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第二百三話 カラドックの思い出

ブランク空けてすいません。

今回は旅の続きを書こうと思いましたが、

先にこの話にしておきます。


・・・なお「この話、なんかおかしくね?」

と思われる方、

それは「天使シリス」編の主人公が、物語のエピローグに「彼」に語る「真相」で明らかになることでございます。


・・・もうバレてるかもしれませんけど。


<視点 カラドック>


全く人の人生なんて何があるかわからないね。

ちょっと昔の話を思い出してみた。



イギリスの片田舎で生まれた私には、

父親はいなかったが多くの人間に愛されて育ったと言える。

「ウェールズの魔女」とまで言われた、多少愛情過多の母親と、

後にアヴァロン王国を打ち建てた叔父、

そして多くの有能な騎士たちに支えられていたのが私の生家だった。


子供の頃から聞かされてきた、「私は天使の息子」であるという話。

幼い時には、自分に父親がいない事への慰めの作り話と思っていたこともある。

だが、成長するにつれて、当然のごとく現実的な世界の政情も耳に入ってくるようになると、

その話の時々に、私の父親とされる存在の名前が幾度となく聞こえてくるようになっていた。


 やはり私にはちゃんと父親はいるのだ・・・。


きっと、何らかの理由で私に会うことは出来ないのだろう。

いつの間にか、父親が生きてこの世に存在する事だけは疑わないようになっていった。


そしてある日、母親はとんでもないことを私に言った。


 「私の可愛い可愛いカラドック、

 あなたはこの広い世界の王様になるのよ。」


その話を聞かされたころには、この世界がどんな状況に陥っているのかは完全に理解していた。

子供のいない叔父の跡継ぎになることも、頭の中では想像するくらいには成長していた。

だが、さすがにブリテン島とこの世界全てでは比べ物にならない。

しかも海を隔てた大陸では、世界最強の軍事力を誇るスーサが勢力を拡大していた時期でもある。

当時のアヴァロン騎士団最大の懸念事項は、いかにしてアスラ王率いるスーサからこの国を守るか、それが全てだったと言って過言ではない。

・・・いくらなんでも無茶振りが酷い。


ところが、私のそんな反発を見越してか次に母親が私に告げた事実に、私は口を開く事が出来なくなっていた。


 「カラドック、あなたには弟がいるの。」


衝撃の事実だった。

ずっと自分は一人っ子だと思っていたからだ。

話を詳しく聞くと、

私の父親には、彼が高校生の時から親交のあった日本人の女性がいて、

なんでも私の母マーガレットは彼女を出し抜くように、父を手に入れたという。

・・・うん、母ならやりかねないからそこは驚かなかった。


そして・・・その直後に父は命を失ったという。



一人、残されたのは、その日本人女性だった・・・。



目的のためには手段を選ばないのが私の母親だ。

情け容赦なく、その日本人女性の気持ちを踏みにじってしまったのだろう。

だけれども、さすがに目的を達成した後になっては、

母も思うところがあったのか、

私が生まれた後、その日本人女性を自宅の屋敷に招いて、彼女を慰めようとしたそうだ。


 「同じ人を愛した者同士、

 彼の忘れ形見・・・、生まれたばかりのカラドックをあの子に見せようと思った。

 見せるべきだと思った。

 ・・・傲慢だったかもしれない、

 ・・・自己満足だったかもしれない。

 アーサーにも怒られちゃったわ、

 『何をやってるんだ、姉さん!

 自分の恋人が他人に産ませた子供をみせつけるなんて、なんて残酷な真似をするんだ!!

 ・・・それだけじゃない!

 嫉妬で彼女が抵抗できないカラドックに何かするとか思わなかったのかい!?』ってね?」



想像に難い話ではない。

どちらの言う事も理解できる。

生まれたばかりの私には何の責任もないとは言いたいが、

それこそ、人間は自分の見た事聞いたこと、自分の物差しでしか判断しない。

恋人を寝取られ、全てを失った女性が、どんな行動に出るか、他人が勝手に判断など・・・

いや、その状況になったら自分自身でもまともに判断など出来ぬ話なのだろう。


実際その時、母の目には、彼女の姿は「世界に絶望している」ように見えたという。


ベッドの中でまどろむ私を見て、儚い笑みを浮かべてくれたそうだが、

その心中で何を思っていたかは想像するだけでも辛かったそうだ。




・・・これは後になって父から聞かされたことだが・・・、

その時、彼女は「死」を考えていたらしい。


なるほど、それも一つの選択として有り得る話だ。





もし、その考えが実行されていれば、

私には弟は最初からいなかったし、

恐らく、広大なウィグル王国を父から継いだ今も、

私は決して父親を・・・自分の父として認める事などなかったかもしれない。

・・・死んだ恵介と同じように。


事実だけ言えば、その女性・・・恵子さんは自殺しなかった。



私が、あの人間らしい言動を全くしない・・・

人の気持ちを全く理解しようとする気のない父を、辛うじて父として尊敬できるのは、

最後の最後で人間の大事な部分を気に掛けようとしている事だろう。


この話は恵介にはしていない。

私だけが知っている。

・・・もしかしたら母も気づいているかもしれない。




「死んだ父」が、その晩、恵子さんに会いに行った・・・


恵子さんの自殺を思い留まらせようとしたのだ。

父はずっと「見ていた」のだという。

父は「死んだ後」も恵子さんの事を気にかけていたのだ。



具体的に何をしたか、

何の話をしたか、聞くのは野暮な話だろう。

少なくとも父の思いは成功したと言える。

翌日、朝食で母が恵子さんの姿を見たら、

まるで憑き物でも落ちたみたいに、別人のように明るくなっていたというのだから。




そして恵介が生まれた。



もうその頃には、

父は完全に復活を果たし、「自分が人間ではない」ことを公言するようになっていた。

一方、騎士団からは、恵子さんや恵介を護衛する名目で、「完全なる騎士」ガラハッドを派遣した。



その後・・・世界に大破局が訪れ・・・それまでの科学文明は一気に衰退していくことになる。


恵子さんや陽向さんの家族はその時の天災で行方不明となり、生きているかどうかすらも分からなくなったそうだ。


けれど・・・10年経ち、

それらしき家族が日本の片隅でひっそり暮らしているという情報がもたらされ、一気に話が進んでいく。

情報の内容は家族構成、

一人の金髪の外人男性、三人の大人の女性、二人の幼い男女・・・それらが一つの家族のように暮らしていると・・・。


行方不明になった彼らが誰一人死なずに生き延びているのなら、

それはガラハッド、恵子さん、陽向さん、梨香さん、恵介、李那ちゃん・・・それらと一致する。



 「カラドック・・・

 日本に行って彼らを見つけて・・・。

 そうすればきっとお父様にも会えるから・・・!」


そして私の壮大な旅が始まったのである。

 

死んだはずの「彼」がずっと「恵子ちゃん」の傍にいたという話、


少し前の

「エリナちゃん」が「斐山優一」の傍にいるという話。


これは同じ現象なのか、全く異なる話なのか、

それも皆さまの想像にお任せします。

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