第百八十八話 ぼっち妖魔は口出ししない
執事のマヌエルさんがこの場を締めてくれた。
「皆様、屋敷にお戻りください、
この場は使用人たちが片付けますので。」
そう言えば、アースウォールで変化させた地形ってどうやって戻すんだろう?
他の属性防御魔法って、ほっとくと消えちゃうものばかりなんだけど、土ばっかりはその場に残るだけだからね。
謎である。
それにしても・・・
「ゴッドアリアさん、凄いですね。
さっき鑑定してみたら、ゴッドアリアさん魔力852ですよ?
魔力だけならAランクと言ってもいいんじゃないですか!?」
「852!? そんなに上がってたのか!?
・・・う、うふふ、そ、それは凄い!!」
もしこないだの吸血鬼戦が、冒険者ギルドで「吸血鬼討伐」として依頼されたモノだったら、Cランクにアップしてもおかしくない経験である。
残念ながら、あれはあくまでも行方不明者捜索依頼なので、そこまでランクアップに加算されてはいない。
あと、別に冒険者ランクはステータスではランクを決めることはない。
あくまで経験と実績である。
ただまぁ、ステータス値が目安となることはあるだろう。
屋敷へ戻る道すがら、
ご両親に耳打ちされたようだけど、二人の女の子がゴッドアリアさんのとこまで気恥ずかしそうに近寄って来た。
確か、エンジェちゃんとメサイアちゃんだったかな?
「あ、あの・・・。」
もちろん、ゴッドアリアさんも応じてはいるけどこっちも動揺しまくりである。
「な、なんだろうかっ!?」
「「ゴ、ゴッドアリアお姉さまとお呼びしてもよろしいですかっ!?」」
驚愕!
困惑!
呆然!
理解!
破顔!
歓喜!
・・・号泣!!
拳を固めて両手を天に翳すゴッドアリアさん!!
ちなみに「この子に七つのお祝いを」掛けたわけじゃないからね。
ゴッドアリアさんの表情七変化である。
「い、生きてて良かったぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ゴッドアリアさん、良かったですね。」
あたしは素直に祝福しますよ。
「・・・あ、う、麻衣、麻衣ぃぃ・・・。」
「はいはい、ホラ、ハンカチ。」
「まぃ、麻衣、うう、こ、この子たち・・・。」
「ええ、いい子たちじゃないですか。」
「うんうん、麻衣、こ、この子たち・・・」
「はいはい、なんですか?」
「め、めっちゃめちゃかわいいいいいいいいいいっ!!」
ちょっと待ってください、
話が変な方向に行くからやめましょうね。
あたしたちは先程の応接室に戻って来た。
お茶は新しく別のものを用意されてもらっている。
至れり尽くせりだね。
ただ、
ゴッドアリアさんと二人の女の子の喜び具合とは別に、
大人たちの緊張がまだ解けていない。
何かまだ問題が残っているのだろうか?
「さて、ゴッドアリア。」
お祖母ちゃんが話を始める。
「あ、は、はい!」
「あんたがあたしの孫であることは疑わない。
ここから先の話は、それを踏まえて進めるよ。
それでね・・・話はここから本題なんだ・・・。」
あ、・・・そういうことか。
今までの話は・・・ゴッドアリアさんの出自を確かめるだけのこと。
肝心なのはこれから・・・ということだね。
「我が孫、ゴッドアリア・・・
あんたは何しにこの屋敷へやってきたんだい・・・?」
うわ、直球・・・!
「え・・・? な、何しにって・・・アタイは呼ばれてここへ・・・」
「ああ、ああ、うちの人がセッティングしたのはわかってるよ、
こう聞けばいいかい?
あんたはここへ来て、あたしたちに何を望む?」
相変わらずキサキお祖母ちゃんの目は笑う事はない。
怒っている風でも警戒してる風でもないけれれど、ただただ厳しい。
そしてゴッドアリアさんは何を言うか・・・。
その気になれば、いくらでもゴッドアリアさんは望みを言う事が出来るだろう。
この屋敷に住まわせて欲しいとか、
貴族の仕事を与えて欲しいとか、
単純にお金が欲しいとかもあるかもしれない。
けれど。
「の・・・望み?」
「そうだよ、何もないのかい?
あんたがこの家の・・・うちの人の孫だと聞かされて2日経っているんだろう?
その間、ここへ来たら、こうしようああしようとか何も思わなかったというのかい?
そんな筈はないだろう?
あんたは何しにここへ来たんだ・・・?」
視線をあちこちに泳がせるゴッドアリアさん。
一度あたしに助けてというような視線が来たけど、ここでもあたしは何もしません。
これはゴッドアリアさん自身の問題なのだから。
それが不思議そうに見えたのかもしれない。
「伊藤さんは・・・何も言わないんだねぇ・・・、
そんな消極的な子には見えないのだけど・・・。」
キサキお祖母ちゃんはあたしに話を振って来た。
「ゴッドアリアさんは友人ですけど、
これはゴッドアリアさんご家族の話だと思ってます。
あたしは介入すべきだとは思っていませんので。」
そこで初めてキサキお祖母ちゃんは嬉しそうな顔をした。
「そうかい、
ゴッドアリアはいい友人を持ったようだねぇ。
・・・気を遣わせてありがとうよ・・・。」
ゴッドアリアさんは、あたしが「友人」と言ったところで嬉しそうだったけど、
ポイントはそこじゃないから。
いま、キサキお祖母ちゃんが言ったことを理解して欲しい。
そしてあたしも今のセリフで理解する。
これは・・・おそらくなんだけど、
キサキお祖母ちゃんは自分の意志を大切にする人なんだと思う。
それが他人であっても。
もちろん、家族も。
だから、娘さんのクィンティアさんが結婚の話を出した時も、
結婚そのものには反対しなかったんじゃないだろうか?
ただ、冒険者との結婚と、貴族の女性である事の両立ができないと考えたから、
クィンティアさんに決断させたのだろう。
貴族の娘の地位を選ぶか、愛する男を選ぶか。
クィンティアさんは後者を選んだ。
そしてその事にキサキお祖母ちゃんは全く不満を持っていない。
クィンティアさんは全くぶれることなく自分の意志を貫いた。
その事をクィンティアさんを育てたキサキお祖母ちゃんは、誇りにすら思っているのではないか。
そんな印象をあたしは受けたのである。
だからこそ、
キサキお祖母ちゃんは、ゴッドアリアさんにも同じように問い質したのである。
彼女の意志を。
自分のやりたいことを、他人に決めてもらったり、他人の支えがないと自分で決められないような人間など、キサキお祖母ちゃんの評価対象外という事なんだろう。
「な・・・」
お?
ゴッドアリアさん、覚悟を決めたか!?
「なにも・・・」
え?
「何もないよ!!」
はい!?
それはさすがにあたしも予想外!
もちろんキサキお祖母ちゃんも、ツァーリベルクさんもそう来るとは思わなかったんだろう、
理解不能の顔をしている。
「何もないって言うのかい?」
「何もないです!
あ・・・強いて言えば、たまにでいいいから、
エンジェちゃんやメサイアちゃんに会いに来たい・・・くらい・・・かな?」
そこでお孫さん達3人は嬉しそうに微笑む。
けれど大人たちは困惑するばかり。
ゴッドアリアさんは言い訳っぽく・・・。
「ア、アタイが欲しかったのは、友人や仲間だけだったから・・・、
そんなのここで手に入れるもんじゃ・・・ないだろ!?」
やだ、ゴッドアリアさんかっこいい。
ここへ来て、何いいキャラぶろうとしているの?
「アッハッハハハ! いやあ、参った。
こりゃあ、毒気抜かれちまったよ、
クィンティア! あの子は面白い子を育てたもんだねぇ?」
キサキお祖母ちゃん、嬉しそうだね。
あたしもてっきりお母さんの話題になると思ってたから、完全に予想外したよ。
「ゴッドアリア、あたしはてっきり、クィンティアとあたしの和解でも話すのかと思って身構えていたんだけどねぇ、
いやあ、あたしも老いちまったのかねぇ?」
ところが突然、そこでゴッドアリアさんの顔が青ざめた。
あれ? ・・・まさか。
「あ・・・。」
もしかしてその話を完全に忘れていたんじゃないだろうな、ゴッドアリアさん・・・。
これはあとでふくちゃん急襲の刑だ!!