆いかぶさって・・・
そんなことで女の人が生き延びれるはずもないとは思ったけど、
ほかに手段は残っていなかったんだろう。
あたしは咄嗟に術を使う。
吸血鬼エドガーを倒して大量に取得したスキルポイント。
そしてあたしは虚術士の新しいスキルをゲットしていたのである。
それはまさにこの場において相応しい術だと思った。
間に合ってくださいね!
それ!
虚術第四の術!!
「『万物の主たる虚空よ!
その憎しみの顎にて、貪欲なる重力を喰らえ!!
ゼロ・グラビティ!!』」
一定の空間内の重力を無にする能力だよ!
でもこの距離からでは、正確な位置に術を展開するのは困難だ。
それゆえ、フィールドほぼ全体に術の効果を与える必要がある。
となると無詠唱という訳にはいかない。
タイムリミットギリギリでもあたしの最大限の魔力を使って効果を高めるしかない!
あたしの身体から大量の魔力が抜けていく・・・。
術そのものは成功だ。
・・・けれど、
重力そのものは消え去ったとはいえ、落ちていくこれまでの運動エネルギーまでもは消えない!
あの勢いのまま地面に激突したら・・・
あたしの術は無駄だったのだろうか。
するとどうだろう?
あたしの前方で、不思議な魔術を使っていた人の効果だろうか?
このフィールドに逆巻くような風が巻き起こったのである。
「「うわあああああああああああああっ!?」」
あっ、
地面に激突するはずだった二人の男女がつむじ風のようなものに巻き込まれて・・・
あああああ、重力の干渉がなくなったもんだから、
完全に風に呑まれて、まるで巨大な洗濯機の中で回転する洗い物のように、
この岩場の中をぐるぐると・・・。
これ・・・あの人たち、無事なのかしら・・・。
あっ、もう虚術を解除しないと!!
そしてそのことをこの人に知らせねば・・・。
「もっ、もう無重力状態は解除しました!!
あの人たちをゆっくり下ろしてあげてください!!」
すると、初めて風を巻き起こしている術者の人は、
あたしを振り返って信じられないものでも見たかのように目を見開いた。
冒険者にしては珍しいお髭の生やし方だね。
もしかして貴族の人なのかな?
「む、無重力状態を・・・解除!?
今のは・・・君が・・・!?」
いろいろと説明が必要になるシーンだとは思うのだけど、
今は人命救助が先決だしね、
それはこの男の人も十分、理解していたんだろう、
すぐに首を戻して、風のコントロールを優先させたようだ。
・・・おおお、凄いね、
さっきまでの信じられないほどの勢いの風がだんだん収まって行くよ・・・。
となると、当然、その風の流れに乗っかっていたあの二人は・・・
あああああ、転がるように岩場の底でって・・・ゴロゴロゴロゴロ!
あれ、大怪我するよ!!
あっ、止まった!
生きてる!?
あの人たち、大丈夫!?
「アガサ! タバサ!!」
「合点!!」
「承知!!」
お髭の男の人が声をかけた後、
肌が浅黒くて耳の尖った・・・あれがダークエルフか!
胸の大きいダークエルフさんがアースウォールを唱えると、
倒れている二人の所まで、あっという間になだらかな道が出来上がった。
なんという精密な術のコントロール!
ゴッドアリアさんなど足元にも及ばないレベルだ!!
「あたしが先導するですよぉぉぉぉぉっ!!」
槍を抱えたやはり肌の浅黒い女の子がダッシュ!
あの子も魔力高そうだけど、耳は尖ってないからエルフじゃないのかな?
そして後から、肌の白いスタイルのいいお姉さんエルフが続いてダッシュ!!
たしか高位の治癒士がいるといってたからそのハイエルフさんかな。
「私が来たからには、二人の命は保証!!
ハイヒール!!」
おお!
凄い眩しい光が発せられて・・・これ、ツァーリベルクさんのヒールの比じゃないぞ?
・・・そして・・・
「・・・う、オレたちは・・・」
「あ、あれ? あたしたち・・・生き・・・てる?」
二人の浅黒い女の人たちが抱き合って喜んでいる。
一方、ハイエルフの人は胸を張ってこっちを見上げていた・・・。
「これこそ、このタバサちゃんの真骨頂!!
二人の大怪我はこれで完治!!」
どうやら・・・無事だったみたいだね!!
良かった良かった・・・。
あれ?
気が付くと、この場に残っていた男の人が、あたしを振り返っていた・・・。
そ、それはいいのだけど・・・
「う・・・。」
「あ、え、と・・・。」
「君が・・・」
「は、はい・・・。」
「君があの二人を・・・」
「・・・。」
「き、君が助けてくれたんだねっ!?
あ、ありがとう、ありがとうっ!!
う、ううっ、わ、私はまた大事な人を失う所だったっ!!
君のおかげで彼らを助ける事が出来たんだっ!!!」
わぁっ!?
急にこの人、跪いてあたしの両手を握って来たぁっ!?
い、いえ、別に邪心は一切感じませんよっ!?
純然まごうことなく、あたしに感謝してるのはわかります!
そんな人の手を払うほど、あたしも空気を読めないわけでもないけど・・・
この人、涙と鼻水で顔面ぐちょぐちょ・・・!
・・・あれ?
前もどこかで説明したかもしれないけど、
あたしは他人の感情との共感能力が低い。
普通の女の子なら、この状況に呑まれて貰い泣きするレベルかもしれないけど、
あたしの心は冷静だ。
・・・だからちょっと引っ掛かってしまった。
あたしの両手を掴む、この髭のおじさん・・・。
どこかで会った事がある?
いや、違う。
魂・・・魂の匂いが誰かに似てるのだ。
そう、ツァーリベルクさんとゴッドアリアさんとの間に繋がりを感じたように、
あたしの過去の知り合いの誰かと・・・目の前の男の人と何らかの繋がりが?
でもあたし異世界に知り合いなんて・・・
あ、そうだ、そういえばこの人がもしかしたら・・・
「あ、え、と、もしかして精霊術士のカラドックさんて・・・。」
「グス? あ、ああ、それは私のことだ、
今はAランクパーティー、『蒼い狼』の精霊術士カラドックとは私のことだよ。」
ビンゴである!!
と、いうことは、必然的に・・・この人が異世界人・・・
あたしと同じ世界からやって来たってことなのか。
同じ世界から?
さあて、それはどうでしょう?
あああ、またストックが・・・次回更新できるか・・・。