第二百十四話 タバサ2
ぶっくま、ありがとうございます!
話は一瞬だけ現在に戻るが、
この後に出会う、ある少女に当時の話をしたら、「ああ、ギャップ萌えってやつですね、それ。」と言ってくれた。
よくわからない言葉だったが、ケイジとリィナ対する私の反応は当然のものだったのだと思う。
現にアガサも私と同じような反応を起こしていた。
結局、私はダークエルフのアガサに心を開くことにした。
最初は、彼女がダークエルフである事、そして全ての女性の敵とも言えるような巨大すぎる胸に最大限の警戒をしていたが、
何のことはない、
アガサはアガサで、この芸術品と言えるタバサちゃんのプロポーションにコンプレックスを感じていたらしい。
・・・なんだ、私たちは似た者同士じゃない。
その後はまさに怒涛の展開。
魔法都市エルドラの至宝、深淵の黒珠の所在、その大捕物から、
私たちの本来の問題、御霊の減少原因の判明、
そして魔人クィーンやら邪龍やら・・・。
父上が狼獣人ケイジに、今回の事件解決または調査を依頼するという話、
私は真っ先にその話に飛びついた。
だってケイジが僧侶を募集していると言ってたものね。
なら、このグレイテストラグジュアリーロマンシングプリーステスのタバサちゃんが適任だよね?
そう思っていたら、私に対抗するかのように巨乳アガサも手を挙げてきた。
まるで「抜け駆け禁止」とでも言わんばかりに。
まぁいいだろう。
ケイジも魔法使いが欲しいと言っていた。
アガサの実力なら確実に戦力となる。
何より、彼女はダークエルフ特有の選民意識に染まってないのがいい。
それなりのエリート意識はあるようだが、
それは他者を落とすためのものでなく、自らを高めるためだけのもの。
それは私にとっても、賞賛かつ賛同できる考え方だった。
私は代々神官に携わる家系に育ったせいか、
受け継いだ力を、いかにまた後世に繋いでいくかを考えさせられてきた。
私の代でそれを弱体化させるわけにもいかないし、
私の跡を継ぐであろう子供にも、そんなマネをさせるわけにはいかないのだ。
だからこそ、その為に努力を怠ってはならないし、
周りは反対するだろうけど、
場合によってはダークエルフから婿を迎える事すら厭わないつもりであった。
しかし彼女はそんな私よりも更に貪欲。
恐らくそここそ、神官職の家系で育ってきた私と、
一般人から叩き上げで現在の地位を手に入れたアガサの違いだろう。
・・・けれど負けない。
幸いなことにケイジ達のパーティ、「蒼い狼」のなかで私とアガサは、
その役割は被らないがゆえに、どちらも欠けてはならない存在となる。
アガサの遠距離からの強大な攻撃、
この私の防御、治癒という手札を手に入れたケイジとリィナは、まさに最強。
エルフの街を出て、
ヒューマンが統治する冒険者ギルドにおいて私たちは破竹の快進撃を行う。
すっごい楽しかった。
それまでのビスタールで信者にかしずかれて、偉そうに振る舞うのも悪くはなかったが、
正直窮屈で、飽きが来ていたのも確かなこと。
時折、他のパーティーと共同行動をとることもあったが、
誰もが私たちの能力の高さに驚愕と尊敬の視線を浴びせてきた。
私のボディラインや、アガサの胸に釘付けになってる奴らも相変わらず一定数いたけども、
面倒見のいいケイジが、不用意に私たちに手を伸ばそうとする愚か者を排除してくれた。
そういう部分には気を遣ってくれるのに、
この私のおちょくりにはのってくれないんだよね。
あのふかふかのカラダを抱き枕にしたら気持ち良さそうなのだけど。
まぁ、そんなことをしたらリィナが何するかわからないから、
このままの関係が一番なのだろう。
確かに何かの間違いが起きて、この身体に獣人の子供を孕まされても困る。
ケイジの子供なら構わないぞ、といいたいのだけど、保守的なハイエルフの神殿で、獣人との間に出来た子を迎え入れられるとは到底思えない。
それに聞くところによると、ケイジの過去はまさにその悲劇を味わってきたのだとか。
いつだったか、リィナにその話を聞かされた時は軽く自己嫌悪におちいったものだ。
反省。
わかった・・・。
なら私はケイジをからかうだけにしておく。
まぁこのカラダを貪りたくなったら言って欲しい。
避妊には気を付けよう。
リィナには黙っておくから。
え? 反省してない?
ふふふ、ううん、いつもの妄想。
こんな妄想、いつまで楽しめるかな?
私たちのパーティに、カラドックが加わってからはなおも楽しかった。
最初は当然警戒もしていたのだけど、
なんでも異世界からやってきたカラドックには、ケイジやリィナによく似た境遇の弟とその幼馴染がいたという。
・・・そしてその二人は数年前に亡くなったとも。
そんな偶然てあるの?
カラドックが私たちのパーティーに潜り込むための口実かと疑ったのも当然の成り行き。
けれど、カラドックの行動は本物だった。
何よりケイジ自身がカラドックを受け入れていた。
カラドックはすぐに私たちのパーティーになじんだ。
ケイジとリィナの掛け合いにあっという間に入り込んで、
それがとても自然で・・・
まるで昔から三人は仲良しなんだぞ、と言わんばかりに。
それが今、引き裂かれようとしている。
油断と言えば油断だったのだろう。
確かにあの執事魔族は嘘は言ってない。
あいつ本人は攻撃なんかしなかった。
それよりお伽噺にしか出てこないような「悪魔」という存在に全ての思考を奪われてしまっていた。
どんな攻撃が来ようと、この私なら全てを防御してみせ、
万一、仲間が大怪我したらあっという間に治癒させてみせよう。
それこそ、私のこのパーティーでの役割であり、存在する理由だ。
なのに気が付いたら私の全ての手札を奪われていた。
プロテクションシールドは執事の闇系僧侶呪文で剥がされて、
もはやこの位置からでは新たな呪文を張ることも出来ない。
私のお株を奪わんとばかりに、アガサがエアスクリーンをケイジ達に掛けようとしている。
とはいえ、
あそこまで距離が離れているのならば、
エアスクリーンの防御幕が届く筈もない。
でももし、アガサがケイジ達を守るのに成功したら、
この先の旅でずっとでかい胸・・・いや、顔をさせてあげる。
それでケイジ達が助かるなら、お安い御用。
なんなら毎食のおかずを一品差し出すぞ?
その胸の栄養の足しにするがいい。
カラドックは精霊術を使うつもりね?
でも・・・間に合うとは思えない。
人間を浮き上がらすだけの風を巻き起こすより、
どうみてもこの岩場の崩壊の方が早い。
それでもなんとかしてほしい。
もはや私たちに残された手はないのだ。
もし、あの二人を助けられるのなら、
この先、毎晩、このカラダを犯してくれたって構わないのだぞ?
異世界の賢王との子供なら、保守的なハイエルフの神殿も受け入れるだろう。
一方、目の前ではケイジがリィナの身体に覆いかぶさった。
え、あれじゃリィナはその場から脱出どころか身動きすら・・・
バッ・・・
ケイジ・・・あのおバカ獣人は、
自分のカラダでリィナを守り切るつもりだ!
リィナも最初は、自分の手足を封じるようなケイジの行動に疑問と抗議の表情を浮かべたけども、
すぐにケイジの真意に気付いたようだ。
リィナの顔色が変わる。
思いっきり暴れ出そうとする。
でもケイジが手足をガッチリ抑えて、あれじゃどうにもならない。
ケイジが私たちの顔を見た。
あいつは声を出さなかった。
でも私たちにはケイジがこう言ってるような錯覚を覚えたのだ。
「リィナを幸せにしてやってくれ・・・」
何をバカなことを言っている!?
それじゃ・・・そのままじゃケイジが助からない!!
ケイジを・・・
ケイジを失ったリィナに幸せになる道なんか残ってると思うのかっ!?
許さないっ!
ケイジ、そんな結末だけは許さないっ!!
このタバサちゃんの心をこれだけ引っ掻き回しておいて!
そんな悲劇をお前は私に見せるつもりだったって言うのか!?
ふざけるな!!
絶対! 絶対に助けて見せる!!
どんな大怪我してもいい!!
傷一つ残らず回復させてやる!
だから私が地の底に辿り着くまでに生きていてくれ!!
死んだら許さない!!
絶対に許さないぞ!!
そして崩壊が・・・
私たちの後ろで魔族のヨルが悲鳴をあげた・・・。
「きゃああああああああ、ケイジさあああああああああんんんっ!!」
次回いよいよケイジ視点に戻ります。
話を引っ張ってすみませんでした。