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第百九十五話 そして静寂だけが残った


ああああ・・・

やってしまった。


勢いに任せて感情的になってしまった結果がこれだ。

いいえ、この下劣な男たちを殺したこと自体に良心が痛むなんてことはない。

彼らはこの私を怒らせた。

その報いは受けるべき。


そうではなく、

まずはこの世界にもちゃんと人間がいるという事、

・・・そして彼らがここから帰ったならば、私がこの樹に捉えられていることを誰かに伝えてくれるだろう。

私がこの樹と一体化しているならば、誰にもどうすることも出来ないかもしれないが、

誰かが定期的に来てくれるならば、この私の寂しさは解消できるかもしれない。


曲がりなりにも私は女神と称えられてきた。

男女の仲を取り持ったり、自分自身に他人を惹き付けるだけの地味な能力だが、

最初から悪意を持って私に近づかない相手となら、良好な関係を築けるはずだった。


人さえ来てくれるなら・・・


それを自分の手で台無しにしてしまったのだ・・・。



仕方ないだろう。

誰もいない、

何の刺激も変化もないこんな洞窟で、

たまにスライムさんとじゃれるだけの毎日。

・・・ちなみにスライムさんはこちらのカラダを溶かしてしまうので、

直接触れることは出来ない。

なにかスライムさんが意思表示みたいな動きをするのを、私が想像で当ててみるだけの生活。

私が一発で言い当てると、スライムさんは嬉しそうにあちこち動き回る。

反対にスライムさんが何をしたいか、私が見当違いの答えを言うと、

しょぼーんとスライムさんの形が崩れていく。


・・・もうそれも出来なくなったけど・・・。


だから私の毎日はほぼ眠るだけ・・・。

眠って夢でも見てた方が、まだ退屈を紛らわせる。

目が覚めた状態で「あの人」のことを思い出すのもいいが、

夢の中で「あの人」が勝手に動いてくれる姿を見た方が嬉しいものだ。


・・・なんとなく記憶の中のその姿も、今やぼやけてきているような気がするのがとても淋しい・・・。


そして今回、それを唐突に破られたのである。


今までも、たまに小さな動物や魔物などがこの洞窟に迷い込むことはあった。

私を獲物と認識する肉食獣もいないこともなかった。


けれど、たいていはスライムさんで対処できたし、

まれに強力な魔物が出ても、他の神々の能力をもってすれば、

どうということはなかった。

寝ている時にそんな強力な魔物がでたら、スライムさんが起こしてくれていた。

その粘体で軽く樹の幹を叩いてくれるならば、音の振動で私も目覚める事が出来る。

今回やってきた連中が、私と同じ種族に見えたせいなのか、スライムさんは慌てて私を起こすことをしなかったのだろうか。


何らかの騒ぎのようなものが聞こえた気がした。

夢ではないと思い、薄っすらと目を開けると、洞窟が明るい。

そしてさらには、私の眼下に4人の男たちがいたのである。


・・・そこまではいい。

有り得なかったのは、短足寸胴のむさ苦しいひげのオヤジが、有ろうことか私のキャミソールをつまんで、

・・・今にも私の大事なところに顔をうずめようかとしているところだった。


他にも耳の尖った初老の男性が身を乗り出してきていたし、

少しだけ耳が尖って、ほっそりとした男が短足のひげ親父を止めようとしてるフリして、

私の太ももをガン見していた。


弓矢を構えた男だけが私の全身に目をむけていたけど、

さすがに太ももをめくりあげられたシーンでは鼻血を出していた。

あのまま私が何もしないでいたら、

こいつらは間違いなく、動けない私を代わるがわる犯していたに違いない。

・・・ああ、前世での嫌な記憶が思い浮かぶ・・・!

「あの人」が私を救ってくれなければ、いったいいつまであの地獄は続いたのか!!



そしてこいつらは謝罪するでもなく、私を守るために立ち向かってくれたスライムさんを、

何の迷いもなく殺してしまった・・・。


しかもあれはなんなの?


斧でぶったたくのはまだしも、地面を凍らせたり、炎の槍を出したり。

この初老の男は、私たちのような能力を使えるというの!?


それ自体は驚愕の事実ではあったが、

初老の男の能力は、強力だったかもしれないが底の浅そうな印象を受けた。

恐らく同じ技をあと5、6回ほど放てば能力は枯渇するのではないか?



そして今や、何故だかわからないけども、私にはかつての仲間の能力が使える。

もっとも威力や精度に関しては完全に同等という訳ではない。

想像だが、恐らくは使用者の神としての「格」で技の威力は決まるのではないだろうか。

ならばどんな攻撃が来ても対処できるはず。

・・・まずは身を守ろう。


あの偉そうなアテナが「絶対の盾」だとさんざん自慢していた「アイギス」の効果はどれほどだろう!?

それ! アイギス!!


!?

これは凄い・・・。

彼女が自慢するだけの事はある。

全ての攻撃を払い落とした!


氷の槍も、弓矢の攻撃も全て通さない!

絶対不可侵の盾とはよく言ったものだ。

これは本気であの人の能力がうらやましく思う。


さて・・・身の安全が保障出来たらいよいよ攻撃ね。

もっとも他人を攻撃できる能力だって私は持っていない。

全て借り物の技だ・・・。


いや、まずは自分自身の技を使ってみよう。

あのスライムさんに使った能力だって、あれは私の技ではない。

あれは「権力」で他人を服従させるもので、

これから私が使う技とは本質が異なる。


もっとも私の能力は、私に悪意や害意を持っている人間には効きが悪い。

私を心の中で・・・心の底のどこかでもいいから、

私に「惹かれている」人間に対してのみ効果がある。

ただし、その効果が一度働けば絶大である。

逆らえるものはいない。


さぁ、何十年か何百年かわからないが、久しぶりに使おうではないか、

私の真の姿を!!


 「ドミネーション!!」



うん、どうやら弓使いに成功したようね。

私の能力は、相手を意のままに出来るという能力ではない。

あくまでも相手は自分の意志のまま。

勿論その状態で私が頼みごとをすれば、たいていは願いを聞いてくれる。

今回、弓使いの彼が取った行動は、

彼自身の判断で行った事。

そう、私の支配を受け入れた彼は、

私のために仲間を射殺すという行動に出たのだ・・・。


まず一人。



続いて、未だに私への攻撃を止めようとしない初老の耳の尖った男。

炎とか氷とか多様な術を使うようだけど、このアテナの絶対防御の盾は崩せないと分かったはず。


そうかと思ったら何かまた別種の術を使うようだ。

もう一人との話を聞いていると、こちらの防御に関係なくダメージを与える術を使うらしい。

全くこの場から動けない女一人にどこまで・・・。


さて、どうしよう。

確か狭い洞窟の中ではヘファイストスの強大な炎は使うのはいけないと誰か言っていた気がするし、

ポセイドンの大地を揺する能力では、それこそ洞窟全体が崩れるかもしれない。


そうだ、あの忌まわしいツルピカ頭の能力を使おう。

 「タナトス・・・命を奪え!!」


するとどうだ?

初めて使ってみたけれど、私の身体から白い気体が発生して、目的の男を包み込んだ。

あ・・・これはあの男の生命力が流れ込んでくる・・・。


これもかなりえぐい能力のようだ。

私の生命力がわずかだが増加した。

なるほど、かの男は生命力を全て失って大地に沈んだ・・・。


おや、私の支配を受け入れた男がよろよろとやって来た。

私に謝罪するつもりかしら。

黙って見ていたら、いきなり足元の岩に思いっきり頭を打ち付け始めていた。


どうしよう。

確かに彼は積極的に私を辱めようとはしていなかった。

けれど放っておいたらこのまま自殺してしまうだろう。

私の能力は、その効果を解除しても元に戻るような能力ではない。

つまりあれ。


一度人を好きになってしまったら、そう簡単にその感情は消えはしない。

きっかけは関係なく。

だから私が言葉で「やめろ」と言ったところで、この場で自殺はやめるにしても、

彼の罪悪感も消えはしないのだ。

いつかどこかで行動に出る。

長い時間をかけて説得したら、彼も思いなおすかもしれない。

だが残念ながら、私にそんな余裕はない。

そんな甲斐性もない。

そしてもちろん、そんな義理もない。


せめて慈悲だけは与えてやろう。

私はあくまでも「女神」なのだから・・・。

最後の最後で不埒な真似をするかとも警戒したが、

このライオットという男は最後まで誠実だった。

ならばこちらから裸体くらい晒してあげても良かったのだけど・・・。


 「ヒュプノス・・・安らかな眠りを・・・。」


夢と眠りの神ヒュプノス・・・。

対象を眠らせるだけだが、理論上半永久的に眠らせる事が出来る。

今はまだ生きてはいるが・・・カラダに何かあれば・・・。



さて残るは最後の一人。

私に攻撃をかけようか、逃げようか迷っているようね。

さっきの耳の尖っている男と同族なのだろうか、

こちらも僅かであるが尖った耳を持っている。

ならば同じように遠距離から何らかの技を放ってくるかもしれない。

だが、先程の男の動きで攻撃パターンは読めている。

技を放つには初動か言葉の詠唱のどちらかが必要なのだ。


しかもその技の発動までが致命的に遅い。

私たちならば、その気になれば言葉を発さずとも技の行使が可能だというのに。


おや、どうやら逃げるようだ。

しかも防御シールドのようなものを展開している。

こちらの「アイギス」に比べなんと脆弱な・・・。


しかしここで逃げられては困る。

このまま私に敵対した状態で仲間を引き連れてこられたらさすがに分が悪い。


なのでここで命を失ってもらおう。

恐れ多いがあの方の技を使うか・・・。


 「『雷霆』。」


さすがに黒雲も作り出せないこの環境では、あの方同様の恐ろしいまでの雷撃の威力にはならない。

だが人を一人射殺すには十分だった。

 

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