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第二十話 いまゴブリン洞窟前広場にいるの

ぶっくまありがとうございます!

<視点 メリー>


既に日は落ちている。

ゴブリンの巣の周辺はかがり火が焚かれており、大勢のゴブリン達が警戒にあたっていた。


火を使う知能はあるようね。

「伝説の担い手」イブリンが恐れたように、彼らは私が処刑したニ体の仲間を発見回収している。

あの死体を見れば、たとえ知能が低くても獣に襲われたとは考えまい。

人間が自分たちのテリトリーに侵入したと気づいているのだ。


彼らの巣は、切り立った崖の麓にある洞窟を根城にしているようだ。

洞窟というより竪穴式住居という概念があっているかもしれない。

入り口周辺はひらけた台地になっているが、南側に少し歩くと、これまた深い崖になっており、人間だったら危険を感じて近づかないだろう。

だからこそ、これまで発見できなかったのかもしれない。


私は彼らの動きを見渡せる林の中・・・五メートルほどの高さの木々の間に潜んでいる。

瘴気の中心は、やはり洞窟の中だ。

警戒にあたっているゴブリン達の中にも少し強力な者もいるようだが、先に私が殺した者達と五十歩百歩の実力だろう。


 『準備はいい?』

アルデヒトに念話を送る。

というより全員に送っている。

返事がいるのはアルデヒトからだけでいい。

すでにその辺りは事前に打ち合わせしておいた。


さて、私のこれからの行動だが、基本的に人間を殺してない個体は処刑の対象外だ。

だが、巣の中心にいると思われる彼らのボスからはかなりの瘴気が感じられる。

10人程度で済まない人間を殺しているようだ。

群れ全体が殺した人間の数は30~40人ほどだろうか?


すでに私の戦闘能力は既に飛躍的に上昇している。

この状態で敵の集団に突っ込むのだ。

処刑対象でない個体も集まってくるだろうが、それは人形メリーにとって目標を処刑する障害として判断される。

エクスキューショナーモードで何の躊躇いもなく死神の鎌を振り回せるという事だ。

彼らが死のうが死ぬまいが気にすることもない。

後のお掃除は冒険者集団に任せる。


さて、アルデヒトの返事ももらったし、もみくちゃにされに行ってこようかしら?

もてるレディは辛いわね。


ではおふざけはここまで。


エクスキューショナーモード・・・オン!!




死神の鎌「ゲリュオン」・・・

さあ、吸い取ってっ、

殺された哀れな人たちの・・・絶望と苦痛の恨みを・・・!



 ゴブリン達・・・

 聞こえる?

 死刑執行の時間よ・・・


 私?

 私の名は・・・メリー。


ゴブリンの集団全体に念話を送る。

殆ど全てのゴブリンがそれに反応した。


 私はメリー・・・

 いま、あなた達の前の林にいるの。


彼らの首がこちらを向く。

だが、木々の枝に中に隠れる私を捉える者は未だいない。

せわしなく首を動かしたり、こちらに歩いてきたりは可能でしょう。

けれど地上を探そうとする限り、私を見つけることなど出来はしない。


 じゃあ行きましょう?


私は枝から枝を飛び、林の端まで来ると、ゴブリンの台地を一望した後、ゆっくりと優雅に地上に舞い降りた・・・。


右手に持つ「死神の鎌」は、

まだ構えることもなく大地に垂らしたまま。

正面からは無力な女性の姿が見えるでしょうね。


そしていち早く私を発見したゴブリンは、自分のエモノを見つけたことに歓喜の表情を浮かべた。

 早い者勝ちだ!

とでも言わんばかりに数体のゴブリンが私に駆け寄ってくる。

歓迎してくれるのかしら?

ではこちらもおもてなしを致しましょう。

行くわよ、ゲリュオン・・・!


かがり火の光をアラベスク文様の刃先が反射する。

一瞬ゴブリン達の足が止まるも、多勢に対したった一人の女性が相手。

油断しなければ自分たちゴブリンが後れを取ることなどない。

そう、思っているのでしょうね。


私は両手で死神の鎌の柄を掴む。

もう何百年と使い続けてきた呪われし武具。

ゆっくりと持ち上げたそれを・・・一度肩に担ぐわけだけど・・・


重そうに見える?

実際かなりの重量だけど、今の私には定規より軽いわよ?


そして彼らはやってくる。

街灯に群がる羽虫のように。


一閃!!


目にも止まらぬ勢いで振り払われるゲリュオン。

その個体は頭蓋の真ん中を横なぎにされ、二つ目の口が生じてしまったようだ。

あっという間に吹き飛ばされて、ピクピク痙攣している。

まだ生きてるわね・・・。


さぁ、

次はどなた?


ギョロリと瞳を動かすと、ゴブリン達の動きが止まっていた。

何が起きたのかわからないという顔ね。


ならどいて?

このまま、あなた達の巣に向かわせてもらうから。


もちろん、彼らはすぐに我に返ったようだ。

私の存在が危険なものだとようやく理解したらしい。

手には棍棒、ナイフ、見すぼらしい剣を振り上げ一気に集まってきた。


邪魔。


彼らの視界から一瞬私の姿が消える。

そして同じ速さでまたも振り回される死神の鎌。

連続で耳をつんざく悲鳴があがり、地面に彼らのカラダの一部が転がる。


お次は・・・おっと、

目の前に人間を殺したゴブリンがいるわね?

特別にお相手してあげるわ?


目の前の彼も私に見据えられていることに気づいたようだ。

棍棒を構えて私に相対する。


 『抱きしめてあげる』


私の送った念話に意表を突かれたようだ。

でも警戒心は解いてないわね、

ご立派よ。


でも繁殖対象である私を攻撃できる?

どこを?

足? 

そうね、足を潰して逃げられないようにするのね。


けれど彼の棍棒は私に当たらない。

当たったと思った瞬間には私は彼の背後に回っていたから。


予告通り抱いてあげるわね?

 「私はメリー・・・、

 いま、あなたの後ろにいるの・・・。」


そしてようやく、私が人間ではなく生きる人形だと気づいたよう。

私の腕の中のゴブリンから恐怖の感情が吹きあがる。

彼は必死に私の抱擁を拒否しようとするが、既に万力のように力が加わっていく私の両腕を放すことなどできない。


 「遠慮しなくていいのよ?

 優しくしてあげるわ、あなたが殺した人間のように・・・。」


 ボキィッ!


あばらが折れたみたい?

ゴブリンが涎を吹き飛ばしながら悲鳴をあげる。

そんなに嬉しいのかしら?


さらに力を込めると、

 ボキキッ!

あらあら? 今度はどこの骨の音かしら?

口から血を吐いたわ。

骨が内臓に刺さったみたいね。

ええ、まだ締め付けてあげているの。


このまま最後のエクスタシーを感じさせてあげたいのだけど、周りのお邪魔虫さんたちが放っておいてくれないみたい。

男女の睦を邪魔するなんて野暮な人たちね?


腕を解いてあげると、私に抱きつかれていたゴブリンは、力なくその場に崩れ落ちた・・・。

あら、ちょうどいい位置に。


自分の視界に振り上げられた死神の鎌が映ったようね。

必死に首を動かして私に悲壮な目を向けるけれど、そこには断頭行為寸前の私しかいないわよ。


人間だったら助命の懇願でもしたところでしょう。

まぁ・・・そうだとしても次の未来は決まっている。



その首が吹き飛ぶ。


一気に周りのゴブリン達が攻撃をかけてきた。

今までは私を殺さないように遠慮してたのかしら。

もうそんなことを言っている場合ではないと判断したのでしょう。

結果は変わらないのだけど。


最初はゴブリン達の怒号、

そのうち悲鳴、

そしてゴブリン達の血しぶき、

大地に横たわるゴブリン達のカラダがどんどん増える。


既に彼らの眼で追いきれない速さで動く私。

彼らのパワーで抗うことのできない力で武器を跳ね上げ、まさに手も足も出ないというところでしょう。

さすがに視界は塞がれてしまったけど、私の周りに20体くらいは集まっているわよ?


と、いうわけで、冒険者チームの出番。


ゴブリン達が密集している中心に向かって、

魔法使い達数人がファイアーボールを連発!

先の私の攻撃と、今の魔法攻撃から何とか命が助かった者達も、続く弓矢部隊の攻撃で止めを刺される。


もちろん、私の周辺でもまだ生きてる子たちがいるわね。

あら、どうしたの?

炎に包まれた私が、何食わぬ顔で貴方に近づいているのがおかしい?

だって人形だもの。

火傷なんかしないわ。

薔薇の刺繍が施されたドレスが燃えるだけ・・・。


さて、それより懺悔の時間よ・・・。



 「す、すげぇ・・・!

 あのメリーって人形、全くダメージ入ってねーぞ!」

 「おそらく、既に40体は片づけたな・・・。

 おい、魔石の回収は後にしろ、

 生死の確認だけ済ませとけ!!」


後ろでは冒険者たちが全く危なげなく戦局の流れを測っていた。

ここまでほとんど誰も無傷なのだ。

それでゴブリンの群れの半数が片付いているのが信じられないのだろう。


魔法及び弓矢から逃れたゴブリンは、外周に陣取っている人間たちの存在にようやく気付く。

何体かが反撃に向かうも、数の差であっという間に近接戦闘部隊に切り伏せられた。

そして冒険者たちはどんどん円周を狭め、確実にゴブリンの巣を包囲する。

未だ、洞窟から数体のゴブリンが出撃してくるが、それも私の鎌が逃すこともない。


私は一度、洞窟の入り口から離れ、アルデヒトを振り返る。

 「一度、この洞窟に向かって魔法を撃ってくれるかしら?

 生き残りの人間たちは奥の方にいるから、余程強力なのを撃たない限り影響はないと思うわ。」


先程の魔法攻撃から推定すれば大丈夫だろう。

洞窟の中には燃えるものはそうそうないから、延焼が続いて酸素不足になることもないはずだ。


 「うむ、魔法使いたちよ、

 まだ魔力は足りているか?

 ファイアーボール一発づつ頼む。」


アルデヒトの指示で、魔法が幾つも叩き込まれる。

別にゴブリンの殺傷が目的ではない。

恐らく数体、その炎に巻き込まれただけだ。

この後、私が悠然と洞窟に入るための目くらまし。


お姫様の登場みたいにゆっくり入っても良かったのだけど、炎と煙に紛れて天井に張り付く。

今や私は巨大な毒蜘蛛といったところかしら。

洞窟の外側は既に戦士職の冒険者たちが控えているので、飛び出すゴブリンを逃がすこともない。


 

次回ゴブリンの巣突入!

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