第百八十三話 ぼっち妖魔は間を取り持つ
ぶっくま、ありがとうございます!
あたしたちが三人で教会に戻ったのは夕方過ぎだ。
教会のシスターさん達や館長は忙しそうにバタバタしていたが、
みな明るい顔を浮かべている。
仲間が戻って来たことを喜んでいるのだろう。
館長さんにはご丁寧なお礼を受けた。
あとで他の街に行ったとき、教会が便宜を図ってくれるように、一筆したためてもらえることとなる。
・・・こんなパターン多いな・・・。
ちなみにこの教会へは、
攫われた女の子たちの様子を確認しに来たわけでもあるが、
二、三、大事な話があって戻って来たのだ。
まず一つは、歩きながらでも済ませられる。
「ツァーリベルクさん、
エドガーとの戦いでご存知だと思いますが・・・あたしは・・・。」
「異世界の妖魔という話か・・・。
しかし人間は襲わないのだろう?」
「ええ、あたしに危害を加えようとしない限りは。」
「そんなものは当然の話だ。
わざわざ付け加えるほどのものではないよ。
・・・確かに最初聞いた時はびっくりしてしまったが、
君の主張は何も間違っていない。
ただ種族が違うという理由で・・・
誰もそれを責める事などあってはならない。」
「ありがとうございます。」
言質取りましたよ。
その話、後でもう少し先に進めてもらいますからね。
「もちろん、他の人間にわざわざ言いふらすつもりもない、
安心してくれ。」
「はは、まぁ、じきにあたしはこの街を出ますからね、
言いふらされても不利益はないんですけど。」
そこでゴッドアリアさんが目をひん剥いた。
「な、何を言ってるんだ、麻衣!?
そんな話は聞いてないぞ!?」
ああ、やっぱりそんな反応になるのか。
「ゴッドアリアさんとパーティー組んだのは、今回の事件に関してのものですよ、
それが解決した今、あたしがこの街にいる必要もないし、
ゴッドアリアさんに断る必要もないでしょう?」
「ふ、ふざけんなよっ!!
せっかく・・・せっかく仲良くなれたのに!
なんで・・・なんでそんなこと言うんだよ!?」
「もう借金も返し終わったし、あたしにこだわる理由はないですよね?」
「違うよ!
そんなことどうでもいいんだよっ!
なんで・・・アタイたち仲良くなってたよな!?
ちょっと・・・ちょっとアタイが理不尽な目に遭ってたような気もするけど・・・
一緒にプリン作って・・・
一緒にダンジョン潜って・・・
命からがら吸血鬼と戦って・・・なんでそんな淡白に物事を進められるんだよっ!
おかしいよ!
絶対間違ってるそんなの!!」
ああ・・・それはあたしのパーソナリティーのせいか。
よく考えたら、あたしには家族はいるけど友達は・・・ほとんどいないもんね。
御神楽先輩には同族意識があるけど・・・友達というカテゴリーの人ではない。
なつきちゃんは・・・なつきちゃんは友達でいいのかな?
実際、二人でどっか遊びに行ったりもしないのだけど。
単に懐かれているという印象。
ただあたしはそれを不快に思う事もないし、向こうがするのと同じようにあの子と絡んでいる。
「ゴッドアリアさん、そうですね、
あなたの言う通りなんでしょうけども・・・。」
「だ、だったら・・・。」
「ゴッドアリアさんも聞いたでしょう?
あたしは異世界の妖魔、
そして最初に言ったと思いますけど、あたしは自分の世界に帰らないといけないんです。」
「あ、・・・う。」
ようやく思い出してくれたか。
「わ、わかってるけど!
麻衣の言うのもわかるんだけど!
アタイ・・・また、また一人ぼっちになっちゃうじゃないかっ!!
もう、もうやだよ!
一人でダンジョン入って、一人で命をやり取りして・・・
そりゃ、そんじょそこらの魔物なんか蹴散らしてやるけどさ!!
でも・・・でも・・・!」
隣でツァーリベルクさんがおろおろしている。
そう、その話もここでしないといけないんだ。
「ゴッドアリアさんは一人じゃないですよ。」
「はぁ? 母ちゃんの事を言ってるのか!?
で、でもかーちゃんはずっと山奥で・・・。」
「あ、その話は腰を落ち着けてからにしましょう。
ツァーリベルクさんにとっても重要な話ですから。」
「うむ?
ああ、落ち着いた場所で話をしたいと言っていたな?
だが、今の話に私が関わるのか?」
「ええ、思いっきり関わりますよ。
あなたの娘さんのお話なんですから、駆け落ちしたという・・・。」
ゴッドアリアさんの顔が強張った。
今の話で気付いたかな?
教会の中の一室に入ると、フェリシアさんがお茶の用意をしてくれていた。
今日は修道服を着ているので、赤茶けた髪の色は目立たない。
ていうか、何にもましてキラキラした笑顔を浮かべている。
「伊藤様、ありがとうございました!
キャサリンを助け出してくれて・・・!」
「いえ、そんな大したことは、
・・・それより・・・。」
「あ、はい・・・その、なんとかあの子とは仲直り出来たぁ・・・かな?
出来た・・・と思います・・・。
まだその・・・強がっちゃったりしてるふうではあるんですけど。」
苦笑いを浮かべるフェリシアさん、
まぁ、そんな急激に人間関係は変わらないか。
「キャサリンはキャサリンで気が強い部分もあるようだ、
しかしまぁ、フェリシアの謝罪に面食らってはいた感じだったな。
そういうのに慣れていないんだろう。
なに、時間はいくらでもあるのだ、
焦る必要はない。
気が付いたら信頼できる仲になっておるものだろう。」
さすがに司祭様だ。
いいことを言う。
でもこの後、攻められるのはあなたですよ?
「それで話とは?
私の娘のがどうしたと?」
「別にもったいぶるつもりもないので、初っ端から攻めていきますけど、
ツァーリベルクさん、
あなたの駆け落ちして出ていったという娘さんのお名前・・・
えーと、確かクィンティアさんで良かったですか?」
あたしの隣に座ってたゴッドアリアさんが再び目をひん剥く。
まだツァーリベルクさんは気づかない。
「おや?
妻や娘の話はしたと思ったが名前まで私は喋ったかね?」
はい、確定。
それと一応、あたしの能力でも確かめてみる。
「すいません、度々になりますが手を触らせていただけますか?」
「・・・ああ、ふむ、これでよいか?」
そして同時にあたしは隣のゴッドアリアさんにも・・・。
「ま・・・麻衣、も、もしかしてツァーリベルクさんて・・・。」
うん、多分間違いない。
ゴッドアリアさんの手から感じる波動とツァーリベルクさんの手から感じるものに近いものがある。
「あたしのサイコメトリーでも間違いないようです。
はい、ゴッドアリアさん、ここはあなたからカミングアウトを。」
他人の家庭に干渉するのはどうなんだろう、とも思う事はある。
ツァーリベルクさんとその娘さんとの間で、どんなやり取りがあったのかも詳しくは知らない。
でも孫のゴッドアリアさんまでそれに引きずられる必要はあるだろうか?
まぁ、あたし介入するのはここまでだよ。
後は当人たちで話をつけて欲しい。
「い、伊藤殿・・・、これは、いったい?
ゴッドアリア嬢は・・・。」
その答えは直接、本人からどうぞ。
「ま、麻衣・・・。
こ、このツァーリベルクさんがアタイの・・・お爺ちゃん・・・なのか!?」
今度はツァーリベルクさんの目がひん剥かれた。
とは言え、あたしに聞かれてもね?
ゴッドアリアさんの身の上は以前に聞いていたし、
ツァーリベルクさんのご家族の話を聞いた時、その場にゴッドアリアさんはいなかった。
でも話の内容はほぼ一緒だし、
二人とも高い魔力を持っている。
魔力や術の系統としては、ゴッドアリアさんは母親や祖母の方の影響が強いのかもしれない。
顔立ちはお父さん似だそうだから、ツァーリベルクさんとは外見上で親族関係を見抜くのは困難だろう。
でもまぁ事実関係についてはさくさく話は進んだ。
問題はお互いを受け入れられるかどうかである。
「・・・ふぅ、
衝撃の話の連続だな・・・。
正直・・・クィンティアの夫が死んでいたのは・・・複雑な気がしないでもないが、
娘は元気で暮らしておったのだな。
それと孫娘がこんなすくすくと育っていたとは・・・。
そのことについてはとても嬉しい。
・・・ゴッドアリア嬢・・・いやゴッドアリア、
私が君のお爺ちゃんだ。」
「あ・・・え、えと、初めまして、お、お爺ちゃん・・・?」
初めましてってのはこの場合、適切な挨拶なんだろうか?
さすがにあたしも突っ込んでいいのかどうかわからない。
むしろ邪魔しないほうがいいんだろう。
麻衣ちゃんパートが終われば物語の前半が終わったと思って差し支えありません。
その後、後半をスタートさせるべく準備があるのですが、
その前に、ストーリーとは直接関係のない、幕間劇を差し込もうか悩んでます。