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第二百四話 招かれざる者



 「本当にこの道でいいのかねぇ?」

 「ていうか、この道以外、オレたちが歩ける所はないよな?」

リィナちゃんとケイジがのんびり会話する。

のんびりとは言っても警戒心をなくしているわけではない。

もはや平常運行ということだろう。


私も警戒を解くことはないが、大自然の驚異に目を奪われることの方が多い。

世界各地を旅してきた私にも、この辺りの地形は奇妙に見える。

もっともそれは人工的だと思うということでもない。

大自然の神秘と言われればすぐに納得できるものだ。


私たちが歩いているルートは、確かに道なのだろう、

幅が約1~2メートルほどのなだらかな道だ。

ただし、その両側には何もない。



いや、正確に言うならそれぞれ左右の向こうには崖がある。

単に、いま私たちが歩いている道の両端の眼下には谷底が拡がっているという話だ。

どうなればこんな地形ができあがるのだろうか?


この道を残すかのように、両側を天然の河水が大地を浸食していった結果が、このような地形を造ったというのだろうか?


魔物に襲われれば逃げ場もないが、少し前の通り道と違って、ここならタバサのプロテクションシールドが効果を発揮する。

彼女のMPに余裕があるうちに、備えをとっている。


 「前の街で手に入れた情報が正しければ、そろそろ魔人クィーンの領域への入り口に辿り着けるはずだ。」

ケイジが思い出したかのように、私たち全員に振り返って口を開く。




あれからいくつかの魔族の街を回って手に入れた情報のうち、

意外だったのは、魔人クィーンそのものは情報を隠蔽しているといった気配が全く見えなかったということだ。


ヨルの住んでいるマドランドの街でもそうだったが、

住人にあったのは、無関心か、拒絶の反応・・・、

すなわち魔人側にとっては別にわざわざ隠し事する必要自体がなかったということなのかもしれない。


・・・隠しているとしたら邪龍の存在か・・・。


そして壁の反対側に存在しているヒューマンや亜人側には、魔族の存在それ自体と交流を持っていないため、あちら側でいかに情報を集めまくろうとしても、徒労に終わることが多かったという事なのだろう。

ここから先はとんとん拍子に話が進むものなのか?

いきなり戦闘になるのか、話し合いで終えられるかも分からない。

ただ、冒険者パーティー「蒼い狼」としては、

既に関門の守護者であるドラゴンとブラックワイバーンを打ち倒している。

あちら側から敵対していると認識されていても仕方のない話だ。

こちら側からも、死んだ人間たちの魂に、魔人クィーンが何らかの干渉を行っているというのなら、話し合いどころかハイエルフの神官たちの前に引っ張って行かねば話が収まらない。


いずれにしても大騒ぎにはなるのだろう。


そんなことを考えていると、道に変化があった。

下り坂の様である。

周りの崖の高さは変わってないようなので、

私たちが歩いている道の高さだけが低くなっていく。


左右に見えていた空の面積がどんどん小さくなってき、

やがて私たちの視界に映る空は、ほぼ真上だけとなっていった。

ただ逆に、私たちが存在している横の空間はかなり拡がっている。

今や私たちは大きな壺の中にいるといった方が分かり易いだろうか?

壺のど真ん中を突っ切るように一本の橋の上を歩いている・・・


そう、かなり坂を下ってきたとはいえ、未だ左右の眼下に見える地表にはかなりの距離がある。

落ちたら即死は免れないだろう。

せめて河川でも流れていればまだ救いがあるが、どうやらこの辺りの水は枯れつくしているのか、岩肌が剥き出しのままだ。

地形から判断するに、かつては湖だったのかもしれない。



 「あれ? この先・・・あそこだけやけに広いね・・・?」



見れば下り坂の終着点は、円形の広場のようになっていた・・・。

草野球のグラウンド程の面積だろうか?

その先には再び登り坂の細い道が見えていることから、別に行き止まりなどという訳ではないだろうが、

思わず一休みしたくなるような場所であろう。

まるで演劇の舞台のように見えなくもないが・・・。


 「魔物は・・・いないな。」

 「うん、気配はないね~?」


リィナちゃんとケイジの反応がないということならば、まず大丈夫だろう。


私たちは小休止の準備をする。


この辺りは直射日光がまず届かないので、ひんやりしているのもあるのか、

円形の広場の上にはそこかしこに雑草やら小さな花が咲いている。

もちろん、私の知る草花の類ではない。


ついさっきまでは生暖かい風が吹いていて、ケイジが不快そうにしていたが、

再び冷たい空気がこの辺りを覆っている。


 「どうする?

 まだここでテントを張るには早いよな?

 ここじゃ一時間くらい休んで、今日はもう少し足を延ばすか・・・。」




私たちは各自、お茶の支度をして、今後のことを相談しようとしていた。

魔物が現れないのなら、気を張り続けることもない。

そこでみんなでお茶の入ったカップを取ろうと・・・


 「あれ? あたしのカップがない?」

リィナちゃんが不満そうな声をあげた。



 「あ? そんな筈ないぞ?

 カップは確かに6つ・・・そこに出して・・・。」


そこで私は場を見回した。

見れば、私を含めそれぞれ6人ともカップを手にして・・・


え!?



 

ば、バカな!?

リィナちゃんは当然手ぶらだ!!

なのにカップを持った手が6つ・・・


このパーティーはケイジ、リィナちゃん、アガサにタバサ、そして私、魔族のヨル、

今や6人構成だ!

ならばもう一人、誰かがここにいるという事か!?


何故だ?

何故、ここまで私たちは気づかなかった!?


この時点で・・・初めて私たちは、この場に無関係なものが一人紛れ込んでいることに気が付く事が出来たのである・・・。


頭の上に巨大な二本の角を有する執事姿の男性を・・・。



 「あ、あなたは・・・シグ!!

 どうしてここにいるですかぁぁぁっ!?」


魔族の娘ヨルが叫ぶ。

そうだ、この男は・・・魔族の街マドランドの町長ゴアの執事だったはずの・・・・。




 「おやおや、

 お嬢様、ご機嫌麗しく・・・。

 そちらのお嬢様のカップを私が取ってしまったようですな、

 これは申し訳ございません。」





 

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