第二百八話 シグの切り札
「タバサッ!」
「プロテクションシールド!!」
オレの合図で、フィールドの味方全員にプロテクションシールドがかけられる。
魔法攻撃には効果が薄いが、執事シグが格闘家と見て最適な防御呪文だろう。
そして、もはやオレたちはその効果を確かめるまでもなく、速攻でシグに向かう!!
「ふ、狼獣人と兎獣人ですか、
先の私とヨル様の戦いで実力を見極めたと思わぬことです、
あなた達には遠慮も手加減も有りませんよ?」
「上等だ!!」
「へぇぇぇ、ならお手並み拝見っ!!」
オレがトップスピードのまま、真っすぐ突っ切る!
そしてリィナは変則的なステップで死角から攻撃!!
「・・・む!?」
まずは貴様の「闇の壁」・・・剣戟にも耐えられるのかっ!?
僧侶呪文の「ホーリーウォール」は被術者に防御力上昇効果を与えるとともに、
あらゆる魔術に耐性を持つが、物理的な攻撃にはその効果が薄くなる。
ダークウォールは初めて聞く術だが・・・もしホーリーウォールと「属性」のみ反するだけなら・・・
その壁ごとぶった切るまでだっ!!
「こ、この剣筋はっ!?」
奴のダークウォールに刃先が触れた瞬間、
オレは斬れると確信したっ!!
このまま・・・
いや!!
オレの横薙ぎの剣を奴は自らの爪で受け止めた!!
ほぅ・・・受けるか!?
「な、なんだ、このパワーはっ!!」
シグの顔が驚愕で歪む。
どうやらこっちの力を侮っていたようだな。
・・・確かにこっちも魔族と戦うのは初めてだ。
奴がどこまでオレたちと差があるのかは戦ってみないとわからない。
「たりゃああああっ!!」
「ぬぅぅぅっ!」
「勘がいいねぇ?
ダメージはないかな?」
リィナのロングナイフがシグの身体を切り裂く!
だが、奴は寸でのところで身を躱し、少し血を流しただけのようだ。
ダークウォールは奴の前面にしか張られていなかった。
一人が正面から対峙できるなら、
後は隙だらけというわけだな。
なんだ、初めて聞く魔法と聞いて警戒したが、脅威でも何でもないな?
堪らずシグは後ろに下がり、体勢を整える。
「・・・そちらのお嬢さんの身のこなしも凄まじいですな・・・。
これは骨が折れるかもしれません・・・。」
「あったり前ですよぉぉぉぅ!!
いくら魔族が身体能力・魔力共に秀でていると言っても、
たった一人で、歴戦の冒険者パーティーに勝てるわけないですよぉぉぉっ!!
シグは強いですけど、思い上がりが過ぎるですよぉぉぉぉっ!!」
何故か同じ魔族であるはずのヨルがドヤ顔を決める。
だが、これは彼女の言う通りだろう。
現存する亜人の中で、最も身体能力に秀でているのは獣人かリザードマンだと言われている。
魔力が強いのはダークエルフ、ハイエルフ。
ドワーフは力に優れ、ホビットは器用さ、ヒューマンは平均値、
・・・魔族はもともと亜人の範疇に含まれてはいないが、
これまで見てきた印象だと、恐らくヨルの言う通りなのだろう。
桁違いの魔力と類いまれな身体能力。
もしこの世界がゲームで、スタート時に種族を選べるとしたら、
ステータスだけで殆どの者が魔族を選ぶことだろう。
・・・器用さは低そうだけどな。
そして現実世界だとすれば子孫も生みにくい。
生物としては不利な条件がある為、繁栄しにくいのも確かな話なのだろう。
だが、この場の話ではどうか。
確かに必要なのは身体能力、そして魔力か、
シグがどちらも優れた能力を備えているのは間違いない。
もし奴が冒険者だというなら、Aランクの称号を与えられていてもおかしくはない。
・・・けどな、
それだけで勝てるなら「苦労」はないんだよ・・・。
さて、どうするか、
今の攻防で分かったろう?
ヨルとシグの1対1ならシグに分があるのだろう。
だがパーティー戦なら戦いにもならない。
卑怯?
何言ってやがるんだ。
こっちにちょっかい出してきたのは向こうが先だ。
まぁ、魔族が「卑怯」なんて概念あるのかどうか知らないがな。
「さぁ、どうしますかぁぁぁぁあっ?
まだやるですかぁぁぁぁっ!?」
今のところ、魔族シグが完全にオレたちの敵だと断言はできない。
なにしろ、奴はオレたちに対し、悪意も敵意も見せていないのだ。
単に「魔人クィーン」の邪魔をするなら排除する、と、
それだけの主張しかしていなかったので、
だからオレたちも決死の思いで奴を倒す、とまでは考えていなかった。
ヨルや町長ゴアの身内であることも確かなので、
一気に命を奪おうとも思っていなかったのだ。
・・・それが失敗だった。
奴にしてみれば・・・オレたちは・・・
「敵」ですらなかったのだろう。
「いやあ、恐れ入りました。
皆様の実力を見誤っていました・・・。」
「あ?」
戦闘中止するのは構わない。
だが、いきなり気を抜きすぎじゃないか?
何を考えているのか、シグはスーツの内ポケットから櫛を取り出したかと思うと、
自分の大きな二本の角の間の頭髪を整え始めたのだ。
・・・あの爪で櫛を掴むのは大変そうだけど・・・。
「・・・いえね、
先ほども申しましたが、ヨルお嬢様にはなるべく怪我をさせたくなかったのですが、
そうも言ってられないようです。
ヨルお嬢様、せめて元来た坂道の方へ退避してもらえませんかねぇ?
あそこまで行けば、巻き込まれることもないでしょう。」
何言ってやがる?
大規模広範囲殲滅魔法でも使うつもりか!?
いくらなんでもそんなもん使うなら長ったらしい呪文詠唱も必要だろう。
それこそ、パーティーなら前衛を戦わせている隙に詠唱すればいいんだろうが、
ソロの分際でそんな暇も隙も与えるものか。
・・・だが先に行動したのは奴だった。
シグの姿がオレたちの前から消えたのだ!!
「なっ!?」
「は、速っ!?」
シグは隙だらけにしていたヨルの真ん前に接近!
誰もがその行動を読めていなかった!
「ううわあああ、シグっ!?」
「お嬢様、ご無礼を承知で・・・
しばらく退場願います・・・。」
奴は再び姿を消したかと思うと、今度はヨルの背後に回っていた。
一度姿を見せたのもフェイントか、
奴はヨルの身体の首根っこを捕まえて、
まるで柔道かレスリングでもそんな技があるのか、
むんずとばかりに奴が言う「元来た坂道」のほうに投げ飛ばしてしまったのである。
「あああああああれええええええええええ~っ!?」
あのダッシュ力は・・・
そうかさっき言っていた魔闘法とやらか?
魔力を自らの脚力に集中させてという訳だな・・・。
なるほど、確かに油断していい相手じゃない。
身体ステータスのみならず、その戦い方自体にも数々の経験が宿っているという事か。
そしてヨルはその坂道にバウンドするように転がって行った。
タバサのプロテクションシールドがかかったままだから、そんなダメージにはなっていない筈。
そしてその事を確認した・・・いや、目を奪われていた隙に、
執事魔族シグは元居た位置に戻っていたのである。
何故だ?
その気なら、そのまま連続でオレたちに攻撃を加えることも?
「さて、皆さま。」
この場においてまだ何か言いたいことがあるのか・・・。
「なんだ?」
これ以上、隙は見逃さない。
奴が怪しい行動を見せたら、すぐに攻撃を行う。
オレはリィナにも視線を送る。
首は戻せないが、後衛のアガサやカラドックにもオレの考えは伝わっている筈だ。
「皆様は私が魔人クィーンから頂いたスキルにも興味があったようでしたな?」
「・・・それをここで見せるつもりか?」
「ええ、構いませんとも、
ただし対価は頂くとも申した筈ですよ?」
「なるほど、見たいのはやまやまだが、
それがオレたちに対する攻撃なら黙ってやられるわけにはいかないな、
その前に・・・行動を封じさせてもらうぞ?」
「はっはっは、気が早いですな、
ではこう言いましょうか?
私は攻撃しませんよ? このカラダでも、術でもね?」
なんだ、それは?
カラドックのような精霊術・・・いや、あれもフィールド変化と攻撃を伴うもの両方あるが・・・。
ところが背後のアガサから大声が飛んできた。
「ケイジ、危険!!
急激な魔力の高まり!!」
「なんだと!?」
見ると魔族シグが両手を前方に翳していた・・・術法か!?
いや、あれは・・・
オレたちとシグの間の大地に・・・魔方陣!?
「私がクィーンから頂いたのは・・・!
先の闇系僧侶呪文の他に・・・この召喚術!!
さぁ、お見せしましょう!!
出でよっ!!
悪魔・・・召喚っ!!」
その言葉と共に虹色の光が魔方陣から沸き出でる。
召喚術・・・
召喚術!?
いや・・・それより・・・「悪魔」だと?
・・・その時、今日、何度も感じたか数える事すら出来なかった生暖かい風を感じた・・・。
あれは・・・予感・・・だったのか。
これから起きることを・・・あの日のことを思い出せと・・・
誰かがオレに精一杯の警告をしてくれたということだったのだろうか?
けれど、もうオレはそれ以上のことを考える事が出来なくなっていた。
魔族シグは高らかに叫んだのだ・・・。
「地獄公爵・・・アガレス!!」」
バブル三世会長ラプラス
「ハイエルフの森都ビスタールでも似たようなことありましたけど、
ハンドボールとか、柔道とかレスリングとか・・・
今回はゲームとかだったらとか言い始めるし・・・
隠す気全然ないですよねぇ?」(ユニークスキル「異世界の知識」使用中)
泡の女神
「・・・本人のモノローグだから、他の人には聞かれてないつもりなのでしょう・・・。」