第百九十三話 女神無双
ぶっくまありがとうございます!
この女性はスライムをペット扱いにしていたのでしょうか?
いえ、もしかして、この女性が身を守るために配置していたのがあのスライムならば、
この女性はスライムを使役していた・・・と。
つまりこの女性はテイマーということですかね?
いえ、今はそんな事を悠長に分析している場合ではありません。
どうやら私たちは、完全にこの女性を敵に回してしまったようです・・・。
「・・・ああ、酷い・・・酷すぎます!
こんな狭く暗い場所で、一人ぼっちで過ごしていた私の・・・
たった一匹の癒しだったのに・・・あ、あ、ああああああっ!!」
う・・・これは良心が痛みますね・・・。
こんな誰も立ち寄ることのない暗い洞窟で、たった一人で過ごしていたことを考えると・・・
しかも自分で動くことも出来ず・・・
私なら途中で気が狂ってしまうのではないでしょうか?
「みなさん! ストップしましょう!!
これは我々に非があります!!
この女性を傷つけるわけにも行きませんし・・・!」
「いや、ロプロ・・・もう遅いようだ。」
あ・・・あああ、なんということでしょう、
ここに来るまで圧倒的ではありましたが、穏やかであった魔力の塊が・・・
まるで火山が噴火するかのように激しく沸きあがって・・・
「うう、許せない・・・
許しません・・・
あの人のものである私のカラダを盗み見ようとしたどころか、
お友達のスライムさんまで・・・ううううああああっ!!」
ああ、これはもう、言葉では止まりようありませんね・・・、
力づくでもいいから、一度行動不能になっていただかないと、
話し合いは不可能でしょう。
「・・・許せ、美しい貴婦人、後で治癒してやろう・・・アイスニードル!!」
テルミオンのアイスニードルは氷系の基本攻撃魔法。
これなら大きな怪我でもすぐに治癒呪文をかければ、元に・・・あれ?
「うあああっ! 『アイギス』っ!!」
なんですかっ!?
四肢を封じられた女性の周りに魔力の壁がっ!?
テルミオンの放ったアイスニードルが全て砕け散りましたよっ!?
これはプロテクションシールドっ!?
いえ、プロテクションシールドなら薄っすらと防御膜が肉眼にも映る筈ですが、
私には魔力感知で彼女の周りに魔力の塊が拡がったのが分かっただけで、
視界には何の変化も異常も映っていません!
「・・・それは何らかの防御呪文か、
小癪な・・・ならば上級魔法を喰らってみせよっっ!
『静寂たる世界の氷よっ! 全てを砕く牙となりて敵を穿てっ!!
アイスジャベリンッ!!』」
テルミオンのアイスジャベリンが通らなかった敵などかつてありません!
あの女性が展開したのは我々の知らない防御魔法の様だとしても、さすがにアイスジャベリンなら・・・
え・・・
「ば・・・ばかな・・・!?」
攻撃が・・・全て・・・弾き落とされる・・・?
攻撃したのはテルミオンだけではありません。
回り込んだレンジャーのライオットが、弓矢で彼女の死角から何本も打ち込んでいたにも関わらず、矢にしろ魔法にしろ、彼女の防御呪文は全てを叩き落としていたのです・・・。
「ならこいつはどうだぁぁあああああっっ!!」
ガルバの全体重を乗せたビッグバンインパクトっ!
生身の人間に使ったら原型など留めることも出来ません!
もちろん狙いは女性そのものではなく、防御シールド破壊が目的でしょうけども・・・
し、しかし・・・。
「うわぉっ!?」
結果は変わらず・・・
身体ごと跳ね返されたガルバは、みっともなく後ろに転がってしまいました。
魔法も弓矢も斧による攻撃も、全てが彼女の防御フィールドの前に阻まれてしまったのです・・・。
「ば、バカな、オレのビッグバンインパクトでびくともしねぇ防御魔法だと・・・!?」
ガルバは体を起こすことも出来ずに呆然と呟くのみ・・・。
「ガルバさん!
あれは・・・プロテクションシールドの類ではないのですか!?」
「・・・いや、全然違ぇ・・・。
攻撃が当たった瞬間の感触は、むしろエアスクリーンが近いんじゃねぇのか?」
「エ、エアスクリーン!?
エアスクリーンでテルミオンさんのアイスジャベリンを防いだと!?」
「エアスクリーンと言ったって、術の空気密度ってのかな、
硬さと厚みが尋常でなかった・・・正直オレの手首の方がいかれちまってる・・・。」
「そ、それほど・・・。」
ようやくガルバが立ち上がり、次の行動をどうすべきか頭を捻っていた時・・・。
私達は致命的な失敗を犯していたことに、未だ気付けていなかったのです・・・。
それは、攻撃をかける側は、私たちではなかったという、至極単純明白なる事実に・・・。
「さぁて、こいつはどうしたもん・・・グハァッ!?」
「ガルバさんっ!?」
こ、これはいったい!?
ガルバさんの喉元に一本の矢がっ!!
彼女は弓矢なんて・・・いえ、あの羽飾りは・・・
「ラ、ライオット・・・て、てめ・・・ぇ 」
ガルバさんの巨体が冷たい洞窟の地に沈みました・・・。
有り得ません・・・
仮にもAランク弓使いのライオットが射抜く相手を間違えるなどという事は・・・
「ライオットさん! あ、あなた!!」
混乱した私が振り返ると・・・そこには決死の表情を浮かべたライオットが・・・。
「あ、あんたら、な、何をやっておるんだ・・・
相手が誰か、まだわかっていないのか・・・!?」
「相手が誰かって・・・。」
「我らは世界樹を探しに来たんだろう!!
そして間違いなくそれはそこにある!!
そこに・・・そこに一緒におわす方が何者なのか・・・
あんたらは考えることも出来ないと言うのかねっ!?」
「そ、それは・・・っ!?」
「そもそも、ありえんぞっ!?
相手が魔物ならともかく、人の姿をしているどころか、
これだけ見目麗しい女神のような方を前にして、あのような恐れ多いことを仕出かして、それだけで万死に値するというのに!
なおかつ配下のものまで残酷に殺すとは、冒険者の風上にも置けんぞ、あんたらは!!」
ん?
おかしいですね、
いえ、言ってることはよくわかるのですが、もともとライオットはこんな多弁な男ではなかったはずですが・・・
だいいち、ライオット、あなたも今さっき、攻撃をかけていたのに・・・
まさか・・・【鑑定】!!
「あっ・・・。」
「どうした、ロプロ・・・?」
「ライオットさんに状態異常が・・・!」
「なんだとっ!?
まさか、あの女は魅了スキルでも持っているのか!?
まさか彼女は妖魔に連なる魔物なのか!?」
妖魔?
なるほど、これだけの美貌を持つ妖魔なら、魅了を持っていたとしても不思議はないでしょう。
それに樹の中に封じられている手足の先がどうなっているかは確かにわかりません。
四肢の先端に鈎爪がついているかもしれないし、
末端部分が鱗に覆われていたとしても、私たちには確かめる術もないという事です。
ですが・・・。
「い、いえ、違います・・・
こ、こんな、こんなのは初めて見ます・・・っ。」
「なんだ!? 何が初めてだというのだ!?」
「テルミオンさん、あなたは見た事がありますか・・・?
ライオットさんに現れた状態異常は・・・『支配』と・・・。」
「『支配』・・・だと!?」
振り返った私たちに、世界樹の女性は冷徹につぶやいたのです・・・。
「これが、
この現象こそが、私の本当の能力・・・『支配』・・・。」
おまけぺーじ。
彼女はこことは異なる世界の地下世界において、
自らが治める小さな村で、村人たちに崇められながら、ひっそりと暮らしておりました。
ある時、
彼女達の王、ゼウスから「鍛冶の神ヘファイストスと結婚するように」という、
人権無視のふざけた命令がきたのですが、
なんのかんのと口実をつけて逃げ回っていたところ、
地上からやってきたある人間に連れ去られてしまいます。
そこで飲んだ人間の記憶を奪う「レーテの泉」の水を毎日のように摂取させられて、
地下世界の暮らしや自分の事を忘れ去ってしまいました。
地上ではある小さな都市の領主の「持ち物」として扱われ、
日夜、慰み者にされ続けていたのです。
そこへやって来たのが、ある物語の主人公・・・・。