第百九十八話 ぼっち妖魔は語られない夢を見る
別世界のお話です。
・・・物語のストックなどとうに切れています。
あれ?
またあたし?
おかしいな、
しばらく出番はないはずなんだけど・・・て、
ここはどこだろう?
・・・あ、これ、夢か・・・
えっと、正確にはそうじゃないな・・・
予知夢・・・か、
それともどこか遠い世界の夢なのか・・・
あたしは今、天井のようなところから下の景色を眺めている・・・。
そこにいたのは三人の男女。
みんな若い・・・っていうか!
一人はあいつじゃない!?
「少年」!!
なんであたしはまた彼の姿を覗いているの!?
・・・ん? あれ?
「少年」・・・だよね?
顔つきも体格も間違いなく彼だ。
あんな、お化粧もなしに、男の子にも女の子にも、
どっちにも見えるようなルックスの子なんてそうそういない。
でもあたしには視える・・・彼の魂が・・・。
つまり、今の彼は「天使」じゃない・・・人間のまま?
あたしが出会った時より大人びて見えるような気がするから、
もしかしたら未来の映像なのだろうか?
でも未来だとしたら、どうして人間のままなのだろうか?
他の二人はどうだろう?
一人は髪の短い黒髪の女性・・・、
年の頃は「少年」と同世代に見える。
・・・ていうかもう「少年」ていう雰囲気じゃないな。
成人してるっぽい。
女の人もそのくらいの年齢だろう。
大学生か、新社会人ぽいイメージ。
てか、スルーしそうだったけど、この女の人は日本人だよね。
なんでわざわざそんなこと言うのかというと、
もう一人いる更に若く見える男の人が外国人だったからだ。
あどけない顔立ちだけど彫が深く、完全に違う国の人だとわかる。
夢なんてものは脈絡のない展開が多い。
今この場にあっても、あたしは周りの景色を何となく理解してしまう。
森の中だ。
深い深い森。
そこを無理やり切り拓いて道路を通したみたいで、
その先にかなり近現代的な白い建築物がある。
建てられたばっかりだね。
横に回ると、一階の壁があるべき大部分は全面ガラス張り。
そこからもさっきの三人の姿は見えるようだ。
少し離れたお庭に石碑のようなものが建っている。
お墓?
誰のだろう。
こちらもごく最近に建てられたようだね。
さて部屋の様子が気になるな。
あの「少年」たちは何を喋っているのだろうか?
「それでジェフティ、どうなんだ?
例の飛行船の動力は完成しそうなのか?」
ジェフティ・・・あの外国人の若い人の名前だね、
何故かわかっちゃうけど、フルネームはウランドン・ジェフティネス。
天才技術士だ。
「はい・・・正直80%ってとこなんですけどねぇ、
肝心のエネルギーの伝導物質の選定が今一つ・・・、
それをクリア出来たらもう完成したも同然なんすけど・・・。」
「大丈夫だよ、ジェフティ君、天才だもん。
すぐにそんなハードル、クリアできちゃうよ!!」
「はは、加藤さん、そうだといいんですけどねぇ。」
女の人の名前は加藤さんか。
・・・一般人にしか見えないね。
あたしと苗字が被りそうだけど、完全に偶然だからね。
だってあたし達の苗字は「リーリト」・・・「りーりぃとー」・・・「りーり・いとー」から来ているのだから・・・。
・・・いやいやいや!!
夢だからって何勝手な設定作ってんの!?
デマだからね!?
信じないで下さいよ、皆さん!!
あ、続きの話を聞かなきゃっ!!
もちろん「少年」も会話に参加している。
そうそう、今はあたしの話でなくこっちの人たちのお話なんだからねっ?
「悪いな、ジェフティ、
本来、一緒にオレも手伝ってやりたいところなんだがな、
どうしても、あいつらとケリをつけないとならないらしくてな。」
「「・・・・・・。」」
二人とも黙っちゃった。
誰かと敵対している最中の話なんだね、きっと。
ていうか、やっぱりあたしの知ってる「少年」じゃないね。
彼は「オレ」なんて言わない。
あれ・・・、
なんか空気が変だよ?
「少年」が浮いてるみたい?
「斐山君・・・その、どうしても戦いに行くの?」
あー、彼そんな名前なんだっけ?
前、聞いたかな?
覚えてないや。
「加藤、今更何言ってる。
あいつらはこっちが何もしなくても襲ってくる。
こっちが身軽なうちに攻めた方が有利に決まっているだろう?」
「あ、うん、それは、わ、わかるんだけど・・・。」
「実際、あいつらも後がない。
・・・こっちは朱武、妖龍、頬月、全員揃ってるんだ、
犠牲は出るかもしれないが、一気に勝負に出るのが確実だ。」
「斐山君・・・。」
「何より・・・まごまごしてると向こうに先手を取られる。
前回のエリナのように、オレたちの周りの人間が襲われることだってある。」
「あ・・・う、エリナちゃん・・・。」
加藤さんて女の人が悲しそうな顔をする。
そのエリナという人に何かあったのだろう。
・・・あれ?
この女の人は悲しそうな気持だったと思ったのに、
すぐに怒りだしたみたい?
しかも目の前の「少年」に向けて?
(なんで・・・なんでそんな、斐山君、平然としていられるのっ!?)
今のは加藤さんの心の声かな・・・。
・・・あー、何となくわかって来た。
エリナさんという身近な人が敵に襲われたのに、
この「少年」は、それが「どうでもいい事」かのように振る舞っているってことか。
・・・うん、確かに「少年」の正体が「天使」なら、
人間の女の子一人がどうなろうが、気にもならないよね。
実際、あたし達も実験台のような扱い受けたし。
でも、何かおかしい。
あたしはただ、話を聞いているだけなんだけど、
何か空気が変なんだよね。
でもその正体がなんだか分からない。
「まぁエリナだって、意表を突かれなければ、あんな簡単にやられる筈もないがな、
エリナ、次は醜態を晒すなよ?」
「「・・・え?」」
??
あれ?
いま、「少年」は誰に向かってしゃべったんだろう?
他の二人も明らかに違和感を感じている反応だ。
「ん? そうだな、その意気だ、
期待してるぞ、お前はオレのパートナーなんだからな・・・。」
え? え?
この場には三人しかいないよ?
それに「少年」が話しかけてる先には部屋の壁しかない。
・・・これだ、
あたしが感じてる違和感てこれだ。
「ひ、斐山君・・・何言ってるの・・・っ!?」
加藤さんとジェフティ君って男の子が狼狽えている。
「なんだ、加藤?
エリナが心配か?
大丈夫だ、こいつは同じミスを二度と犯さない。」
え、うわ、
これって・・・まさか。
次回、「私メリーさん 天使シリス編」 衝撃の真相。
麻衣
「・・・正直、聞いてて気分が悪くなる話だった・・・。
たとえ『彼』があたしの敵になるんだとしても。」