第百九十四話 パーティー全滅
ぶっくま、ありがとうございます!!
なんですか、それは!?
初めて聞くスキルです。
「ド、ドミネーションッ・・・支配ですって!?」
「・・・聞いたことがない・・・魅了や隷属に連なる状態か・・・!?」
はて?
女性は自分で喋っておきながら、あらぬ方向を見詰めて不思議そうな表情を浮かべています。
「あら? 何か書いてありますね?
ドミネーション・・・魅了の上位互換スキル。
戦闘終了後も効果は持続、
プリーストのディスペルでも解くことは不可能・・・?」
あの感じでは自分のステータスウィンドウを見ているのでしょうか?
しかし魅了の上位互換スキルですって!?
「・・・ロプロ、検証は後回しだ・・・
ライオットを抑えられるか・・・?
行動不能にするか、時間稼ぎだけでもいい・・・。」
「何をするつもりです、テルミオンさん・・・?」
「あの防御呪文は鉄壁なんだろうが、あの女の姿がそこに見えるというなら、光系呪文だけは通じるかもしれん。
・・・雷系も可能性はあるが私は使えないからな。」
「なるほど、ホーリーレイですか、
あれなら殺傷力もギリギリだし、一番効果が望めますね。」
「・・・別に彼女を傷つけることが目的ではないしな、
なんとかやってみる・・・。」
「頼みますよ・・・!」
そこで私はライオットに向き合います。
「ライオットさん、落ち着いてください、
魔物相手ならともかく、私だって人間相手の殺傷沙汰など御免こうむります、
あなたもそうでしょう?」
「もう遅いわ!!
お前たちは女神の眷属を殺してしまった!!
どんなに謝ったって許される話じゃない!!」
泣きながらそんな事を言わないで欲しいものです。
しかし、なるほど、魅了スキルは被術者に操られた感が残るものですが、
この支配スキル・・・まるでライオット自身の意志で喋っているかのようです。
おっと、その隙にテルミオンが呪文の詠唱を完成・・・!
「『世界を照らす聖なる光よ! 邪まなる敵を貫け、ホーリーレイ』っ!!」
これなら・・・
「『タナトス』・・・命を奪え・・・。」
これはっ!?
磔の女性から白いガスのような靄が出現、あっという間にテルミオンのカラダを包みましたっ!
テルミオンの光呪文が発動したのは間違いありません、
あれ? しかし彼の手元で光が萎んで・・・
えっ、不発っ!?
「なっ、なんだ、これはあああああっ!?
ち、ちからが・・・魔力が奪われ・・・!?」
「テルミオンさんっ!?」
何が起こったのでしょう!?
みるみるうちにテルミオンの顔から血の気が消えうせ、
まるで、ろ、蝋人形のように青白く・・・
「ガ、ガハッ・・・」
あ、ああ、そのまま・・・
テルミオンはガルバ同様、地面に崩れ落ちてしまったのです・・・。
するとライオットは私の事など興味を無くしたかのようにフラフラと女性の元へ・・・。
「あ、あああ、お許しください、
この者達の無礼は私が成り代わって謝罪します・・・。
いえ、どうか私の命を差し上げます・・・!
それでせめてあなたの怒りが収まるならば・・・。」
ドガッドガッ!!
何を考えているのかライオットは土下座したかと思うと、いきなり固い地面に頭を打ち付け始めたのです!!
まさか頭を砕いて自殺するつもりなのですか!?
「おやめなさい・・・。」
ライオットの動きが止まりました・・・。
「あ、ああ、我が女神よ・・・?」
完全に女神扱いですか・・・
いえ、ですがそれだけの威厳と能力を兼ね備えているのは間違いありません。
なにしろ、あの位置から一歩も動かないのに、スキルだけで私たちAランクパーティーを圧倒させたのですから・・・。
「私の『支配』を喜んで受け入れていただいたあなたに、これ以上の苦痛を与えるのは忍びありません・・・。」
「お、おお、なんという慈悲深いお言葉を・・・!」
う、む、ライオットの命は助かりそうですね・・・
ただ、ライオットは額からの流血と涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃですけども。
私の身がどうなるかまだ安心できませんが、ライオット一人でも助かるなら、何とかこの場所を本拠地に帰って伝えてもらわないと・・・
ところが私の見込みは完全に甘すぎる話でした。
磔の女性は優しい口調のまま、非情なる言葉をライオットに与えたのです。
「・・・ですので、あなたには苦痛を与えず安らかに眠らせてあげましょう・・・。
最後に私の足に口づけすることを許します・・・。」
「ああ、あああ、み、身に余る光栄・・・我が女神よっ!!」
「なっ、ライオット! やめなさいっ!!」
私の言葉など聞く耳を持たないとばかりに、ヨタヨタとライオットは女性の足元に近づきます。
ん?
いつの間にか、防御シールドは解いている?
どうしましょう・・・。
私には投げナイフもありますし、風系水系の魔法も使う事が出来ます。
しかし・・・魔法では一撃で勝負を決められるものは有りませんね・・・。
いや・・・目視不能のウインドカッターを首筋にでも当てる事が出来れば・・・
その間にライオットは女性の足元に跪いて、彼女の膝小僧に自らの唇を落としておりました・・・。
ライオットの頭に女性の肌着がかぶさってます・・・。
あれ、そのままライオットが頭を起こせば、彼女の大事なとこ、丸見えですよね?
もっともライオットにそんな気配はありません。
完全に彼女に心酔しているのか・・・。
「・・・あなたのお名前を聞きましょう。」
ライオットは自分のカラダを離し、彼女の顔を見上げました・・・。
「わ、私如きの名前を・・・
なんとお優しい・・・
ラ、ライオットと申します、女神様・・・。」
「ではライオットよ、安らかに・・・。」
「ああ、人生の最後に貴方に会えたことはこのライオット最大の幸運!
我が人生、全てが報われる思いです! 我が女神よ・・・!」
「『ヒュプノス』・・・永遠の眠りを・・・。」
あ、あ・・・
ゆっくり・・・そのままライオットの身体が崩れました・・・。
これで、この場で動く事が出来るのは女性と・・・私のみ。
ああ、磔の女性は移動できませんけどね。
もとより、私は目の前の光景から目を離す事など出来ないわけでありましたが、
当然のごとく、最後には彼女の目が私を見据えたのです。
「・・・さて。」
「あ、あ、うう・・・。」
「残るのはあなただけですが・・・。」
無理です。
なんとか口八丁手八丁で説得を試みるという考えもあったのですが、
自らの支配下にあるライオットまで殺したのです。
私を助けてくれそうな気配など全くありません。
もちろん、勝ち目もないのもわかってます。
・・・あと、私に残されたのは・・・
逃走・・・。
それしかないでしょう。
先程彼女が使った白いガスのような術は、あまり遠距離まで届くような術にも見えませんし、
テルミオンが死亡するまで時間的余裕はあったと思います。
私は後ずさり・・・
後ろを振り向かないようにして周りの地形を思い起こします・・・。
逃走ルートを間違えてはなりません・・・。
そう、確かこの道は・・・後ろのカーブを曲がり切れれば確実に逃げ切れるはず・・・
よし・・・振り向くぞ・・・
女性は動かない・・・
・・・いま・・・今だ!!
私は全力でダッシュしました!!
抜かりは有りません、同時にエアスクリーンを展開。
エアスクリーンならあの白いガスが来ても防ぐ事が出来る筈!!
あの女性とは、和解を試みる必要がありますが、それには機会を改めねばなりません。
今は生き延びる事、逃げ帰ることが最大の優先事項、
彼女が敵か味方を判断するのはそれからです!!
「逃がしませんよ・・・『雷霆』。」
私の身体に衝撃・・・胸元から青白い光が発せられました・・・
そして
「私」の意識と記憶は
そこで途絶えたのです・・・
ヒュプノスは「別の物語」には登場してませんが、主人公たちの通らなかったルートのどこかに、ちゃんと存在しています。