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第百八十五話 ぼっち妖魔は思い起こす

ぶっくまありがとんです!


気を取り直そう。

ユーノちゃんエミリアちゃんファミリーには、約束通りプリンを置いてきた。

お父さんの分を忘れちゃいそうになったが、仕事が終わったらここに来るとのことで、

プリンが痛まないうちに食べるよう念を押しておく。

エミリアさんが「なにこれ! なにこれ!?」と、その場であっという間に平らげてしまった。

さすがにその状況では、涎を垂らしてこっちを見詰めているキャサリンさんが可哀想なので、お一つおすそ分けしておく。

他のシスター仲間の皆さんのいないところで食べて欲しい。

その場を目撃されたら、この教会に何人いるのか分からないシスター皆さんに振るわなくてはならなくなる。


・・・さてお次は靴屋のメイジャさん。


なんか部屋の中が煩い。

あ、あの怒りっぽいお父さんだね。

お父さんが怒っているという事は・・・。


 「こんばんわー。」


ドアを開けると予想通りの光景だった。

肉屋のポッポさんもお見舞いに来ていたようで、

それがお父さんのお気に召さなかったらしい。


 「・・・だいたいてめぇは! まだ半人前の癖に・・・

 おっ? お嬢ちゃん、アンタか!

 ありがとよ! 本当にありがとよ!

 そんな姿ですげぇ冒険者だったんだな!

 こないだは失礼なことを言って悪かった!!

 この通りだ! 許してくれい!!」

お父さん、土下座でもせんばかり。

お母さんは満面の笑みで深々とあたしにお辞儀してくれた。


さり気なくポッポさんがあたしの傍に寄ってくる。

 「・・・いいところに来てくれたよ。

 親父さんの興奮が冷めてくれなくてね・・・。

 もうどうしたもんかと・・・。」


肝心のメイジャさんはニコニコしている。

周りの声だけだと、メイジャさんがポッポさんの事をどう思っているかはわからなかったけど、この状況を受け入れているみたいだ。

・・・ただ。


 「あたしを・・・たすけて、くれた人、

 あ、ありがとう、ごめんなさい、こんな見苦しい・・・うっ 」


努めて何もないように振る舞ってるけど、聖水治療による体の痛みがあるらしい、

たぶん発熱とかもあるのだろう、顔が赤い。

でも普通に受け答えは出来るんだね。

ここでいう見苦しい状況ってのは、ご自分の姿かな、それとも修羅場の方だろうか。


 「お父さん、ポッポさんとメイジャさんの件にはあたしも干渉しませんけど、

 メイジャさんの具合の事も考えて、お静かにした方が・・・。」


 「うぉっ!? そ、そうか!

 すまねぇな、メイジャ! つい興奮しちまって!!」


お母さんはもともと二人の仲に反対してないので真っ当な反応だ。

 「ポッポ君、ありがとうね、

 仕事の後で疲れてるのにわざわざ・・・。」

 「い、いえ! とんでもない!!

 当たり前のことですよ!!」


お親父さんが睨んでる。

前途多難のようだ。

でも・・・。



 「・・・ポッポ、ありがとね・・・嬉しいよ・・・。」

メイジャさんがぎこちない喋り方で笑った。

これは脈ありか。

頑張れポッポさん、押せば落ちるぞ。



問題はその後、最初の方にエドガーに血を吸われた人たち。

簡単な会話は出来るけど、治療の苦痛が酷いのか、ベッドに拘束具も付けられている。

年頃の娘さん達が、そんな悍ましい姿でいる状況を想像してみて欲しい。

いや、むしろ想像しないであげたほうがいいのだろうか。


一時期のあたしの姿を思い出していたたまれなくなる。

もしあの時、ママが悪霊リジー・ボーデンを退治できなかったら、

あたし達の家族はどうなっていたであろうか?

あたしは気が触れたまま、ずっと鉄格子が窓についてる精神病院の一室で、

部屋の中を埋め尽くした蛇の大群と共に、けたたましい笑い声をあげ続けていたのだろうか?


パパとエミリーちゃんマリーちゃんたちは、命はとりとめていたにしても、

ママのカラダに乗り移った、血の繋がらないあの子たちと、奇妙な共同生活を送り続けるのだろうか。

パパはある時期から、ママの消息についてあたしに聞かなくなっていた。

嘘をつき続けるあたしの反応が拙過ぎたんだろう。

恐らくパパも内心では気づいているに違いない。

きっとあたしに気を遣ってくれているだけ。


戸籍上、ママは普通に生存していることになっているので、お墓など建てられない。

あたしの心の中にも、どこかではっきりさせておかなくてはならないという気持ちもある。

これまであたしは、


ママの・・・に関して、はっきりと口に出したことは一度もない。

認めたくなかったからだ。

別れの言葉も言えなかったのに。

お礼の言葉も言いたかったのに。


もう帰ってくることのない事もわかり切っているのに。


認めるべきなんだろうか。

自分の心の弱さが嫌になる。

周りを見てみるがいい。

魔力が云々、強さが云々関わらず、懸命に生きている人たちがこんなにもいるじゃないか。


あたしは現実の光景に目を戻す。


屍鬼化が進んでいる女の子たち・・・

ご家族の姿もあったけど、彼らは自分の娘の変わり果てた姿に手放しで喜べない状況だ。

治療は長期化するけど、きっと元の生活に戻れるようになるとのシスター長の言葉に望みをかけるしかない。


別室で話を聞くと、

エミリアさん、キャサリンさん、メイジャさんについては全く心配は要らないらしい。

予断を許さないのが、最初にエドガーの毒牙にかかった子と、もう一人の教会の子。

カラダが屍鬼化するのには、本人の不死体への適正と、抵抗力とのせめぎ合いになるそうだ。

万一治療が追い付かず、完全に屍鬼となってしまった場合、

教会の立場としては、・・・浄化・・・すなわち消滅させるしかないという。

前も説明したかもしれないけど、

屍鬼と言っても主がいるのなら・・・その主が真っ当な人間なら、

その人間の隷属化によることで、存在を許されることがある。

けれど主を消滅させた野良屍鬼など誰も守ってくれやしない。

屍鬼自身、誰の命令も聞くこともない。

その本能によって人間を喰らうだけの存在になってしまうそうだ。


最悪の事態を回避したいだけなら抜け道はある。

これも書いたろう、

屍鬼を隷属・・・いや、使役というんだっけかな?

アンデッドを使役できるテイマーを探し出して、その人に身を預けることだ。

人間には戻れないが、存在そのものは許される。

家族や親族がテイマーとしての道を目指すことも前例があるそうだ。

その場合、職業適性がないと難しいけども。



でも、これ以上、被害が広まることのないのは確かなようだ。

もうあたしに出来る事は何もない。

たかが一介のハーフ妖魔に出来る事など何もないのだ。


あとはゴッドアリアさんの問題だけだが、そちらもあたしが何か出来るわけではない。

単に物語の結末を見届けたいだけなのである。



そして二日後、ツァーリベルクさんの手配によって、

あたし達はツァーリベルクさんのお住まいに招待されることとなる。


お貴族様の館にである。

今回の冒険、

ラスボスはゴッドアリアさんのお祖母ちゃん。



なかなか麻衣ちゃんパート終わらない。

エドガー倒したら、一、二話程度で締めようと思っていたのだけど。

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