第百八十九話 ぼっち妖魔は話を続ける
誰かさんのせいで話が伸びてしまったので、続きはお昼ご飯の後に行われた。
とはいえ別にゴッドアリアさん自身も、もとからお母さんやお祖母ちゃんを和解させるという願いを持っていたわけではなかったようだ。
「なんていうか、かーちゃん見てるとさ、
無理してないというか自然体過ぎてさ、それこそ余計なことみたいな気がするんだよ。」
ここであたしは疑問をぶつける。
とはいっても確認のためだけのものだ。
「ゴッドアリアさん自身はお二人を元の関係に戻そうとは思わないんですか?」
「・・・ううーん、そりゃあ家族なんだから仲良くに越したことないとは思うんだけど、
どっちも別に今のままで不満なさそうだし・・・。」
そうだね、第三者的に見たら何とかしてあげたいと思うかもしれないけど、
それこそ余計なお世話だ。
本人たちが会いたがっているのに別の誰かが邪魔してるとかならともかく、
話を聞いていると二人とも、自分の意志で今に至ってるのだから・・・。
そこであたしは気が付いた。
当人というのは、お母さん、お祖母ちゃん、ゴッドアリアさんだけではなかったのだ。
ツァーリベルクさんが悲痛な顔をしている。
「ツァーリベルクさん・・・。」
「なんだい、あんたは満足できないって顔だね?」
「う・・・お前たちはそれでいいのだろうが、クィンティアは私にとっても娘だぞ?
やっとこの機会を得たんだ、
20年ぶりに会いたいと思うのは当然のことだろう?」
「・・・はぁ、ばかだねぇ、
あたしは別にこの屋敷に帰ってくるなって言ってるだけなんだから、
あんたが好き勝手に会いに行けばいいだけじゃないか。」
「え・・・?」
「え、じゃないよ、
今まではあの子がどこにいるかわからなかったから、会いにいけなかったんだ、
今なら何の問題もないんだろう?」
「い、いいのか、キサキ・・・、
それじゃお前も・・・。」
「あたしはいいよ、
あの子が元気そうならそれで十分さ。
・・・ただあの子自身があんたに会いたくないっていうかもしれないよ?」
キサキお祖母ちゃんが意地の悪い笑い方をする。
ここら辺はご本人の性格だろうね。
それでもツァーリベルクさんの顔が明るくなったのは確かだ。
「そ、そうか、
それではゴッドアリア!
今度は私が君と・・・クィンティアの実家に行きたいのだが・・・
私を招いてくれないだろうか?」
「え、あ、いや、そ、それは歓迎するけど、
うち狭いし、何にもないし・・・!?」
「そんなものを気にする父親がどこにいるというのだ!
お願いだ、ゴッドアリア、
私はクィンティアが結婚すると言った時に彼女の味方になれなかった。
本当に今更な話なのだが、私はクィンティアに謝りたいのだ。」
長い間、心に引っ掛かっていた後悔・・・か。
あれ? どっかで聞いたことあるな。
・・・ああ、昔あたしを助けてくれたレッスルお爺ちゃんの言葉か。
もう・・・レッスルお爺ちゃんは死んじゃったはずだけど・・・
お爺ちゃんが心配していたエミリーちゃんとマリーちゃんとは仲良くやっているよ。
安らかに眠って欲しい・・・。
・・・まさか別の人に転生してないよね?
あの人の場合、それが考えられるからなぁ。
結局この日は、関係者すべてにとって良い結果をもたらしたと言って良いのではないだろうか?
ゴッドアリアさんは、今のまま冒険者を続けるが、今後ツァーリベルクさんの教会での活動に定期的にお呼ばれすることになるそうだ。
具体的に言うと、ゾンビの足止めや荒れた墓場の整地に土魔法が役に立つとのことで、色々需要があるらしい。
貧乏生活からは抜けられるかな。
ただ、最後のキサキお祖母ちゃんの言葉こそがあの人の本音だったと思う。
「伊藤さん、クィンティアの家に行くなら荷物の運搬を頼んでいいかい?
あの子がこの家に残していった私物とかがあるのさ。
それと・・・あいつは山奥に籠ってるんじゃ、着るものなんかもみみっちぃものばかりだろう?
別にこの屋敷に戻って来いなんて言うつもりは毛頭ないけど、キリオブールの街には降りてくることもあるだろう。
その時に人前に出て恥ずかしくないくらいの服装くらいしときなよ、ってことで何着か衣類も入れておくからね。」
これは自然にあたしの顔にも笑みが浮かんでしまった。
なんていうか、どこにでもいる普通のお母さんのような言葉だったからだ。
それに・・・
「・・・ずっと用意してたんですね、いつクィンティアさんが戻ってきてもいいように・・・。」
ご家族皆さんの視線が集まる。
「・・・何を言ってるんだい?
これは元々、ロワイエルのために用意したものだけどね、
彼女の好みに合わなかったんで、奥にしまっといた奴だよ。」
さすがのキサキお祖母ちゃんは動揺を顔に出すことはなかったけども、
あたしにはバレバレだ。
本音を突かれた時の反応をあたしが見逃すことはない。
ちなみにもう一人の娘さんのロワイエルさんに目を向けると、
口に手を当てて、おかしそうに噴き出すのを堪えていた。
まぁ、あたしには絶大な容量を誇るアイテムボックスがあるので、運搬自体は・・・
あれ?
あたし、このキリオブールでのイベントは、このツァーリベルクさん宅訪問を最後にするつもりだったけど、この後、ゴッドアリアさんの生家にも行くことになるのか?
人付き合いって・・・大変だなぁ・・・。
まぁ、乗りかかった舟とはさっきあたしが言ってしまった言葉だ。
最後までやるとしましょうか。
結局、夕飯までご馳走となる。
半分あたしへのもてなしの意味合いもあったんだろうけど、
キサキお祖母ちゃんは、異世界のことやあたしのスキルについてもいろいろ質問をしてきた。
なのであたしは世間話的なニュアンスで会話する。
「あたしの家系も、女系的な部分があって、あたしの魔力はマ・・・母や祖母から受け継いでる部分が大きいんですよ。
だからあたし個人の能力というより、先祖代々から受け継がれている力だとは思ってます。
まぁスキルとかいう概念は、こっちの世界に来てからですけど。」
「そうだったのかい。
伊藤さんはそっちの世界では特別な家系ということなのかい?」
「あー・・・特別と言われればそうなんですけど、
騒がれたくないので、他人には能力を隠してますよ。」
「へぇ、こっちとは全然違うんだねぇ、
でもどうないんだい?
ある意味、こちらでは隠し事も手加減もする必要ないなら、ストレス解消には持って来いじゃないか?」
あ・・・そういう捉え方もあるか・・・。
「確かに・・・ないとは言えませんね、
そもそも、あたしが全力で力を振るう機会なんて、元の世界じゃ滅多にありませんからね。」
うん、滅多にね。
たまにあるのはシャレにならない事態の時だ。
それは勘弁してほしい。
「・・・そんな伊藤さんが異世界からこちらの世界に送られた・・・
いったいどんな意味や思惑があるんだろうね?」
相変わらずさっぱりだよ。
でもここで、ツァーリベルクさんが会話に参加してきた。
「少なくとも私や家族にとっては、伊藤殿の来訪は大きな価値があった。
もし、この街から離れても、私に出来ることは何でもする。
伊藤殿がこの先、何か困ったことがあったら、私たちの事を思い出して欲しい。」
「はは、ありがとうございます・・・。
今のところ、いろんな人たちと知り合いになれた・・・くらいで、
元の世界に戻ることはおろか、ここで何すればいいかもまだ・・・。」
この世界に来てから無駄なことは何もないという気はするけども、
肝心のメインクエストが何なのかわからないんだよね。
メッセージさん的には、この世界で遊んでいればいいような雰囲気しか伝わってこないので、いまいち緊迫感も沸いてこない。
ちなみにいくつか手掛かりみたいなものは得ているけども、
正直、この会話の瞬間は忘れきっていた。
あたしのおつむの出来を過信しないでもらえると助かります。
「そうだな、
こちらの世界の人間としては、こっちの世界を堪能して欲しいとも思うが、
向こうでは伊藤殿のご家族も心配してるだろうしな。」
あ、それは話してないか。
「あー、それなんですが、あたしをこの世界に送ったやつらによると、
あたしの元の世界では時間が止まってるらしいです。
その言葉を信じるなら、あたしが元の世界に戻った時点で、また時間が動き出すので、
あたしがいなくなってた事を認知できる人は誰もいないかと。」
その場の皆さん、全員が信じられない顔をする。
「な、なんだ、その荒唐無稽な事象は!?
時間を止める!?
そんな事を出来る人間がいるというのか!?」
「あー、それも・・・人間じゃないかもしれませんね。」
少なくともそんな事が出来そうな人外に、二人ほど心当たりがある。
果たしていったいどっちだ。
次回で麻衣ちゃんパート終了です!