第二百十一話 アガサ
口から出る会話でないので、
いつものアガサのセリフ回しとは微妙に違います。
まぁ、多少、影響出てますけど。
<視点アガサ>
まさか冒険者としての旅の果てに、こんな展開が待ち受けているとは。
おっと、はじめまして、
私はみんなのアイドル、グラマラススーパーレジェンド魔術士、アガサ。
みんなは私から話しかけられるのは初めて?
私もちょっと緊張。
何から話そう?
いま、目の前がとんでもない事態になってるけども、
少し前から遡るべき?
そうそう、これを話さないといけない。
私の喋り方。
たぶん、気になる方も多いだろう。
あれは私のおつむが足りないわけでも、若かりし頃に大勢の少年少女が罹る病気の影響の訳でもない。
エルフという種族の中には、自分たちの魔力を研究したり、極めようという目的を持つ者達の間に、いくつか日常的に実践している鍛錬法がある。
それの一種が言霊という概念。
魔法は基本的に呪文の詠唱によって発動する。
もちろん、その威力や精度は術者の内蔵する魔力によって優劣があるわけだけども、
同じ術者であっても、集中力や体調、疲労によってその効果は増減する。
呪文そのものも、言葉自体の意味というよりも、
特定のルーティーンを何度も繰り返すことによって、呪文の安定度を増していく効果があると言われてる。
その考え方を、日常の会話のパターンにも取り入れて、
常に魔法の威力を向上させようという流派が、いくつかエルフの中に存在しているのだ。
これには私が実践している喋り方以外にも、エルフの種族の中には別の流派も存在するし、
好き勝手に独自の手法を新たに作ろうとする者もいる。
私の知るうちでは、日常生活からなるべく会話を減らすようにして、
呪文を詠唱するときに言霊の威力を高めようという考えの流派もあれば、
会話の最後を・・・韻を踏む・・・と言ったかな、似たような単語で会話を締めるという流派もある。
それゆえ、極まれにだが、自分と同じ言霊法を使うものとかち合うケースも出て来る。
私の場合、ハイエルフの森都ビスタールでタバサに会ったのがそれだ。
ああいう場合、なんとも気まずいというか微妙な気持ちになる。
この後に出会うあの女の子が、「ああ、友達に知り合いを紹介されたら、その子が自分と同じ限定もののブランドバッグを持っていたような感覚ですね」と言った。
一瞬、よくわからなかったが、身につけるファッショングッズの話と言えばなるほど、とも思う。
まぁその話はそれでいい。
問題は、そのタバサが、私とは対極にいる存在だということだ。
彼女は私たちダークエルフとはやたらと張り合う種族のハイエルフ。
さらに言うと、互いに高い魔力を持っていながら、私は上位魔術士、タバサは上位司祭だ。
聞くと、レベルも魔力も互いの種族や同僚の中でもトップクラス。
一方、被るところもあれば、全くかぶらないところも多い。
例えば肉体。
自分で言うのもなんだが私の胸はグレイト。
未婚の同世代グループで私より巨乳のものはノードス兵団長麾下には存在しない。
これだけのものを持っていると、いろいろ手間や不都合もあるのだが、ステータスの一つと考えればいろいろ役に立つこともある。
飴と鞭と言えば分かり易いか。
ダークエルフの中でも更に群を抜く私の魔力と、この胸で、
私はここまでのし上がって来た。
タバサは違う。
彼女の胸も大きい方だろうが、私と比べるまでもない。
だが、あのプロポーションは同じ女性の私から見ても素晴らしい。
透き通る程の白い素肌に、完璧なプロポーション。
タバサに比べると、私の胸がただ下品なほど大きいだけなのではないかと落ち込まされる時がある。
・・・これは内緒だ。
他にもたたき上げの私に対し、
彼女は神官長アラハキバ殿の娘で、エリート中のエリートだ。
もちろん、親の七光りだけであの地位にいるというのなら、
私にとって彼女はそこまで目を惹く存在ではなかったろう。
だが、あの魔力とあのスタイルを持つ彼女となら、
色々な意味で私もこれ以上の存在へと切磋琢磨できるのではないか?
もはやノードス隊に私が目指す上は存在しない。
周りにも優秀な人材はいるが、私にとって有益と思える相手がいないのだ。
それは魔術士としてもそうだし、女としてもそうだ。
私は更なる高みを目指したい。
果たしてどこまでいけるのか。
これ以上私は成長しないのか、まだここから先を望むことも出来るのか。
幸い、タバサの方でも同じようなことを考えていたようだ。
・・・そして何よりも・・・
狼獣人のケイジ、そして兎獣人のリィナの存在は、
私たちの既成概念を粉々に破壊していった・・・。
はっきり言えば、私は亜人差別などくだらないとは思っている。
くだらないとは思っているのだが、
魔力の少ない他種族を下に見ているのも確かだという自分がいる。
その辺りに自己矛盾を感じないでもないが、もともとダークエルフの街、エルドラで活動している限り、そうそう他種族と関わることなど何もない。
そんな毎日をおくっているうちに大きな事件が起きた。
そう、深淵の黒珠盗難事件。
厄介な事件だと思ったが、深淵の黒珠の所在さえ掴めるのならば、
難しい話ではないと思った。
どんな盗賊であろうと私の魔法で蹴散らせて見せれる自信があった。
つまりすぐに解決できるかと思ったのである。
まぁ、事態は皆さんのご承知の通り。
改めてここに仔細を述べる必要もあるまい。
・・・ただあの二人の組み合わせは強烈過ぎた・・・。
獣人に会うのが初めてだったわけでもない。
それまで、獣人だからと、はっきりした差別をしたこともなければすることもないとは思っていたが、今までに見て来た者達は、やはり周りの誰もが言うように、粗野で獣臭い、下品な連中しかいなかった。
あの二人は違った。
なんというか、その・・・
かわいかった。