第百九十六話 生命創造(おまけ画像有り)
ぶっくま、ありがとうございます!
そして再び洞窟に静寂が訪れた。
あれだけ明るかった洞窟も、たぶん、あの尖った耳の男が辺りを照らす技を使ったのか、
その効果も切れて、元の暗闇が支配する空間に戻ってしまった。
「明かりを。」
なので自分でもう一度辺りを照らす。
起きてしまった現実は変わらない。
またいつか誰かがこの洞窟を尋ねてくるだろうか?
それ自体、奇跡に近い確率だろうが、
その理由が、何時まで経っても帰ってこないこの四人組の捜索だというなら、
また自分が襲われかねない。
もうスライムさんもいないのだ。
この者達を罰したことに悔いはない。
だがこれから起こり得る危険を考えると途方に暮れる。
さすがにこの状況で夢の世界に逃亡するほど私もバカではない。
考えねば。
そういえば・・・
この男たちの息の根を止めた時、
と言っても、耳の長い二人の時の話だが、
頭の中にピロリンピロリン音が鳴り響いていた。
以前、魔物に仲間の技を試した時と同じ音だった。
何だか、レベルアップしたとか、そういう声だった。
誰か私に話しかけてるのかと一時は喜んだものだが、
完全に一方的な声で、何かしら機械的なアナウンスと言うべきものだろう。
「私の能力を。」
それだけでおかしな画面が空中に現れる。
さっきも一度見たが、幾つかの数字が変化している。
私にとってはあまり意味がなさそうなのだけど・・・。
その時、いつもの画面とは少し表示が異なっているのに気付いた。
『生命創造』
確か今まではこの文字が、薄く表示されていたと思う。
そして、今までは何度この技を使おうとしても「条件が達していません」という表示だけで、何の反応もなかったのだ。
今回、いつの間にか、周りの文字と同じ色になっている。
その文字に意識を向けると画面に変化が現れた。
「フキダシ」というものであろうか?
どれどれ?
『生物の残骸を使って新たな命を作り上げる事が出来る。
ベースとなるものは既存の生物のカラダを使うので、出来上がる生物は元の生き物と、
使い手のイマジネーションによって影響を受ける』
え・・・と、よくわからないけど、
いま、ここで死んでいる者達のカラダを使って新しい生き物を生み出せるってこと?
何それ凄い。
アスクレーピオス(医療の神)だって死んだ者を生き返らせる事など出来ないというのに。
あ、でも説明だと死んだ者を生き返らせる技とは違うのか。
実際、死んだ人間が生き返ったらまたバトルになりかねない。
どうしよう?
比較的大人しかった最後の男で試してみようか?
生き物の残骸を使う・・・か。
なら死体の損壊が激しくないほうが成功しそうね。
その意味では雷撃はちょうど良かったかもしれない。
スライムさんから始めるべきだったろうか。
でも生命創造によって造られる命は、以前のものと別だというなら・・・。
迷っていても仕方ない。
万一、再び敵対行動を取られても私なら対処できる。
・・・まずは、あの耳の尖った男を・・・
「生命創造!!」
・・・あうっ!?
なにか・・・私の身体から大量の何かが抜けていった・・・!
私の能力画面からは何かの数字がごっそりと減っている・・・。
なるほど・・・命を生み出す行為にはそれだけの代償がいるという事だろう。
そして・・・見ると私の前方にまばゆい光が生み出されている・・・。
何らかの変化があったのだ・・・。
このまま、何か行為が必要なのだろうか?
それともじっと待っていればいいのだろうか?
まぁ、待つこと自体は今までの生活で慣れている・・・
とも言えなかった。
今の私は期待と不安が織り混じった心情で、早くこの先の展開がどうなるのか見届けたかったのだ・・・。
そして・・・死んでいた筈の「それ」が動き始めたのである・・・。
「う、うう~ん・・・こ、ここは・・・私は・・・。」
喋ったのだ・・・!
確実に死んでいたのに!
生前の声とも変わらない。
また・・・彼の命を奪わねばならないのだろうか・・・!
その男はゆっくりと立ち上がると、辺りを見回し・・・
やがて私を見つけて目を見開いたのだ・・・!
「あ・・・あなたは・・・!」
ここは何と問いかけるべきだろうか・・・。
いまだあの男に敵意も害意も見えないが、全てを思い出してしまったならば・・・。
「今の状況がわかりますか・・・。」
私から問えるのはそれだけだ。
後は男の返答次第・・・。
するとどうしたのだろう?
男はゆっくりと私に近づいてきたかと思ったら、
いきなり膝をついて首を垂れたのだ。
「あなた様が私に命を与えてくださったのですね・・・!」
えっ?
そういう反応!?
「あ、・・・ええ、はい?」
「・・・なんという神々しいお姿・・・
そして信じられないほど美しい、
あなた様に仕える事が出来、この私め誇らしい気持ちで満たされております・・・!」
まさかもう「支配」が効いているのだろうか?
そういうわけではなさそうだけど。
「恐れながら・・・。」
「は、はい?」
「私めは貴女様をなんとお呼びすればよいでしょうか・・・?
私を産んでいただいたのですから・・・マザー?」
あ、それはちょっと。
さすがに子供として産んだわけではないので。
「ええと、マザーというのは違うと思います・・・、
出来れば他の名で・・・。」
「では・・・女神さまとお呼びすれば・・・。」
ううん、それは間違いではないと言いたいのだけど、
ここは私の元の世界とは違うようだから・・・
確かに私の状態を表す画面には「泡の女神」とか「世界樹の女神」とはあるのだけど・・・。
「なにか女主人的な呼び方をお願いできませんか?」
「ははっ、ではロード? いえ、マスターというのはいかがでしょうか?」
「マスター・・・うん、いいでしょう、気に入りました。」
「私めの言葉を受け入れていただきありがとうございます。」
「あの・・・、それで、私は初めて『生命創造』という技を使ったのだけれど、
あなたはその状況はわかるのかしら?
普通に会話が出来ているので驚いているのだけど・・・。」
「はっ、どうも私にはベースとなったこのハーフエルフの能力と記憶が受け継がれているようです。
彼の記憶がわかります。」
「まぁ、それは凄い・・・って待ってください。
それは・・・前の男と同一人物という事ではないのですか?」
ならば前の男とどう違うというのか?
いきなりまた私の下半身めがけて特攻かましてくるのではないでしょうか?
「いやっ、お、お待ちください!
確かに彼の記憶はありますが、人格は全く異なります!!
何より、魂そのものが違うのですよ!!
何なら私のステータス画面を確認してください!!
私は転生者とは言えませんが、通常の赤ん坊に生まれ変わるように、この身体に宿っただけなのです!」
言われてみて、彼の能力画面を覗いてみる。
なんでもステータスウィンドウというらしい。
なるほど、名前欄が「なし」になっている。
他にも称号が「世界樹の女神の眷属」ともある。
でも・・・。
「なんとなく言葉遣いもさっきの男と・・・。」
「ですので、お許しくださいっ、
自分自身の記憶がないので、どうしても前の身体の持ち主の言動に影響されているのですよ!」
ふむ、理屈はもっともだ。
しかし信用できる根拠がない。
確かにステータスウィンドウに書かれていることが事実なら、私の眷属に違いないのだろう。
ただ、このステータスウィンドウとやらに書かれていることがどこまで正しいのかと言われれば・・・。
いまさらか。
そういえば・・・
「あなたのステータスウィンドウには奇妙な文言がありますね?
ユニークスキル?」
そこで男は自分のウィンドウを確認した後に喜びの声をあげる。
「おお! そうですそうです!
マスターから産み出された際に、新たなスキルを得たようです!!
これは!!
なんと・・・私に二つもの特別なスキルがあるではないですか!!
『飛行』!! そしてこれは・・・『異世界の知識』!!」
飛行というのはそのままの意味だろう。
だけど異世界の知識というのは?
「あの・・・異世界の知識とはなんですか?」
「は、恐れながら・・・少々お待ちください、私にもこれは・・・
ふむふむ・・・どうやら・・・。」
男は目を瞑って思索を始めたようだ。
異世界とはどういうことなのか、
この世界の話なのだろうか?
それとも私が元居た世界の話なのだろうか?
ちなみに布袋どんには「異世界の記憶」が与えられております。
ラプラスの「異世界の知識」とは微妙に異なりますね。
<おまけ>について
エリナのいい顔が撮れたので付け加えました。
少年
「絶対、何か企んでるだろ・・・。」
大地の底に眠る巨人
「たまたまだろ、考えすぎだよ、考えすぎ。」