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第十九話 魔法初体験なの

<視点 メリー>


その場にいた冒険者たちから歓声が沸いた。

 「・・・おお! 二匹仕留めたか!」


おおむね、好意的に受け止めてくれたようね。

満面の笑みでアルデヒトが迎えてくれた。

 「メリー、よくやった!

 怪我は・・・要らぬ心配か!」

 「魔物と言っても何の脅威もないわね。」


それでも各パーティーのリーダー達はそれぞれ思うところがあるらしい。

「苛烈なる戦乙女」のテラシアは、

 「まぁ、ただのゴブリンニ体ごとき、剣に腕の覚えのある者なら労せずして倒せるがな。」

と不愛想。


続いて「銀の閃光」ストライド、

 「いやいや、テラシアさん、

 見てくださいよ、彼女、傷どころか服に汚れ一つないですよ?

 これ瞬殺だったんじゃないですか?」


そして「伝説の担い手」イブリンはというと、

顎の髭をいじりながらお小言のように。

 「待ちたまえ、

 当初の予定では調査が目的だったのではないか?

 先にこちらから攻撃したのが発覚したら、残りの連中の警戒度が上がる。

 そうなってしまったらゴブリン殲滅の難易度が跳ね上がるぞ?」


 「ごめんなさいね、言いたいことは理解できるわ。

 でも先に断ったように、まず自分がどこまで魔物相手に動けるか確認したかったの。

 おかげである程度わかったわ。」


これらの複合パーティーを仕切るアルデヒトは全員の戦力を把握しなければならない。

彼にとっても私の戦力は気になるはずだ。

 「ほう、どの程度だったんだ、メリー?」


先に言ったように魔物自体に脅威はない。

ただし。

 「実を言うとあまり芳しくはない。

 キャスリオンの言う程度には役立てられるかもしれないけれど、私の能力を引き出せる相手と呼ぶには雑魚すぎるわね・・・。

 今回のゴブリンは人間を一人しか殺していなかった。

 その程度だと大して力は出せないわ・・・。」


冒険者たちの何人かの顔色が変わる。

無理もない。

今の言い方では、人間を大勢殺した魔物の方が、このメリーの獲物にふさわしいと言わんばかりの表現になってしまったからだ。

もっとも、自分を売り込む意図も全くない。

ただの事実の提示のみ。


 「それと最も大きな問題。」

 「問題? それは何だ?」


 「魔物には罪の意識がない。

 私の処刑方法には、対象に自らの罪や悪行を理解させるというプロセスがいる。

 今回はゴブリンに過去の行いを思い出させてから首を狩った。

 彼らが人間をいたぶり殺した手段をそっくり再現してね。

 それがやっとよ、

 自分の行いが自分に返ったという認識を与えるので精一杯だった。」


そう、やはり私は戦士や兵士などではない。

魔物討伐のメインにはなり得ないのだ。


 「人間にもたまに罪の意識が全くない者もいるのよ。

 今回もそんな時の対応と同様に、最低でも自分が何故殺されたか、本人の過去の行為を存分に思い出させてから処刑したけれど、やっぱり私の特性を活かしきったとは言い難い。」


本当に稀にいるのよね。

良心なんてカケラも持ち合わせていない者が。


 「それでは人形殿はどうされるのだ?

 ここでお留守番をなさるおつもりか?」


嫌味な言い方だけど悪意はないみたいね。

元騎馬隊長だったというイブリンの口調はこれがナチュラルなのだろう。

それではと。

私はアルデヒトに向き直る。


 「私のことはこれでいいわ。

 その上で報告と進言。」


 「む? なんだ?」

 「このニ体のゴブリンがいた更に奥に、彼らの集落を発見した。

 天然の洞窟かしら?

 生息個数はおよそ80体。」


 「なんだと!?」

 「こちらの予想を遥かに・・・!」


アルデヒトとイブリンの形相が変わる。

そしてその驚きと不安は、直ちに後続のパーティーにも伝わったようだ。

すぐさまリーダー達とアルデヒトは撤退と他の冒険者達の招集について話し合いを始めるわけだけど・・・


面倒なのよね。


 「進言が残ってるのだけど?」

 「む? そ、そうだったな、それで何だ?」


 「このままこのメンバーで進撃する。

 さっき、そちらのナイスミドルの騎士様は、ゴブリン達の警戒度が上がると言ってたけど、それは逆。

 警戒度が上がったが故に全てのゴブリンが住処を守ろうと集まってきている。

 今すぐなら一匹残らず殲滅出来るというわけ。」


その場の全員が息を飲んだ。

相手の数に脅威を感じているのかしらね。


 「む、無茶を言うな!

 こ、こちらの人数の四倍もいるんだろう!?

 そりゃ勝てるかもしれない、

 だが犠牲者がいくら出るか想像できない。

 第一、メリー、君だって戦力には!?」


 「ああ、言い忘れてたわね。

 ゴブリンの住処からはかなりの妄念が漂っていたわ?

 あれなら私の能力は格段に跳ね上がる。

 時間かけてもいいなら私一人で80体斬り伏せられるわよ?」

 「な、な!? 80体全てっ!?」


殺すだけならね・・・。


 「でも厄介なことに」


 「な、なんだ、まだ何かあるのか?」

 「人間の女性が七人くらい囚われている。

 生きてはいるけど、精神状態がかなり危ない。

 あなた達の助けがいる。」


流石に顔色が変わったようね。

特にテラシアを始めとする女性チーム。

人間の女性が囚われているとなると、その意味は一つしかない。


テラシアは一度、自分のチームを振り返り、全員の意志を確認する。

 「『苛烈なる戦乙女』は行くよ!

 それでメリー、あんたを戦力に数えていいってんだな!?」


 「戦力どころか切り込み隊長でも囮にするなりどうぞご自由に。

 夕暮れから夜にかけてがいいわね、

 全てのゴブリンを私に惹きつけて『魅せる』わよ?」


普通の人間には絶対にできない戦術。

薄暗がりや遠目からなら私を人形だとは判別できまい。

せいぜい、あり得ないほどの大きさの鎌を振るう女性が現れたくらいにしか、ゴブリンには認識できないだろう。

性欲と繁殖の両方が満たされる・・・

彼等は一斉に群がってくるはずだ。

仮にニ、三体で捕縛しようとしても無駄な事。

既にゴブリン達の住処には、私の力を湧き立たせるほどの怨念が渦を巻いているのだから。


「苛烈なる戦乙女」と「銀の閃光」は勇ましい声をあげる。

アルデヒトとイブリンは落ち着き払い、作戦の不備や想定外の事態に備えるためにしばし話し合いを続けていたが、やはり人間の女性が囚われているなら、一刻も早く助けにいくべきだと結論が出た。


そして確認すべきはこの作戦の中心たる私の事。

 「メリー、いいのか?

 下手すると全てのゴブリンがお前に群がるぞ?」

 

なにぶん、こちらは呪われた人形なもので・・・。


 「構わないわ?

 遠距離から弓矢や魔法も撃てるのでしょう?

 なら遠慮は要らない。

 私ごと焼き払うといいわ。」


 「メリーは魔法に耐性でもあるのか?」

 「いえ、そういうことではないわ?

 単に人間には大怪我するような攻撃でも、私の行動にはほとんど影響ないというだけ。

 人形には痛覚がないからね。」


 「ちょっと待て、メリー、

 それはこの世界の魔法を舐め過ぎだ。」

幾分、慌てたようにテラシアが私を制止する。


 「あら、そうなの?」

 「バレッサ、ちょっとこっち来な?」

 「は、はい! テラシアさん!」


 「バレッサ、そこの樹木に魔法撃ってみな、

 ファイアーランスだ。」

 「わ、わかりました。

 『全てを焼き尽くす炎よ、我が槍となりて敵を貫け! ファイアーアランス!!』」


すると、バレッサと呼ばれたエルフの正面に、炎の槍が生み出された。

それは形を成したと思われた瞬間、激しい勢いで目の前の樹木を撃ち抜いた!


へぇ・・・結構太い幹に大きな穴が開いていてる・・・。


穴の周辺は真っ黒に焦げて、独特の焦げ臭さも辺りに拡がっていた。

まぁ、私に嗅覚はないので、他の人の感覚に同期させてもらったのだけど。


 「どうだ、メリー?

 いくらお前だとて、この威力を食らったらタダでは済むまい?」


確かにこれだけカラダに穴が空いたら、しばらく行動不能になるかも。

 「そうね、ごめんなさい、

 ちょっとこれは食らいたくはないわね。

 単純に家が火事で燃えてる炎程度なら、私には効かないぐらいのつもりだったの。」


素直に謝るわ。

ていうか、これだけの威力を放てるんなら、ゴブリンなんて怖くもなんともないような気もするけど。


アルデヒトは大体を理解したようだ。

 「よし、そういう事か、

 なら魔法部隊は、メリーがいるところにランス系の魔法は使うな。

 具体的にはファイアーランス、ストーンランス、アイスジャベリン辺りか。

 貫通力のないファイアーボールか、ファイアーウオールをメインにすべきだな。」


 「あら? もしかして戦術の幅を狭めちゃった?」


 「いや、そんな事はない。

 もともと威力の高い魔法は連発できないし、MPがもたない。

 余程の高位の魔法使いでもなければ魔法を主体に魔物の討伐はできないのさ。」


なるほど、

しかも今の若いエルフは呪文詠唱しないと魔法は撃てないのね。

それは戦場では致命的。

パーティーを組むことでようやく連携が生まれるというわけか。


 「・・・よし、それではいよいよ行軍を開始する。

 メリーは案内を頼めるか!?」

 「ああ、それも不要よ。

 私は先行してゴブリンの巣を監視する。

 奴らに動きがあったり、あなた達が間近に着いたら念話で距離を告げるわ。

 その方が確実でしょう?」


若いストライドは素直に感心しているらしい。

 「念話?

 メリーさん、どれだけ便利なんですか・・・。」

 

そういえば感知系の能力者ってここにはいないのかしら?


後で聞いたら、精神的感知系能力は巫女職か神官職に就く者が覚えるそうで、カテゴリー的にはかなりのレアスキルらしい。


逆に生物的な意味での感知系スキルは結構普及しているそうだ。

例えば聴覚強化とか視覚強化とか。

普及しているといっても、こちらは種族特性に左右されるらしく、適性がないのもは覚えることはまずできない。


巫女系の職業はレアとはいえ、それこそヒューマンだろうが亜人だろうが、関係ないので一定の割合で覚えることのできる者は存在するという。


けれど今回、たかだか20人前後の冒険者の中にそういったレアスキル持ちは存在していなかった。

ダンジョン探索に精神感応能力者が一人いると、安全性が確実に高まるのだけど、彼らは個人の戦闘力が乏しい者が多く、パーティーを組むうえで足手まといになる可能性も高いのだ。

それだったら物理的な感知能力が高く、更に戦闘能力も高い獣人をパーティーに入れる方がメリットは大きい。


今回で言えば、数人の獣人冒険者がいるが、私の索敵能力の方が範囲も精度も上だ。

さらに言えば、生物ではない私は敵ゴブリンから探知されにくい存在でもある。

斥候役として単騎で彼らの巣に近づくのに、これ以上の適役はない。

 


次回、戦闘開始!!

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