第百九十七話 オデム誕生
ぶっくま、ありがとうございます!
評価もいただきました!!
めちゃくちゃ嬉しいです!!
そしてついに男は目を拡げる。
「なんと・・・これはどうやら、
この身体の持ち主であったハーフエルフの知識とは別に、
全く異なる世界の・・・月が一つしかない世界の知識があるようです。
まだレベルが低いので大した情報量ではないですが、
恐らく、レベルアップすれば更なる情報が明らかになるでしょう!」
ん?
いま、さり気なくとんでもないことを言われた気が・・・。
「え? つ、月が一つしかないって・・・ここは違うのですか!?」
元々私は月など知らない地下世界の出身なのだから、そこまで驚くことではないけども、
やはり私が今いる世界は、以前の世界とは全く異なるという事実を突きつけられた感がある。
「・・・おお、そうですな、マスターはこことは異なる世界の出自でしたな・・・、
いえ、ここは私に与えらえた『異世界の知識』とは、マスターの出自から影響を受けたのでしょう。」
「それは私の知っている知識をあなたも知っている・・・という事で良いのでしょうか?」
「・・・恐らくですが・・・マスターの知識とは一致しないかもしれません。
私に独立した『スキル』として紐付けられているのであれば、マスターとは違うソースから与えられているのかと・・・まぁ検証はこれからしていかなくてはならないのでしょうがね。」
それは良かった。
私は元の世界の知識や常識など殆ど知らない。
なので私と同じことしか知らないと言われては何のありがたみもないのだ。
ん? では彼が知っている知識とは・・・。
「ちなみに・・・私が以前に住んでいた・・・世界の・・・星の名前はわかりますか?」
「地球・・・ですね。」
まあ! 正解!!
「ではその世界でもっとも広大な国の名前は?」
「えーっと、アメリカ・・・いえ、アメリカは土地が広いわけではなかったですね、
ロシア・・・あれ? ソ連から幾つか国が減って・・・中国でしたでしょうか?」
その辺は私も正解は知らない。
ただ今の質問は大事だ。
彼が知っているのが「どこまで」か確認したかったからだ。
「では『黒十字軍』についてご存知かしら?」
「・・・いえ、残念ながら・・・」
「そうですか、ありがとう・・・。」
黒十字軍を知らない・・・
つまり地上を襲った天変地異も知らないという事だろう。
でも少し嬉しい。
私の話し相手が出来たばかりか、多少なりとも過去の話も出来るというのだから。
多少は気が楽になる。
・・・あ、そう言えば・・・。
「えー、と、あなたにお名前をつけてあげないといけませんよね?」
いつまでも「あなた」ではよそよそし過ぎる。
私の眷属になるというのなら名前くらいないと。
「おお! 是非! お願いします!!」
確かベースとなったハーフエルフとやらは「ロプロ」と呼ばれていたんだっけ。
多少、変化させた方がいいだろうか?
「・・・ハロプロ、ロップンロール、ラプラスの中では
どれがいいですか?」
「・・・突っ込みたい気持ちは抑えさせていただきますが、
それではラプラスでお願いします!!」
「ではこれよりあなたをラプラスと呼ばせてもらいます。
・・・それでラプラス、あなたの元の男の知識を活用して、
ここで4人の人間が消息を絶つ・・・・ことで私に不利益が出て来るでしょうか?」
「ははっ、こいつらは元々、世界樹の捜索に来ていた模様ですな。」
「世界樹・・・私の背中に生えているこれでしょうか?」
「まず間違いないかと・・・。」
「世界樹とは何なのですか?」
「恐れながら・・・この世界に生きる者達の魂の還る場所・・・と言われております。」
うーん、なんでそんな樹木の女神になってしまったんだろう?
たまたまかしら?
まぁいまはいいか。
「ではこの後、他にもいろいろな人間がやってくるのでしょうか?」
「いえ・・・ないとは言い切れませんが、まずそれはないかと。
冒険者ギルドも教会も、この辺りで4人の高名な探索者が、消息を絶ったという認識にしかならないでしょうね。
彼らはAランクでしたので、そのAランクですら全滅するという危険な地域に足を延ばして捜索する余裕など、地元のギルドにはありますまい。」
「では私は一安心という事で良さそうですね。」
「・・・いえ、マスターを守護するのは私一人では心許ないと思います。
私は器用だとは自分で思いますが、荒事に向いている性質ではございませんので。」
「なるほど、護衛役が必要という事ですね。
・・・何か案はありますか?
正直、別人になるとはいえ、そこで倒れているオヤジは嫌ですよ?」
「ふむ・・・ではそこのスライムはどうですか?」
スライムさんか、
それは嬉しい気もするけど、新しく生まれるのは別のスライムさんなのだろう、
そう思うと、少しだけ躊躇いが生まれる。
それに、癒しとしてはスライムさんは有能だが、護衛という意味では強さも知能も今一つな気がする。
「あ、いえ、ここで私の知識をお使いいただけないでしょうか?」
「どういうことです?」
「通常であれば絶対に不可能な禁忌の技なれど、マスターのスキルでしたら、
強力な魔物を産み出すことが可能ではないかと・・・。
もちろん、今まで誰も成功したことがないので、確実とは言えないのですが・・・。」
「そこにあなたの知識が加わるとどうなるのでしょうか?」
「マスターがいた世界には様々な技術がございましたな、
この世界にも、人為的に魔物を作ろうとか、ろくでもないことを考える者がいたのですが、
互いの発想を組み合わせて途轍もない事が出来るのではないかと思いましてね、
もちろん、マスターの神に匹敵するようなスキルがあってのことですが。」
「もう少し詳しく教えてもらえますか?」
「ははっ、この洞窟・・・見れば周りは特殊な魔力を含んだ鉱石ばかりのようです。
恐らくは世界樹の影響なのか・・・、
そして魔物の体内に必ず存在しているという魔石・・・、
それらの原石がこの洞窟の中には豊富にあると考えてよいでしょう。
材料はいくらでもあります。
・・・そして、先程死んだスライムの魔石はまだ健在です。
私が考えているのは、そこに残されたスライムの魔石と同様のものを発掘し揃える事。」
「するとどうなるのですか?」
「通常の魔物は一体につき、魔石は一つ。
その常識を覆すのですよ!
あちらの世界の発想で言うと、デュアルコアモンスターとでも言うんでしょうかね?
二つの魔石を揃えたスーパースライムの誕生です。
普通に考えれば成功する可能性は皆無に等しく、成功したとしても魔物をコントロール出来る保証もありません、
ですがマスター! あなたの眷属という称号で縛るのなら制御は可能なはず!!
どうかやらせてください!!
私はマスターの役に立つために生まれてきたのですから!!」
驚いた。
何が驚いたのかというと、ラプラスの発想力の事ではない。
今まで私は一人だった。
一人で何もできなかった。
そこに招かれざる客がやってきた。
故あって殺したが、その男は取り立てて何が優れているか、特に目立ったものはなかった筈だ。
だが人格が入れ替わったことがあるとはいえ、前の男とラプラスとの間に、能力そのものにそんな差が生まれたような気はしていない。
それでもここまで話が・・・世界が・・・可能性が拡がっていくのだ。
元の世界で、初めて「あの人」に会った時とはまた違う、新たな感動・・・
それを今、私はこの異世界で味わう事が出来たのである・・・。
数日後の話となるが、
ラプラスは、死んだスライムさんの魔石と同調できる魔石を発掘することに成功。
同じ赤い色の魔石だ。
もっとも光り輝いているというほどのものでもない。
もともとあのスライムさんの魔石も最初から光っていたわけではない。
私に隷属して他の魔物を倒してレベルアップを繰り返しているうちに、いつの間にか発光し始めたのだ。
死んだスライムさんの遺体をベースに、私の「生命創造」は成功、
恐らく異世界初の魔石を二つ内蔵したスライムさんが誕生した。
もちろん、ステータス画面には私の眷属であることがはっきりと示されている。
その上で、ラプラスは、あのまま眠っている冒険者ライオットのカラダをスライムさんに食べさせた。
初っ端からスライムさんのレベルが半端なく上昇したそうだ。
その勢いで洞窟内やら、洞窟外の魔物を消し去ってくる。
いつの間にかスライムさんは進化を果たし、擬態能力を手に入れたという。
まだすぐに判別付けられるが、ラプラスや私の姿を真似る事も覚えてきた。
・・・そのうち言語能力も獲得できるのではないだろうか?
「名前は何と付けましょうか・・・?」
「そうですね、輝く赤い魔石が二つもあるのだから、ルビーっぽい名前はどうですかね?」
「ルビーだと、まんまですね?
他に似たような名前はありますか?」
「ふむぅ、ではルビーの古い呼び名でオデムというのがありましたな?」
「あら、いいですね、ではこの子の名前はオデムでどうかしら?」
スライムさんのステータス画面から、名前欄が変化した。
名前が「オデム」と表示されたのだ。
するとスライムさんのボディがプルルンと震えたのが分かる。
喜んでいるのだろう。
それどころか・・・
「・・・お、・・・おでむ・・・。」
なんと喋ったのだ!
あのスライムさんが!!
その時のラプラスのやり遂げたぞ! とでもいうような拳を固めた表情が忘れられない。
・・・けれど、ラプラスの方は、私の想像とは全く別の事で喜んでいたのだ・・・。
「・・・はじめて笑って頂けましたな・・・。」
「え? 初めて・・・? そうだったかしら?」
「はい、柔らかな微笑みを浮かべてくださったことはこれまでもありましたが、
いつもどこか淋しそうでしたので・・・。
今回、マスターが本心から喜んでくださったようなので、
このラプラス、それが何よりもうれしく思います・・・!」
そうだったんだ・・・。
確かに私は元々よく笑う方ではなかったと思うけども・・・
そうか、私は笑えたのか・・・。
泡の女神の話は一先ずお終いです。